故障・修理
更新日:2019.06.25 / 掲載日:2019.06.25

ポート噴射と直噴の違いとは

ポート噴射エンジン
吸気管はインテークマニホールド、またはポートともいわれる。そこにガソリンを噴射して、吸入空気と混合させた状態でシリンダーに吸入させる。1970年代まで霧吹きのようなキャブレターが使われたが、現在はフューエルインジェクターで噴射する。

直噴エンジン
吸気管からは空気のみを取り入れ、ガソリンを直接シリンダー内に噴射する。ディーゼルエンジンと基本的に似た行程だが、噴射タイミングは負荷領域によって異なる。圧縮比はディーゼルエンジンより低く、燃焼のために点火プラグが必要。

従来からのエンジンは吸気管内にガソリンを噴射するポート噴射だが、ヨーロッパではシリンダー内に直接噴射する噴射エンジンの比率が高まってきた。どんな構造でどんな利点があるのだろうか。

そもそもガソリンエンジンとは
 ガソリンエンジンは空気と適量のガソリンを混ぜ合わせた混合気に点火してシリンダー内で燃焼させ、その圧力をピストンで受け止め、コンロッド、クランクシャフトという経路で動力として取り出す。
 ゴットリープ・ダイムラーが開発した世界初のガソリンエンジンは、ガソリンを容器の中に入れ、それを暖めて気化させたものをシリンダー内に導いていた。それ以後、長い間、ガソリンと空気の混合にはキャブレターが用いられてきた。霧吹きの原理を応用したもので、速い吸気流速によって負圧になった吸気管内に自動的にガソリンが吸い出され、空気と混合され、シリンダーに吸い込まれていく仕組みだ。
1970年代に入ると燃料噴射装置が採用されるようになり、しだいにキャブレターに取って代わるようになった。初期の燃料噴射装置は機械的に吸入空気量を検出し、それに見合った量の燃料を噴射するものだったが、電子制御へと進化して現在に至っている。
 噴射位置はキャブレター時代と同様にスロットルバルブ下流の吸気管内というのがこれまでの常識だったが、シリンダー内に直接燃料を噴射する「直噴」エンジンがヨーロッパ車のトレンドになりつつある。

ポート噴射と直噴の噴射位置の違いについて

直噴エンジンでも噴射の形態は様々で、円錐状噴射のほか、多方向噴射のエンジンもある。

吸気管に噴射するのがポート噴射エンジン。 シリンダー内に直接噴射するのが直噴エンジン。

 ポート噴射と直噴の一番の違いはフューエルインジェクターの装着位置。ポート噴射はスロットルバルブの下流で、インテークバルブに近いポート内に設けられている。直噴はインテークポートの下部で、直接シリンダーの端に設置されている。ポート噴射はガソリンと空気を混合した状態でシリンダーに吸い込ませ、直噴は空気のみを吸入し、運転状況に合わせて直接シリンダー内にガソリンを噴射する。
直噴エンジンのメリットとは
 ポート噴射の後に実用化された直噴のメリットは何か。その一つが吸気管内へのガソリンの付着を抑えられるということ。ポート噴射は吸気バルブをめがけて噴射するが、それでも噴射ノズルと吸気バルブまでの間隔が10cm前後あり、壁内へのガソリンの残留付着が発生する。
 直噴は直接シリンダー内に噴射することによって、これを抑えることができ、精密なガソリンと空気の混合比を作り出すことができる。また始動時の噴射燃料が少なくてすみ、排ガス浄化能力に優れるという利点もある。
もう一つのメリットはシリンダー内の冷却。直接シリンダー内にガソリンを噴射することによってシリンダー内の温度を下げることができ、対ノッキング性能が向上する。

フューエルインジェクターは吸気管の上部に設けられている。噴射方向はインテークバルブで、多噴孔のインジェクターノズルから円錐状に噴射される。4バルブエンジンでは吸気管に沿って逆Y字形に噴射する。

吸気管は空気を吸入するだけ。フューエルインジェクターは燃焼室の端に取り付けられている。ポート噴射は吸気行程中に噴射するが、直噴は始動時、冷間時のみ圧縮行程で噴射する。

ポート噴射と直噴の圧縮比とピストン形状について

シリンダー内にガソリンを噴射すると気化潜熱によって温度を下げられる。このためポート噴射エンジンより圧縮比を高めることが可能だ。

直噴エンジンはポート噴射エンジンより圧縮比が高い。その理由は……。

 燃料の噴射位置という明確な違いのほかに、大きな違いはもう一箇所ある。それがピストンだ。ポート噴射用エンジンのピストンは「バルブの逃げ」というわずかな凹みが設けられているものが多いが、それ以外のエリアはフラット、または緩い凸形となっている。対して直噴エンジン用のピストンはディーゼルエンジンのそれのように、中央部に深い凹みがある。
 この凹みにめがけて燃料を噴射し、点火しやすい濃い混合気のエリアを生成するという意味のほかに、ここで混合気を反射させ、点火プラグに向かって高速混合気流を生成するという機能も果たす。
 シリンダー内に直接燃料を噴射する直噴は、ガソリンの気化潜熱によって内部の熱を下げる特性を持つ。ノッキングの原因は高熱だから、ノッキングを抑えられる。ということは通常のポート噴射のエンジンの圧縮比より高い値でも対応できるということになる。
 これが直噴の大きなメリットで、熱効率が向上し、燃費も向上する。現在の直噴エンジンの多くが過給器付きでも10前後という高い圧縮比を持ち、マツダの直噴は13~14という、世界でもっとも高い圧縮比を実現している。

噴射したガソリンを効率よく混合し、それを点火プラグに向かわせるためにピストン頂部にはポッドと呼ぶ凹みが設けられている。

ポート噴射エンジンのピストンはガソリンと空気の混合気を圧縮するだけなので、バルブの逃げという凹凸はあるが、ピストン頂部は平坦に近い形状となっている。

ポート噴射と直噴のフューエルデリバリー

基本的に同じインジェクションシステムだが、噴射圧力がケタ違い。

 燃料ポンプで燃料をフューエルデリバリーパイプに圧送し、フューエルインジェクターで噴射するという基本メカニズムはポート噴射も直噴も同じだ。ポート噴射では、燃料タンク内に燃料ポンプ、フィルター、レギュレーターなどを内蔵したモジュール化が進んでいる。
 直噴の噴射圧はポート噴射の0.4MPa前後に対し5~20MPaと高い。これはガソリンの粒子を細かくするという意味のほかに、高い内圧のシリンダーに余裕を持って噴射するためでもある。それに対応するために、タンク内ポンプのほかにカムシャフトで駆動する外部高圧ポンプを備えている。
 フューエルインジェクターはいずれもソレノイド式だが、直噴用は高圧に耐えられるように部品強度を上げ、ソレノイドの駆動力の向上が図られている。また直噴では、その先端が直接燃焼ガスにさらされるために、フッ素シリコン系のコーティングをするなど、デポジット対策も行われている。

最近のポート噴射エンジンはガソリンタンク内に燃料ポンプが設けられている。ホースでフューエルデリバリーパイプに送られ、各シリンダーのインジェクターに分配する。噴射圧は0.4MPa前後。

フューエルデリバリーパイプの近くに高圧燃料ポンプを設置する。コモンレール式ディーゼルエンジンのようなレイアウトで、噴射圧は5~20MPa。

小さな排気量のエンジンに直噴を導入

ノッキングが発生しにくい直噴エンジンは過給器との相性がいい。

 ポート噴射と直噴の違いが解ったところで、なぜコストのかかる直噴なのかを説明しよう。直噴の大きなメリットは圧縮比を上げられることだった。それまでと同じ排気量のエンジンに直噴を導入すれば、性能アップが図れるのは当然だ。しかし、それでは面白くない。小さな排気量のエンジンに直噴を導入し、それに、ポート噴射では高圧縮と組み合わせられなかった過給器を付けたらどうなるか。小さい排気量でも充分に実用的で燃費に優れ、排ガス性能にも優れたパワーユニットが出来上がるワケだ。
 ヨーロッパではVW、アウディが先鞭を付け、それにシトロエンとプジョーが続き、メルセデスも一部の車種に取り入れている。VWでは上級モデルのパサートが1.4L直噴で動き、プジョーでもフラッグシップの508にはガソリンエンジンは1.6L直噴しかない。

ヨーロッパでは直噴過給エンジンを搭載した「パワーユニットのダウンサイジング」が進んでいる。全長4785mm、車重1430kgのVWパサートはなんと1.4L過給エンジンがメインだ。

上の性能曲線にVW 1.4L過給エンジンの全てが表れている。フラットなトルク曲線は全走行域で充分な力を発生する。

直噴エンジンのパイオニアはベンツ

ベンツが航空機用を自動車用に導入三菱とトヨタが直噴を復活させた

 シリンダー内にガソリンを直接噴射する直噴エンジンは1950年代に航空機用として開発された。それを自動車用として初採用したのがガルウイングのスポーツカーとしてよく知られているベンツ300SL。まだ電子制御のない時代で、噴射制御の難しさ、燃料噴射によるシリンダー内のオイル皮膜の希釈などの問題を解決できず、その後のメルセデス・ベンツに採用されることはなかった。
 その直噴エンジンを蘇らせたのは三菱とトヨタ。トヨタは1993年にD4とネーミングした直噴エンジンの開発を発表した。低負荷域では希薄燃焼、高速域と高負荷域では理論空燃比で燃焼させるもので、燃費向上におおいなる可能性を示した。三菱は1996年、GDIと呼称する直噴エンジンを開発し、ギャランに搭載して発売した。GDIも希薄燃焼と理論空燃比燃焼を使い分けるものだった。
 理想のエンジンに思えた直噴だったが、希薄燃焼時に多量に発生するNOxやカーボンの処理に技術とコストを要することから、希薄燃焼は姿を消し、理論空燃比で稼動させる均質燃焼へと移行する。国内では三菱、トヨタに続き日産、マツダ、ホンダが参入した。現在多くのメーカーがラインナップするようになった。

300SLの発表から43年後、蘇った直噴エンジン。三菱がGDIとネーミングしてギャランに搭載した。

世界で初めて自動車用直噴エンジンを搭載したベンツ300SL。しかし完成の域には遠く、それに続くものはなかった。

進化を続けるポート噴射システム

ポート噴射にデュアル式も登場 直噴は希薄燃焼へと向かう

 BMWとダイムラーが採用したのはスプレーガイデッドという方式。フューエルインジェクターをプラグの横に設け、その周辺を燃焼しやすい混合比に保つ。点火領域の外はきわめて薄いガソリンしかなく、全体で希薄燃焼を可能にしている。この方式を成り立たせているのは高圧噴射にもある。従来の直噴が10MPa前後であったのに対し、200MPaにもおよび、コモンレールディーゼルに接近しつつある。
マツダはこれらとは異なった方法で新世代直噴として名乗りを上げた。ノッキングを起こしにくい独特のキャビティ形状を持つピストンを採用し、ガソリエンジンとしてはこれまでに例のない13~14という高い圧縮比で、ハイブリッド車なみの燃費を実現した。
 トヨタはポート噴射と直噴の2つを備え、負荷域領域によって使い分け、燃費、排ガス性能を向上させている。ポート噴射にも新しいメカが現れた。
日産ジューク、スズキカルタスには各気筒に2個のインジェクターが装着されている。通常、4バルブエンジンでは吸気管の分岐点に1個装着され、逆Y字形に噴射する。デュアル式はインテークバルブの近くにインジェクターを設置でき、燃料供給効率が向上する。

プラグの横にインジェクターを設けたスプレーガイデッド方式の直噴。

ポート噴射と直噴を併用するトヨタのD4‐S。世界で例のない組み合わせだ。

独特のキャビティ形状のピストンを採用したマツダの新型直噴エンジン。圧縮比は13~14と高い。

ポート噴射にも新顔が登場した。日産がジュークに採用したデュアルインジェクター。

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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