車検では車体の裏側、エンジンの最下部の下回り検査も行われます。下回りの検査項目にはブーツ類の破損も含まれます。
ブーツ類に破れがあると車検は不合格となり、ひび割れ程度でも車検を通らない可能性もあるので要注意です。車検に備えてブーツ類の種類や交換の目安、交換にかかる費用や整備の依頼先などを知っておくと便利です。
車検は、国が定める保安基準に適合しているかどうかを調べるための検査制度です。保安基準は道路運送車両法で定められており、自動車の構造と装置についての安全確保と環境保全に関する技術基準になります。
車のパーツごとに保安基準が決められているので、基準に適合しない部位が一つでもあれば車検には合格できません。再車検となり、整備後に再び車検を受けることになります。
そのため、車のパーツを純正品以外のもので取り付ける場合は、保安基準をクリアしている車検対応品を選ぶ必要があります。
車のパーツでブーツと言うと、一般的に車の下回りの各連結(ジョイント)部分にあるゴム部品のことです。下回りというのは車のエンジンの一番下にある部分で、車体の裏側付近にあたる部分です。
ブーツは主に「ドライブシャフトブーツ」や「タイロッドブーツ」などが挙げられます。パーツの場所によってブーツの形状や大きさなどが異なるので、いくつか種類があります。
パーツの連結部分には、パーツの動きを滑らかにするためにグリスという潤滑油が塗られており、このグリスが連結部分から外に漏れてしまうのを防ぐためにブーツがカバーしているのです。
さらに、パーツの連結部分に埃や砂利、虫などの異物が入るとパーツの動きが阻害され、故障の原因にもなります。ブーツにはこういった異物混入を防ぐ役割もあります。
人の体で言うと、関節は骨と骨をつなぐ連結部で、ブーツはそれらの動きを滑らかにして衝撃を吸収する軟骨のような役割だと言えるでしょう。
そんなブーツの種類と車検前のチェックポイントをご紹介していきます。
ドライブシャフトブーツは、エンジンとタイヤをつなぐ細長いドライブシャフトというパーツの連結部分を保護するためのものです。ブーツはゴム製で蛇腹状になっています。
連結部分にはドライブシャフトの動きで生じる摩擦を軽減するために、ベアリングというパーツが組み込まれています。さらに、ドライブシャフトの回転を滑らかにするために、ベアリングにはグリスという潤滑油が充填されているのです。
このグリスが外に飛び散らないようにするために、その上からブーツが被せられています。ドライブシャフトは車体の下回りにむき出しの状態で露出しているため、路面からの影響を受けやすい部位です。
ブーツがなければ、グリスが飛び散ったり、外から水や砂利などの異物がパーツに付着して錆びたり、パーツの動きを阻害する原因にもなります。ドライブシャフトの数は車の駆動方式によって異なります。
前輪駆動の車には、エンジンからフロントの左右のタイヤにドライブシャフトがつながっています。タイヤ側とエンジン側の連結部に各ブーツが備わっており、全部で4つのブーツが確認できるでしょう。
ドライブシャフトブーツに破れや亀裂がないか、グリスが飛び出ていないかを車検ではチェックされます。
ステアリングラックブーツは、ハンドルとタイヤをつなぐステアリングというパーツを保護するためのものです。ハンドルを左右に操作すると、タイヤが連動して左右に動き車は進行方向を変えます。
ステアリングは、このハンドルからの動力をタイヤに伝達するためのパーツです。ステアリングラックブーツが破れたり亀裂が入ったりすると、路面からの水分や砂利が中に侵入します。
すると、中のステアリングラックが錆びたり、異物が付着してスムーズに動かなくなり、ハンドル操作に支障をきたしたりするリスクがあるため、車検ではステアリングラックブーツに破損がないかチェックします。
タイロッドエンドブーツは、ステアリングラックとタイヤをつなぐタイロッドというパーツを保護するためにつけられているカバーです。ハンドルからはステアリングラックが接続され、その先にステアリングラックブーツが備わり、さらに先にはタイロッドがつながっています。
その奥にタイロッドエンドブーツが装備されて、タイヤへとつながるという仕組みです。タイロッドエンドブーツも破れや亀裂が見られると、中に水や砂利、ゴミなどの異物が入り込んでしまいます。
タイロッド部分が錆びて腐食すると、最悪抜け落ちてタイヤが脱輪してしまうリスクあるので危険です。また、異物が付着することでタイロッドの動きが妨げられ、ハンドルを切っているのにタイヤに動力が伝わらなくなり走行不能に陥る可能性もゼロではないでしょう。
車検ではこのタイロッドエンドブーツの破損の有無も確認します。
スタビリンクダストブーツは、サスペンションというパーツとスタビライザーというパーツの連結部分を保護するために装備されたカバーです。スタビライザーは、コの字型やU字型をしたバネの細長いパーツです。
タイヤを支えて衝撃から守るサスペンションと連結し、車がカーブを曲がる際に車体が左右に傾く横揺れ(ロール)を防ぎ、車体を安定させるために備わっています。ブーツが被せられているのは、この2つのパーツをつなぐスタビライザーを、路面の水や砂利などの異物から保護するためです。
スタビリンクダストブーツは、スタビライザー側とサスペンション側に1つずつ装備されていて、破損すると、パーツが錆びたり動きが妨げられたりすることにつながり、コーナリングの際に車体が大きく傾くことにもつながります。車検では、ブーツの破損の有無を目視で調べます。
ロアアームボールジョイントは、タイヤとサスペンションをつなぐ連結部分のパーツです。この連結部分を保護するために備えられているのが、ロアアームボールジョイントブーツです。
ブーツがなくロアアームボールジョイントがむき出しのままだと、水や砂利などの異物が付着し、錆は発生したり摩耗が早まったりして劣化してしまいます。さらに、動きをスムーズにするために充填されているグリスが飛び散ってしまうことも考えられます。
ロアアームボールジョイントにガタが生じると、外れて脱輪する可能性もあるので危険です。車検ではロアアームボールジョイントブーツに亀裂や破れがないか、グリスが飛び出ていないかなどをチェックします。
車のブレーキ、中でも乗用車に多く採用されているディスクブレーキには、ブレーキキャリパーというパーツが備わっています。ディスクブレーキは、タイヤとともに回転するディスクローターに挟まれたブレーキパッドの摩擦で、制動力を生じさせる仕組みになっています。
ブレーキキャリパーはこの動きに使われているパーツです。ブレーキキャリパー内のピストンがブレーキパッドを押さえつけることで、摩擦が生じます。
このピストンを保護するために備えつけられているのが、ブレーキダストブーツです。ピストンに水や異物などが侵入するのを防ぐ役割があります。
破損が見られるとピストンが錆びて、最悪ブレーキの効きが悪くなってしまうでしょう。ディスクブレーキを採用していない車やブレーキキャリパーを使わない車もあるので、全ての車種に備わっているわけではありません。
サスペンションダストブーツは、ショックアブソーバーというパーツを保護するためにカバーです。ショックアブソーバーは、スプリングの上下運動の衝撃を吸収するためのパーツです。
シリンダー内にはロッドと呼ばれるパーツがあり、上下にピストンして圧力をかけることでスプリングの揺れを抑えます。また、ロッドのシリンダーの接合部には、オイルシールというパーツも備わっています。
サスペンションダストブーツが破損すると、ロッドやオイルシールに砂や水がついて、錆や劣化につながりサスペンションが制御できなくなり、車の乗り心地も悪くなってしまうのです。
車検では車のエンジンの最下層部である下回り、足回りも検査項目となっています。車検の検査場では、下に穴の開いた検査台に車を乗せ、検査官はちょうど穴の中にある、車体の裏側から各部位をチェックします。
具体的に見る部分は、オイル漏れやボルトの緩みの有無などです。その際に、ブール類に破れや亀裂がないかも確認されます。
万一ブーツが破れている、亀裂が入っているとタイヤの動きを阻害し、ブレーキ機能を低下させるリスクがあります。車の安全性や性能に多大な影響を及ぼすことになるので指摘されるでしょう。
ブーツの破れや亀裂が見つかると、保安基準適合外となり、再検査を要求されます。ブーツを新しいものと交換するか補修するなどして整備後に再度車検を受けることになります。
車検で下回りの検査をした際に、検査官の目視で明らかにブーツに破れが見られる場合は、車検にはまず通らないと思ってよいでしょう。しかし、微妙な破損、ひび割れ程度なら車検に通るのではないかと思われがちです。
検査官の判断にもよりますが、一般的にひび割れが浅く、範囲が狭い軽度のものなら深刻なブーツ破損とはならないことが多いです。そのため、車検に通る可能性はあります。
逆に亀裂が入っていなくてもひび割れが深くてもう少しで破れそうだったり、範囲が広かったりする場合は、実際に破れていなくても車検では保安基準適合外と判断されることもあり得ます。いずれにせよ、劣化が見られたら交換もしくは補修しておいたほうが無難です。
ブーツ類の素材はほとんどがゴムです。そのため、衝撃を与えなくても紫外線や気温の低下、車体からの熱などにより影響を受けて、年数が経つと自然に劣化して破損しやすくなります。
ブーツの中でも特に、ドライブシャフトブーツは劣化しやすいと言われています。タイヤの上を回転する際の振動がダイレクトに伝わり、ハンドルを切る際はタイヤが激しく左右に動くので負荷がかかりやすいのです。
経年劣化によりブーツは硬く、割れやすくなります。ブーツが破損すると、中のグリスが飛び出てきます。さらに水や砂利、埃などがブーツの中に入り込んでしまうでしょう。
そうなると、部品が錆びたり、ガタガタと変な音がしたりすることもあります。パーツが正常に作動せずに車の故障にもつながります。
部品の動きをスムーズにする役割を果たしているのが、ブーツの中に入っているグリスです。グリスが飛び散ることで量が減り、ブレーキを踏んでも効かない、タイヤが滑って制御できないといった事態が起こるリスクもあります。
車が走らなくなってしまう可能性もゼロではないので、ブーツの破損は車に多大な影響を与えると言えます。
ブーツの中でも、特にドライブシャフトブーツは大きな負荷がかかり、破損しやすいと言われています。ハンドルを切ってタイヤを左右に動かす度に伸びたり縮んだりを繰り返します。
つまり、直線道路を走行している分には負荷はかかりにくいですが、山道のような曲がりくねった急カーブの多い道路を走る機会が多いと、ブーツが破損の原因となるのです。
また、改造して車高を低くしている車も、ブーツの破れや亀裂につながります。車高を下げるとドライブシャフトブーツに余分な力が加わり、ゆがんだ状態になるので少しの動きにも過負荷となります。
摩耗や劣化などで破損しやすいドライブシャフトブーツの場合、新品の状態から約50,000㎞走行したタイミングが交換の時期だとされています。走行距離の平均が1年で約10,000㎞なので、ドライブシャフトブーツは約5年が寿命だと言えるでしょう。
もちろん、車高を低くしている車、いわゆるシャコタン車や山道などの曲がりくねった道を頻繁に走行する場合は、もっと早くに寿命がきます。また年間走行距離が10,000㎞以上の場合も5年よりも早く交換のタイミングが来るはずです。
ドライブシャフトブーツ以外のブーツの場合も、素材がゴムなので自然劣化により破損することも十分あり得ます。注意して走行しても10年位でゴムが自然劣化し、ボロボロになって破れや亀裂が見られる場合が多いので交換する必要があります。
ブーツの中でも特に寿命が短いとされるドライブシャフトブーツの破損を防ぎ、少しでも長持ちさせるには普段の運転の仕方が関係しています。例えば駐車をする場合、タイヤが左右どちらかに曲がった状態、つまりハンドルを切ったままにすると、ブーツも同じ向きに曲がり負荷がかかっていることになります。
車を駐車させる際は、ハンドルとタイヤを真っすぐに直しておきましょう。些細なことですが、タイヤが曲がった状態での駐車回数が増え、時間が長くなるとその分ブーツへの負荷が蓄積されてしまうことになります。
ブーツの摩耗、劣化を防ぐブーツラバープロテクターを使うのも効果的です。ゴムが劣化で硬くなるの防ぎ、柔軟性を維持するためのブーツに塗布して使います。
スプレータイプなので塗布も簡単にでき、価格も1,000円~2,000円位とリーズナブルなので試しやすくなっています。
ブーツ類の破れや亀裂の有無、グリスが飛び散っていないかなどは車検の下回りの検査項目に含まれています。
車には車検の他に法律で義務付けられている点検があり「法定点検」と呼ばれています。自家用乗用車の法定点検は12ヶ月と24ヶ月が一般的です。
通常、車検を申し込むと検査前に法定24ヶ月点検を受けることになります。法定点検で車の下回りを点検し、ブーツの破れや亀裂、大きなひび割れなどが見つかればブーツを交換することになります。
車検でブーツの破損が見つかるよりも、法定点検で見つかり事前に整備したほうが効率的です。
車の下回りのブーツが破損し、交換の必要が出てきた場合どの位の費用がかかるのかは気になる所です。車種によってブーツ交換にかかる費用は異なります。
業者に依頼した場合は工賃と部品代込みで10,000円~20,000円が相場です。ただし、ディーラーに依頼すると整備工場に依頼するよりも1時間あたりの工賃が高くなり、部品も純正を使わなければならないので30,000円位と費用が高くなってしまいます。
カー用品店や整備工場、車検専門店などは安くて10,000円位でやってもらえる所もあります。ブーツの交換は自分でやるのは難しく、時間もかかるでしょう。
車の安全性を考えたらきちんと専門の業者に依頼したほうが安心です。
ブーツ類は車の下回り、車体の裏側にあるので破損があっても目立ちにくいのが現状です。ドライブシャフトブーツに破損があり、中のグリスが漏れて飛び出ている場合は異音がするので発見できます。
飛び散ってグリス量が減ると部品同士がぶつかり合って、連結部位がうまく作動しないため普段は聞こえない「ガタガタ、ゴトゴト」という金属が当たっているような音がします。特に前輪駆動の車では、運転席の近くから異音が出るので、運転者には聞こえやすいです。
異音がしなくてもブーツの交換タイミングが近づいたら、車体の下をのぞき込んでブーツに破れがないか、グリスが漏れていないかをチェックしましょう。ブーツの全体が見えるように、ハンドルを左右に切った状態でもブーツを目視してください。