車の最新技術
更新日:2021.11.26 / 掲載日:2021.09.24

Mercedes-EQ EQCの走りを深堀する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 ここ数年、日本の自動車メーカーおよび自動車業界でも100年に一度の大変革期を迎えたと言われ、その合い言葉になっているのが「CASE」。これは2016年のパリモーターショーで当時のダイムラーCEOであるディータ・ツッチェ氏が唱えたものだ。 Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(シェア&サービス)、Electric(電動化)が変革の中心になるとされ、それがいよいよ現実のものとなってきている。メルセデスの電動化サブブランドは”EQ”で、まさにプログレッシブ(革新的)なラグジュアリーカーと位置づけられている。CASE宣言から約3年後には初の量産BEVが登場。それがEQCだ。EQの後に付けられるアルファベットはクラスを表していて、SUVタイプなのでGLC相当ということになる。すでに日本導入されているEQAはGLA、海外では発表済みのEQSはSクラス、EQEはEクラス、EQVはVクラス相当となる。

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エンジン車から乗り換えても違和感がなく、それでいてEVの美点が走りに表れている

メルセデス・EQ EQC

 BEVは、エンジン車に比べて車種ごとの個性が出しにくいと言われていて、それは自動車メーカーのエンジニアも認めるところだ。NAかターボ、直4にV6、V8、あるいは組み合わせるトランスミッションなどで自ずと走りのキャラクターがかわってくるのがエンジン車に対して、モーターはゼロ回転から最大トルクを出せるという大きなメリットがあるものの、それはどのモデルも一緒で、トルクが太いゆえにほとんどのEVは1ギア。また、重量物であるエンジンをフロントかミドかリアに搭載することでシャシー性能もかわってくるが、BEVはバッテリーを床下に敷き詰めるのが当たり前でここでも差は付けにくい。

 ただし、BEV本格普及の入り口である現時点でも、欧州プレミアムブランドはさすがに上手だなと感じている。これまでEVテストで取り上げてきたモデルでも、ジャガーI-PACEはスポーツカーとしての興奮があり、アウディe-tronは極めて洗練度の高いアウディらしさがあった。

 ではメルセデス・EQはどうなのだろう? メルセデスは、なんといっても快適であり、ドライバーを疲れさせないという能力に長けている。安全性に強いこだわりをもつ同社だが、それは装備等だけではなく、ドライバーを疲れさせないことこそ安全に繋がるという思想もあるのだ。いわゆる人間中心という考えがそこにある。

 だからだろう。EQCに乗って走り出すと、まず感じるのが運転がしやすいということだ。メルセデスのエンジン車からパッと乗り換えても何ら違和感がない。せっかく最新のBEVに乗るのだったら、エンジン車とは違った新しいフィーリングや驚きが欲しいという人もいるかもしれないが、もしかしたら肩透かしをくらうかもしれない。

 とはいえ、馴染みのいいドライブ感覚のEQCで距離を伸ばしていくと、次第にBEVならではの特徴がメルセデスの美点を深めていることに気付いていく。モーターはもちろんトルキーで、出足から頼もしく、静かでシームレス。昔から高級車のエンジンの理想は“電気モーター”のように、と言われており、だからこそ大排気量にして低回転から大きなトルクを生み出し、マルチシリンダーで振動を抑え、回転を上げなくても走りやすくして音を抑え、シフトチェンジはスムーズさを追求した。古き佳きメルセデスのエンジン車はその最たるもので、エンジンの存在感をあえて抑えているようなところもあった。ライバルのBMWがエンジンの鼓動を主張するのと真逆で、それぞれが個性を発揮してもいた。BEV化されたメルセデスは、理想とするパワートレーンの特徴を生まれながらに持っているわけで、しかも大排気量・マルチシリンダーなどではトレードオフとなってしまう環境性能を満足させることにもなった。

 低・中回転から大トルクを生み出すのがモーターの特性だが、持てる力をそのまま発揮させてしまえば、トルクの立ち上がりが強すぎるということになりかねない。発進で雑にアクセルを踏み込めば、グンと背中が押されて不快に感じることもある。その点、EQCのトルク特性は繊細でモーター特有の頼もしさを感じさせる一方で、ガツンとした飛び出し感のようなものがなく、あくまで上品にスーッと走りだしてくれる。またEQCは前後にモーターをもつ4MATIC(4WD)となっているが、エネルギーモニターを観察していると、駆動および回生は、フロントだけ、リアだけ、両方ともと、状況に応じてきめ細かく切り替えている。エンジン車の4WDの場合、基本はフロント駆動で必要なときにリアが加わってくるなどというパターンが多いが、制御の自由度が高いモーター駆動では、もっと臨機応変に使い分けられるということだろう。トラクションを効率的に確保するだけではなく、細かい制御を行うことでピッチング(前後方向の揺れ)などを徹底的に抑え込むこともできるのだ。

 エンジン車から乗り換えても違和感がないEQCだが、BEVならではの新しい感覚もある。アクセルオフしたときの回生ブレーキのかかり方だ。Dレンジを選択してそのまま走りだすデフォルトでは、エンジンブレーキ相当の軽い減速感で、ステアリングに備わる左側のパドルをひけば強まる。1度引いた“D-“はエンジン車でシフトダウンして強めのエンジンブレーキが効くぐらいになり、もう1度引いた”D- -“ではさらに強まっていわゆる1ペダルドライブに近い感覚となる。10km/h台の超低速になると減速感はなくなるが、街中などでもアクセルとブレーキの踏み替え頻度がかなり少なくなるだろう。Dレンジから右側のパドルをひいたD+では回生ブレーキがまったくないコースティングとなる。エンジン車でニュートラルに入れた状態で、サーッと転がっていくのが案外と心地いい。もちろん走行抵抗の分は車速が落ちていくがそれが想像するより少なく感じられ、機械的精度が高く空力性能も徹底的に追求しているEQCの秀逸さがわかる場面でもある。また、とくに高速巡航などでは余計なピッチングが少なくなり、電費も上がる傾向にあるから実用的でもある。

 2022年には参入するすべてのセグメントでBEVが選択可能となり、2025年までにすべてのモデルでBEVが選択可能、そして2030年には状況が許すすべての市場で100%の電動化を成し遂げるとメルセデスは宣言している。以前よりも急進的な電動化戦略となったが、それは環境規制などデジュールの都合だけではなく、プレミアムカーのユーザーがBEVの優れた資質に気が付き、急速にエンジン車離れが起きるからだという。まだ日本で乗れるメルセデス・EQは2台だが、ほんの1〜2年で大幅にラインアップが増えていくことになりそうだ。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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