官公庁などが公用車の車検を依頼する際、車検業者をどのように決めているのかは気になるところです。
担当者が任意で業者を選定する随意契約が行われていると聞いたことがある人もいるかもしれません。本当に随意契約が用いられているとしたら、公平性が保たれるのでしょうか。
ここでは車検業者はどのように選定されるのかについて詳しく解説していきます。また、官公庁が民間業者に業務を発注する際は入札が用いられることが多いようです。入札とはどのような方法なのか、随意契約と比較して見ていきます。
官公庁が民間会社と契約を締結する際の契約方式
官公庁が民間会社と契約を締結する時、契約の相手方を選ぶための契約方式には大きく分けて2つの方法があります。
1つ目が「入札」です。物品の売買や工事の請負先を選ぶ際に、通常は契約希望者が複数存在します。複数の契約希望者に物品の販売や工事の請負金額などを文書で提示させ、競わせる形で契約の相手方を決めます。
2つ目が「随意契約」です。随意契約は予め官公庁のほうで選んだ業者を相手に契約を結ぶという方法になります。
随意契約とは
随意契約というのは、国や地方公共団体などの官公庁が任意に決めた業者と売買契約や工事請負契約などを行うことです。つまり複数の業者に金額などを競わせる入札ではなく、官公庁の判断で契約相手を選ぶことになります。
業者決定までの手続きは簡単で、かかる日数も短くて済むためスムーズに契約まで進めるといった点がメリットです。また、労力と共に経費も削減にもつながります。当該契約内容を遂行するのに資質や技術、信用面においてもベストな業者を、業者を使う側の官公庁が選ぶことができるというのもメリットだと言えます。
一方で、複数の業者を競わせないので公平性に欠けるというデメリットも生じます。
随意契約の判断基準は主に「少額随意契約」「競争性のない随意契約」「不落随意契約」「緊急性による随意契約」の4つがあります。
少額随意契約は、官公庁が行う様々な随意契約の中でも、一番多い方式だと言われています。
物品購入では160万円以下となっています。一般的に2、3社を選んで見積もりを出して比較する見積もり合わせが取り入れられ、一番安い価格を提示した業者と契約するというものです。
2、3社に見積もりを出させるという点では競争性の一面もあります。ただし、契約金額が50万円未満の場合、この見積もり合わせも省略でき、担当者の判断で業者を決定することが可能です。
競争相手がいない分、公平性が損なわれて金額が高くなる可能性もありますが、事務簡略化の観点からは友好的な契約方式として取り入れられています。
例えば、購入対象が特殊で珍しい物品、専門性の高い物品で一社しか取り扱いがなく、その業者からしか購入できないといった場合でしょう。ただし、競争性のない随意契約を行うには、契約に至った理由書やそれを証明する資料が必要となります。
メーカーからの直接購入だけではなく、代理店などで取り扱いがあれば競争性が不要という理由には当てはまりません。当該業者を購入先に選定しなければならない必然性の高い理由が要求されます。
入札を行い契約先を決めようとしたのに、官公庁側が提示した予定価格に達する金額を提示した業者がいない場合も当てはまります。契約までの期間が短く、再度入札をしている時間がない場合、任意に選んだ業者と価格交渉を行いすぐに契約を行わなればならない時などにも使われます。
典型的な例としては、台風や地震、大雨などの天災が起きており、早急に物品購入業者などを決めなければならない場合です。具体的には入札の手続きが終わるのを待っていては、生命や危険に脅かされて財物が著しく破壊されるリスクが高い場合になります。
例えば、2020年に新型コロナウイルスの世界的感染に見舞われた際、マスク不足から政府は布マスクの製造会社を随意契約で締結し、無償で各世帯に配布するという政策を行いました。緊急性がある随意契約は、きわめて稀な契約方式だとされています。
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入札とは
入札というのは、漢字のごとく札を入れるということです。札は業者が希望する契約金額を記載した入札書のことです。複数の業者の入札書を集め、契約金額を比較して最も条件のよい業者を契約先に決めます。
官公庁などが物品の売買や工事の委託などを必要とする時に、民間業者に業務を発注することになります。その際発注する業者を公平に決めるために用いられる契約方法です。
入札には「一般競争入札」「制限付き一般競争入札」「指名競争入札」などいくつかの方法があります。
より多くの業者が参加できるのが一般競争入札で、制限がついたり指名されたりすると入札参加できる民間業者もやや数が絞られてきます。
参加資格に該当すれば、どのような企業でも入札に参加できるので契約のチャンスが平等に与えられているというものです。
具体的な入札資格に関しては、ケースバイケースです。例えば、県内に本社もしくは本店があるという地域要件や、経営状態の優良を示す評定値が1000点以上であるといった総合評定値要件などがあります。
制限をつけることで入札参加資格のある民間業者が絞られるため、選定までに要する時間も短くなります。
官公庁は、入札参加資格のある民間業者の中から資力や信用、その他契約先に値する要素を兼ね備えた民間業者を選んで指名します。参加を募る期間がなくなる分、契約業者が決まるまでの期間が短くて済むので効率的と言えます。
ただし、官公庁が独断で指名する業者を決めることができるという点では、公平性に欠ける部分があることは否めないでしょう。
入札と随意契約を車検業者決定までの業務効率性で比較
入札と随意契約は性質が全く異なります。
入札は契約希望の民間業者に入札情報を公示して広く募り、入札募集期間を設けて入札させ、落札者が決まるという手順をとります。
一方で、随意契約は官公庁などの業務発注側が任意で民間業者を選び、契約するという手順です。
それぞれの手順を見るだけでも、入札には様々な事務手続きが必要であり、それなりに日数もかかるのがわかります。
一方で随意契約は業者を競い合わせなくてもよい、任意で業者が選定できる分事務手続きはかなり簡略化できることが明らかです。入札と随意契約において、業務効率性だけを見ると随意契約のほうが効率的なのがわかるでしょう。
実際に公用車の車検業者の選定から決定までを例にとって見ていきます。
入札の場合、まず車検業者に求める条件を示した仕様書の作成が必要です。
公用車と言っても、普通乗用車のみならず救急車や消防車など特殊な車両も車検を受けます。こういった特殊な車両の車検が行えるだけの設備があるか、知識や技術のある自動車整備士が在籍しているかなども条件となります。
多くの業者が公平に入札できるような仕様書が望ましいでしょう。まずは仕様策定委員会が設置されて、委員が選出され、委員会で仕様書の内容が話し合われてやっと決まります。
一方で随意契約の場合、ほぼ業務担当者が一人で仕様書の作成が可能です。
入札の準備として、公用車の車検有効期限が迫っており、車検業者の入札を行う旨を広く一般に知らせます。そして、入札を希望する車検業者が入札情報を閲覧できるようにします。
一般公開用となる入札のためのWEBサイトへの掲載や、入札専用の職場掲示板などへも情報を載せなければなりません。この情報を広く一般に伝えることを公告と呼びます。
随意契約の場合はこの手続きは不要です。
入札情報を見た民間の車検業者から、仕様書の内容に関して官公庁に問い合わせが来たら、その対応をします。質問があった場合は本人に回答するだけではなく、他の入札参加者にも返答しなければならないことになっています。なぜなら、入札に関する条件を平等にするためです。
例えばその情報を知っていれば、もっと安く入札できたからもしれないと後から言われると公平性を欠くことになってしまいます。また、入札募集期間が短いと、入札に参加するか考える時間もなく、公告にすら気づかない業者がいるかもしれません。入札希望者からの質問にも十分対応できない可能性もあり、公平でなくなります。そのため、入札公告から入札を開始する日までは短くても10日間は必要だと決まっています。
一方で、随意契約では車検業者を広く募集するわけではないので、問い合わせへの返答期間なども不要です。
入札を行う場合は最低でもどの位の価格で落札すればよいか、落札標準価格を概ね決めておき、予定価格調書を作成します。他の都道府県の官公庁では、車検業者を入札で決める際にどの位の価格で落札しているか契約実績を調べます。
入札参加業者から提出された納入実績一覧表から、納入先の官公庁にまずは電話で照会し、納入の事実が確認できたら今度は文書で照会します。この調査にかかるとされる時間は、2~3週間ほどです。
他の都道府県の落札価格と大きな金額差ができてしまうと、公平性が保たれないからです。随意契約でも取引価格の実例調査は必要となります。
ただし、調査対象も1、2箇所で電話で聞き取り照会するだけでよいのでトータルでも3~4日しかかかりません。
入札会場の準備して、当日入札執行官と入札希望者の車検業者が集まり、開札が行われます。契約希望金額などが書かれた入札書も内容確認が行われ、その後内容を読み上げます。
落札者が決まったら契約に関する打ち合わせを行います。開札をWEB上で行う電子入札という方法もあり、その場合は入札会場の準備は不要です。
また、随意契約では入札は行わないので開札から落札までの作業は必要ありません。
入札と随意契約のトータルの業務にかかる日数を比較してみましょう。
入札の場合は、仕様書の作成に使用策定委員会を設置し、委員の選任から決定、仕様書の内容吟味から決定までに約10日を要します。随意契約の場合は、仕様書の作成は2時間程度です。
さらに、入札は入札公告と問い合わせへの対応は最低では10日間、土日祝日を挟めば官公庁も業者も休業日なので2週間ほど期間を要します。落札基準価格の決定、予定価格書の作成までは取引実績の調査があるので約2週間かかります。随意契約の場合は、電話照会のみなので3日程度です。
そして開札から落札者決定までは入札では3時間要します。トータルで見ると、入札は約46日間、随意契約は約5日間となります。
業務量にも差があり、随意契約は入札の10分の1程の業務で済むので効率的です。
官公庁が公用車の車検業者を選定する際に、随意契約を用いる場合もあります。
例えば、寒冷地だと市が所有する除雪車の車検が当てはまります。除雪業務に用いられる特殊機械の整備、点検なので取り扱いできる車検業者も限られることが多いです。また大型の除雪車だと場所をとるので、個人経営の小さな整備工場では車検作業が難しい場合もあります。
こういった理由から除雪車の車検ができる業者というのも限られ、特定の業者と契約しなければ車検という目的が達成できません。
他にも、消防車や救急車、高所作業車などの特殊車も同様のことが言えます。整備状況や車両の構造などの知識があり、整備ができる技術力のある自動車整備士が在籍している業者でなければなりません。部品交換が必要となれば、部品を調達できるかどうかも業者選定の材料となります。
公立学校のスクールバスの車検に関しても、通常運行を行いながら車検有効期限内に車検を済ませなければならないという条件がついています。学校は土日休みなので金曜の運用後から月曜の運行前までに、迅速に車検を終えることができる車検業者が選定条件となるのです。そのため、公立学校から最も距離的に近い車検業者が選定され、随意契約を締結したというケースもありました。
公正性を保つために、官公庁では公用車の車検業者の選定はこれまで随意契約であったのを、指名競争入札に変更したというケースもあります。
指名競争入札にすることでより透明性が高くなり、特定の車検業者を恣意的に選定するということもなくなります。しかし、全ての公用車を指名競争入札にすると業務量が一気に増え、業者選定までに時間がかかりすぎるでしょう。そのため、公用車の中でも例えば普通乗用車など指名競争入札に適したものだけを選んで行うという方法をとっています。
消防車などの特殊車両は、どうしても車検を行えるだけの技術や設備の整った車検業者でなければ現実的に難しいからです。
官公庁などにおいて公用車の車検業者の選定を随意契約にすると、一部の民間業者に契約が偏ってしまうので公平性が確保されないという声が上がります。
確かに随意契約は担当者が契約業者を選んでしまうため、他の民間業者には契約交渉の機会すら与えられないということになります。
一方で最も公平性に長けている一般競争入札では膨大な業務を負担することになるため、業務の効率性があるとは言えません。そのため、車検業者の選定は制限付き一般競争入札を行うという官公庁も多いのが現状です。