新車試乗レポート
更新日:2022.11.14 / 掲載日:2022.11.01
新型クラウン公道試乗! SUVタイプ「クラウン クロスオーバー」の走りとは
日本人なら知らぬ者のないトヨタの上級セダンだったクラウンが、度肝を抜く大変革を敢行。
賛否両論、注目を集める話題のモデル(2.5ℓ仕様)をついに公道テスト!
憶測はもう終わり。これが新クラウンの正体だ!
●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久


TOYOTA クラウン クロスオーバー G“アドバンスト”
●車両本体価格:510万円
●ボディカラー:プレシャスホワイトパール ※有料色5万5000円高
■主要諸元(Gアドバンスト) ※オプションを含まず
●全長×全幅×全高(㎜):4930×1840×1540 ●ホイールベース(㎜):2850 ●車両重量(㎏):1770 ●パワーユニット:2487㏄直4気DOHC(186PS/22.5㎏・m)+ツインモーター(フロント88kW/202Nm、リヤ40kW/121Nm) ●トランスミッション:電気式無段変速 ●WLTCモード総合燃費:22.4㎞/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)ベンチレーテッドディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)マルチリンク式(R) ●タイヤ:225/55R19



FFベースの4WD×HEV!!
従来クラウンとは異なる
新たなブランドを構築へ
伝統はイメージを固着させる。それはある種の偏見でもあるが、内容が変質していなければ、簡単に本質に辿り着けることにもなる。と言う訳でクラウンなのだが、国産車でも最も長い車史を誇る謂わば伝統の塊のようなモデルだ。
もっとも、継承100%で代を重ねてきた訳でもない。例えばフレーム型シャシーからモノコック型シャシーへ、あるいは直6からV6へ。ハードウェア以外ではゼロクラウン以降のファントゥドライブの強化が挙げられる。ただ、ハードウェアの変遷にしても、走りの志向にしても時代の要求、標準値の変化と換言してもいいが、それに対応したに過ぎず、時代や市場を背景にすればクラウンのポジションは変わっていない。
そして16代目クラウンが誕生。正直驚かされた。「これが新しいクラウンなんですか?」――。
セダンをラインナップしているとはいえ、キャラや適応用途の異なる4車型の構成。クラウンというよりクラウン軍団である。それも各車型ともちょっと外観を弄った姉妹車レベルではなく、カテゴリーまで違えている。
しかも、プラットフォームはGA-K。カムリやレクサスES、RAV4などに採用されているFF車用プラットフォームだ。従来までのクラウンはもちろんFRプラットフォーム(GA-L)を採用。4WDとの組み合わせならパワートレーンの縦置き、横置きの違いになるが、乗り味に影響する部分でもあり、クラウン史上最も大きなハードウェアの改変だ。
そんなクラウン軍団の先陣を飾ったモデルがクラウン クロスオーバー。ちなみに車名はクラウン、クロスオーバーはグレード名である。4車型とも車名はクラウンであり、車型の類別はグレード名による。ヤリス クロスやカローラ クロスはベース車名とカテゴリー名を合体させた車名だが、クラウンは違っていた。クラウンの手法がイレギュラーなのだが、それも新クラウンのインパクトだ。
クラウン クロスオーバーはSUVに分類され、全車とも4WDを採用しているが、最低地上高は145㎜でしかない。最近の乗用車の標準が140㎜前後なので、SUVといってもSUVらしさは前後バンパー下部のデザインやクラッディングの加飾など。全高は1540㎜であり、詳細は不明だが、車体骨格は同時にお披露目されたクラウン セダンにかなり似ている。リヤエンドへと連続するファストバック風のキャビンを採用し、トランクを独立空間とした3BOXボディを採用する。
クラウン クロスオーバーはオンロードスポーツからアウトドアレジャー&スポーツへと嗜好を変えた、アスリートの後継モデルと位置付けてもしっくりくる。
いずれにしても従前のクラウンのモノサシをそのまま当てては量れないのが新クラウン。まったくのニューブランドとして見た方がよさそうである。
公道インプレッション

SUVに王者の血統を加味した「シン・クラウン」

クイックさと穏やかさを
同居させた優しい乗り味
新型クラウン クロスオーバーはハイブリッド4WDのみで2タイプのパワートレーンが設定されているが、今回試乗したのは標準設定にして主力となる2.5ℓ仕様。固有名詞は使われていないが、システムはスプリット式ハイブリッドのTHS Ⅱ、後輪駆動用に40kW同期モーターを用いたE-Fourと組み合わされる。
この2.5ℓハイブリッドは2ℓ超級のトヨタ系主力システムであり、カムリやレクサスESにも採用されているが、ESはFFのみの設定であり、E-Fourとの組み合わせはカムリのほか、RAV4等のSUV系に設定される。滑らかなドライブフィールと優れた実用燃費を特徴とする。
クラウン クロスオーバーでの印象も大きくは変わらない。むしろ同じパワートレーンを搭載するRAV4よりも約100㎏増加した車重等により、穏やかさや滑らかさが増した印象。小気味よさや瞬発力という面では多少の物足りなさを感じるものの、悠々としたドライブを楽しむにはちょうどいい。品のよいドライブフィールだ。
重量があるせいかエンジンの稼働頻度や常用回転域は多少高めだが、元々荒々しさのないエンジンフィールであり、加えて遮音や防振対策により、高速域の急加速もストレスなく使える。
4ドアファストバッククーペのスタイルに225/55R19の大径タイヤとなれば、スポーツに振ったサスチューンを想像していたのだが、パワートレーンと同様にこちらも穏やかな味付け。日常域からストローク感のある乗り心地を示す。段差乗り越えではバネ下重量を感じさせる車軸周りの揺動感も多少感じられるが、粗野な突き上げはない。外観の印象よりも乗員に優しい乗り味だ。
と言っても、ハンドリングがルーズなわけではない。電子制御後輪操舵機構を備えていることもあって、サイズに似合わず初期回頭反応は鋭い。応答の遅れなしに鼻先をインに向けるのだが、初期反応だけというのが興味深い。切り込んで行くと回頭は穏やかになり、安定した挙動でラインに乗る。高速域になるほど安定領域を広く、操舵の神経質さを抑える設定だ。
個人的には初期回頭も穏やかで構わないのだが、操る手応えと懐深い安心感の両立では程よいレベル。高速道路も山岳路も快適安心のツーリングを楽しめる。
ただ、乗り心地にもう少し沈み込むような重量感が欲しい。騒音量に不満はないが、パワートレーン周りやロードノイズに厚みを感じさせるような音質が欲しい。この辺りはGA-Kプラットフォームに対する先入観も影響しているのかもしれないが、騒音や乗り心地のコントロールがカムリ的に思えてしまう。オーナードライバー向けトヨタ車の頂点としては別レベルの質感を期待してしまうのだが。
もちろん、SUV相対なら話は別である。上級SUVでも快適性は間違いなくトップレベルであり、4名がくつろいでツーリングを楽しむなら最上位クラス。クラウンとしてみればもっと重質な味わいが欲しくなるが、クロスオーバーのキャラからすれば、さすがにクラウンの血筋と言う感じなのだ。
加えて、価格は435万円からの設定。カムリの上級グレードとラップしてくる。しかもSUVで4WD。歴代クラウンでもコスパはかなりのもの。この辺りも「シン・クラウン」なのである。
プロフィール
TOYOTA 新型クラウン クロスオーバー
●発表日:’22年7月15日 ●車両本体価格:435万〜640万円



新生クラウンの先陣を切って
登場するSUVタイプ
ザ・ニッポンのセダンとして君臨したきたこれまでの路線から大胆に変革。複数の車型を揃えてグローバルに展開するブランドとして生まれ変わった。その尖兵となるのが前後にモーターを搭載したハイブリッド&電気式4WDの「クロスオーバー」。スタンダードな2.5ℓ(186PS)とハイパフォーマンスな2.4ℓターボ(272PS)が設定されている。
