新車試乗レポート
更新日:2019.05.23 / 掲載日:2017.04.27

やんちゃを卒業して家族でも使えるSUVに成長!【試乗レポート】MINIクロスオーバー

文●工藤貴宏 写真●川崎泰輝

 フルモデルチェンジした「MINIクロスオーバー」は、MINIシリーズのなかで最新モデルであるだけでなく最大のモデル。車体は先代よりもひとまわり(前後は190mm拡大だからふたまわり!?)大きくなって全長4315mm×全幅1820mmに。もはや立派なCセグメントハッチバックの仲間入りだ。
 参考までにフォルクスワーゲンゴルフと比べてみると、幅はだいたい同じ(+20mm)で長さは50mm長い。気がつけばゴルフよりも大きく成長したのだった。
 実車を目の前にすると、「もはやここまでサイズアップするとMINIと呼んでいいのか悩ましい」という気持ちがしないといえば嘘になる。だけどそれは「MINI」に対して「とっても小さなクルマ」というイメージを持っているからであって、世間一般的な基準に照らし合わせれば4.3mちょっとしかない全長はまだコンパクトだし、試乗で箱根の別荘地の細い道を走ってみたけれど「1.8mを超える車幅は気を遣う」なんて思ったシーンは1度もなかった。なぜかといえば、このくらい全長が短ければ全幅がちょっとくらい広くても実際のところ取りまわしに影響しないのだ。
 いっぽうで車体が大きくなったことのメリットは感じられるのか? これがまたしっかりと感じられるのだから声を張り上げて報告しないわけにはいかない。
 新型「MINIクロスオーバー」が登場するまではリヤゲートに観音開きを採用して個性を主張している「MINIクラブマン」がMINIシリーズのなかでもっとも大きなモデルだった。しかし、新型のMINIクロスオーバーはさらに大きな車体になっていて、その違いをもっとも実感できるのは後席だ。とくに足元。足元の余裕が乗った瞬間にはっきりと分かるくらい違うのだ。

 正直な話、スタイルが好きとか4WDじゃないとクルマは買えない、なんていう人を除けば、MINIシリーズのなかからわざわざMINIクロスオーバーを積極的に選ぶ理由はないかもしれない。いっぽう、家族でクルマを使うファミリー層のユーザーにとってMINIクロスオーバーはシリーズ中で積極的に薦めたいモデル。やっぱりファミリーで使うなら後席の広さは魅力的だ。
 MINI史上最大の室内スペースを持つMINIクロスオーバーは、「MINIが大好き。後席も日常的に使うし室内は広いほうがいい」という人に最適だと断言できる。
そして注目したいのは、MINIクロスオーバーは事実上、シリーズのフラッグシップモデルということだ。それは室内に乗り込めばすぐに感じられる。たとえばドアトリム。丸をモチーフにしたこれまでのMINIシリーズとは異なるデザインで、ソフトパッドを張るなど質感だって上級な仕立て。これまで個性がヤンチャだったMINIに比べると、少し大人になったキャラであることを実感できる。
 また、MINI史上初めて後席用エアコン吹き出し口が備わっているほか、追従式のクルーズコントロールが全車に標準装着されるうえに全車速対応(もちろん停止保持機能付き)だったり、ナビ画面がこれまた初のタッチパネルになっていたりと、機能面においては単に充実しているだけでなくMINI初が多く用意されているのだ。

 MINI初といえば、発売時のラインナップがすべてディーゼルエンジンというのも注目点だ(プラグインハイブリッドは遅れて発売されるし、追ってガソリン車も追加されるようだ)。エンジンスペックは2種類あるがいずれも2.0Lの4気筒で、「クーパーD」は150馬力/33.7kgmの標準版、「クーパーSD」は190馬力/40.8kgmの高出力版である。パワーはたいしたことがないと思うかもしれないけれど、33.7kgmもしくは40.8kgmというトルクは自然吸気ガソリン車にたとえれば3.0Lから4.0Lクラス。力が足りないわけがない。試乗した箱根周辺には急な上り坂もたくさんあったけど、アクセルを強く踏み込むシーンはまったくなかった。さすが低回転から太いトルクを発生する特性のディーゼルエンジンだ。
 正直に言うと、カラカラというディーゼルらしい耳障りなエンジンからの音は「しない」といえば嘘になる。しかし気になるのはアイドリング域だけで、走り出してしまえばまったく気にならないことは断言しよう。おそらくだが、実際にユーザーになればアイドリング付近の音にも慣れると思う。人間って、こういう部分は思っている以上に環境に適合する能力を持っているのである。
 また、一般的な使い方ではエンジンの能力は「クーパーD」で十分。「クーパーD」と「クーパーSD」の価格差は69万円も(FFでよければ97万円も!)あるから、そのぶんリーズナブルに購入する、もしくはオプションを追加して自分仕様に仕立てるのも悪くない。

 話を試乗に戻すと、予想が外れたのが乗り心地。MINIは乗り心地があまりよくないから……なんて思いながら試乗をはじめたら拍子抜け。期待(!?)を裏切る乗り心地のよさで、ここでも成長を感じてしまった。これはハッチバック(普通のMINI)とのキャラクター分けが忠実におこなわれていることの現れといえるし、間違いないのはファミリーユーザーに喜ばれるということだ。 いっぽうでハンドリングは、とくに「クーパーD」の場合は自慢の「ゴーカートフィーリング」的なクイックな挙動はおとなしくなり、気持ちよく峠道を走れるハッチバックくらいの感覚。挙動に「クイックイッ」という強引な感じ(それはそれで面白いけれど)がなく自然なのが印象的。とはいえ十分によく曲がるし、楽しさはバッチリだから、結論としては一般的にこのくらいのスポーティ感がいいと思う。 ではそろそろまとめよう。新型MINIクロスオーバーとはどんなクルマか? ファミリーユーザーやアウトドア派のユーザーにふさわしいMINIである。広い室内と広い荷室を持ち、乗り心地が優しく、装備も充実。価格は少し高くなってしまった(でもナビが標準化されたことを考えればそう高くもない)けれど、これまで「MINIは狭いから買えない」と最初の一歩を踏み出せなかった人にとっては、きわめて魅力的なモデルといえる。車体が大きくなったことにガッカリするよりも、室内が広くなって可能性が広がったと考えるべきなのだ。 よく言われていることだが、BMW傘下の新生MINIになってからは「MINI」というのはサイズではなく「ブランド」であり「デザイン」や「キャラクター」を表す言葉。MINIワールドを具現化した存在でさえあれば、大きさは関係ないのである。もちろん、デザインをはじめMINIらしさは新型クロスオーバーにも凝縮されている。

 ……とキレイにまとめたところで終わらせようと思ったのだが、触れないわけにはいかないモデルがあった。それが「MINIクーパーS EクロスオーバーALL 4」と呼ぶプラグインハイブリッドモデルだ。すでに価格は発表されているものの納車はディーゼルモデルに遅れて今年夏ごろからを予定。価格は479万円とディーゼルの上位モデル「クーパーSD」に比べると4万円安く、20万円程度と予想される次世代車購入補助金(記事作成中は申請中で金額が確定していない)を計算に入れれば、バリューフォーマネーとしても魅力的な選択肢である。
 じつはこのハイブリッドシステム、走り好きにとって注目したいのはMINI初の「後輪駆動」にもなることだ。システムはBMW 2シリーズのアクティブツアラーに搭載されているものとおなじで、駆動方式は4WDだが前後輪の動力が異なりエンジンで前輪を、モーターで後輪を駆動。「EVモード」にしてエンジンを止めれば後輪駆動として走らせることができるのだ。後輪を駆動するモーターは88馬力と、舗装路ではモーター駆動のみだと物足りないと思うかもしれないが、雪道で走らせたらアクセル操作で姿勢を操れるFRならではの挙動がなんとも楽しそう。こちらも試乗が楽しみだ。
 それにしても新型MINIクロスオーバーは、ずいぶんと「MINI初」が多い。言い換えればそれは、MINIのノートに新しいページを開くモデルともいえる。


【MINI クーパーSD クロスオーバー ALL4(8速AT)】
全長        4315mm
全幅         1820mm
全高        1595mm
ホイールベース    2670mm
重量        1630kg
エンジン      直4DOHCターボ
総排気量      1995cc
最高出力      190ps/4000rpm
最大トルク     40.8kg/1750-2500rpm
サスペンション前/後 ストラット/マルチリンク
ブレーキ前/後    Vディスク/ディスク
タイヤ前後     225/50R18
販売価格      386万円~483万円(MINIクロスオーバー)

  • MINI クーパーSD クロスオーバー ALL4

  • エンジンはすべてディーゼルで、パワーの異なる2種類を用意。クーパーとクーパーSには8速ATを、ワンには6速ATが組み合わせられる。

  • ソフトパッドを採用したダッシュボードなど、上質感の演出もシリーズ随一。ナビゲーションが標準採用されるなど装備も充実。

  • サポート性能を強化したスポーツシートはクーパーSDならでは。

  • リクライニング機能の備わる3人がけのリヤシート。足元空間の広さはファミリーユースにもぴったり。

  • フロア下のピクニックベンチは、例えばスキーなどで靴を履き替えるシーンに便利。

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