車検・点検・メンテナンス
更新日:2018.07.06 / 掲載日:2018.07.06
エアコン復活塾 リペア編その1
エアコン復活モデルカーとして選んだのが、バブル期に大ヒットしたパイクカー、日産Be-1。オッサン世代にとっては、あんまり古く感じないがもう31歳となっており、エアコンもヨレヨレ!! 果たしてどうなるか?
あのパイクカー 日産Be-1を夏でも快適にしたい! 旧車の冷えないエアコンのトラブルシュート術
すでにプロの手が入ったエアコンは復活するか?
今年のエアコン復活モデルカーとしてAMガレージに入庫したのは、バブル期の日産が生んだ名作Be-1の昭和62年式。この個体はワンオーナーであり内外装はきわめてよいコンディションに維持されている。しかし、そこは31年前のクルマだ。オーナーの溢れんばかりの愛情が注がれているので、メンテンスも入念に施されているが、予防的に全部替えているわけではないので、エンジンやサスペンションでは経年劣化が目立ち、特にゴム類では寿命を過ぎている部品もある。そのような部分もテコ入れが必要なのだが、本題となるエアコンはどうだろう?こちらも長年にわたって手が入れられており、プロによってコンプレッサーやエバポレーターなどが交換され、細かな部分でも改善策が施されている。それでも、十数年にわたって満足な状態にはなっていない。旧車という点を考慮しても冷えが悪い上に冷媒を補充しても1シーズン持たないというくらいに悪化しており、半ばあきらめの境地になっている。
エンジンルームを覗いてみると、その苦心惨憺の跡が随所にある。レシーバードライヤーのサイトグラスには黒色テープが貼ってあり、冷媒のホースには継ぎはぎがある。さらにヒーター用の温水ホースには手動のバルブが装着されていて、冬以外は室内ヒーターへの温水供給がカットされている。冷媒のサービスポートはR-134aだが、入っている冷媒はR-12のようである。 冷媒漏れは直しようがあるが、冷え具合が回復する見込みはあるのだろうか?筆者はかなり厳しいとみる。Be-1はグリルレスで開口部が極端に小さいのだ。これではコンデンサーが冷えないからバンパーに大穴を開けないとダメだろう。
●SPEC
エンジン:MA10S (987cc 直4 2弁-SOHC アルミブロック シングルキャブレター ネット値出力:52PS 7.6kgf・m) 駆動方式・トランスミッション:前輪駆動・5段MT 車両重量:680kg ボディ:2ドアセミノッチバックセダンキャンバストップ 素通しガラス(UV、IRカット機能なし)
数度のリペアを施すも完治に至らず。不調の症状は?エアコンが1シーズン持たない、冷媒を足しても冷え不足
怪しいポイントをチョイチョイ発見!
切り替えバルブはまさに苦肉の策。安価な車両では、ヒーターコントロールバルブがなく、室内ヒーターユニットへの冷却水循環が常時行われており、それがクーラー使用時でも熱源となって具合が悪い。そこで手動のバルブがヒーターホースに追加されている。冷媒が泡切れしないため、サイトグラスの目隠しが施されている。ガソリンスタンド等の事情を知らない業者が過充填しないためだ。R-134aへのレトロフィットはやってない模様。ゴムホースのカシメ部付近はパイプがロウ付けされていて、ゴムホースが修繕されたようだ。
ディーラー装着のニチラ※製ユニットが使われている
R-12仕様なので互換冷媒で作動させる、冷媒を補充して現状の冷えをチェック
とりあえず動かしてみるが、致命傷はなさそうだ
Be-1の車内に保存されているエアコンメンテ明細を見ると、最後に充填された冷媒はR-12と記載されている。これまで修理していたのはプロショップなのでデッドストックを保有しているのだろう。冷媒が抜けてしまうと、レシーバードライヤーにある圧力スイッチがオフになり、エアコンスイッチを入れたとしてもコンプレッサーのマグネットクラッチが繋がらないよう保護されるが、現状がまさにその状態。
オーナーによるとコンプレッサーは一度替えているし、冷媒が入っている時の動き自体は問題なかったようなので、とりあえず冷媒を再充填して動かしてみる。もちろん、R-12は持ってないし、オゾン層保護の観点からも使うつもりもないので、まずは代替可能な冷媒を使うことにする。
代替冷媒はいくつか種類があるが、今回は入手性のよい(近所の工具店でも在庫がある)R-SP34Eを使ってみる。これは成分の98%がR-134aで、R-12仕様車には専用のオイルコンディショナーを使用する。R-134aとR-12ではコンプレッサーオイルが異なる上に、違う冷媒を入れると分離してコンプレッサー焼き付きの原因となるので、コンディショナーで相溶性を与えるものだと思われる。
冷媒充填ではマニホールドゲージを使い、冷媒の1本目はエンジン停止状態で高圧側から液状(缶を逆さにする)で入れる。その後、マニホールドゲージの高圧側バルブを閉じたらエンジンを始動しエアコンをオンにする。コンプレッサーはカチッというクラッチの締結音とともに静かに回りだし、室内にはやや涼しい風が出てきている。ここでオイルコンディショナーの注入処理を行った後、さらに冷媒を低圧側からガス状(缶を立てる)で充填。
そして漏れ点検の補助とするためUVダイも注入。サイトグラスにはグリーンに染まった冷媒が流れており、条件によっては透明に変化することもあった。このようなことから、冷媒さえ入っていればエアコンは普通に作動することが分かった。
次は、冷え具合のチェックだ。センターの吹出口に温度計をセットして、ブロワーの風量を変えて温度変化を見る。ブロワーの風量が増すほど温度は高くなるのだが、最大(3段目)でも12℃付近だし、ブロワー1段では9℃を切ることもあった。2名乗車で走行してみたが、背中に汗をかくこともなくちょうどよい温度。う~ん、31年前のクルマでこれだったら悪くないんじゃないか?とは思うのだが、この日は外気温が25℃程度にもかかわらず、キンキンに効くほどではなかった。これでは30℃超えのとたんにヌルくなってくることも十分考えられる。つまり、夜は働くが昼はだらしないタイプの可能性が高い。
旧車あるいは1990年代中ごろあたりまではR-12という冷媒が使われていた。オゾンホールを破壊する他、空気中の水分と触れると塩酸になるので冷媒漏れで空気が入ったのを放置するとパイプが激しく酸化して再使用が難しくなる。R-134 aはオゾン破壊係数はゼロだが、温暖化係数は1430と高い。また両者はコンプレッサーオイルも違うので、混ぜるとコンプレッサーの潤滑不良の原因となる。Oリングの材質は最近のものは両対応可能になっているようだ。
複数の診断法で見逃し、誤診断を防止。 冷媒のリークポイントを探し出せ
冷媒漏れはアマチュアでも発見できる部位だった
冷媒を充填したところで、漏れ場所を探してみることにする。複数のプロが関わってきたクルマだけに、経験と機材に乏しいアマチュアが探せるか?というと大いに疑問である。あちこち見たところコンプレッサーオイルが漏れた形跡はどこにも見当たらないので、単純な目視では到底発見できない。そこで複数の方法を併用してみることにした。まずはリークディテクター。これは電子式のガス検知器で7g/年というきわめて高い感度を持つものである。ギュッポフレックス(以下ギュッポ)は漏れが疑わしい部分に吹き付けて泡の発生を調べるもので継続使用している製品。さらにUVダイとUVランプも取り入れて合計3種の方法を使う。
まず疑ってみたのは、ロウ付けされたパイプである。ここの施工不良がないかを調べたのだが、併せて高圧ガスが入るコンデンサー入り口の接続部付近にギュッポを吹いてみた。ギュッポは吹き始めそのものが泡っぽく、馴染みだしてから液状となりガスが漏れていると泡が膨れてくる。ホースの接続部は締め付けのナットとパイプの間に隙間があるので、ここに浸透する時にも内部の大気が出てきて泡になることがあるので、何回か吹き付けて液の変化で正常な範囲と異常なものを把握しておく。 数回吹いてみると、コンデンサーとの接続部から明らかに泡が出てくるのが分かった。しかし、連続的ではなく、数分ごとに思い出したように出てくるもので、ある程度溜まったら出てくるような挙動である。そのような独特の漏れ方だったが、一か所目は割と簡単に発見。リークディテクターでの検知も同じで、アラームがピーピー鳴った後、数分は無反応という状態だった。接続部は他にもあり、全部チェックするにはバンパーを外したり、室内のブロワーユニットを外す必要があったが、コンデンサーの出口側でも漏れを発見。
室内ユニット側は、エバポレーター、エキスパンションバルブとも漏れは発見できず。また、コンプレッサーのシャフト周辺(プーリー中心付近)では、リークディテクターが反応したが、何度も診断しているうちに反応しなくなってしまった。ロウ付けで繋がれているパイプやゴムホースには、目立った漏れはないようだ。
Be-1の漏れチェックの結論としては、コンデンサー出入り口の接続部をリペアすれば、少なくとも1シーズンで冷媒がなくなってしまう現象は防げると考えられる。
最低でもOリングの交換が必要だろうが、修理レベルとしてはごく基本的なものだ。なぜ放置されていたのか疑問だが、これはBe-1のバンパー外しが込み入ってて面倒だったからかもしれない。
トルクレンチの世界と同じで格安品も存在するが、ある程度のランク以上でないと微量な漏れの判断ができないと思う。もちろん、数万円なのでアマチュアにオススメとはいえない。その予算があればプロに診断してもらうのが現実的だ。
新車設計段階でかなり苦労した形跡がある。R-134a化に向けてコンデンサー冷却のポテンシャルを調べる
急ごしらえの影響がエアコンにシワ寄せか?
Be-1は高田工業で制作されているそうだが、企画の立ち上げからリリースまでの期間があまりにも短く、熟成しきれなかったところもあると聞く。新車開発では、デザインがどんなに優れていても、それを現実のクルマに落とし込む部分では、ボディやエンジン、足回りなどの担当者が様々な議論を交わし、時には強い交渉や妥協もしなければならないこともあるそうで特に冷却系は、場所取り合戦をいかに制するか?が大事などという話を伺ったことも。
AMガレージ入庫当初から、Be-1のエアコンの効きが良くない理由の一つにフロント開口部が小さすぎることが要因と考えていたのだが、細部を見ていくとホントに厳しいのが分かってきた。
エンジンルームでは、エンジンが右(運転席側)でトランスミッションは左(助手席側)に配置されているのだが、コンデンサーは右でラジエーターは左である。ところがエンジンルームの全長が短く排気系とのクリアランスが狭いことから、コンデンサーはラジエーターの前に被さりバンパーのキワまでせり出しているのだ。コンデンサーやラジエーターの前後方向の厚みには電動ファンも含まれるが、それぞれがエンジンやミッションの前側に沿うように配置されているのだ。
コンデンサーがバンパーの真裏にあること自体は悪いことではないのだが、グリルがないデザインなので、そのままではコンデンサーの下1/3程度にしか外気が当たらない。そこでこれを解決するために、少しでも前面開口部の外気を上側に流そうという努力をしたようで、切り欠き部が設けてあるのだ。
熱気の回り込み対策も不十分で、コンデンサーの面積を確保するために幅を広げて、バンパー開口部の中央付近ではラジエーターの前に被さる配置なのだが、エアコンがオンになってコンデンサーの冷却ファンが回りだすと、ラジエーターで熱せられた熱い空気がコンデンサーに流れていくのだ。走行中や水温が上がってラジエーターファンも回るとコンデンサーも冷えるが、単独ではコンデンサー幅を広げた部分が活用できてないことになる。新車時の冷えを体感していないので断定はできないが、エアコン性能を引き出すのは困難なレイアウトなのだ。
これを打開するには、バンパーフェースの左右ウインカーの中央やバンパーコーナー部のブラックの出っ張りの下、ナンバープレートの裏などに穴を追加するのが手っ取り早いのだが、流石にそこまではやれない。今回のリペアでは冷媒をR-134aにしたいのだが、冷媒だけ変えたのではますます冷えなくなってしまう。今までメンテンスしてきたプロがR-12を充填してきたのも、レトロフィットは容易ではないと分かっていたからかもしれない。
グリルの固定部までキツキツ
再生歴があるが内部に不具合があった、 エンジンルーム配管を作り直す
思わぬ不良を抱え込んでいたゴムホース
Be-1のエアコン復活プランとして、おぼろげながら見えてきた方針は、1.接続部の漏れを止める、2.コンデンサーの冷えを大幅に改善する、3.コンデンサーの冷え改善分を生かしてR-134aへのレトロフィットを実現、というところになる。1.については硬化したOリングを新品にすれば解決しそうだが、他についてはやってみなければ分からないし、ダメならR-12代替ガスのHC冷媒などを採用することになるだろう。
バンパーを含めた外装の改造が許されないので、エアコンシステムで改良していくしかないが、こちらについては何をしても良いことになっている。そのため、コンデンサーはR-134aに対応したものへ交換することにし、それに合わせて配管も作り直すことにした。
配管は、エンジンルーム側で4本あり、新コンデンサーに合わせて改造するのは2本だけでいい。しかしロウ付け加工された低圧側のゴムホース1本も作り直すことにした。
配管とコンデンサー制作は、スギタラジエーターワークスに依頼。1週間ほどで完成したのだが、スギタオジサンからは「元のゴムホースからアルミパイプを使う予定だったけど、タケノコ(ギザギザ部)が潰れてたので別加工が必要だったよ」との御報告が。通常は、劣化したゴムホースのカシメ部を割いて外し、両端のアルミの接続部は再利用するのだが、今回送ったホースではカシメたい部分がすでに潰れていたらしい。
つまりそのホースを制作したプロは、純正のアルミパイプ部に別のタケノコをロウ付けしたようだが、ゴムホースを装着する時のカシメ工程でタケノコを潰していたのだ。これでは冷媒の流れが悪くなるし、カシメの圧力や密着度もバラついて漏れの原因にもなる(目立つ漏れはなかったが)。全部作り直したのは幸いだった。
専門ショップの技が光る! コンデンサーの接続位置変更とゴムホース部の交換をプロに依頼
R-134aのレトロフィットで容量アップが必然、コンデンサーは極力大きなものへ
最大限のスペースを得られる大型コンデンサーに改造
Be-1では、コンデンサーの冷却が非常に厳しいことが分かったので「エアコンが効きづらいのは仕様です。ボディの改造もできないのでどうにもなりません。夏は氷を車内に積んでください」とでも言えればラクなのだが、新車時から30年も経てば性能の上がった部材や方法が出てくるハズ。そこで今回は(というか毎回なのだが)、コンデンサーを大型化し冷却の改善にトライする。Be-1のコンデンサーはサーペンタイン式であり、1本の平べったいチューブをクネクネさせたものにフィンを組み合わわせたもので、R-12時代のスタンダードな方式である。現在のコンデンサーはパラレルフローなどと呼ばれるもので、左右に筒状のパイプがあり、チューブが左右を平行につないでいる。そのため複数のチューブに対して一斉に冷媒が流れていく。それも単純に左から右というのではなく、上下に何段のブロックに分かれていて、出口に行くまでに2往復程度するようになっている。チューブやフィンは非常に高度かつ精密なアルミ加工技術によって極めて薄くなっており、外気への放熱性も格段に上がっているのだ。
レトロフィットに関してインターネットで調べている際にアメリカのトラック用コンデンサーのサイトを見つけたのだが、R-12からR-134aのレトロフィットでは、コンデンサーの能力を30%以上上げることが必要との記載があった。それは、コンデンサー自体の容量以外でも、送風量の強化でも可能という。Be-1ではサーペンタインからパラレルフローにするだけでも大きな効果があると考えられるが、冷却風の流れに制約が大きいことから、面積を拡大することにした。バンパーの狭い開口部から入る外気を生かすには、ボディ前面をコンデンサーで覆うべきと考えた。
新しいコンデンサーもスギタオジサンに作ってもらう。こちらは既存のコンデンサーから装着できるギリギリに設定する。段ボールでダミーのコンデンサーの型紙を作り、冷媒の出入り口やボディへの取り付け部を書き込んだ原寸大の指示書を作って依頼した。
出来上がったコンデンサーは、パイプの接続作業を考えると想像以上にピッチピチだったが、元のブラケットを利用してボディへの固定位置も決まった。今回は大幅に薄くなることを生かして、できるだけ後方へ移動してバンパー内側とのクリアランスを稼ぎ、前方に風が取り込めるようにしている。一方、エンジン側とのクリアランスは狭くなり純正の引込型ファンは使えなくなるため、後付けの押し込み型ファンを使う予定だ。この仕様でどうなるか?次回報告する予定なので乞うご期待!
完全復活なるか!? その2へ続く
提供元:オートメカニック