事業用の中古車を売却する際は経費として会計処理を行います。しかし、仕訳方法の複雑さで悩むことも少なくありません。
処理をする際に、「直接法を使うか、間接法を使うか」「税込・税抜どちらにするか」「勘定科目はどうするか」などの疑問で頭を抱える人も多いでしょう。
この場合、定額法を使っているか、定率法を使っているかなど、さまざまな注意点があります。帳簿への記帳の前に、確認すべきポイントを見ていきましょう。
事業用の車を売却した際の経費計上方法
ここでは、「事業用」の車を売却した際の経費への計上方法を説明します。
事業用の車は、法人の場合でも個人事業主の場合でも使用している間は経費として計上できることは知っている方も多いでしょう。そうなると、その車を何らかの理由で売却した場合は、どのように会計処理を行うのかが問題です。
売却すれば当然、売却損か売却益のどちらかが発生することになりますが、それぞれ処理の方法はどう異なるか見ていきます。
会計処理時の基本
最初に、事業用の車を売却した場合の基本的な会計処理の内容について説明します。
減価償却の意味や定額法と定率法、直接法と間接法、税込処理と税抜処理の違いは、仕訳作成時に必ず知っておく必要があります。
減価償却は、長期間にわたって使う資産の取得費用を、資産の使用期間にあわせて配分していく手続きです。
例えば、車を新車で購入した際は法定耐用年数をもとに計算することになります。法定耐用年数は「普通乗用車であれば6年」「軽自動車であれば4年」と決まっており、貨物自動車やタクシー、トラックなどの車の種類によっても定められています。
一年間の減価償却費は、車の購入に使った費用を法定耐用年数で割った金額と考えるといいでしょう。
ただし、中古車を購入した場合は、耐用年数を自分で計算する必要があります。この時、法定耐用年数を終えていないようであれば、以下の計算式で算出することになります。
ただし、減価償却は後述する定額法と定率法のいずれを採用しているかなどにより、使用する数字も異なってきます。自分で判断せず、分かりにくい場合は税理士などに相談するのがベストでしょう。
定額法は、前項で説明した減価償却費を、それぞれの期間に均等に計上する方法です。算出式は以下になります。
定額法は、計算が単純で算出が容易というメリットがあります。その一方、経営を営む法人または個人事業主が所有する固定資産について、後年になって収益力が低下して保守費などがかさむようになると負担比率が上がるという点がデメリットです。
とはいえ、日本の税法では無形固定資産は定額法で償却することと決まっています。
なお、固定資産を処分などする時点でまだ価値が残っている場合の残存価額については、日本の税法では通常取得価額の1割が該当するとされます。その分の減価償却は認められないので、注意が必要です。
しかし、実際には2007年の税法改正によって2007年の4月1日以降に取得した減価償却資産の場合は残存価額を廃止し、ゼロと見なせるようになっています。無形固定資産の場合は残存価額はゼロになります。
定率法は、償却の初期段階で多くの減価償却を計上してしまうやり方です。
メリットは収益が多い段階で償却費を多く計上でき、後年に固定資産の修繕費がかさむなどしても効率的な費用配分が期待できる点です。
しかし、設備投資が多いと最初の償却費の負担がかさむこと、また償却費の費用の配分が会計期間ごとに均等にならないことがデメリットとして挙げられます。
2007年に税法が改正されたのは前項で述べた通りですが、償却率の算出時に残存価額を0円とすると計算が成り立たないので、代わりに採用されているのが「250%定率法」という方法です。定額法における償却率の2.5倍の率を償却率とし、その上で定率法を使うというものです。
この償却費が残存年数による均等償却の償却費にあたる金額を下回る事業年度から、残存年数における均等償却に切り替えます。そして、耐用年数経過時に1円まで償却します。
直接法は、法人あるいは個人事業主の、営業活動による現金収入や支出の流れなどを総額で示す表示方法です。具体的には、営業収入、仕入れ、賃金の支払いといったそれぞれのキャッシュフローの総額が示されます。
では、固定資産の場合はどうなるかというと、取得価額から減価償却費をダイレクトに控除して、その上で帳簿価額を表示することになります。
この時の仕訳は借方に入るのが減価償却費、貸方に入るのが減価償却累計額です。減価償却累計額は、会計期間ごとに発生する減価償却費の累計を表す勘定科目です。つまり、直接法においては会計上、その資産の価値は貸借対照表における資産価額と一致することになります。
直接法には、残りの資産価値が分かりやすいというメリットがあります。一方で貸借対照表にはその資産の取得価額が載らないことから、別途固定資産台帳をチェックしなければいけないのが難点です。
間接法は、固定資産を直接減らしていくのではなく、減価償却累計額を計上することで、それまでの償却額の合計を記入する方法です。仕訳上は借方に減価償却費が、貸方に減価償却累計額を記入します。
もう少し専門的に言えば、間接法は減価償却費を固定資産の取得価額から直接的に控除しません。そうして減価償却費をその累計額に加算して表示するものなので、貸借対照表上は固定資産の価額は取得価額のままです。
つまり、その資産の期末の会計上での価値は、貸借対照表上の価額とはイコールでないことになります。正確な会計上の価値を算出するには、貸借対照表上の価額から減価償却累計額をマイナスすることになるでしょう。
間接法のメリットは、取得原価が貸借対照表をひと目で把握できるという点です。一方、資産の現在価値の算出のために、上述のようなプロセスを踏まなければならないという短所もあります。
税込処理は、仕訳処理をする時に取引総額で処理を行う方法のことです。
税抜処理は、取引金額と消費税に分けて処理をする方法のことです。
損益計算書で見た場合、損益は同額になるので、一つの取引きを税込・税抜それぞれで表示したとしても金額は変わりません。しかし、法人税法上の会計処理を行う場合、両者にはさまざまな点で違いが出てきます。
例えば、交際費や減価償却資産について処理を行う場合は、税込よりも税抜で処理した方が有利です。また、一定の要件がそろうことで可能になる特別償却や特別控除については、税込処理を採用することで取得価額が大きくなるので有利と言えます。
多くの場合、税込処理よりは税抜処理の方が有利になることが多いです。決算書などに表示される数字も、税込だと実態が分かりにくいというデメリットがあります。そのため、中小企業などでは税抜方式が採用されているケースがほとんどです。
車の売り時はいつ?タイミングを誤ると損することも!
売却損が出た場合の8つのパターン
会計処理の基本的な知識を前述してきました。ここからは、実際に事業用の車を売却した際の仕訳について、売却損が出た場合の8つのパターンを解説していきます。
なぜ売却益ではなく売却損が問題になるかというと、車を中古車として売却する場合、買取価格が購入時の価格を上回ることは稀だからです。そのため、事業用の車を売却したら、売却損の仕訳がテーマになると考えられます。
それでは、この場合の仕訳パターン8つは、どのように分けられるのでしょう?
まず法人の場合と個人事業主の場合で分類できます。その上で、前項までで説明した直接法と間接法、そして税込処理と税抜処理のうち、どれを採用するかによって仕訳が異なってきます。これらの要素を掛け合わせることによって、仕訳内容が決まるわけです。
なお、以下で具体的に解説する仕訳内容は、新車(普通乗用車)を購入した場合を想定し、減価償却額を計算していくという流れになります。
法人の場合の4パターン
まず初めに、法人が仕訳処理を行う際の4つのパターンを説明します。
会計処理で採用しているのが直接法なのか間接法なのか、また税込処理なのか税抜処理なのか、それらの組み合わせで仕訳が決まります。
会計処理の際、直接法でなおかつ税込で処理する「法人×直接法×税込経理」の組み合わせは、最もシンプルで分かりやすい仕訳法と言えるでしょう。これから自力で帳簿をつけることを考えている方にも向いています。
設備などの固定資産や車などの動産、すなわち資産を購入した場合は、購入費用の全額を一度に損金として経費計上することができず、耐用年数に応じた減価償却を行う必要があります。
直接法は、この場合の減価償却費を固定資産の金額から前もって差し引いておく仕訳法です。
例えば、車を売却して得た売却額を借方に「現預金」として記入します。そして、貸方には購入費用の金額から減価償却累計額を差し引いた、その期首の車の帳簿価額にあたる金額を「車両運搬具」として記入します。
車を購入した時に別途支払っているリサイクル預託金は、「預託金」として貸方へ記載してください。売却損があれば、その金額を「車両売却損」として借方に記入しましょう。
次に、法人が直接法でなおかつ税抜で処理する「法人×直接法×税抜経理」の組み合わせです。これは税込処理と比べて記入方法が細かくなります。
この場合、まず貸方に売却金額の消費税分を「仮受消費税」として分けて記載します。あわせて「車両運搬具」も税抜の金額で記載しましょう。
その分だけ車両売却損が減ることになりますが、税込経理において「租税公課」の科目が最終的に追加されるので、実際の損益に変わりはないことになります。
間接法で税込で計算する「法人×間接法×税込経理」の組み合わせについて説明します。
間接法を用いる場合は、固定資産から減価償却累計額を差し引かずに貸方へ仕訳するので、借方へ減価償却累計額を記載することになります。
先述した「法人×直接法×税込経理」との違いはそれだけですが、車を売る際は課税取引となるので注意しましょう。売却額に対して課税され、リサイクル預託金は有価証券の譲渡にあたる非課税売り上げとなります。
「法人×間接法×税抜経理」の組み合わせで処理する場合は、「直接法×税抜」「間接法×税込」でそれぞれ項目立てした減価償却累計額と仮受消費税の双方の科目を用いることから、最も項目の数が多くなります。
借方に「現預金」「減価償却累計額」「車両売却損」が来て、貸方が「車両運搬具」「仮受消費税」「預託金」となります。
車両売却損の金額の書き方も、「直接法×税抜」の場合と同様です。
個人事業主の場合の4パターン
次に、個人事業主の場合の4つの仕訳パターンを説明します。
これも採用しているのが直接法か間接法か、そして税込と税抜どちらで処理するかの組み合わせで決まります。そのため、勘定科目の組み合わせも法人とほとんど同じです。
ただし、「車両売却損」の代わりに「事業主貸」という科目を用いる点だけが異なります。
まず「個人事業主×直接法×税込経理」の仕訳の場合、法人と違って車を手放すのは資産の「売却」ではなく、個人から法人へ資産を譲り渡した「譲渡所得」扱いになります。
そのため、法人の仕訳で車両売却損として記入した分は「事業主貸」になります。先に説明した「法人×直接法×税込経理」との違いはそれだけで、振り分けられる金額も変わりません。
最もシンプルで分かりやすく、初心者向けの仕訳方法と言えるでしょう。
「個人事業主×直接法×税抜経理」の場合は、法人の税抜処理と同様に、「事業主貸」の科目の金額が税込処理よりも少なくなります。
仮受消費税の項目を別個に設けて、最終的には租税公課で調整することになるでしょう。
「個人事業主×間接法×税込経理」の場合も仕訳の構造は法人と同じです。
減価償却累計額を省略しないで項目立て、法人の場合の仕訳で「車両売却損」として記入した分を「事業主貸」の勘定科目で表示することになります。
「個人事業主×間接法×税抜経理」の場合も、やはり仕訳の構造自体は法人の場合と同様になります。
法人の場合に「車両売却損」だった分を「事業主貸」とし、減価償却累計額と仮受消費税を項目立てして処理しましょう。
売却益が出た場合
ここまでで、車を売却して売却損が出た場合についての仕訳方法を解説しました。
中古車の売却価格がもともとの購入価格を上回ることは少ないので、まず売却損を主題としましたが、まれに売却益が出るケースもあります。
この時の仕訳は売却損が出た場合とは異なり、法人であれば「車両売却益」に、個人事業主であれば「事業主借」として貸方に記入することになります。
さらに、譲渡所得としての扱いにも注意が必要です。個人事業主の売却益、つまり事業主借は、最終的には諸費用や上限50万円の特別控除額を差し引いた金額を譲渡所得としてその他の事業所得と通算することになります。こうして通算した所得分には、所得税がかかります。
簡単に言うと、車の帳簿価額の残りに対して50万円以上高く売れたのであれば、課税対象になるということです。また、車を5年以上事業用に使うとその半分までしか課税対象にはなりません。
中小企業法人の場合の特例
中小企業法人などが、2006年4月1日~2020年3月31日の期間に取得した車などの固定資産のうち、事業用のもので取得価額が30万円未満のものは、一定の条件を満たせばその金額を減価償却せずに一括償却できます。
これが「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」というルールです。
この特例の対象は限られており、従業員数が千人以下で青色申告法人である中小企業者、あるいは農業協同組合などになります。
車の売り時はいつ?タイミングを誤ると損することも!
事業用の車を売却する方法は?
事業用の車を売却した場合の仕訳方法を解説しましたが、そもそも法人や個人事業主は不要になった車をどのように売却するのでしょう?
個人が車を売却する場合は、まず中古車の販売店や買取専門業者に連絡をして、車を直接持ち込むか出張査定に来てもらうなどして買取査定を受け、納得のいく価格であれば売却するという流れになるでしょう。
法人や個人事業主もこの流れは同じで、トラックやタクシー、重機などの特殊な車両でなければ査定してもらえます。
また、売却する際に必要となる書類も個人で売却する時と同じです。ただし、印鑑は法人の実印となり、印鑑証明書は法務局で交付してもらうこととなりますので注意しましょう。