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更新日:2021.07.23 / 掲載日:2021.07.23
電気自動車の使用済み駆動バッテリーはどうなるの?【EVの疑問、解決します】
文●大音安弘 写真●トヨタ
電気自動車(EV)のエネルギー源となる駆動用バッテリーには、高価なリチウムイオンバッテリーが使われています。普及型EVのパイオニアである日産リーフの登場からも、10年以上が経過したこともあり、今後は、使用済みバッテリーの処理も課題となってきます。現在、使用済みとなったEVのバッテリーはどのように扱われているのでしょうか。
電気自動車の使用済み駆動バッテリーはどうなるの?
リユースとリサイクルで無駄なく最後まで活用されます
再生バッテリーは新品の半額以下で提供されることも
日産と住友商事株式会社の合弁会社であるフォーアールエナジー株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:牧野 英治、以下「フォーアールエナジー」)は、電気自動車(以下、「EV」)の使用済みリチウムイオンバッテリーの再利用および再製品化に特化した日本初の工場を福島県双葉郡浪江町に開所した。
EVにリチウムイオン電池が活用される理由は、電圧の大きさやエネルギー密度の高さなどの性能の高さにあります。EVを愛用しない人でも、家電やモバイルバッテリーなどの利用を通じて、リチウムイオン電池の利便性の高さを実感していることでしょう。
その一方で、使用済みのリチウムイオンバッテリーの行方も大きな課題となっています。今、世界が電動車へのシフトの流れもあるのは、皆さんもご存じの通り。その将来を展望した試算のひとつに、米国での2040年の廃棄リチウムイオンバッテリーは、EVのものだけで年間400万トンにもなる可能性を示唆しています。そこで廃棄物を減らすためにも、リサイクルへの取り組みが非常に重要になっています。
現在、EVで使用済みとなったリチウムイオンバッテリーの活用は、リユースとリサイクルのふたつが大きな柱となっています。
リユースというのは、再活用すること。日産では、リーフで使用済みのリチウムイオンバッテリーを再製品化し、交換用バッテリーとして供給も始めています。初代リーフに搭載されていた24kWh容量のリチウムイオンバッテリーは、新品だと65万円もしますが、再生品ならば半額以下の30万円というから、かなりお得です(※価格は2018年当時のもの)。再生バッテリーの活用で、愛車の充電性能の復活させ、寿命を延ばすことも可能。またバッテリーの痛んだ安い中古リーフを手に入れ、リフレッシュさせるなんてこともできるわけです。
もちろん、全てのリチウムイオンバッテリーが、EV用にリユースできるわけではありません。しかし、他の目的でなら、状況は変わります。そのひとつが、定置型蓄電池としての活用です。まだ実証実験がメインですが、ソーラー発電などの再生エネルギーの貯蔵に使われています。また再生時に、リチウムイオンバッテリーのモジュール構成を変更し、電圧や容量を変えることで異なるニーズにも対応できる再生品化も進められています。これならば、小型容量で十分な電動フォークリフトや電動ゴルフカートなどの異なる製品に活用することもできます。
もちろん、最終的には廃棄となりますが、その際には、リチウムイオンバッテリーに使われるコバルトやニッケル等のレアメタル、銅やアルミなどの金属などの資源を出来る限り回収し、再び原料等の再資源化を図っています。貴重な資源である一方、リサイクルのコスト負担が大きい現実も……。そのため、より効率的なリサイクル手法の研究開発も重要な課題となっています。
現時点では、電池性能を最大限リユースすることが最も有効な活用法といえます。再生エネルギーの地産地消化が進めば、価格を抑えられるリユース蓄電池の活用も拡大していくことが予測されます。今、世界が描く電動車の普及は、駆動用バッテリーのリサイクルという課題も含まれていますが、現時点では、ニーズ拡大に遅れを取る供給問題にばかり話題が集中しているのが現状です。しかしながら、電池のライフサイクルを含めた環境負荷低減についての議論も、時間の経過と共に活発化していくことになるでしょう。
執筆者プロフィール:大音安弘(おおと やすひろ)
自動車ジャーナリストの大音安弘氏
1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。