自動車を保有していると、自賠責保険の保険料を必ず支払わなければなりません。多くの場合、保険料は数年分の前払いになりますが、法人などが支払う場合は前払費用として計上すべきなのか、それとも一括で損金算入してしまってもいいのか疑問に思う方もいるかもしれません。

この記事では、自賠責保険の内容や「前払費用」「損金」という言葉の意味を最初に確認した上で、会計処理上のポイントとその理由を解説していきます。

自賠責保険料は一括で損金算入できる

自賠責保険料は、数年分を一括で支払うことがほとんどです。そのため、法人における会計処理上は前払費用として扱うと思うかもしれません。しかし、実際には一括で損金算入することが可能です。

以下ではその理由などについて説明していきます。

自賠責保険・前払費用・損金について

自賠責保険・前払費用・損金について
初めに、「自賠責保険」「前払費用」「損金」それぞれの用語の意味を説明します。

3者の意味と関係を踏まえることで、自賠責保険料が一括で損金算入できる理由がより深く理解できるでしょう。

自賠責保険とは?

自賠責保険は「保険商品」ではなく、法律に基づいて国によって管理運営されているものです。

交通事故の被害者に対する最低限の補償を行うことを目的にしています。そのため、ごく一部の例外を除き、全ての車はこの保険に必ず加入しなければなりません。

自賠責保険に加入せずに公道を走行し、摘発をされると1年以下の懲役または50万円以下の罰金、違反点数6点がついて即免許停止処分となるでしょう。

このことから、自賠責保険は任意保険と呼ばれる自動車保険とは異なり「強制保険」とも呼ばれています。

多くの場合、車の購入時や車検の際に業者側で自賠責保険の加入や更新の手続きを代行してくれます。

また、自賠責保険の特徴としては、車検の有効期間にあわせて2年や3年単位で加入するケースがほとんどです。そして、その保険料は「前払い」になります。

法人組織などの場合、会計上この「前払い」の分をどう処理するかが問題になるわけです。

前払費用とは?

前払費用は、事業のために必要なサービスの対価として数カ月あるいは1年以上の料金を先払いし、次の会計期間にまたがってサービスを受ける場合の費用を指します。

自賠責保険料は、2~3年分の保険料を前払いするので、料金の先払い・会計期間をまたがってのサービス提供という意味で前払費用に該当すると言えるでしょう。

勘定科目としての前払費用は、サービスを1年以内に受け終えるものなら「短期前払費用」に、1年以上のものなら「長期前払費用」になります。この分類で考えると、自賠責保険料は「長期前払費用」となります。

経理処理は決算日の時点で、まだサービスの提供を受けていない分を前払費用に計上し、翌年以降のサービスの対価にかかる費用分を長期前払費用に計上します。

ルール通りのやり方なら、自賠責保険料はこのように処理されることになるでしょう。

損金とは?

損金は、法人組織が法人税の計算をする際に、益金(利益金)から差し引くことができる金額のことです。大まかに言えば利益を出すのにかかった費用のことです。

私たちが日常的にも用いる会計上の「費用・経費」の概念とも重なりますが、「損金」はこれを法人税法上の概念として表したものと言えるでしょう。

費用・経費のうち、益金から差し引くことが認められる区分のものを損金と呼ぶわけです。

損金が大きければ益金が減ることになるので、これに応じて支払う法人税も少なくて済みます。

そして、前述の前払費用のうち、1年以内にサービスを受け終えると分かっている短期前払費用は、支払時に損金として計上することが特例として認められています。

本来なら、そのサービスを受けた段階で支払い済みの前払費用を按分し、その都度損金算入するのが原則です。

それでは、自賠責保険料の扱いはどうなるのでしょう?

自賠責保険の保険料は一括で損金算入できる

以上の内容を踏まえると、自賠責保険料は長期前払費用として計上し、一括で損金算入はできないように思われます。

しかし、実際には短期前払費用と同様に、一括での損金算入が認められています。その理由を以下で説明していきます。

自賠責保険料が一括損金算入できる理由

自賠責保険料が一括損金算入できる理由
ここまで、自賠責保険・前払費用・損金のそれぞれの用語・概念の意味と関係について説明してきました。

では、なぜ自賠責保険料は一括で損金算入が認められているのでしょうか?その理由を4つに分けて細かく解説します。

①強制保険である

まず、自賠責保険料が一括で損金算入できる大きな理由として、「強制保険」であることが挙げられます。

先述した通り、自賠責保険は全ての車が必ず加入しなければならず、加入しないと公道を走れません。こうした損害保険の保険料は普通はその契約期間・有効期間に応じて按分され、その都度損金算入されますが、契約主体の法人が自ら望んで契約した保険ならいいのですが、自賠責保険はそうではありません。

単純な言い方をすると、自賠責保険料というのは「望まないのに払わされている」と言えます。さらに契約期間もほとんど選ぶ余地がないので、ルール通りに取り扱うと按分処理するしかないことになります。そのため、費用の一括損金処理は実務上認めるということになっています。

一括損金処理が認められることで、例えばタクシー業や運送業といった保険料の支払いが高額になる業者は、全額一気に損金算入できるというわけです。

②租税公課的な性格がある

自賠責保険料には、租税公課と同じような性質があります。

租税公課とは、地方や国に納付する税金(租税)と公共団体に納付する会費・罰金など(公課)を合わせたものです。そして、これは確定申告時に経費への算入が認められることがあります。

反対に算入が認められないものとしては、法人税、所得税や住民税、税金の延滞金などがあります。

自賠責保険料は、経費への算入が認められる租税公課と同様のものと見なされているのです。

③保険期間が短い

自賠責保険は、保険期間のスパンが短いという特徴もあります。

一括損金算入が認められている理由のひとつとして、長い目で見た場合、費用を按分して細かく損金算入する必要性が低い点が挙げられます。

自賠責保険料は、自動車を購入した時や車検時に支払うことになるため、自動的に有効期間は2~3年となり、さほど長い期間にはなりません。こうなると、正式なやり方でいちいち按分するほうが、かえって煩雑と言えるでしょう。

もちろん、今後数年の会計処理の中でより厳密な期間損益計算を行う必要がある場合は、ルール通りに按分して損金算入することも可能です。具体的にどのような形で損金算入するかは、自由に選択することができます。

また、多くの車を保有している会社などの場合は、高額な保険料を按分して、法人税の支払いを毎年ある程度抑制し続けたいと考えるかもしれません。これについてはケースバイケースで処理できます。

④保険料が高額でない

自賠責保険料は、会計処理の中で扱う費用としては決して高額なものではありません。

こうした少額の費用も、年度をまたぐからという理由で前払費用や長期前払費用にいちいち分類するのは非効率です。

また、少額の費用を小分けにして期末・期首ごとに振り分け作業を行うのも、事務手続き的にはとても煩雑です。

前述した通り租税公課的な性格を持つ強制保険である点や保険期間の短さなども考慮して、わざわざ按分して計上する必要はないと考えられています。

愛車の買取相場を知ることで高く売ることができます 愛車のかんたん査定はこちら

損金算入処理をするときの注意点

損金算入処理をするときの注意点
ここまで、どうして自賠責保険料を損金として一括算入することが認められているのか、その根拠を詳しく説明してきました。

そこで、実際に損金算入の処理をする際に注意すべきことや踏まえておくべき事柄を、以下で解説します。

通常の損害保険の場合

自賠責保険料は、一括損金算入が可能であることをここまで説明しました。それでは、通常の損害保険の保険料はどのように処理されているのでしょう?

これについては、契約期間によって扱いが異なってきます。

例えば、火災保険料、傷害保険、盗難保険といった事業用資産にかかる損害保険料を一括払いした場合は、支払時にその全額を経費として処理できます。ただし、契約期間が1年以内のものに限られているので注意が必要です。

契約期間が2年以上の損害保険料は、翌期以降の経費として計上される分を月割りで按分します。そして前払費用とは別に長期前払費用に振り分け、契約期間に応じてその都度損金算入することになります。

一方、契約期間が1年以内の損害保険料については、当期の経費として保険料全額を処理できます。そのかわりに毎年同じような形で会計処理をしなければなりません。

原則的には前払費用となる

前項の内容から、損害保険の保険料として捉えれば、自賠責保険料は本来なら翌期以降の経費になる分は長期前払費用として処理すべきであることが分かります。そのため、損金算入できる自賠責保険が特殊なのだと覚えておきましょう。

法人税法上、損金算入していい費用は当期にその対価としてのサービス内容が確定しているものに限られます。継続的にサービスを受ける予定でも実際には、まだ提供されていない分の費用は継続適用を条件として一時の損金処理が認められています。

また、自動車保険のほとんどは、保険期間が1年以内なので、先に説明した短期前払費用にあたるでしょう。これについても、自賠責保険は保険期間が1年を超えることがほとんどなので、該当しません。

例えば、決算月に自賠責保険を更新して保険料を2年分支払ったとします。するとその分は短期前払費用にはならず、また長期前払費用として処理する必要もありません。支払日に一括で損金処理することになります。

税法上は一括損金算入が認められているわけではない

自賠責保険は加入が義務付けられており、未加入であれば車の運転ができないという特徴があります。そのことから短期前払費用に準じた形での処理が認められていますが、これは慣習的かつ例外的な扱いだということは覚えておきましょう。

自賠責保険料をこのように処理することについては、税法上の根拠はなく法令や通達からも読み取ることはできません。一部の事例集などで、ここまで解説したのと同様の内容が記載されている程度です。

厳密な期間損益計算にならない

自賠責保険料は支払時に一括で損金算入していいと説明してきましたが、必ずしもメリットばかりとは限りません。

一括損金算入はやり方として大雑把で、厳密な期間損益計算をする場合には不向きです。

本来、損益計算は法人税の軽減のためだけに行われるものではなく、会社の事業によって得られた収益を計算するための指標とするために作成するものです。

正確な期間損益を算出するのであれば、自賠責保険料も一括損金算入せず、前払費用として処理したほうがいいでしょう。

期間損益とは、四半期、半年、1年などと区切られた一定の会計期間で、その組織がどれくらいの損益を出したのかを算出するものです。そのため、正確な計算をするなら、保険料も会計期間に応じて按分することになります。

もっとも、損益計算を厳密に行うのは、かなりの重労働でありコストもかかります。自賠責保険料の扱いをどのようにするかは、そうしたコストと天秤にかけながら判断しましょう。

実際の勘定処理

実際の勘定処理
自賠責保険料を一括で損金算入する処理方法について、ここまでは理論的なところだけを説明してきました。

では、実際の勘定処理ではどのように扱うことになるのでしょう?自動車保険料を処理する場合と比較しながら解説します。

自賠責保険(強制保険の場合)

自賠責保険料の勘定科目は、「車両費」か「損害保険料」のいずれかを使うといいでしょう。

車両費は、ガソリン代やETC料金、修繕費や洗車代などの日常的なものの他に、検査登録費用や車検費用など、あらゆるものが含まれますので扱いも楽です。

損害保険料は、事業用資産について契約した火災保険や自動車保険などの掛け捨てになる保険料の処理のために用いられます。

いずれにしても、自賠責保険料は全額を一括損金算入できるので、使い勝手のいい勘定を選ぶといいでしょう。

仕訳としては、仮に有効期限3年の自賠責保険料45,000円を支払った場合、借方項目が損害保険料、貸方科目が普通預金などとなります。現金で支払ったのであれば、もちろん貸方が現金です。

ただし先述の通り、こうして一括損金算入するのは、やり方として大雑把と言えます。厳密に期間損益計算したい場合などは、次項で説明する自動車保険(任意保険)の場合と同じように処理してください。

自動車保険(任意保険の場合)

自動車保険の場合、保険料の契約期間が1年以内か、あるいは2年以上の複数年かによって仕訳が異なってきます。

1年以内の場合

前述の自賠責保険料と同様に、「車両費」「損害保険料」のいずれかで短期前払費用として仕訳を行いましょう。

2年以上の複数年の場合

まず、当期分の保険料を経費として計上します。そして、按分した翌期以降の分については長期前払費用として資産計上しましょう。

仕訳としては、借方に損害保険料あるいは車両費、そして長期前払費用が並ぶことになります。そして貸方は普通預金や現金となり、借方には按分した金額を振り分け、貸方にはその合計を計上するようにしてください。

さらに、この場合は次年度以降も処理が続きます。長期前払費用として計上した分のうち、その年度の分の保険料にあたる金額を取り崩し、その年度の損害保険料へと計上していくことになります。

一括で損金処理したくない場合

自賠責保険料を一括で損金算入することは「大雑把」なやり方で、厳密な期間損益計算ではありません。そのため、多少事務処理が煩雑になっても可能な限り厳密に計算したいのであれば、自動車保険の複数年契約と同じ方法で処理するようにしましょう。

期間損益計算とは、ある一定の期間、会社が事業経営によって得られた収益を細かく計算するものです。本来の損益計算はこれが目的なので、場合によって計算方法を使い分けるといいでしょう。

自動車関連の税金は全て損金参入できる

自動車関連の税金は全て損金参入できる
今回は自賠責保険料の処理がテーマになっていますが、自動車関連の支出には「車検費用」「自動車税」「重量税」などもあります。

もともと、これらは全て支払った日に一括して損金算入することが認められています。また、車両を購入した際の付随費用なども同様に処理することが可能です。

自賠責保険料の処理方法について税法上の明確な規定はないものの、同じ「自動車関連費用」として捉えて処理するのだと考えれば間違いないでしょう。

まとめ

①自賠責保険料は前払費用として按分せずに一括で損金算入できる
②自賠責保険のようにサービスが複数年にまたがるものは、原則的に費用を按分して損金へ算入する
③損金が大きいと法人税も減るので節税になる
④自賠責保険料は強制保険で、保険期間が短く費用も高額ではないため、一括で損金算入が可能
⑤ただし、この方法は厳密な期間損益計算にはならない
⑥また、税法上決められた処理方法ではなく、慣習的に認められている方法なので要注意

※本記事は公開時点の情報になります。
記事内容について現在の情報と異なる可能性がございます。
車の査定は何社に依頼するべき?
愛車の買取相場を知ることで高く売ることができます 愛車のかんたん査定はこちら