軽自動車で貨物運送事業を始めるためには、黒ナンバーを取得する必要があります。しかし、その軽自動車は普段使いできるのか、黒ナンバー取得にデメリットはないのかなど、不安や疑問を感じる方も少なくないでしょう。
確かに、黒ナンバーにはメリットだけではなくデメリットも存在します。重要なのは、そのデメリットを把握し、自分にとって最適な使い方を見出すことです。
この記事では、黒ナンバー取得の条件や具体的なメリット・デメリットなどについてわかりやすく解説します。
軽自動車の黒ナンバー取得にはデメリット以外にもメリットがある!
軽自動車の黒ナンバーを取得する場合に、手続きが複雑かつ大変であることや、保険料が上がるのではないかといった懸念を持つ方は少なくありません。一方で、税金で優遇されたり、独立開業しやすかったりなどの魅力もあります。
ここで重要なのは、表面的なメリット・デメリットのみで判断しないことです。黒ナンバーの仕組みや、取得の条件を正しく理解することで、事業で大きな利益を得られる可能性があります。
そのため、「手間がかかりそう」や「費用がかかる」といった先入観にとらわれず、長期的な視点から考えることが重要です。
軽自動車の黒ナンバーとは?
軽自動車の黒ナンバーは、黒字のプレートに黄色でナンバーが記載された事業用のナンバープレートです。
ナンバープレートは、軽自動車で貨物運送事業を行うためには必須であり、国土交通省への届出が求められます。取得には少々手間がかかりますが、受理されるとフリーランスドライバーや副業としての幅が広がるでしょう。
個人でも法人でも取得可能で、軽トラックや軽バンを利用した貨物輸送業が比較的簡単に開業できますが、車の保険料が上がったり、初回車検の時期が早まったりするデメリットもあるため、取得の際にはメリットとデメリットの両方を正しく把握することが重要です。
黒ナンバーと緑ナンバーは、どちらも営業用ナンバーであるため、しばしば混同されがちです。しかし、用途や取得要件に違いがあります。
貨物軽自動車運送業務に必要な黒ナンバーに対して、緑ナンバーは貨物自動車運送事業や旅客自動車運送事業に必要である点が大きな相違点です。主にタクシーやバス、大型トラックなどの普通自動車と、さらに大型の車両に付けられます。
緑ナンバーを取得する際には、法律に準じた営業所や車庫を確保する必要があり、車両総重量や事業規模などにも厳しい要件があるため、取得は簡単ではありません。
白ナンバーは、多くの人にとって馴染みのある白いナンバープレートで、自家用車や消防車、キッチンカーなど、営業目的以外で使用される点が特徴です。このナンバープレートは、個人用の乗用車や業務用途外の車両が対象となるため、貨物運送などの事業用には使用できません。
同じ車種であっても、車の使用目的によってナンバーは異なります。例えば、キッチンカーは白ナンバーで営業可能(運賃を取って人や物を運搬するわけではないため)ですが、同じ車種を使っていても、運送業務を行うのであれば黒ナンバーが必要です。
また、白ナンバーは、一般的な車両登録をすることで取得できますが、黒ナンバーは国土交通省へ事業届出が必要となります。
軽自動車の売買をする際の必要書類とは?
黒ナンバーの取得条件
黒ナンバーを取得するのは、緑ナンバーほどハードルが高くありませんが、それでもいくつかの条件を満たす必要があります。事前に要件を具体的に理解することで、取得の準備をスムーズに進められるでしょう。
ここでは、黒ナンバー取得に必要な条件について解説します。貨物軽自動車運送事業を始めたい方は、ぜひ参考にしてください。
まず、営業所と休憩施設、車庫を用意しなければなりません。
営業所は事業の拠点となる場所で、事務手続きや運行管理などをする事務所のようなものです。また、休憩施設の設置となると難しい条件に思えますが、独立した休憩室である必要はなく椅子やベンチで十分に条件を満たせます。
最後に車庫ですが、これは事業に使用する車両を安全に保管する場所であり、原則として営業所の近くに設置する必要があります。どうしても近くに車庫が用意できない場合は、できるだけ近い場所(営業所からの距離2km以内)に設置すると良いでしょう。
貨物軽自動車運送事業を始めるためには、軽トラックや軽バンなどの軽貨物車を最低1台保有することが条件です。
以前は、軽自動車はどれでも軽貨物車にできるわけではなく、車検証の用途欄に「貨物」と記載されている必要がありました。「乗用車」として登録されている一般的な軽自動車は、軽貨物車として登録できませんでしたが、規制緩和により現在は軽乗用車でも条件を満たせば登録可能です。
軽乗用車を貨物運送業に使用する場合の積載重量は、以下の式で制限された重量になります。
例えば、乗車定員4名の車に2名が乗車する場合、最大110kgまで積載可能です。
運送約款とは、通運事業者の責任やサービス内容を定めた規約で、事業を運営するにあたって基本となる重要な書類です。
貨物軽自動車運送事業を始める際には、運送約款を作成し、所管の運輸支局へ届け出ることが義務付けられています。
運送約款を作成する場合、国土交通省が提供している「標準運送約款」というフォーマットがあるため、インターネットなどでダウンロードし、それをもとに自社の業務内容に応じて項目を整備するのが一般的です。
事業開始前に約款を完成させることでトラブルを未然に防ぎ、業務の信頼性を高められるでしょう。
貨物軽自動車運送事業では、事故のリスクに備えて自賠責保険および任意保険の加入が不可欠です。
自賠責保険は法律で加入が義務付けられており、入っていないと道路交通法違反となります。一方、任意保険は加入の義務自体はありませんが、対人・対物補償を通じて事故発生時の損害をカバーするため、実質的には必須と言えるでしょう。
また、適切な運行管理体制を構築することも重要です。ドライバーの健康状態の管理や運行記録および車両の整備履歴の保存等が求められます。運行管理は、事業者が自分で行う場合もありますが、できない場合は管理者を設定しなければなりません。
軽自動車を黒ナンバーにするデメリット
軽自動車を黒ナンバーに変更することによって、事業用車両として収益を上げるチャンスが広がることは確かですが、一方で考慮しておくべきデメリットもあります。事業を問題なく運営し、思わぬトラブルを回避するためには、事前にデメリットを把握しておくことが重要です。
ここでは、軽自動車の黒ナンバー取得によって発生する4つのデメリットについて解説します。
事業用として使用すると、走行距離が長くなり事故に遭うリスクが増大するため、任意保険料が自家用車よりも高くなる点がデメリットです。また、事業車用の任意保険は取り扱う保険会社が限られることがあり、選択肢の少なさから保険料が割高になる場合もあるでしょう。
保険会社によりますが、自家用車と比較すると保険料が大幅に高くなるため、任意保険料アップは新規事業者にとって大きな課題になります。
事業用車両になると、自家用車の場合と比べて初回の車検期間が短くなる点が大きなデメリットだと感じる方もいるのではないでしょうか。
通常であれば、自家用軽自動車は新車購入から3年後に初回車検となりますが、事業用で使う黒ナンバー車は初回車検が2年後と短くなり、その後も2年ごとの車検を受けなければなりません。
初回車検までの時間が短縮されることで、整備費用や車検費用が早い段階でかかるため、車の維持コスト増大にもつながります。車検期間が短くなることによる負担を軽減するために、リースの利用なども検討し維持コストを抑える対策も重要です。
黒ナンバーの取得には複数の手続きや書類が必要となるため、時間と労力がかかります。取得するためには、運輸支局に以下のような書類を提出しなければなりません。
- 貨物軽自動車運送事業経営届出書
- 運賃料金設定届出書
- 事業用自動車等連絡所
- 車検証(写し)
- 運賃料金表
各書類には、事業計画や車両情報などを細かく記載する必要があるため、慣れていない方にとっては準備に手間がかかります。
また、運輸支局の手続きは平日の昼間しか受け付けていないため、その時間に時間が取れない場合は代行サービスなどを依頼する費用もかかるでしょう。
事業用のナンバーを取得しただけで、すぐに安定して仕事を得られるわけではないため、最初は業務委託ドライバーとして働くことが一般的です。
多くの業務委託契約では、紹介元の企業に仲介手数料を支払う必要があり、その分だけ手取り収入が減少してしまう点がデメリットに感じられるでしょう。
仲介手数料は、報酬の10〜15%程度が目安とされていますが、業者や契約形態によっても異なるため、委託契約を結ぶ際は慎重に検討することが重要です。
ただし、業務委託契約を結ぶ際に仲介手数料が発生すること自体は一般的であり、事業を軌道に乗せるために必要な経費とも考えられるでしょう。
軽自動車を黒ナンバーにするメリット
黒ナンバーの取得は、軽貨物運送事業者として独立開業を有利に進めるための第一歩です。今まではデメリットばかり紹介してきましたが、メリットについても理解しておくことが大切です。
ここからは、黒ナンバーがもたらす具体的なメリットについて、わかりやすく解説していきます。
個人が軽貨物運送事業を始める際に、緑ナンバーよりも短期間でスムーズに取得できるため、独立や開業を迅速に展開できる点が大きなメリットです。
緑ナンバーでは、営業所や運行管理者の設置等、より厳格な要件を満たす必要があり、申請が受理されるまで3〜5ヶ月と時間がかかってしまいます。一方で、黒ナンバーは届出制であり、比較的簡単な手続きで取得できる点が魅力です。
必要書類や申請内容に不備がなければ即日取得も可能であるため、副業として始める場合や、できるだけ短期間で事業を立ち上げたい方などに適しています。
軽貨物運送事業は、普通運転免許と軽貨物車両があれば、特別な資格や高額な設備投資の必要なく事業を始められます。開業するためにかかる初期費用の負担が少ないことは、運行管理者の配置義務や厳格な設備基準が求められる緑ナンバーと比べて、大きなメリットと言えるでしょう。
軽貨物車両の購入費用がかかりますが、中古車やリース契約を利用することにより、車にかかる費用を抑えながら事業を開始できます。事業の立ち上げにかかるコストが抑えられるため、副業や小規模事業者にとっても狙い目です。
最低限の初期投資で事業を始め、徐々に事業拡大を目指せるでしょう。
軽自動車で運送事業を始めるメリットとして、普通自動車に比べて自動車税や車両重量税などの税負担が軽い点が挙げられます。
税金の安さは、事業運営における固定費の削減につながる重要な要素です。自動車税や重量税は、普通自動車と軽自動車で年間数千円の違いですが、車両を複数台運用する場合は効果が大きくなり、全体のコスト削減に直結します。
また、軽自動車は減価償却費が少なく、資産管理面でも有利です。
軽自動車の税金が安いことは、積み重ねにより長期的な事業利益につながります。黒ナンバーを取得することは、コストパフォーマンスの高い事業運営を目指す上で有利です。
軽自動車の売買をする際の必要書類とは?
軽自動車の黒ナンバーを取得する際に必要な書類
申請をスムーズに進めるためには、必要書類を正確に用意して提出する必要があります。以下は、黒ナンバー取得の際に運輸支局に提出が必要な書類です。
- 貨物軽自動車運送事業経営届出書
- 事業用自動車等連絡所
- 貨物軽自動車運送事業運賃設定届出書
- 運賃料金表
- 車検証の写し
上記の他、軽自動車検査協会にも次のものを提出しなければなりません。
- 事業用自動車等連絡所
- 車検証原本
- ナンバープレート
これらの書類を準備しておくことで、事業開始へとスムーズに踏み出せるでしょう。
黒ナンバーの軽自動車は普段使いできる
事業用登録車であっても、日常の買い物やレジャーなど、個人による普段使いは法的に制限されていません。そのため、プライベート用としても問題なく使用可能です。
ただし、リース契約車の場合は契約内容に注意する必要があります。一部のリース契約では、プライベート用としての走行や長距離利用を制限している場合があるため、契約時に用途制限の有無を確認することが大切です。
黒ナンバーの軽自動車を普段使いする際の注意点
黒ナンバーの軽自動車を普段使いすることは可能ですが、基本的には事業用の車であるため、覚えておくべき注意点があります。
無用なトラブルに発展しないよう、正しい知識を身に付けることが大切です。ここからは、具体的な注意点を解説します。
黒ナンバーの軽貨物車は、貨物の運送を目的としており、通常は2人乗りの仕様となっています。軽自動車は本来であれば4人乗りが可能ですが、貨物用の場合は後部シートを収納して荷室として利用するため、乗車人数に応じて最大積載量が変動する点に注意が必要です。
業務目的で発生したガソリン代は経費として認められますが、普段使いによるガソリン代は経費に計上できない点に注意が必要です。そのため、事業用途とプライベートでの走行を明確に区別しておく必要があります。
私的に使ったガソリン代を経費として申告すると、ペナルティを課される可能性があるため、業務分と私用分でガソリン代のレシートを分けておくなどの対策を取りましょう。