法人や個人の事業主が仕事で使う車を残価設定型クレジットで購入した場合、経理処理が必要となりますが、具体的にどう仕訳したらよいか分からないという人も少なくないでしょう。
ポイントは勘定科目で諸費用を仕訳することです。車は固定資産となり、購入した金額を一括で経費計上ができず、減価償却して少しずつ経費として計上することになります。
では、具体的にどう経理処理されるのか解説していきます。
残価設定型クレジットの概要
残価設定型クレジットは、自動車ローンの一つでディーラーが提案するローンです。通常のローンとは違い、車両本体価格から数年後の車の下取り額を引いた分の金額でローンを組みます。
数年後の下取り額は「残価」と呼ばれ、ディーラーが決めて提示します。残価は年数が経過すると金額が下がっていく仕組みです。一般的に3年後だと車両本体価格の半分、5年後だと車両価格の3割程度の値段になるでしょう。
残価はローン支払いの最終回まで据え置かれます。そして、ローンの最終回の支払いを前に車をどうするかを下記の3つの選択肢から自分で選べます。
- 残価を返済せずに車を返却する
- 車を下取りに出して別の車に乗り換える
- 残価分を返済して車を買い取り乗り続ける
買い取る場合は、一括返済ができなくても再度ローンを組んで分割返済することも可能です。
残価設定型クレジットの強みと弱点
残価設定型クレジットには魅力があります。
まず、残価が契約終了まで保証されているという点です。中古車市場では価格変動が起こりやすいので、残クレ契約時に設定した残価よりも、契約終了時の実際の車の価値が下がっている可能性もあります。しかしそういった場合でも、契約時に設定した残価は下がることがないので安心です。
さらに、月々のローン返済が一般的なマイカーローンよりも安いのも魅力です。また、残クレはローン契約期間が短い傾向にあり、短期間で色々な新車に乗れるというのも強みとなります。
逆に残クレは弱点もあるので覚えておきましょう。
まず、残価部分にも金利が設定されるので利息が高くなってしまうという点です。
そして、事故などにより車に傷がつくと、程度によっては契約終了時の査定で減点対象となり、減点の上限を超えると追加金が請求されてしまいます。万が一車が全損すると、ローンと残価の返済も要求されています。
車の走行距離にも上限が設けられています。距離は各メーカーのプランによって異なるので確認しておきましょう。走行距離の上限を超えると追加金が請求されてしまいます。
事業用車を残価設定型クレジットで購入した場合の経理処理(仕訳)
法人や個人の事業主が仕事で使う車も、残価設定型クレジットで購入することができます。
残クレで購入した際は経理上の仕訳ルールがあり、勘定科目ごとに車の購入にかかる費用を仕訳していきます。
例えば、車両本体価格の勘定科目は「車両運搬具」、自動車重量税などの税金の勘定科目は「租税公課」、リサイクル預託金の勘定科目は「預け金」として明記され、帳簿上で仕訳されています。
経理に不慣れな人だと勘定項目を覚えるだけでも大変ですが、繰り返しているうちに徐々に慣れてきます。
車の購入にかかる費用はいくつもあるので、勘定科目できっちり仕訳して、混同しないように注意しましょう!
残クレで社用車を購入する際の仕訳で使う勘定科目の1つ目が「車両運搬具」です。
車両そのものだけではなく、外付けしたものまで含まれることになるのです。また、他にも納車でかかった費用も車両運搬具として計上されます。詳しくは国税庁のホームページに載っています。
購入した資産の取得価額は、資産の購入代金のみならず「事業の用に供するために直接かかった費用」も含まれるということです。そのため、引取運賃や運搬料、運搬保険料や購入手数料など購入にかかかった費用、手元に届くまでにかかった費用も当てはまると言えるでしょう!
2つ目の勘定科目は「保険料」です。
車の購入時、維持でかかる保険料としては法律で加入が義務付けられているいわゆる強制保険の「自賠責保険」と、自分の意志で加入するか決められる「任意の自動車保険」があります。
保険料は支払ったタイミングで計上できます。
通常車検の時にまとめて前払いするので、長くても3年分です。それでも2万円程度と費用が多額にならないので一括計上ができます。
通常は契約期間が1年ごとという場合が多く、1年ごとで経費に計上することが可能です。
ただし、5年間などまとめて納める場合は少し計上の仕方がややこしくなります。一括計上すると車種によっては費用が大きくなってしまいます。一度は長期前払い費用として計上し、該当する年度の分だけでその都度振替るという処理の仕方をします。
残クレで車を購入した際、勘定科目の1つに「支払手数料」があります。
具体的には「車庫証明」や「検査登録」などが挙げられます。車庫証明や検査登録を業者やディーラーなどに代行してもらった場合にかかる「代行料」も支払手数料に含まれます。
支払手数料は、国税庁のホームページで資産の取得価額に含めないことができる不随費用として明記されています。
車を購入する際、「自動車重量税」と「環境性能割」と「自動車税または軽自動車税」の3つの税金を納めなければならないと法律で決まっています。
環境性能割は以前、自動車取得税という名称で車購入時のみ納める税金です。その他、自動車重量税は車検時に、自動車税または軽自動車税は年に1回納めます。
このような税金は会計処理で「租税公課」という勘定科目で計上されます。
3つの税金のうち、環境性能割と自動車重量税は「車購入時の租税公課として計上」します。自動車重量税は車の重量に応じて税額が決まっており、0.5t重量が増えると税額が増える仕組みです。
自動車税は初回は3年分、以降2年分と次回の車検までの分を前払いしますが、税額はさほど高額でないので一括計上できます。また、自動車税または軽自動車税は、車両購入時ではなく「毎年の租税公課勘定で計上する」ことになります。
車購入から月日が経ち、今度は車を廃棄処分することになると「リサイクル料金」が必要となってきます。
このリサイクル料金は、実は車の購入時に既に前払いしなければいけません。これが、会計処理では「預け金」という勘定科目で仕訳されます。
リサイクル料金はリサイクル預託金とも呼ばれており、主に車の部品を廃棄処理するために使われる費用です。
リサイクル預託金の内訳は以下の4つの費用です。
- 廃棄時に出てくる不要なシュレッダーダストを再利用するためにかかる費用が「シュレッダー料金」
- 廃棄時にエアバックが暴発しないように処理するための費用が「エアバック類料金」
- 車に使用されているフロンの処理にかかる費用が「フロン類料金」
- 車を廃棄する時の引取手数料や、必要な情報を管理するための費用が「リサイクル情報管理料金」
車は減価償却対象となる
車は高額な固定資産となるので、事業主が社用車を購入すれば減価償却の対象となります。
例えば、車の購入費を一括で計上してしまうと、会社の資金が赤字となり融資などが受けにくくなるというリスクが生じます。その点分割して少しずつ計上することで、正確な利益が出しやすく、経営が安定しやすいというメリットがあるのです。
車は使用していくうちに、部品などが劣化し資産としての価値も減っていきます。減価償却費として計上できるのは、車やパソコンなどのように事業に使われるもので「時間の経過と共に劣化していく固定資産」に限られます。
例えば土地や骨とう品などは除外されます。ちなみに車などが形あるものは「有形固定資産」ですが、商標権などの権利やソフトウェアなど形のないものは「無形固定資産」と呼ばれているのです。
車などの固定資産は、会計上の取引を表す項目である勘定科目で減価償却費として区分けされ、帳簿に記載されます。
減価償却費を計上すれば、節税対策になる
減価償却は、購入した車を事業用として使用し始めたタイミングでスタートします。車の代金の支払いが終わったかどうかは関係しません。
また、車の使用期間である「耐用年数」に応じて経費として計上できます。
普通車は6年、軽自動車は4年と耐用年数が決まっています。つまり、6年間もしくは4年間は減価償却費が計上できるというわけです。
ただし、中古車の場合は耐用年数が違い、新車よりも短期間になるので注意が必要です。
また、減価償却費の計算方法は毎年一定の割合で償却する「定率法」と、毎年一定額で償却する「定額法」のどちらかを用います。法人であれば減価償却費が年々減る定率法を、個人事業主だと定額法を選ぶことが多いのが現状です。
定額制は、減価償却費が毎年決まっているので収支も付けやすいと言えるでしょう。減価償却分だけでも経費として計上すれば、税金控除の対象ともなるので節税対策としても効果的だとされています。
ただ、事業の用途にどの程度どの位の割合で使っているかによっても、控除額が違ってくるので注意しましょう!
勘定科目に含まれなかった車関係の費用でも、経費として仕訳できる科目があります。
課税諸費用の中でも自動車重量税などの他に商品を購入すると課税される、消費税も「租税公課」として勘定科目に仕訳されるので経費となります。
さらに、車の維持費のうち、ガソリン代、洗車代、車検費用なども「車両費」として仕訳し、経費として計上可能です。走行距離や頻度にもよりますが、ガソリン代は場合によっては結構かさみ、車検費用も1回が高額になるので経費で落としましょう。
維持費の一つである駐車場代も月極駐車場なら「地代家賃」として、出先でコインパーキングを利用した場合は「旅費交通費」として仕訳でき、経費として計上できます。
では、車購入時の費用の仕訳は具体的にどのようになるのでしょう?
車両本体価格とカーナビなどのオプションと納車費用などです。
自動車重量税と環境性能、消費税となり、支払手数料は車庫証明と検査登録、それぞれの代行手数料となります。
自賠責保険と任意の自動保険料が含まれます。
リサイクル預託金として仕訳をすることできます。
残クレの月々の返済をした場合の会計仕訳
残価設定型クレジットで月々のローン返済を行った場合の会計上の仕訳の仕方、帳簿のつけ方を見ていきましょう。
例えば、ローン返済金が月々3万円で利息が3000円とします。
- 帳簿では借方の勘定科目は未払い金、借方金額が3万円と記載します。
- 未払い金の下の勘定科目は支払い利息となり、借方金額に3000円と記載してください。
- 貸方勘定科目は普通預金となり、借方金額の欄は3万3000円と入れて摘要欄にそれぞれ残価設定クレジット返済、残価クレジット利息と記載します。
残クレの返済は月払いなので、月ごとに返済額と利息を忘れないように帳簿につけてくださいね。
残クレの契約終了後に車を買い取った時の仕訳
残価設定型クレジットのローン最終回の支払いで、残価100万円を支払い車を買い取った時の帳簿のつけ方を見てみましょう。
- 借方勘定科目は長期未払い金、借方金額は残価の金額である100万円と記載します。
- 貸方勘定科目は普通預金もしくは現金預金で、借方勘定科目に残価の金額である100万円と記載してください。そして摘要欄は車両残価分買取と記しておきます。
この場合、未払いであった残価分の100万円を預金から支払ったという意味になります。車を買い取ったので、残価支払い後も耐用年数に応じて減価償却は継続していきます。
残クレの契約終了後に車を売却した時の仕訳
5年の残価設定型クレジットのローン最終支払い前を想定します。車両本体価格300万円、残価100万円の車を下取りに出す、もしくは返却する際の会計上の帳簿のつけ方を見てみましょう。
- 借方勘定科目は長期未払い金、借方金額には残価である100万円と記載します。
- そして貸方勘定科目は車両運搬具、貸方金額には300万円から5年分の減価償却費を差し引いた金額を記載します。
- 車両運搬具の下に売却益、残価と車両運搬具の差額をその横の貸方金額の欄に記載してください。
売却益が出ると課税対象となるので、税金面ではあまり得にはなりません。ただ、買い取りとなるとまとまった費用が必要となり、再クレジットとなると金利が高くなる傾向にあります。
ディーラー側は新車をより多く販売したので、どちらかというと下取りからの乗り換えというパターンを推奨している場合が多いです。
カーリースとは経費の範囲が異なる
カーリースは残価設定型クレジットと内容が似ていると言われますが、仕組みは全く違います。
そのため、車は事業用といえど借りているだけなので、会社の固定資産にはなりません。減価償却として処理する必要もないので、会計上の処理もスムーズです。
つまり、リース代は全額経費として計上できてしまいます。減価償却費を計算し、全てを経費としてあげることができない残クレとは大きく異なることを覚えておきましょう。
また、カーリースはリース代に税金や車検費用などが含まれています。急な故障や事故などを除き、まとまった出費がないので収支の管理がしやすいと言えます。
残価設定ローンを組んだ車は買取に出せる?買取に出すための条件などを解説
事業用車の場合、リースのほうが節税効果が高い
残価設定型クレジットで事業用車を購入すると、減価償却や利息の計算、残価分を差し引くなど会計処理が複雑になりがちです。経理の仕事に慣れていないと計上が難しく、間違えやすいので注意が必要です。
一方、カーリースは、リース代を全て経費として計上するだけになります。減価償却の計算も不要であり、勘定科目ごとの仕訳をしなくてもよいので、会計処理はとても楽でスピーディーにできます。
経費であげる範囲が広いことで、その分税金控除の恩恵も受けやすいので、節税対策も高いと言えます。事業主にとっては、車を業務で使うなら購入するよりも、カーリースを使ったほうがお得だと言えるでしょう。