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故障・修理
更新日:2019.04.16 / 掲載日:2019.04.16

W123復活大計画「ミッション交換その1」Vol.16

今月の作業レシピ
・ミッション降ろし
・内部の分解点検
・クラッチ交換 その1


念願の試運転後に突然発生してしまったトラブルの原因は、アメリカでリビルド済みに換装していたミッションの可能性大。ここにきて後戻りしてしまうのは無念だが、不具合ポイントを突き詰めなければ路上復帰もままならない。ベンツちゃんは、果たして復活することはできるのでしょうか?

1977年式 幸せの黄色いベンツちゃん復活大計画【Vol.16】 

ベンツちゃん=Mercedes-Benz 300D(W123)

エンジンを降ろさないで行う 重整備は難行苦行の連続

 久々となるミッション降ろし作業は、難行苦行の連続。今回は2柱リフトを使わない作業となるため、どうしても作業領域を十分に確保できない。オートマの小さなパーツが“近すぎて”見えないことには本当に困った。さらに光の届かない作業も多いため、タイトル写真で使っているLEDヘッドライトは絶対に手放せない必須アイテムだ。
 また物理的な狭さも大きな問題。作業の融通も利かず、道具の使い分けにも一苦労するほど。ツールボックスの中にある15mmのソケットを取りに行くにも、クルマの下からもぞもぞと這い出して取りに行くのは超シンドイ。
 さらにミッションのような重量級部品を取り外す作業だと、ちょっとしたミスが命取り。中でも車体を支えるリジッドラックは、作業の基本となる最重要チェック項目の一つ。ガレージ床や車体フレーム側の腐食、ミッションを降ろすことによる車両重量のバランスの変化まで頭に入れて作業する必要がある。急いでトラブルの原因を究明したくても、どうしても作業は滞り気味になってしまうのだ。

ガレージジャッキのお皿に鉄板をボルトで固定。このATのオイルパンは平らなので、自作したミッションジャッキでも安定して降ろせる。

ミッションまわりを 整理しながら降ろす準備を進める
ボルトを外したらどのパーツが落下するのか常に考える。旧車は整備書とは異なる改造箇所もあるから実は怖い。

自作したミッション ジャッキをフル活用
うっかりジャッキを上げすぎると、車体がリジッドラックから浮いてしまい、車体が落ちるリスクもあるので注意したい。

ミッションサポートのボルトを緩めた状態でジャッキを持ち上げると、ジャッキがミッションを支えていることを確認できた。

ボルトを滑めたら 一巻の終わり 焦ったら負けです
ベルハウジング最上部の2本のボルトが緩まなければ、エンジンと合体した状態で作業を進める最悪のシナリオに……。それは避けたい。

体力の低下を痛感! ボルトに前日から浸透性潤滑剤をスプレー、高品質の6ポイントのソケットを使うのがコツ。気合でエイヤッ!

作業性、極めて悪し

最難関ボルトの 取り外しに成功
こういうボルトが取れた時の達成感が癖になるからクルマいじりはやめられない(笑)。メカニック・ハイ状態です。

ベルハウジングの固定ボルトをすべて外すとミッションが落ちる可能性がある。何本かは安全策として緩めた状態で残しておく。

ミッション本体の分離を開始
トルコンのボルトと配線がすべて外れているか再確認。外した際のエンジン重量バランスの変化も考慮して分離する。

幸いなことにオイルパンが平らなので安定している。高さが足りないため、車体の外に引きずり出すのが大変かも。

なんとか無事に終了 すでにヘトヘトです……
トルコンを取り外し軽くしてからジャッキを降して引きずり出す。ハウジング上部と車体のクリアランスはギリギリセーフ。

ATSGマニュアルはすでに絶版になっていたが パーツ会社のサイトで参考資料を発見!

 北米で発行されているATSGのAT修理用のマニュアルは英語で書かれているが、内容が図版も多く表現もメカニック視線で書かれているため分かりやすい。さらに整備を行う上でのちょっとしたコツも盛り込まれているため、非常に役に立つ。だが、我がベンツちゃんに対応するマニュアル版はすでに廃版。残念だ。

以前から重宝しているATSGのマニュアル。現在は有料になるがダウンロードできるので便利。日本車のマニュアルもある。

仕向け国による仕様の変更に注意が必要だが、オンラインパーツカタログの情報から、互換性や仕様変更などが分かるケースもある。

ミッション本体の分解点検がスタート 面倒な作業の連続に心が病みそうです……

リビルド時に交換したクラッチが どうやら不良品だった模様……

 過去に修理もしくはリビルトがされたミッションは、その際に施工したメカニックの経験やリビルト会社のノウハウが注がれることによって、独自の“カイゼン”がなされているケースも多々あるようだ。その結果、パーツリストや修理書と異なる箇所が発生していても、それがカイゼンなのか? 間違いなのか? それとも記録に残っていない正式なメーカーの仕様変更なのか? ここを判断するのが難しい。やはりトラブルの痕跡を探しながら分解を進めるしかない。
 そんな思いを抱きながら分解作業を進めていくと、K1クラッチ板の状態は最悪に近く、剥離したライニングによってクラッチは完全に切れない状態になっていた。本来、K1クラッチは3速と4速のみで作動するものだが、リバース状態でもフリーにならずクラッチ切れ不良を発生していたため、前進ギヤとリバースギヤが同時作動したような状態となり、リバース時にジャンピングするようなトラブルを発生したのではなかろうか? またNレンジでの異音(モーターが回るような音)や、かすかに前進する症状も、K1のクラッチ切れ不良の影響だろう。
 だが、そもそもクラッチ板はなぜ剥離したのだろうか? 不思議なことに焼損の痕跡もないのでATFの不適合かと思ったのだが、リビルド工場からの情報によると、同時期にリビルドしたATで同様の剥離トラブルが発生したという。どうやらクラッチ板の品質不良が原因かも……。

AT分解中の泥や異物の混入は避けたいので、ミッション本体と作業場周辺をできるだけ綺麗な環境に整える。

ベルハウジングまわりは 要注意作業の連続
取り付けボルトの長さやシーリングの有無を画像で保存する。ベアリング部分には調整用のシムもあるので注意。

ブレーキバンド保持スプリングはカバーを押さえながら外さないと、内部スプリングがガレージ中に飛び散る危険が……。

前回の作業で問題となった アジャストボルトに到達

リバース時に作動するB3ブレーキバンド。関連するロッドやプッシュピンに破損や摩耗は確認できない。

いよいよギヤユニットを引き出す 果たして状態は如何に?
ブレーキバンドがフリーになった状態でB3バンドと一緒に引き出す。B3バンドのライニングにダメージはないようだ。

セカンド時に作動するB1バンド。ケース側の奥には、1、2、3速時に作動するB2バンドが見えている。

左端が4速時に作動するK2クラッチ。真ん中でバンドに隠れているのは3、4速時に作動するK1パック。右端はプラネタリーギヤセット。

まずはカバー部分を 取り外し
ねじロック剤が使われているので、貫通プラスドライバーで軽く衝撃を与えてから気合を入れて緩めていく。

K1とK2のクラッチパックを 分離する
クリアランス調整用のシムの順番が分かるように画像保存は大切。無駄な画像があっても役に立つケースのほうが多い。

K1側に異常な動きを確認 もはや嫌な予感しかない……
K1クラッチのスナップリングがきつくて外れない。仕方なく万力で圧縮する。内部の多板クラッチパックに異常かも?

「オーマイガー」と 思わず呟いてしまいます……
前回のテストで圧縮エアで作動させた際に、片側だけクラッチ板が動いたのを確認できたのは、これが原因だったようだ。

剥離したディスクの影響でクリアランスが低下し、K1が作動しない状態でもクラッチが作動するため、不具合の原因になったのかも?

クラッチは焼損というよりも 完全に剥離した状態
焦げ臭くもないし綺麗に剥がれてる。クラッチ板の製造不良が疑われるが、二次災害がなかったのは幸いかも。

幸い(?)にもK2側は無事のようだ
K2側には剥離したK1クラッチの破片の混入も見られず、クラッチ板とクラッチプレートも問題ない。再使用もOKだろう。

プレートも異常なし
K1のプレートは、クラッチ板が激しく剥離した割には、焼損箇所や曲がりの影響も確認できない。これも再使用できそうだ。

「原因はK1クラッチの剥離」で間違いない。原因探求の整備はここがUターンポイント。次は、部品の洗浄と整理そして組み立て。

経験上、ATFの不適合によるクラッチ板剥離もあり得る。念のためATFに漬け込み剥離が進行するか確認したが、大丈夫そう。

不具合箇所がようやく判明したが ここからの作業も大変だ

パーツも整備術も、まだ入手可能 ベンツは本当に素晴らしい!

 ほぼ半世紀前のクルマだというのに、ベンツ・クラシックセンターから純正クラッチが購入できるのは 自動車メーカーの姿勢として本当に素晴らしいことだと思う。当時のパーツカタログもすべて電子化されており車台番号からパーツ番号を探し出すことができるが、我がベンツちゃんの場合はリビルドATのオリジナル車両が分からない上に、製造年によってクラッチ板とディスクの厚さが変わるため、今回は剥離したクラッチの正常な箇所の厚さから新品時の厚さを推測して、パーツ番号を特定することにした。
 交換パーツが届いたあとは、リビルト工場のテッドさんから聞き出したクリアランス調整法を駆使しながらクラッチパックを組み付けていく。凄腕メカニックであるテッドさんの的確なアドバイスもあって、修理工程は順調そのもの。
 我がベンツちゃんのような販売台数が多い車両ならば、現在でも世界中でメンテが行われているため、いざとなればネット上に様々な整備情報が溢れており、これまでも有効活用してきたが、テッドさんのようなベテランメカニックが積み重ねてきたノウハウが伝承されていることも、旧車を長く安心に楽しんでいくためには大切だよな~と、実感してしまう。

クラッチの交換パーツはクラシックセンターでゲット
カリフォルニア州アーバインにあるメルセデス・クラシックセンターから購入。車台番号が不明なので品番特定に手間取った。

新品クラッチ板をATFに漬け込み後、組み込み準備。ATF不適合による剥離の可能性は低いので再利用した。

洗浄&点検後、クラッチパックごとに分類して、ジッパータイプのビニール袋に入れて保存する。保存中の錆の発生も油断大敵。

パックを組み立てる際は、クラッチ板とプレートの順番は要確認。基本的に元通りに戻すので保存画像も重要だ。

圧縮しながらスナップリングを装着
以前行ったW202(96年式ベンツ)のAT・OH時に使った自作ツールを再利用。パックを圧縮しスナップリングを装着する。

リヤプラネタリーギヤセットの上にK2クラッチパックを重ねる。スラストベアリングがずれないように気を使う作業だ。

2個の油圧穴があるスペーサーを装着する。それぞれの穴はK1、K2クラッチを作動させるATFが通る役割を持つ。

破損したK1側はギヤの組み付けが必要
新品ディスクを装着するK1は、クラッチのクリアランス調整が必要。厚さの異なるプレートに交換して調整する。

スナップリングの作業性向上のため軽く圧縮したが、バークランプを外したあとにクラッチ板が軽く回ることが重要だ。

ディスクの歯もしっかり確認
クラッチパックを組み込む際は、クラッチ板の歯が縦方向に揃わないとギヤが入っていかない。慎重に位置を合わせる。

ベアリングの組み付け状態を再確認し、K2の上にK1を載せる。こうした作業の画像保存も、後のトラブル対策で有効だ。

プラネタリーギヤの順番を確認
フロント側のプラネタリーギヤを組み付ける。左端のドラム(アウターギヤ)にリバース時に作動するB3バンドが装着される。

スナップリングの装着は比較的スムーズに完了

プラネタリーギヤの歯やシャフトの状態はよい。ギヤが正しく組み付けられていれば、スナップリングは簡単に装着できる。

プラネタリーギヤをクラッチと合体
作業途中の写真で、ベアリングやスペーサーの組み付けに間違いないか再確認。いよいよギヤユニットの完成だ。

インプットシャフトの装着には ロック剤が必須
こんな所にプラスネジと思う構造だが、修理書通りにねじロック剤を塗布。そして緩むなよと願いを込めて締め付ける。

今月はここまで!
ベルハウジングからのオイル漏れはウィークポイント。まだまだ気が抜けない作業が待ち構えている。

次号予告「佳境を迎えたミッション修理 果たして無事に直せるのか?」
まだまだ作業は半ば。仮にミッション修理が成功しても、このまま怪我なくスムーズに装着できるのか不安……。

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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