故障・修理
更新日:2019.01.04 / 掲載日:2019.01.04
トヨタ86のパワートレーンを完全オーバーホールしてみた【Overhaul 05】
エンジン降ろしの前のダイアグ診断で「始動不良」が検出されていたので、燃料系のインジェクターを診断してみた。さらにハード走行で傷みやすい直噴インジェクターのシール強化も行った。
【PART1】2種のインジェクターの外観チェック 燃焼室に面している直噴用は先端が汚れやすい
2種類のインジェクターは正常に機能しているか?
走行2万kmと新しいにもかかわらず、エンジンを降ろす前のダイアグノーシスにエンジン始動不良(P1604)が検出されていた86。この始動不良の項目は、スターター信号が入力されているにもかかわらず、エンジンが始動しないか始動時間が長い場合。始動直後のエンジン回転数の落ち込みやエンスト時に出力されるようだ。スターター信号がONにもかかわらず、2~26秒以上始動しない場合。あるいは、エンジンがかかって500rpm以上になってから2秒以内にエンジン回転数が300rpm以下に低下して極端な回転の落ち込みが出たり、ストールした場合にも検出されるようだ。状況によっては、スピンでストールしても検出される場合もあるらしく、通常の使用で問題がなければ、それほどシビアに考えなくてもよいと思う。
それでも、せっかくOHしているので、点検だけはやっておきたいところ。今回は、インジェクターの点検を行ってみる。D-4Sなので直噴とポート噴射の2種のインジェクターがあり、そのスプレーパターンや噴射量のバラツキをチェックしてみる。特に直噴側のインジェクターは、先端がシリンダヘッドに面しているので、燃焼で発生したススが付着するのが気になるところ。
【PART2】直噴用は専用のドライバーを使ってテスト インジェクター噴射量点検とクリーニング
インジェクターのスプレーパターンや噴射量はインジェクターサービスマシンのアズニューを使って行った。これまでも、ポート噴射用では何度もお世話になっているが、直噴用は初めてである。直噴用は、インジェクターの駆動に高電圧が必要なので、通常とは別の駆動電源が必要となる(FA20にもインジェクタードライバーが付いている)。アズニューではGDIアダプターというドライブユニットがあり、今回はこれを併用したテストを行ってもらった。理想的には、燃料圧力も100~200barにできるといいのだが、一般のサービス工場では危険なので、燃圧の供給はポート噴射用を使っている。これでもスプレーパターンのチェックはできるようだ。
テスト噴射してみると、スプレーパターンは三角錐になっているようで、手前は扇形に見えつつも奥側にあるテスト機材の壁面には小さな三角形ができている。噴射状態はどれも良好だが、燃圧を変えると3番の吹き方が変わってきた。実用上は全く問題ないと思うが、僅かな個体差はあるようだ。
次に決まった駆動パターンを与えて燃料(に近い試験液)をメスシリンダーに噴射させる。直噴インジェクターは噴射量別に番号があり、このエンジンでは3で揃えてあるが、測ってみると一番多い2番と最も少ない4番での差は7.3%もあった。テストの燃圧が全く異なるので、このバラツキが40 kPa~200kPaという実作動時でどう影響するかは分からない。ただし、個々の作動自体は正常なので、始動不良の原因ではないと考えられる。最後に超音波クリーニングを行うと、先端のカーボンがキレイに取れた。
入間郡三芳町北永井258
TEL:049-257-4117
【PART3】サーキットユーザーは要点検!! 直噴インジェクターのシールを強化品へ交換
高回転やノッキングの発生でシールが飛びやすい
ワンメイクレースでも人気のTOYOTA 86だが、サーキット走行を頻繁に行っていると、直噴インジェクターのシールが損傷するトラブルがあるという。高負荷走行の連続で、インジェクター先端にあるシールが、溶けたようになるらしいのだ。こうなると、エンジンが吹けなくなり、パンパンと激しいバックファイヤーを起こすそうである。原因としては、直噴のインジェクターにはシリンダーからの燃焼圧が加わっているので、高回転の多用のほか、ノッキングを起こしたり、レブリミッターを作動させた時の高回転での燃料カット後に再開される燃料噴射で燃焼圧が激しく変動した場合に損傷しやすくなる。燃料カット後は燃焼室内部が新気で換気されてスーパークリーンとなるため、一発目の燃えがよすぎるらしい。某車でも、サーキット走行の頻度が高いと触媒の詰まりが発生するケースがあったが、これも理由はレブリミッター作動後の排気温度は1000℃ほどに達して、マニホールドにある触媒の担体が溶けるためと聞いたことがある。
この直噴インジェクターシールは、強化品を発売するオートファクトリーで取り付てもらった。
シールの交換には専用の純正SSTが必要になる。シールを傷めないで拡げるコーン型SST、インジェクターの溝にはめ込んだ後、広がった径を縮めるドーナツ状のSSTがセットになったものだ。シールは高価なものではないが、燃焼圧を受け止めるものなので、少しでもキズがあると漏れが起こってしまう。SSTを買わないのであれば、他の工具を流用して付けるのではなくショップに依頼したほうが確実だ。