新車試乗レポート
更新日:2024.04.22 / 掲載日:2024.04.22

世界でいちばん売れたテスラ モデルYは何がいいの?【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●澤田和久、内藤敬仁

 地球上で最も売れている自動車はモデルY。

 今年のはじめ、昨年(2023年)の各自動車メーカーの自動車販売台数が集計されると、テスラはそんなアピールをしました。

2023年の販売台数は全世界で120万台以上

テスラ モデルY パフォーマンス

 それって、もっとも売れているEV(電気自動車)ということではなくて?

 ……そう感じた人もいることでしょう。無理もありません。オランダやノルウェーなど一部の国を除けばEVはまだまだマイノリティな存在で、各国で新車販売に占める割合も多くて10%台後半というのが一般的なのですから。日本ではわずか2%にも満たないというのが実情。それなのに世界でもっとも売れたクルマがEVのモデルYだなんて……。そんなに売れているとはにわかに信じがたい話ですよね。

 でも実は、売れているのです。「モデルYが2023年の世界最量販車種」というのは事実。「EVのなかで」ではなく「世界の(ガソリン車もハイブリッドカーも含めた)すべての乗用車の中で最量販」なのです。凄いなあ。

 テスラによると2023年の全世界におけるモデルYの販売台数は「120万台以上」。同年のスバルの販売(全車種合計)が95万9147台、マツダが同じく合計で124万4613台ですから、それを考えれば確かに1車種で120万台も売れば「世界最量販」にも納得です。それにしても、モデルYってそんなに売れているとは知りませんでした。

モデルYはこんなクルマ

テスラ モデルY パフォーマンス

 あらためてモデルYの紹介をしておくと、デビューしたのは2020年。テスラとしては「ロードスター」「モデルS」「モデルX」そして「モデル3」に続く5番目のモデルで、セダンのモデル3をベースにした“クロスオーバーSUV”という位置づけ。「これがSUVなの?どこが?」という気がしなくもありませんが、そこはまあ“言ったもの勝ち”というか、メーカーがそういうのならSUVということにしておきましょう。タイヤが大きくて背が高めだから?

 車体はテスラとしては小さめですが、とはいえ全長は4760mmもあるので一般的な基準でいえばコンパクトではなく「Dセグメント」くらいのサイズ感。トヨタRAV4よりも一回り大きく、意外にボリューミーなのです。でも写真だと小さく感じるのも事実で、理由はそのパッケージング。全高1625mmと背が高いので、まるで「チョロQ」みたいなプロポーションなのですよね。だから実寸以上に写真だと短く見えるというわけ。ちなみに1925mmの全幅は、日本だと「ちょっと大きくて扱いにくい」と感じる人が多いかもしれません。

 ちなみにこのパッケージングは、キャビンが単純に広いだけでなく天井が高い(しかもガラスルーフで開けている)こともあって開放的だし、トランクだって床の前後長が1.1mもあってかなり広い。チョロQのような見た目は賛否ありそうですが、想像以上に実用的で意外といいですね。乗り降りもしやすいし。

結局モデルYは何が凄い?

テスラ モデルY パフォーマンス

 そんなモデルYの何が凄いのか? 

 キーワードで並べれば「独自性」「未来感」「圧倒的な動力性能」が凄さのトップ3。

 まず独自性でいえば、クルマに詳しい人が見ても「テスラ」だとわかるデザインはさすがだし、室内に入るとスッキリとしたダッシュボード周辺のもこれまでの自動車メーカーのインターフェイスとは一線を画するもの。物理スイッチなんてハンドルとコラムレバー(ウインカー)くらいしか見当たらず「それだけで大丈夫なの?」と思わずにはいられなかったりしますが、そういう独自の感性がファンを引きつけるのでしょうね(それ以外の操作系などはセンターディスプレイ内に用意)。同時に、そういう独自性が強い「未来感」へとつながっていのだなと強く実感します。素直にクールだと思います。気分的には、多くの人がガラケーを使っているなかでスマホを手にしているような感じでしょうか。

 グレードは「ベースグレード(RWD)」「ロングレンジ」そして「パフォーマンス」の3タイプがあって、試乗したのは「パフォーマンス」。つまりモデルYのなかでもっとも速い仕様であり、停止状態から時速100キロに到達するまでの加速にかかる時間はたったの3.7秒です。3.7秒といえば「レクサスLFA」とか「フェラーリ・エンツォ」「ポルシェ911GTS(2016年モデル)」とか「メルセデスAMG GT S(2015年モデル)」というレベルで、つまりちょっと前のスーパーカーと同じ加速ってこと。とんでもない加速力で、もう速いのなんのというか刺激的すぎて営業をやめた富士急ハイランドの「ドドンパ」かってくらい(実際には「ドドンパ」のほうが速い加速ですが)。ここだけの話、クローズドコースで全開加速を試してみた頭が後ろに押し付けられて脳震盪を起こすんじゃないかと思いました。もちろんそんな加速力は日常生活で全く必要ないのですが、「そういう力を備えている」っていうのはオーナーにとって誇らしいことなのかのしれないと思うわけです。

テスラ モデルY パフォーマンス

 でも、今回改めて試乗して感じたのは「以前よりも乗りやすくなった」ということ。アクセル操作に対する駆動のギクシャクした感じが減り、サスペンションの動きも以前より滑らかになった印象。最新モデルへの変更点としてハードとしては「CPUのサプライヤーがインテル製からAMD製に。サスペンションはブッシュが変わっている」とのことで、それが乗り味に変化をもたらしている可能性はありそうです。

 今回試乗した「モデルYパフォーマンス」の記事執筆時点での価格(テスラは頻繁に価格が変わるんです)は、727万9000円。0-100km/h加速は3.7秒で、航続距離は595㎞を誇ります。いっぽう同じく前後デュアルモーターAWDながら0-100km/h加速5.0秒、航続距離は605㎞の「モデルYロングレンジ」は652万6000円。そしてリヤ搭載のシングルモーターとなり0-100km/h加速6.9秒、航続距離は507㎞のベーシックモデル「モデルY(ベースグレード)」は563万7000円。

 筆者のオススメは「ロングレンジ」ですね。「パフォーマンス」ほどの加速は必要ないし、そもそも「ロングレンジ」の加速力も必要なくて動力性能的には「ベースグレード」で十分なのですが、「ロングレンジ」だと航続距離が605㎞と長いのが魅力。そこまでの航続距離が必要ないのであれば、「ベースグレード」がコスパ的に最良でしょう。

 ちなみに6.9秒という「ベースグレード」の0-100km/h加速は2016年モデルの「レクサスRX450h」や2012年モデルの「レクサスNX200h」と同じくらい。つまり必要にして十分と言える性能であり、刺激を必要としなければそれ以上を求めなくてもいいのではと思います。

まとめ

テスラ モデルY パフォーマンス

 というわけでテスラは「これが新しい世界だ!」という独自の価値観で作られていて、それを楽しみたい人の向けの商品というのは最新のモデルYに乗っても変わりませんでした。逆に、いままでのクルマの概念の延長線上でEVを選ぶなら、操作性やドライバビリティも含めて従来の自動車メーカーのEVのほうが安心かもしれません。テスラの世界も楽しいですけどね。

 ところで、冒頭の「2023年はモデルYが世界で一番売れた」という話。実は集計方法によっては話が変わってきます。2023年において「トヨタ・カローラ」のグローバル販売台数は164万台。つまり“120万台以上”のモデルYを超えているのです。

 ただしカローラの内訳をみると「セダン」のほかに「カローラツーリング(ステーションワゴン)」「カローラスポーツ(ハッチバック)」「カローラクロス(SUV)」そしてスポーツモデルの「GRカローラ」なども含めた複数のボディを合算して合計の数字。なので「車名」でいえば販売ナンバーワンはカローラだけど、「単一ボディ」としてはモデルYというのが正解というところ。ちなみにカローラの内訳をボディタイプ別にカウントすると、最多販売は73万7000台を顧客のもとへ届けたカローラクロスでした。

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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