収入があると何かと税金が課せられるものです。それでは、自賠責保険の保険金のように、事故によって生じた損失を補填するお金に対しても税金はかかるのでしょうか?
税金がかかる場合とそうでない場合についてケース別に解説ししますので、保険金を受け取る際の参考にしてください。
自賠責保険の保険金には税金がかからない
最初に結論から言うと、自賠責保険から下りた保険金には税金がかかりません。そのため「非課税」です。
なぜ税金がかからないのか、任意保険である自動車保険の保険金の場合はどうなるのかについて、以下で説明していきます。
自賠責保険・自動車保険・税金の3つの関係
自賠責保険の保険金にはなぜ税金がかからないのか、その理由などを説明する前に、自賠責保険・自動車保険・税金の3つの関係について一度整理していきます。関係性を知っておくことで、理解をより深められます。
自賠責保険で支払われる保険金には税金がかからず「非課税」となります。自賠責保険は交通事故の損害賠償という性質を持っているため、税金はかからないのです。
車を運転している以上、事故の加害者にも被害者にもなりたくないものですが、万が一事故に遭遇してしまったときに被害者側の人的被害を補償するのが自賠責保険です。
これは、損害の埋め合わせという意味合いがあります。せっかく損害を埋め合わせたのに、そこに課税されては埋め合わせの意味がありません。
こうした賠償金の性質を持つ保険金は、本来であれば課税される要件を満たしているのですが、あえて対象外となる「非課税」の扱いとなります。
保険金に課税されれば、事故の被害者にとっては負担が増えることになります。非課税であることで、自賠責保険の「被害者救済のための保険」としてきちんと成り立っているのです。
強制保険である自賠責保険に対して、任意で加入できるのが自動車保険です。
自動車保険から支払われる保険金も、「損害賠償」の性質を持ちます。そのため、対人・対物賠償保険やその他の傷害保険などは原則として非課税となります。
この場合の「対人賠償保険」とは、交通事故によって他人を死傷させた場合の賠償保険です。また、「対物賠償保険」も交通事故によって他人の物品(自動車や家屋など)に損害を与えた場合の賠償保険なので、被害者が受け取る保険金に税金はかかりません。
さらに、自動車保険の中の傷害保険にはいくつかの種類があります。自分やその家族の怪我などに支払われる「人身傷害保険」、同乗者の怪我などが補償される「搭乗者傷害保険」、自損事故の被害を補償する「自損事故保険」などがありますが、いずれも保険金は非課税です。
ただし、唯一例外となるのが死亡した場合に支払われる「死亡保険金」です。詳しくは後述しますが、これだけは所得税・相続税・贈与税のいずれかがかかります。
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なぜ自賠責保険の保険金は非課税なのか
ここまで、自賠責保険・自動車保険・税金の3つの関係について説明してきました。その内容を踏まえて、なぜ自賠責保険の保険金は税金がかからない「非課税」と決まっているのか、その理由を改めて説明します。
保険金が支払われる際、その保険金に「損害賠償」の性質が認められる場合は原則として非課税となります。それは、損害を被った被害者に課税すると負担が増す結果になるからです。
これは単なる慣習などではなく、所得税法などの根拠法令に基づく措置です。非課税となるのは損害賠償だけではなく、慰謝料や見舞金も該当します。
ただし、名目だけで無条件に非課税になるわけではないため、注意が必要です。
例えば、名目上は損害賠償金だったとしても、その中に被害者が所得金額を計算する上で「必要経費」に算入される金額を補填するための分が含まれていれば、補填相当額が所得の収入金額と見なされます。
また、治療費として受け取った分は、医療費控除を受ける際に、既に支払っている医療費の金額から受け取った金額分を差し引かなければなりません。
このように、原則に対する例外もあるので注意が必要です。
「損害賠償金」にあたる保険金は原則非課税であると前項で説明しましたが、自賠責保険の保険金も例外ではありません。
自賠責保険は、交通事故によって「人」が受けた損害を補償するものだからです。この点は自動車保険も同様です。
自動車保険は自賠責保険とは異なり「物」や事故の加害者の受けた損害もカバーしますが、いずれにせよ保険金は損害賠償としての性質を持っています。
一般的に任意保険である自動車保険には、賠償・傷害・車両保険の3種類があり、これによって受け取る保険金は「損害賠償」にあたるので非課税となります。
例えば、傷害保険から受け取るもので「休業損害補償」があります。これは交通事故で怪我をして通院・入院しなければならなくなり、収入が減った分を補償するものです。こういったものは全て所得とは見なされず、税金がかかりません。
ただし、これはあくまでも原則論です。事故の被害者側に過失がある場合や、慰謝料あるいは見舞金の金額があまりに過剰な場合、事故で壊れたものを弁償した場合などは課税されることもあります。(この詳細は後述します)
その他にも注意が必要なのは、被害者が死亡したため死亡保険金が支払われたときです。死亡保険金は遺族が受け取ることになりますが、所得税・贈与税・相続税のどれかは必ずかかることになるでしょう。
例外的に課税されるケースとは?
ここまでで、「損害賠償金」として支払われる保険金は原則として非課税になることを説明してきました。
しかし、受け取った保険金などに例外的に課税される場合もあります。以下ではそうした6つのパターンを紹介します。
ここまで何度か、「死亡保険金には所得税・贈与税・相続税のどれかがかかる」と述べましたが、具体的にどのように課税されるのかを説明しましょう。
これは亡くなった人、保険料を払っていた人、保険金を受け取った人の関係によって異なります。
所得税がかかるのは、保険金の受取人と保険料の支払者が同一の場合です。
例えば、妻に保険がかけられ、夫が保険料を支払っていた保険で、妻が亡くなり夫が保険金を受け取ると、それは「一時所得」と見なされます。
相続税がかかるのは、保険をかけられていた人と保険料の支払者が同一の場合です。
例えば、夫に保険がかけられ、夫が自分で保険料を支払っており、その夫が亡くなって妻が保険金を受け取ると「相続」と見なされます。
贈与税がかかるのは、保険をかけられていた人と保険料の支払者と保険金の受取人が全て異なる場合です。
例えば、妻にかけた保険で夫が保険料を支払っており、妻が亡くなって子が保険金を受け取るという流れだと「贈与」と見なされます。
少し細かい話になりますが、交通事故の被害者が亡くなったタイミングによっては、死亡保険金でなくても課税されることがあります。
それは、被害者の死亡によって、「損害賠償金」を遺族が受け取るようなケースです。
事故が起きると加害者と被害者の間で示談交渉が行われ、その中で損害賠償金額が確定します。これが被害者本人に支払われれば非課税となります。
しかし、示談成立直後に被害者が亡くなってしまうと、その損害賠償金は遺族が受け取ることになります。すると、支払われた損害賠償金は「相続」と見なされ、損害賠償金であるにも関わらず課税される可能性が出てくるでしょう。
これは賠償金そのものだけではなく、損害賠償を請求する権利についても同様です。どういうことかというと、事故後の裁判で被害者本人が損害賠償請求権を獲得した直後に亡くなり、その「権利」を遺族が相続した場合です。この請求権によって得られた賠償金も、課税されることがあります。
交通事故の場合、実態としては加害者に100%過失があるように見えても、保険会社から見た場合、被害者の過失が0%となることは稀です。
加害者・被害者の過失の程度のことを「過失割合」と呼びますが、この割合によって被害者が受け取れる損害賠償額は変わってきます。
そこで、加害者の過失分を上回ると見なされる損害賠償金を受け取ると、その上回った分が課税対象になることがあります。
例えば、被害者と加害者の過失割合が「1対9」で、事故の損害額が1,000万であれば、被害者が受け取れる金額は900万円です。
もしもこの時、1,000万円を受け取っていると、100万円分は被害者の過失分に相当すると考えられます。そしてその分に課税されることになります。
これとは別に相続税の課税が前もって決まっていたりすると、さらに課税が増すことになるので要注意です。
こうした課税のルールを前もって知っておかないと、税申告の際に苦労することになるでしょう。
被害者の精神的苦痛に対して支払われるのが「慰謝料」です。慰謝料も、損害賠償金の一種なので非課税となります。
ただし、慰謝料が社会通念上に照らして、あまりに高額であれば、「過剰」と思われる部分が課税対象になることもあります。
見舞金も損害賠償の一種であり、原則的に非課税と決まっています。しかし、これも金額が社会通念と照らし合わせて、あまりにも高額である場合は、贈与税の対象になることがあるので注意が必要です。
例えば、交通事故によってむちうちや骨折などの怪我をし、数万円の治療費がかかったとします。これに対して、加害者が「反省の意」を示して数百万円の見舞金を出してきたら、治療費を上回る分は課税される可能性があるでしょう。
また、見舞金は見舞金でも事故の被害者が勤務先から受け取った見舞金で、金額的に「給料の補填」という意味を持つものだったとします。すると、そのお金は「給料」と見なされて課税されるでしょう。
名目的には「見舞金」だとしても、実際には給料などのような「利益」と見なされる可能性もあるということです。
そのため、受け取った見舞金の金額が実質的な損害補填分の賠償分として過剰である場合は、気を付けなければなりません。
交通事故が原因で店舗などの商品に損害が生じた場合、商品代や弁償代という名目で、加害者から損害賠償金が支払われるケースがあります。しかし、この場合は結果的にその商品が売買されたのと同じことと見なされて課税されます。
また、似たようなケースとして車が店舗にぶつかって損害が生じ、建物の修理期間中に仮店舗を使用することになったとしましょう。その仮店舗の賃借料分として受け取った損害賠償金は、事業所得として課税されます。
確定申告時の注意点
ここまで、損害賠償として受け取った保険金には、例外的に課税されるケースもあることを説明してきました。
それでは、実際に受け取った保険金に課税されることになった場合、確定申告の際はどうすればいいのでしょうか?その他の会計処理上の注意点とあわせて、概略を説明します。
死亡保険金に課税された場合、「所得税・相続税・贈与税のうちどれにあたると見なされたか」によって手続きの方法が異なります。
以下でそれぞれ説明しましょう。
申告では、収入欄に受け取った金額を書きます。そして、所得欄には「保険契約時から死亡保険金受け取りまでに支払った払込済保険料の総額」と「一時所得の特別控除額の50万円」を引き、その半分の額を記入しましょう。
申告では、通常、被相続人が亡くなった日の翌日から10カ月以内に申告・納税します。
基礎控除額として「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の枠があるので、相続財産全体からこれをマイナスした分を申告しましょう。
申告では、「贈与税の申告書」を作成して、財産をもらった年の翌年2月1日~3月15日までの間に税務署に提出します。
基礎控除額は110万円なので、それをマイナスした残額を申告してください。
交通事故の損害賠償金として受け取った保険金の中に、受取人である被害者の経済的利益、つまり「所得」を補填する分が含まれていることがあります。この場合、その補填された金額にあたる部分が各種所得の収入金額と見なされて課税されるでしょう。
例えば、会社などから給料と同じような性質・金額の見舞金を受け取った場合などが該当します。
同様に、所得計算の際に「必要経費」に参入される分の金額を補填するために損害賠償金が支払われていれば、やはり所得と見なされることがあります。
例えば、交通事故によって店舗の商品や設備などが壊され、その修理費用を補填する形で賠償金が支払われたような場合が挙げられます。修理費用は修繕費として必要経費になりますが、これを賠償金によって補填した形になるからです。
前者のように見舞金という名目で受け取った場合は、給与所得になります。しかし、後者の必要経費の補填として受け取った場合は、事業所得として計算することになるでしょう。
交通事故に遭遇し、加害者から受け取った慰謝料の中に「治療費」が含まれている場合も、確定申告の際は注意が必要です。
事故で負った怪我の治療のために医療費を支払っており、医療費控除を受ける時は、医療費から上記の治療費分を差し引く必要があります。
ただし、これは全ての医療費に適用されるわけではありません。該当する医療費の金額が上記の「治療費」によって補填されて余りが出たとしても、他の医療費から差し引かなくても大丈夫です。
自賠責保険の名義変更は必要あるの?手続きの仕方も教えます!
保険金が下りる際は専門家に相談しよう
ここまで説明した内容から、事故の際に保険金あるいは損害賠償金を受け取る場合、税金との関係で考えていくと決して単純なものでないことが分かります。
名目や内容、金額によっては課税されることもあり、また申告方法やタイミングも課税種類によって異なります。
これらの内容は細かい上に専門的で素人がインターネットで調べた程度で完璧に把握できるものではありません。
交通事故に遭って保険金を受け取るという事態は頻繁に起こることではないので、普段から知識を身に付けておくというのも難しいものです。
事故に遭って保険金や損害賠償金を受け取ることになった場合は、受け取るお金が課税されるタイプのものかどうかをまず確認することをおすすめします。
そのためには、まず専門家に相談することです。保険金を支払った保険会社の担当者に問い合わせてみるのがいいでしょう。また、その道の専門家としては税理士が頼りになります。