車が全損したというと、走れないほど損壊しているイメージを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、車の全損の基準には「物理的全損」と「経済的全損」の2種類があるため、大きな損傷がなくても全損と判断されることもあります。
判断のポイントとなるのが「修理可能か否か」「修理費用と車の時価額のバランス」です。
この記事では、物理的全損と経済的全損という2種類の全損の基準について詳しく解説します。また、車が全損した場合の処分方法や受け取れる可能性がある保険金についても紹介します。
車の全損状態の基準には「物理的全損」と「経済的全損」がある
車が全損状態にあるかどうかを判断する基準には「物理的全損」と「経済的全損」があります。
ここからは、この2つの概要について詳しく解説していきます。
物理的全損は修理不可能な状態
物理的全損とは、車の機能を基準とした考え方です。車のダメージが大きく修理不可能な状態にあるケースが物理的全損です。
一般的に全損というと、物理的全損を思い浮かべる人が多いでしょう。具体的には修理をしても再び車として使用できる状態へ戻せないことを指します。
物理的全損に該当する場合は、それ以上車として使用できないため、基本的には廃車にするしかないと言えます。
なお、全損かどうかを判断するのは保険会社です。自分では全損だと思っていても保険会社が別の判断を下す場合もあるため注意しましょう。
事故以外で車が全損扱いとなるケースとして、盗難被害にあった場合が挙げられます。
車そのものが盗まれてしまい、見つからないときは物理的全損と同じとして、保険金などを受け取れる可能性があります。
なお、盗まれたのがタイヤやホイールなどの車のパーツのみであった場合は全損とは判断されません。分損として損害額や免責額を差し引いた金額を受け取れるでしょう。
また、保険金を受け取ってから一定の期間内に車が見つかった場合は、お金を返還して車を戻してもらうか、車の所有権を保険会社に渡したままにするかを選べます。
経済的全損は車の価値より修理費用が高い状態
経済的全損とは、車の修理費用や保険金など経済的価値に基準を置く考え方です。
具体的には車を修理して機能を回復することは可能でも、修理費用が車の価値を上回ってしまう状態を経済的全損と呼びます。したがって車のダメージがごくわずかであっても、全損と判断される可能性もあるでしょう。
なお、修理可能かつ修理費用が車の価値を下回る場合は分損と呼ばれます。
経済的全損の場合は、修理することで再び車として使用できる状態です。ただし、高額な修理費用を払う代わりに買い替えや廃車なども選択肢となるでしょう。
全損した車の処分方法
物理的全損、経済的全損に関わらず、全損した車はそのまま使い続けられないため、何らかの処分が必要です。
基本的には廃車手続きを行って買い替えるか、修理して再び乗るかのどちらかを選ぶことになるでしょう。
ここからは、事故車の廃車手続きと修理の方法について紹介します。
車の廃車手続きには「永久抹消登録」と「一時抹消登録」の2種類があります。
車を解体し、二度と乗らない場合は永久抹消登録を選びましょう。特に、物理的全損の場合は永久抹消登録を行うことが多いと考えられます。
手続きは必要書類を揃えた上で管轄の運輸局で行いましょう。買取業者などを利用する場合は廃車手続きを代行してもらえることもあります。
一方、すぐに解体しない場合は管轄の運輸局で一時抹消登録の手続きをするのがおすすめです。
一時抹消登録すると翌年度以降の自動車税の支払い義務がなくなるため、節税できます。また、支払った自動車税などを還付してもらえることもあります。
事故車を修理するか買い替えるかで迷っている場合は、一時抹消登録を行っておくと節税につながります。
経済的全損の場合は、車を修理して再び乗るのも選択肢の一つです。
ただし、経済的全損は車の価値を修理費用が上回る状態です。保険金と修理費用の差額は基本的に自己負担となることに注意しましょう。
車に愛着があって、修理費用を払ってでも乗り続けたい場合などが該当しますが、その費用によっては買い替えるほうが安いことも考えられます。
迷っている場合は修理の見積もりを取ってから処分方法を検討するとよいでしょう。
・車検証
・印鑑登録証明書
・実印
・ナンバープレート
・永久抹消登録申請書
・手数料納付書
・移動報告番号ならびに解体報告記録日のメモ
上記のうち、移動報告番号と解体報告記録日は解体業者から教えてもらう必要があります。
全損した車の廃車手続き方法
全損した車は廃車手続きを行うことが多いでしょう。
廃車手続きには「永久抹消登録」と「一時抹消登録」の2種類があり、車を今後使う予定があるかどうかがポイントになります。特に、経済的全損の場合は修理するか解体するかによって手続き内容が異なります。
ここからは、2つの廃車手続きの方法を詳しく紹介します。
永久抹消登録とは、車を解体し、登録を永久に消してしまう手続きのことです。そのため、手続きを取り消したり、再登録して同じ車に乗ったりすることはできないので注意しましょう。
永久抹消登録手続きを行う場合は、まず解体業者に連絡して車を解体してもらいます。その後、以下の書類を揃えて管轄の運輸支局で手続きしましょう。
- 車検証
- 印鑑登録証明書
- 実印
- ナンバープレート
- 永久抹消登録申請書
- 手数料納付書
- 移動報告番号ならびに解体報告記録日のメモ
永久抹消登録申請書と手数料納付書は運輸支局の窓口で、移動報告番号と解体報告記録日は解体業者から入手できます。
この他にも必要な書類がある場合もあります。詳しくは管轄の運輸支局へ確認しましょう。
一時抹消登録とは、一時的に車の登録を消すことです。ナンバープレートは取り外されるため公道を走れなくなりますが、車は手元に置いておけるため、再登録して再び乗ることも可能です。
経済的全損で近い将来、車を修理する予定がある場合などには一時抹消登録が適しています。
一時抹消登録手続きも管轄の運輸支局で行います。必要書類は以下の通りです。
- 車検証
- 印鑑登録証明書
- 実印
- ナンバープレート
- 一時抹消登録申請書
- 手数料納付書
一時抹消登録申請書と手数料納付書は運輸支局の窓口で入手できます。その他の必要書類については管轄の運輸支局へ問い合わせてみてください。
また、手続き完了後にもらえる「登録識別情報等通知書」は、一時抹消登録した車を再登録する際に必要です。紛失しないように大切に保管しておきましょう。
【事故の責任別】全損で利用できる保険
車が全損になった場合、保険会社から保険金を受け取れる可能性があります。
ただし、全損となった事故の責任の所在によって対応は異なります。どのような種類の保険から、どの程度の保険金が支払われるのか押さえておきましょう。
ここからは、4つのケースに分けて全損で利用できる保険について紹介します。
単独事故により全損となった場合、車両保険に入っていればあらかじめ設定した補償額の上限額が受け取れます。ただし、車両保険では車の時価額を上回る補償額は設定できません。
また、保険の更新のたびに時価額は見直されます。基本的に年式が古くなるほど車の時価額は低くなる傾向にあるため、補償額の上限も少なくなるでしょう。
一方で、保険料は安くなるのが一般的です。盗難の場合も単独事故と同様に車両保険の補償額の上限額が支払われます。
相手がいる事故で自分に責任がある場合、過失割合に応じて相手から支払われる賠償金に加えて、車両保険に加入していれば自分も保険金を受け取れます。
なお、相手がいる事故では免責額が適用されることに注意しましょう。免責額とは、車の保険金額のうち自己負担となる金額のことです。
原則として保険金額が免責額を下回る場合に保険金は受け取れないため、自己負担が必要になる可能性があります。ただし、相手から受け取る賠償金の額によっては自己負担がゼロになります。
例えば、車の時価額が50万円、免責額が10万円、自分の過失割合が8割のケースでは、相手から受け取れる賠償金は50万円×20%=10万円です。
この10万円は免責額に充当されるため、自分の車両保険からは50万円×80%=40万円が支払われます。結果として、合計50万円が受け取れるでしょう。
全く自分に過失がない事故を「もらい事故」と言います。信号待ちで停車中に追突された場合などがもらい事故の例です。
この場合、相手との過失割合は0:100となり、保険金は相手が加入している対物賠償保険から支払われます。支払われる保険金の上限は全損した車の時価額が上限です。
ただし、相手の対物賠償保険に対物超過特約が付帯していれば、時価額よりも多くの保険金を請求できる可能性があります。
また、自分が車両保険に加入する際に新車特約や全損時諸費用特約などを付帯させておくのも方法の一つです。修理費用や買い替え費用が相手から支払われた保険金を上回った際に、差額を請求できるため経済的負担を減らせるでしょう。
交通事故では自分と相手方のどちらにも責任がある場合は少なくないため、保険金額は過失割合によって決められることが一般的です。
過失割合とは、事故の当事者同士の責任の割合を数字で示したものです。例えば、自分と相手の過失割合が70:30のケースでは、全損した車の時価額の7割相当額が相手の保険から受け取れます。一方、自分も車両保険に加入していれば残りの3割相当額も支払われます。
なお、免責額を設定している場合は保険金額の計算方法に注意が必要です。相手からの賠償額が免責額を上回れば自己負担はゼロとなります。
全損した車に車両保険を利用する場合
車が全損した場合、車両保険に加入していれば保険金が受け取れます。
ただし、車両保険を利用すると等級が下がってしまうこと以外にも注意したいポイントがあります。
ここからは、全損した車に車両保険を利用する場合について、注意点を2つ紹介します。
車両保険を適用すると、全損した車の所有権が保険会社に移ります。
車を使い続ける意向がない場合は特に問題になりませんが、経済的全損の場合のように車を修理して再び使用したいときや、事故車として買い取ってもらいたいと考えているときは注意が必要です。
所有権が保険会社に移っているため、自分の判断だけで車を修理したり廃車したりできません。必ず保険会社へ相談して了承を得てから行いましょう。
なお、車の所有権の移転に同意することが保険金支払いの条件になっていることもあります。拒否すると保険金が支払われない可能性もあるため注意しましょう。
全損により車を買い替えるなどの理由で、しばらく車に乗らない期間ある場合は新しい車が納品されるまで保険を中断するのがおすすめです。保険を中断すれば、その間の保険料が節約できます。
また、全損をきっかけに車を廃車にして手放す際も保険を解約するのではなく、中断することを検討しましょう。
ノンフリート等級が7等級以上であれば、中断証明書を発行してもらえます。中断証明書があれば、もう一度車を購入して保険に加入する際に、以前の保険の等級が引き継がれるため保険料を安く抑えられます。
盗難により全損した車の対応方法
盗難により車がなくなってしまった場合は、全損と同じように扱われます。
ただし、警察への届け出や保険会社への連絡などについては交通事故の際と異なる対応が求められます。
ここからは、盗難により車が全損扱いとなった場合の対応方法について紹介します。
車が盗まれたことに気づいたらすぐに警察へ盗難届を出すことが大切です。保険金請求や一時抹消登録の際などに盗難届の受理番号が必要となるためです。
盗難届は最寄りの警察署や交番などで提出できます。110番に電話して現場まで警察官に来てもらった場合は、その場で提出することも可能です。
なお、盗難届には車のナンバーや車種、年式といった情報を記載する必要があるため、車検証のコピーなどを用意しておくとよいでしょう。
車が全損したことを保険会社へ連絡すると、状況確認や今後の流れの説明が行われます。盗難届の受理番号を聞かれるため、先に警察へ連絡してから保険会社に報告するとスムーズです。
保険会社による状況の確認には1カ月程度かかるため、連絡してもすぐに保険金が受け取れるわけではないことに注意しましょう。
一定期間が経過し、保険金が支払われることが決まったら保険会社が指定する書類を提出することで、お金が受け取れます。
なお、保険金が支払われる場合は保険会社へ車の所有権が移るため、名義変更の書類も必要です。
タイヤやホイール、オーディオ機器などのパーツだけが盗難された場合も保険の対象です。
車両そのものが盗難されて見つからない全損の場合とは違い、分損として扱われるパーツのみの盗難では受け取れる保険料の計算方法が異なります。
免責額が適用されるため、損害額から免責額を差し引いた残りが保険金として支払われます。
なお、車両保険を使うことで等級が下がる点は全損の場合と同様です。翌年以降の保険料が高くなるため、損害額によっては保険を使わないことも選択肢の一つです。