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更新日:2022.11.26 / 掲載日:2022.11.25

【メルセデス・AMG 新型SL】AMGとなって違う領域に突入した伝統のオープンカー

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス

 去る10月24日、ようやく日本で新型SLが発表&発売となった。「ようやく」というのは、ヨーロッパではすでに公道をガンガン走っているからだ。10月初旬イタリアのトスカーナに出かけたが、そこでも新型SLを拝んでいる。コロナ前までは新型モデルの日本上陸はもっと早かったと思うが、半導体不足云々と事情があるのだろう。

日本導入モデルは381馬力の2L直4ターボだが、本国にはさらなる高出力仕様も存在

メルセデス・AMG SL43

 日本で発売されたモデルはSL43で、パワーソースは2リッター直4ターボ+マイルドハイブリッドとなる。最高出力は381ps。ただ本国にはさらに2つの上級モデルが存在するので、今後それらが追加される可能性は高い。SLクラスともなれば、最上級グレードを欲するカスタマーは少なくないだろう。2つのモデルはSL55 4MATIC+ と SL63 4MATIC+となる。どちらも4リッターV8ツインターボで前者が476hp、後者が585hpを発揮する。

 と、このネーミングでお分かりになった方も多いと思うが、新型は“メルセデス・ベンツ”ではなく、“メルセデス・AMG”となった。AMG GTクーペやロードスターなどの登場でポジショニングが難しくなったのであろう。今回から伝統のSLシリーズはAMGチームが担当する。となると近未来統合するのか?

専用メカニズムを新開発。ルーフはソフトトップになった

メルセデス・AMG SL43

 それはともかく、新型は白紙からつくられた。なので、ボディシェル、サスペンションはオールニューとなる。このボディシェルに、AMG GTロードスターからの流用は一切ない。軽量かつ高剛性を実現したそれは複合素材からなる。アルミニウム、スチール、マグネシウム、カーボンファイバーの組み合わせだ。これらを適所に用いて、理想的なシェルを完成させた。ねじれ剛性は先代より18%向上している。

 恐ろしいのは、それでいて今回は2+2になったこと。これまで2シーターを基本形にしてきたが、それを断ち切った。しかも、トップはリトラクタブルハードトップからソフトトップに先祖帰り。洗練されたモダンなボディワークとクラシカルなファブリックの幌との組み合わせだ。これには少々いい意味で驚いた。個人的にソフトトップのロードスターが好きなこともあり、これまで数台所有しているからだ。つまり、SLの魅力が増した事になる。

 その幌の開閉操作はモニター上のイラスト画面の一部を指でスライドするという新しい試み。機械的スイッチを押す方が楽ではあるが、デジタルネイティブにはきっとこちらの方がわかりやすいのだろう。開閉時間は約15秒。走行中でも時速60キロ以下であれば稼働可能だ。

狙いどおりに走るスムーズなハンドリングと優雅な振る舞いが印象的

メルセデス・AMG SL43

 では実際に走った印象だが、クルマの挙動はとても素直。ステアリングはそれほどクイックではないが、狙ったところに正確に当てて足回りが瞬時に反応するといった印象だ。全長4700mm、全幅1915mmのボディが国産ロードスターのように軽快に動く。特に、ハードなブレーキングからのタイトコーナーへの進入にタイヤを捻らせることなく、スムーズに鼻先を出口に向けるところがいい。この辺はフロントに新開発の5リンク式サスペンションを導入しているのと関係すると思われる。かなり高次元でクルマの挙動を受け止め、上質な乗り味を提供する。はじめ「フロントに5リンク式?」、と耳を疑ったほど珍しいことからどんな仕上がりになるのか興味津々だったが、身のこなしは期待以上。AMG開発陣のこだわりを強く感じた。まぁ、量産車としてはお金がかかることから取り入れて来なかったと思うが、今回AMGにバトンタッチしたことで実現したのだろう。

 それじゃ風の巻き込みはどうかというと、一般道を走っている分ではまったく問題なし。多少強く感じたら左右のウインドウを上げればOK。シートには温風を出すネックウォーマーが内蔵されているので、これからの季節も快適に違いない。ただ、高速域に入ると、リアシートの空間ができたことで後方からの巻き込みは増える。スイッチひとつでリフレクターを上げることはできないから少々難あり。専用パーツがあるようだが、今回は確認できなかった。

 と言った感じでワインディングをSLらしい優雅さとAMGならではのスポーティさで走り回ったが、驚いたのは最後に幌を閉じて走った時。ボディはさらに堅牢になり、まるでロールバーでもつけたかのようなガッチリした走りを見せたのだ。それはまるでこのままサーキットに持ち込みたくなるほどの仕上がりである。

 これが新型SLのファーストインプレッションだが、1648万円のプライスタグからもわかるように、メルセデス・AMGになって違う領域に入った気がする。こいつは新しいSLシリーズの幕開けとなる一台だ。

自動車ジャーナリストの九島辰也氏
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九島辰也(くしま たつや)

ライタープロフィール

九島辰也(くしま たつや)

外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。

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外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。

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