日本は地震が多い国です。海に囲まれていることから地震発生時には津波にも注意する必要があるでしょう。
また、車を保有している方は地震の影響で車に大きな損害を被り、全損で処分が必要になるケースも考えられます。そのため、日頃から備えが欠かせません。
この記事では、車が地震で全損状態になった場合に知っておきたい保険利用の方法や特約を紹介します。地震への備えはエリアを問わず必ず行いましょう。
車両保険では地震による全損は補償されない
地震が発生し、車が津波に流されて水没した、建物倒壊に巻き込まれて潰れてしまったという場合は、修理か廃車を行う必要があります。
通常の修理であれば自動車保険を活用できますが、地震による車の原状復帰には保険が使えません。そのため、特約をつけておくことが大事です。
地震はいつどこで発生するか分かりません。日頃から備えて大切な車を守りましょう。
車両保険における全損は2種類
車が全損状態になったと言っても、細かくは「物理的全損」と「経済的全損」に分類されます。
両者の違いを押さえた上で、車両保険の活用の有無や車の処分を検討しましょう。
物理的全損は、事故によって車が修復できない状態を指します。多くの方がイメージする「全損」は物理的全損でしょう。
地震による車の損害は大きくなる傾向があり、下記の状態は物理的全損の可能性が高いです。
- 津波の影響から車が水没した
- 地震による火災で車が全焼した
- 車が建物倒壊により下敷きになった
水没した車は配線に大きな影響を与えるため修復が難しいです。また、建物の倒壊に巻き込まれた場合も骨格部分から損傷があり修復は困難でしょう。
なお、修理が難しい車は解体業者に依頼してスクラップを行った後に陸運局で廃車手続きをする必要があります。
経済的全損は、修理費用が車の時価を上回る状態を指します。時価は車が地震で損傷する前の価値のことです。
車の時価よりも修理にかかる金額が高い場合は経済的全損であり、修理を行うか処分してしまうかを様々な観点から検討する必要があります。
具体的には、時価が80万円の車が地震の影響で壊れ、修理に120万円かかると分かった場合、修理費用が時価を上回るため経済的全損と判断できます。
経済的全損の場合、修理できる可能性があるものの故障のリスクが高まったり、後々車を売却する際に思ったような価値がつかなかったりと悩みを抱えます。
車の年式や修理にかかる金額を鑑みて乗り続けるか買い替えるかを検討しましょう。
地震による全損は車両保険の対象外
任意の自動車保険に加入している場合、あらゆる車の損害に備えられると考えている方もいるでしょう。しかし、地震の影響で全損状態になった車は保険を使うことができません。
加入している保険商品の証券や公式サイトで確認できますが、地震による車の補償はありません。できるとすれば特約をつける方法のみです。
そのため、地震が頻発する地域では保険を手厚くしたり、万が一に備えて資金を蓄えたりしておく対策が求められるでしょう。
地震による全損のリスクを軽減するには特約をつける方法があります。
自動車保険は主契約にあたる「基本補償」の他に、自分が必要な要素にあわせて付帯できる特約があります。特約をつけると基本補償で不足する点をカバーできるため、保険料にゆとりがある場合や運転に不安を感じる方におすすめです。
なお、地震の際に役立つ特約としては「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」があります。
地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約とは?
ここからは、地震で活用できる保険特約「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」について解説します。
普段聞き慣れない特約ですが、地震発生時に基礎補償ではおぎなえない部分をカバーできるため、理解を深めておきましょう。
地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約は、一般的な車両保険で対象外になっている自然災害に備えられる特約です。
具体的なケースとしては下記が挙げられます。
- 地震で道路が崩壊し車が巻き込まれた
- 火山噴火による飛石で車が損壊した
- 津波で車が水没した
地震や火山の噴火、津波は起こる時期や被害総額が不明瞭なことから車両保険の対象外です。しかし、車が全損してしまった場合は新たに資金が必要になるため、特約をつけて備えるのがおすすめです。
地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約の保険金は「一時金」として50万円が支払われます。そのため、自然災害により必要になる臨時費用として活用できるでしょう。
ただし、下記の条件では保険金が支払われない可能性もあるため注意しましょう。
- 契約者や被保険者、受取人等による故意の損害と考えられる場合
- 核燃料物質等により汚染されたり爆発性があるものの作用による事故の場合
通常、全損に伴って保険金が支払われる場合は、車の所有権が保険会社に移転する特徴があります。しかし、この特約の一時金においては所有者に変化がない点がポイントです。
なお、大規模地震対策特別措置法によって一時的に保険の契約変更(増額や新規加入)に制限がかかる可能性もあります。保険金自体支払われるものの、注意が必要です。
特約における全損の詳細
「全損」と言っても、自身でイメージする全損と保険会社が定義する全損には異なる部分があるかもしれません。
各部位ごとの全損の定義を確認しておくと、もしもの時に冷静かつ的確な判断ができるでしょう。
ここからは、特約が適用できる具体的な全損の具合を部位ごとに解説します。
車体上部の損傷は、主に下記の条件を満たす場合です。
- ルーフ(屋根)の著しい損傷
- 3本以上のピラーが折れている、もしくは断裂している
- 前後面ガラスの損傷+左右いずれかのドアガラス損傷
車体側部の損傷は、主に下記の条件を満たす場合です。
- 2本以上のピラーが折れている、もしくは断絶している
- サイドシルが折れたり断絶したりしている
- 座席に著しい損傷がある
サイドシルはドアの舌部分にある敷居部分を指します。
著しい損傷は部品の一部交換や補修で原状復帰が難しい場合を表しています。
車体底部の損傷は、主に下記の条件を満たす場合です。
- 前輪の左右双方のサスペンションと接続された部位のフレームにおいて、著しい損傷がある
- 後輪の左右双方のサスペンションと接続された部位のフレームにおいて、著しい損傷がある
- 前輪の左右双方のサスペンションと車体底部の著しい損傷がある
- 後輪の左右双方のサスペンションと車体底部の著しい損傷がある
サスペンションは車体の底部分とタイヤをつなげている部品のことです。
原動機の損傷は、主に下記の条件を満たす場合です。
- 原動機のシリンダーに著しい損傷が生じ、始動が困難な場合
- 電気自動車の駆動用電気装置の電池部分に著しい損傷が生じ、始動が困難な場合
- エンジンがかからない場合
車体に損傷が見られない場合においても一時金は受け取れます。具体的には下記の損害が挙げられます。
- 車が流出や埋没した場合
- 座面を超える浸水の場合
- 車が全焼した場合
- その他、修理できない状態で廃車を行う場合
地震や津波、噴火はその損害の規模が大きく、車においても元の形状を保てない、見つからないというケースが多々あります。しかし、故意の事故でない限り自然災害による全損は特約を使ってカバーできるでしょう。
地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約を利用するときの注意点
ここからは、地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約を使用する際の注意点を2つ紹介します。
契約条件や金額に定めがあるため事前に理解を深めましょう。
地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約をはじめとした様々な特約は車両保険の契約を行った上で付帯します。特約のみ単独で加入はできないため注意しましょう。
そもそも自動車保険は強制加入である「自賠責保険」と任意で加入する「自動車保険(任意保険)」があります。その中でも特約は自動車保険の基本補償に追加して契約する仕組みです。
通常の賠償責任保険や損害保険、車両保険でカバーしきれないものを特約で補うため、あくまでプラスして契約というイメージを持ちましょう。
地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約では、50万円を受け取れます。
しかし、車両保険の金額が50万円以下の場合は例外です。その場合は、車両保険金額と同額の支払いになります。
あくまで補償は「損害を受けた分を補うもの」であることから余剰には支払われません。
車の全損時に利用したいそのほかの特約
ここからは、地震以外の全損時に利用できる、おすすめの特約を5つ紹介します。
各保険会社がもしもに備えられる様々な特約を用意しています。自分が不安に思うパターンに合わせて検討しましょう。
全損時諸費用特約は、事故で車が全損状態になった場合にかかる廃車や買い替えの諸費用を補償する特約です。
車が全損状態になると、解体や廃車手続きに数万円の費用がかかります。その場合、新たな車の購入にプラスして細々とした費用がかかるでしょう。
全損時諸費用特約を付帯すると車両保険金額の10%などを受け取れます。詳細は保険会社ごとに異なるため、気になる方は相談してみるのがおすすめです。
新車特約は、現在新車に乗っている方におすすめの特約です。
新車の場合、全損状態になると買い手がつきにくく大きな損害を被ります。修復した車は売却しようとしても、なかなか思うように価値がつかず収支がマイナスになることもあります。
新車特約を付帯しておくと新車が全損状態になった場合、車の購入費用を補償してもらえます。新車を購入し、かつ運転に慣れていない方におすすめの特約です。
事故により車が全損状態になると、新しい車が届くまで代車やレンタカーが必要です。
レンタカーを一定期間借りる際におすすめなのがレンタカー費用特約です。車を保有していない期間にかかった費用を一定条件で補償してくれます。
期間や具体的な金額は保険会社や自身の保険料で異なるため、気になる場合は保険会社へ相談してみましょう。
事故を起こすタイミングとして旅行や出張などで遠出している場合があります。そのときに使えるのが、事故付随費用補償特約です。
出先で事故を起こした場合、車の回収や修理を現地で行う可能性もあります。その場合は当日のみで手続きが終わらず、宿泊する可能性があるでしょう。また、車が走行できない状態の場合は公共交通機関を使うことになります。
このような予期せぬ出費が発生するときに、事故付随費用補償特約をつけておくとカバーしてくれます。
事故に遭った際は車の損壊だけでなく、所持品の損害も考えられます。
車がぶつかった衝撃でカメラやゴルフセットなど高価なものが壊れる可能性もあります。その場合に、身の回りのものに対する特約を付帯しておくと補償してもらえるでしょう。
なお、自転車やパソコン、コンタクトレンズなど該当しないものもあるため、契約内容を確認しておきましょう。
【参考】地震発生時に知っておきたい車の扱い方
ここでは、地震発生時に知っておきたい車の扱い方を紹介します。
車の運転中に地震に見舞われた場合、焦ってしまう方が多いです。事前に対処法を知ることで地震発生時に冷静な対応ができます。
運転中、地震に見舞われたらまずは急ブレーキや急ハンドルに注意して車を路肩に駐車します。この時、道路の左端か道路外に停めておくことがおすすめです。
地震発生時は揺れへの恐怖から運転操作がうまくできず、交通事故につながる可能性があります。そのため「まずはゆっくり停車」を意識しましょう。
なお、車を左端に停車させる理由としては緊急車両が通れるようにすることが挙げられます。自分の身の安全を守ると同時に他の車両が通れるように停車しましょう。
車を停めたらカーラジオで交通情報や地震情報を確認します。現在、どのような対応をとればいいか最新の情報を入手できます。
しかし、海沿い地域の場合や周辺に高い建築物があり倒壊の恐れがある場合は危険性が高いため、車を出て避難を行いましょう。
車を停めるとつい家族や職場に連絡をとりたくなりますが、まずは自分の安全確保に努めましょう。
車をその場において避難する場合、カギは社内に残したままにしましょう。窓はすべて閉め、ドアはロックせずに避難します。
カギを残しておく意図としては、応急対策実施時に移動する可能性があるためです。
なお、余震の心配がなく再び走行する場合は道路の損壊や信号の誤作動・停止などに注意して安全な場所に移動しましょう。
地震の規模が大きい場合、コンクリートにまで損壊が及び走行できない箇所もあるため、注意が必要です。
地震から避難する際は、極力車を使用しないようにしましょう。車を使うと渋滞が起こり、緊急車両が通れなかったり、道路の損壊から事故が発生したりします。
しかし、津波から避難する場合は到達が早く巻き込まれるおそれもあるため、車で高台に避難しましょう。津波の場合は早く逃げるために車を使う、そうでない場合は極力車を使わず避難します。
地震はいつ発生するか分からないため、事前に様々なリスクに備えることが大切です。車の特約をつけて損害に備えたり、避難時の対応を把握したりすることで安心できるでしょう。
地震後に車はどう処分する?
ここで車が地震の影響で全損または損壊した場合に知りたい手続きや流れを解説します。
地震で車が壊れた場合、自動車保険の条件確認や車検証等を確認します。その後にケースごとに適切な対応をとりましょう。
車が津波でさらわれてしまった場合、永久抹消登録の手続きを行います。
永久抹消登録は車を解体して廃車手続きをすることですが、自然災害の場合は自治体で「罹災証明書」を発行してもらい手続きを行えます。
修理できる見込みがある場合、まずは車を整備工場に持ち込みましょう。
ただし、地震直後は人が殺到している可能性もあるため、修理か廃車かの判断まで時間を要する可能性もあります。
甚大な自然災害の発生時においては、まず家族や家屋の安全を確保してから車の対応に進みましょう。