新車試乗レポート
更新日:2018.10.16 / 掲載日:2015.11.24
【トヨタ プリウス】世界に誇れる実用エコカーを事前試乗
文●森野恭行 写真●ユニット・コンパス、トヨタ
ハイブリッドの先駆けであり、3代にわたって第一人者であり続けたプリウスの世代交代は、クルマ界の大きなトピック。新型プリウスは、トヨタのハイブリッド戦略だけでなく、ハイブリッドカーの今後の方向性をも示す存在だけに、世界の注目が集まる。
そこで、まず注目したいのはプラットフォームの一新だ。従来型は新MCプラットフォームを土台としていたが、トヨタは4代目プリウスにあわせてTNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャー)の開発を計画。スケジュールはやや後ろにずれたが、計画どおりにTNGA世代トヨタ車の第一弾として新型プリウスを世に送り出した。
TNGAは、優れたパッケージ効率、優れた生産性、幅広い車種への適応性に加えて、進化した衝突安全性も特徴とするが、ここで焦点を絞るのは走りについて。低重心設計と高剛性化がもたらした効果は、想像以上のものだったと言える。新型プリウスプロトタイプの試乗会は、富士スピードウェイのショートサーキットをメインの舞台として開催されたが、それは開発陣の走りに対する自信の表れを示している。
操縦安定性のレベル向上は飛躍的なレベルで、新型のあとに従来型に乗って走り出すと、「ステアフィールがあいまい」、「応答が遅い」、「どうして思い通りに動いてくれないんだ!」と、どんどんフラストレーションがたまってくるほど。リヤサスをトーションビーム式からダブルウイッシュボーン独立式に格上げしたのも見逃せない点で、リヤの接地性や踏ん張り感も大きく向上している。
ハンドリングの正確性や限界域のコントロール性においては、優秀な才能を持つのは17インチタイヤ装着車。着座位置や目線が低くなったこともあり、これまでのプリウスには望めないほどの走りのスポーティさを印象づける。コーナーを1つ、2つクリアすれば、誰もが低重心化と高剛性ボディのありがたみを実感できることだろう。
しかも、ハンドリングを優先するあまりに、必要以上に足を締め上げるといった愚行もしていない。荒れた路面でリヤサスがドタバタとする従来型とは違って、新型は凹凸の吸収がうまい。とくに印象がしなやかで、乗り心地が快適に感じられるのは15インチタイヤ装着車で、快適指向のユーザーにはこちらをお薦めする。
そしてパワーユニット。モーターや電気CVTなどの刷新にあわせて、アトキンソンサイクル1.8Lの2ZR-FXE型エンジンにも抜本的な改良が加えられ、それが「40.0km/L」の大台に乗る低燃費を実現するポイントとなった。だが、プリウスで「気持ちのいいドライブを楽しみたい」という人には、フィーリングの向上がより以上の朗報となる。
従来型は、モーター走行の状態から、負荷が高まってエンジンがかかる状態に変わると、苦しげな音や細かな振動を伝えたもの。だが、より緻密な制御を採用した新型は、モーター走行からエンジン走行への移行がグッとスムーズで、洗練された印象へと変わっている。こもり音の低減が、大きなプラス要因だ。
騒音については、ロードノイズ、風切り音だけでなく、インバーターが発する電子ノイズの大幅な低減も見逃せない点で、ハイブリッドカーならではの静寂感がワンランク以上向上した点にも、プリウスの着実な進化を実感する。TNGAの採用、新ハイブリッドシステムの開発が、大きな効果を結んだ。
でも、個人的にもっとも心に残ったことは……4代目となり、ついにプリウスが「普通の人が普通に運転のできるクルマ」になっていたこと。これまでのプリウスは、ハイブリッドカーであることを理由に「違和感」を許容している面が見受けられた。だが新型は、アクセルペダルのオン・オフの操作に対して、十分にリニアな加速および減速の反応を示し、強い回生が入った場合にも効きに違和感を覚えないブレーキを実現している。
今後、ハイブリッドカーが今以上に普及していく過程で、「普通であること」はとても大切な要素となる。開発を指揮した豊島チーフエンジニアは、4代目のことを「成人をしたプリウス」と表現したが、乗り手の意思および操作にちゃんと応えられるようになった新型の所作は、たしかに「大人」と表現できるものだ。
初コンタクトをした新型プリウスの進化度は、うれしいことに想像の上を行っていた。これまでずっと、豊田章男社長がことあるごとに口にする「もっといいクルマ」の実像を掴みきれずにいたが、新しいプリウスの乗って、かなりの面がクリアになった。
パワーコントロールユニットは体積を12.6Lから8.2Lに縮小。同時に効率アップも実現した。
「THSII」であることは変わらないが、中身はすべてを一新。4駆の新設定も大きな話題だ。
59mmも低下させたヒップポイント設定と、荷室フロア下から後席下に移設した駆動用バッテリーがカギを握る部分。カウル高を62mm低くして、前方視界を改善した点も見逃せない。
TNGAを採用することで、骨組みの設計や溶接方法も大きく進化した。ねじり剛性を約60%も高めたのが見どころだ。もちろん、衝突安全性もワンランク以上引き上げられている。
見た目のイメージ通りに空力は優秀。Cd=0.24は量産車ではトップレベルの数値なのだ。
デジタル式センターメーターや電気式シフトセレクターを踏襲。質感と装備の充実も図られた。
着座位置の低下と自然なドラポジの実現が大きな変化点。シートの取り付け剛性のアップした。
トヨタが誇る先進テクノロジーの集合体である新型プリウス。その革新性はボディデザインからも感じ取ることができる。