故障・修理
更新日:2019.10.01 / 掲載日:2019.10.01

ABS(アンチスキッドブレーキシステム)の仕組み・原理・構造とは

急制動時に出やすい車輪のロックを防ぎ、クルマの走行安定性を保つのが、アンチ・スキッド装置の役目である。急ブレーキをかけた時などにタイヤがロックすると、路面への接地性が急激に低下して、クルマの操向安定性が失われ、とんでもない方向に進むことがある。
 前輪がロックした場合は、ステアリング系統の操舵性が失われ、それまで進行していた方向へとクルマが流されてしまう。タイヤがロックして、路面との間にグリップがないのだから、いくらハンドルで進路を修正しようとしても無駄なわけだ。
 また後輪がロックした場合は、前輪による操舵性は残っているがクルマのリヤがふられてスピンやスキッドを起こしやすい。前輪にしろ、後輪にしろ、ロックしてしまえば、いずれはクルマの走行バランスを崩すので、危険な点では大差はない。ただし、国情や道路事情により、前輪ロックを重大視するところと後輪ロックを嫌うなどの地域差はあるようだ。
たとえば、アメリカでは、どちらかといえば前輪ロックを嫌い、ヨーロッパでは、前輪よりも後輪ロックのほうが重くみられている。
ヨーロッパや日本のように、わりあいに道幅がせまいところではスピンを起こすと走行レーンをはずしやすく、最悪の場合は対向車線に飛び込むことも考えられるので、どちらかというと、後輪ロックを避ける設計が望まれているようだ。また、アメリカ車のようにホイールベースが長くないこともスピンにつながりやすいことは、否定できない。
こういった場合に活躍するのがアンチ・スキッド装置だ。

ブレーキ・ドラムを大きな制動力で止めるのは技術的にみて簡単である。たとえば、ブレーキ・ペダルのペダル比の変更、ホイール・シリンダーのボア・アップなどの手段によって、いくらでも制動力そのものは大きくなる。また最近ではマスターバックなどのバキューム・ブレーキも発達してきたので、制動力だけなら、どんなに大きくすることもできる。
だが、いくらホイールの制動力が大きくなっても、タイヤと路面が滑る状態(ロックすると完全なスライディング状態になる)になったのでは、かえってアブハチ取らずになる。
「大きな制動力をかけながらもタイヤがロックする寸前で油圧を抑える」というのが理想的なブレーキングである。
だが、この状態をブレーキ・ペダルの踏み具合一つでコントロールして行くのは不可能に近い。たとえ一流のレーシング・ドライバーでも「ダブル・ブレーキを踏んで、タイヤがロックするのを極力防ぐ」というのが精いっぱいのテクニックではあるまいか。
そこで、ハイドロリック・システムの中に、油圧コントロール装置を組み込んで、系統中の油圧をベストな状態に保ち、タイヤのロックを防ぐと同時に大きな制動効果を引き出すのがアンチ・スキッド装置ということになる。
アンチスキッド装置にも、プレッシャー・コントロール・バルブ、Gバルブ、マグザレットなどといった種類があり、そのメカニズムと機能もさまざまであった。

プロポーショニング・バルブ

ディスク・ブレーキを装着したクルマでは、パッドに大きな油圧をかけないと大きな制動力を期待できない。そのためマスターシリンダーで大きな油圧を発生させてディスク・ブレーキのホイール・シリンダーに押し込む必要がある。
ところが、同じ1つのマスターシリンダーで作り出される油圧はリヤのドラム・ブレーキにも同じ高い圧力として作用することになる。また高速走行中にブレーキをかけるとリヤの荷重がフロント側に移動し、リヤのタイヤと路面間のグリップが小さくなる。
こうした2つの理由から、必要以上に強い制動力をリヤのドラムに与えると、リヤ・ホイールはロックしてしまい、ついにはスキッドを起こして、ドライブ・コントロールを失うことになる。
そこで、ディスク・ブレーキ仕様車では、何等かの方法を用いてリヤ・ホイールにかかる油圧を下げる必要がでてくる。こうした目的から生まれたのがアメリカ車に取付けられたプロポーショニング・バルブだ。
この方法は油圧ブースト方式とも呼ばれ、油圧回路に設定された一定の油圧カット点からシリンダ ーの有効面積を変化させ、前輪にはマスターシリンダーの油圧をそのまま、後輪のホイール・シリンダーには比例的に減圧した油圧を送り込むものである。シリンダーの有効面積が小さくなるほど、プロポーショニング・バルブから以降に伝わる油圧が低くなることはいうまでもない。なぜなら、バルブにかかる力は1平方cm当たりの油圧とシリンダー断面積との積になるからだ。
この方式の特徴は、ある一定値以上に油圧が上昇すると、それから先は、マスター・シリンダーで発生した油圧を低めながら、上昇させるところにある。また、油圧のカット点が固定したものとクルマの荷重によって油圧のカット点を変化させるロード・センシング方式とがある。後者のほうが、より進んだメカニズムであることはいうまでもない。

油圧制限方式の長所と短所

 国産車のブレーキ・システムの中には、Pバルブ(プレッシャー・バルブ)とかPCV(プレッシャー・コントロール・バルブ)といったメカニズムを組み込んだものがあった。
 これらは、名前こそ異なるが、いずれも油圧制限方式(リミッター方式)を採用したアンチ・スキッド装置に他ならない。
このバルブの目的は、プロポーショニング・バルブと全く同じで前輪ディスク・後輪ドラムのクルマの後輪ロックを防ぐことにある。
マスターシリンダーの油圧は、ある値までは、そのままリヤのホイール・シリンダーに送られるが油圧が規定値以上になると、コントロール・バルブのシリンダーに組み込まれたピストンの直径が段違いになっているため、セット・スプリングの力に打ち勝って、ピストンが移動し、後輪のホイール・シリンダーへの逆路をカットしてしまう。
つまり、ピストンの左右に同じ圧力が加われば頭の広いピストン側から、せまいピストンの方向へとピストン自体がスライドするわけだ。ところが、ある油圧まではセット・スプリングの力で、ピストンが移動しないように押さえつけている。
ところが、ピストンの両面にかかる1平方cm当たりの油圧が大きくなると、両面に働く力が大きくかわってくるので、セット・スプリングの助けだけではピストンの移動を防ぎきれなくなり、オイルの流路がカットされる。そして、マスターシリンダーの油圧が一定値以下になると、再びセット・スプリングがピストンを押し返し、後輪のホイール・シリンダーへのオイル通路を開くわけだ。
さて、プロポーショニング・バルブとPCVの違いは何だろうか。PCVバルブでは、ある一定値以上の油圧を全てカットするのに対し、プロポーショニング・バルブでは、カット点をこえても、油圧を減圧しながら後輪ホイールに伝え続ける点に大きな相違点がある。
さて、PCV方式では、後輪の油圧だけを制限するので、万一、前輪が油洩れなどでノー・ブレーキになった時は、制動力を確保できないという欠点がでてくる。
そこで、前輪ブレーキが効かなくなった場合には、逆に後輪のホイール・シリンダーに高い油圧をかけて高い制動力を確保しようというPCVが現れた。
これが旧サバンナに採用されていたWPバルブである。非常の場合に、ブレーキ・ペダルをさらに強く踏むと、プランジャーがスプリングの力に打ち勝って後輪へのオイル回路を開き、マスターシリンダーとほぼ同じ油圧を後輪に伝えて制動力を高める仕組みになっている。

減速度で作動するGバルブ方式のアンチ・スキッド装置

PCVバルブあるいはWPバルブが、いずれも油圧とスプリングの組み合わせで、一定値以上の油圧をカットしてしまうのに対し、ブレーキをかけた時に働く減速度を感知して油圧をカットするものがある。
これがGバルブ方式のアンチ・スキッド装置で、セドリックやスカイラインに採用されていた。PCVよりも一歩進んだメカニズムであることはいうまでもない。
GバルブのGは「制動減速度」を表わし、このGを感知するために、Gバルブの中にパチンコ玉のような鋼球が入っている。
ボールが内蔵されたハウジングは進行方向にむかって上り傾斜になっており、一定の減速度以上になると、金属のボールが、この斜面をころがりながら上るような仕組みになっている。
ボールはブレーキ液で満たされたハウジングの中で自由にころがることができるが、規定値以下の減速度の時は、ボールの自重のために斜面を上ることができない。
だから、チェック・バルブは開かれたままで、マスターシリンダーに発生した圧力は、そのまま前後輪のホイール・シリンダーへと送られる。
ところが、ある減速度以上のブレーキングになると、ボールは慣性力のためにころがり出し、チェック・バルブを球面で閉じてしまうから、後輪のホイール・シリンダーへの圧力はカットされることになる。
慣性力とは「物体がそれまでの運動状態を保とうとする特性」のことである。たとえば、走っている電車が急ブレーキをかけると立っている乗客が進行方向にむけて将棋倒しになることがある。これも乗客の身体に慣性力が働いたためだ。
さて、Gバルブの特性をPCVとの比較で整理すると、つぎのようになる。
1.フロント・ブレーキに異常があった場合は、減速度が低いので後輪への油圧がカットされない。そのため大きな制動力を保てる。
2.一般のPCVは、積載重量に関係なく油圧のカット点が決まるので、荷重が増した時の利きが悪くなるが、Gバルブでは減速度で油圧をカットするので、そのような欠点がない。
グロリアやスカイラインに採用されていたGバルブはガーリング社の特許によるものだ。このGバルブでは、規定値以下の減速度では、ボールが斜面の下側に落ち着き、前後輪のホイール・シリンダーには同じ圧力がかかっている。
そして約0.4G以上の減速度がかかると、ボールが斜面を上り、チェック・バルブを閉じて、後輪ホイール・シリンダーへの油圧をカットする。ここまでは、一般的なGバルブの作動と全く同じだ。
さて、この状態から、さらに強くブレーキ・ペダルを踏み込むと、前輪にはマスターシリンダーで加圧された油圧が、そのまま入ってくる。
しかし、この時、Gバルブ内のピストンは液圧によって、スプリングのつり合う位置まで移動し、後輪への油圧も上昇することになる。そして、その圧力上昇の大きさは、Gバルブのピストン径が小さいために、マスターシリンダーの油圧上昇分よりも小さい。
このように、Gバルブ(ガーリング製)では、前輪ホイール・シリンダーに加わる油圧に見合っただけ、後輪ホイール・シリンダーへ加わる油圧を調整しながら、後輪ロックを防ぐようになっている。

ABS(アンチスキッドブレーキシステム)のメカニズム

 これまで説明してきたように、ブレーキには様々な方式のアンチロック機構が組み込まれてきた。しかし安全性を大きく飛躍させるシステムが開発された。それがABS(アンチスキッドブレーキシステム)だ。ボッシュによって開発され、1978年にメルセデスベンツSクラスに初めて採用された。
ブレーキ時の4輪の回転、ロック状況を車輪速センサーで検知し、ロックしている車輪のブレーキ液圧を弱め、路面とのグリップを回復させるというのが基本原理だ。この作動は一回のみではなく、電子制御によって、ロックが解除されるまで行われる。
ABS(アンチスキッドブレーキシステム)と一言でいっても、様々なバリエーションがあるが、車輪速センサーの数、制御するタイヤの数によって分類できる。4つのタイヤにセンサーが装着されているのが4センサー、前2個、後ろ1個が3センサータイプ。4つのタイヤのロック制御を個別に行うものを4チャンネルといい、前側の左右を個々に行い、後ろ2輪を一緒に行うのが3チャンネル、前後のみで行うのが2チャンネルだ。国内メーカーで最初にABS(アンチスキッドブレーキシステム)を採り入れたのはホンダで、プレリュードに4センサー・2チャンネル方式を搭載した。
ABS(アンチスキッドブレーキシステム)は滑りやすい路面でブレーキ性能を向上させる装置と受け止められやすいが、ブレーキ性能そのものは向上することはない。一番の目的は車輪のロックを防ぎ、車両の姿勢を安定させ、さらにフルブレーキの状態でもステアリング機能を生かすことにある。
基本メカニズムは、車輪の回転部分に取り付けられたギヤパルサー、ギヤパルサーの回転に比例してパルス信号を発生するホイールセンサー、作動を制御するコントロールユニット、ブレーキキャリパーへのフルード圧を調整するモジュレーター、高圧のブレーキフルードを貯めておくアキュムレーター、アキュムレーターへブレーキフルードを供給するポンプなどから構成されている。
各ホイールに取り付けられているギヤパルサーが、ホイールの回転に伴って回転すると、永久磁石とコイルからなる無接点方式のホイールセンサーの磁束が変化する。これによってコイルにはホイール回転数に比例した周波数信号が現れ、コントロールユニットへ送られる。ABS(アンチスキッドブレーキシステム)の全てを司るのがコントロールユニットで、ソレノイドバルブを精密に制御し、フルード圧を調整する。

現代ABS(アンチスキッドブレーキシステム)のメカニズム

開発初期のABS(アンチスキッドブレーキシステム)と現代のABS(アンチスキッドブレーキシステム)に大きなシステムの違いはないが、チャンネル数の増加に伴って、ブレーキフルードの断続を行うソレノイドバルブが増えている。これによってより細かい制御が行われるようになった。
また、液圧の保持と液の減圧のために、それぞれの仕事を行うソレノイドバルブが設けられている。保持ソレノイドバルブ、減圧ソレノイドバルブの他に、マスターシリンダーと保持ソレノイドバルブの間にマスターシリンダーカットソレノイドバルブを設ける例もある。このソレノイドバルブは、主にブレーキアシスト時の液圧変化を滑らかにするものだ。

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グーネットピット編集部

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グーネットピット編集部

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自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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