故障・修理
更新日:2021.03.18 / 掲載日:2021.03.18
HONDA S600のエンジン全バラ&OH! その2
精密に作られたホンダAS系エンジンだが、補修部品の入手が困難な現代では、様々な部分で昔なら想定外の問題が増えている。現役当時から多くのユーザーが泣かされたトラブルのひとつに「水漏れ」問題がある。高性能ケミカル=シリコン系液体ガスケットの登場で、確かに良い時代にはなってはいるが……。
鋳鉄スリーブをダイレクトに冷却する水冷エンジン。冷却水の影響でウォータージャケット内は、どこもかしこもサビで真っ赤だ。ブロックの孔にスリーブ+Oリングを低圧入し水漏れを防止するが……。
「S600初期シリーズのエンジンをオーバーホールすることになったよ……」といった連絡を頂いた翌日、早速、クラシックロマンの工房を訪ねてみた。すると、ホンダスポーツS600から降ろされたAS285E初期シリーズエンジンは、すでに分解された状態だった。せっかくの機会なので申し出ると、車両オーナーさんからもご承諾を頂くことができ、このオーバーホールの作業実践を、撮影させて頂けるようになった。
ホンダスポーツと言えば「走る実験室」と称されたあの時代のホンダが開発製造したモデルである。あまりに多くの設変/セッペン=設計変更を繰り返したことで、今も昔も修理するのに適合部品を探し出すのが大変なモデルとしても知られている。例えば、同じ名称の部品でも、設変によって形状や締付け孔位置が違っているケースが決して珍しくはない。だからこそ多くの経験とホンダ車に対する勘が、必要かつ重要視されるのが、この時代のホンダ車のメンテナンス。特に、ホンダスポーツに搭載されるAS系エンジンは尚更との評判なのだ。
すでに分解されているAS285E型エンジンのパーツや機関構成を見ても、国内外を含め、他社メーカーとは全く異なる設計思想で開発されたエンジンであることは一目瞭然。中でもS500やS600の初期生産エンジン以前は、後のシリーズエンジンとも違っていて、実際に触れてみると、あまりに細かな仕様違いには、ホンダスポーツの経験者でも驚くことが多いそうだ。
今回は、レストア要素を含めたエンジン本体のオーバーホールを依頼されたそうで、不足部品や異なる部品が組み込まれていないか、適合パーツリスト確認しながら分解し、各種ボルトやスチールパーツは新車出荷時と同じように、ユニクロメッキや黄クロメート仕上げに依頼している。
同年式の純正パーツリストやサービスマニュアルを見ても、確かに設変で部品番号や部品構成が変っている部分が多い。まずは、後々のエンジンコンディションを大きく左右する、ウエットライナータイプのシリンダースリーブやアッパークランクケースに注目。このタイプのスリーブは水漏れが多く泣かされたユーザーが多いはずだ。
ホンダ部品名称「アッパークランクケース」に低圧入されているシリンダースリーブのフランジには複数のネジ孔があり、そこにジャッキボルトを締め込んでスリーブを浮かせて抜き取り分解単品にする。
ウエットライナーと呼ばれる構造を採用しているが、ホンダではあくまで「スリーブ」の部品名称である。AS285E初期生産エンジンまではS500のAS280Eと同じ各気筒がセパレートになったスリーブを採用。
当時のホンダS600用サービスマニュアルから抜粋した手書きのような潤滑経路図。オイルポンプ→濾紙式オイルフィルター→メーンフィルターへ圧送される。
潤滑経路図では「メーンオイルフィルター」と称されるが、これはバイクエンジンで完成した技術のフィードバック。遠心力でスラッジとオイルを分離する。カムチェーンアイドルギヤに組み込まれている。
1960年発売のドリームスーパースポーツCB72では、このオイル濾過システムが高く評価され、その後、数多くの市販車エンジンに採用されている。
ホンダエンジン特有の生産管理ハンコが、このAS285Eのエンジン部品にもあった。スターターカバーの裏側には明確に「39.5.21」。昭和39年5月21日製作の印だ。
今回の組み立てシーンを撮影させていただいたクラシックロマンは、ホンダエンスージャストの間でも有名なビルダーである。通常のオーバーホールではなくレストア要素も加味した仕上げを目指す。
初代S500のAS280型とS600のAS285型でも、昭和39年の初期タイプのエンジンのみ各気筒のスリーブがセパレート設計だが、S600の後期生産エンジンやAS800E型エンジンでは、1/2番と2/3番気筒のスリーブがペアになっている。このペアスリーブはAS800E型エンジンから抜き取ったもの。将来的にはアルミスリーブ化にもチャレンジしたい。