新車試乗レポート
更新日:2024.05.27 / 掲載日:2024.02.14
中古車価格も高値で推移するNDロードスターをそれでも推す理由

文●ユニット・コンパス 写真●川崎泰輝
スポーツカーの中古車相場がおかしいことになっている。新型車の紹介記事でいきなり申し訳ない書き出しだが、やがてつながってくるので少々お付き合いいただきたい。
そもそもマツダ ロードスターはどんなクルマ?
ロードスターは、1984年4月に初代モデルが登場した2人乗りのオープンスポーツカー。現代のクルマがどんどん高性能化していく流れに反して、軽さ、運転の軽快感、ドライバーとの一体感を大切に設計された。そのコンセプトは世界的に受け入れられ、世界的なヒットモデルになった。2000年には「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」としてギネスに認定され、2011年には累計90万台を達成してその記録を更新している。4世代目となる現行モデルは2014年デビューで、ND型と呼ばれている。
スポーツカーの中古車相場が軒並み高騰

傾向は数年前から始まっていた。欧州の名門スポーツカーの中古車市場、とくにMTモデルが右肩上がりで上昇し、あれよあれよというまに手が届かない金額になってしまった。続いて来たのが国産ハイパフォーマンスモデルのバブル的高騰。もちろんすべてではないが、新車価格をはるかに超えて数千万円、数億円などという、もはやクルマなのか名画なのかわからない領域になっている。
スポーツカーが海外のコレクターのターゲットになっていることや、円安、「25年ルール」など、価格高騰の理由はいくつかあるが、根本的な背景となるのが、純粋な内燃機関を搭載するスポーツカーが終焉に向かっていることだろう。
新車を販売するためには様々な法規をクリアする必要がある。レーシングカーがレギュレーションによりその姿を規定されるように(F1のFはFormula=規定)、市販車は販売する国や地域の規格に沿うよう設計される。たとえそれがスポーツカーにとって不利なものであろうとも。

NDロードスターが2023年10月に大幅な改良を受けたのも、きっかけは法規への対応が求められたからだ。
ハッキング対策のため、車両の電装系を抜本的に新しくする必要に迫られた。電装系を新しくすることでコストは上がり、重量増も避けられない。しかしクリアしなければ販売は続けられない。そこで開発チームは、逆に従来では出来なかった改良のアイデアを盛り込むことにしたという。
新型NDロードスターの主な改良ポイントを改めて羅列すると改良は全方位にわたる。
- ・ヘッドライトとテールランプの変更
- ・新型ホイールの採用
- ・レーダークルーズコントロールなど先進安全装備の進化
- ・マツダコネクトの進化(8.8インチセンターディスプレイの採用)
- ・新型LSDの採用(「S」を除くMT車)
- ・電動パワーステアリングの改良
- ・エンジン制御の改良
- ・モータースポーツ向け新モードの採用
新型はNDロードスターの完成系だ!

これまで毎年のように、改良を重ねてNDロードスターの価値をキープしてきたマツダだが、今回の改良は最大規模になったという。一般的にはマイナーチェンジと呼ばれる規模だ。
改良前のモデルに比べればたしかに重量が増したし価格も上がった。しかし驚くべきことに、旧型と新型を乗り比べてみると、新型は圧倒的にいい。とくにNDロードスターの初期型を乗っているオーナーなら、別物と思えるほどに進化している。
といっても、サーキットでタイムが@秒上がりました……というタイプの改良ではない。そこがいかにもロードスター的なのだが、改良の意図はいわゆる「人馬一体」の純度を高めるところにある。
試乗は伊豆スカイラインで行われた。適度なアップダウンと無数のコーナーが織りなすワインディングロードは、まさしくNDロードスターを楽しむのに最適なステージだ。
旧型と新型を乗り比べてもっとも違いを感じられたのがコーナリングでの安定性というか、意のまま感だ。コーナリングの始まりから脱出まで、抜群にコントロールしやすくなった。
ブレーキング時に車両の姿勢が安定しているし、ステアリングの正確性が高まっているのは明らか。アクセル操作に対するエンジンのツキもよくなった。すべての操作がスパッときまり、余計な微調整が少なくなった。横に乗っているカメラマンによれば、運転がていねいになったような印象を受けたという。
運転は認知判断操作の繰り返しだが、そこにクルマ特有のクセのようなものが要素として入ってくるため、実際には意識・無意識のうちにステアリングやペダルを微調整することになる。クルマに熟練していくというのは、そうしたクセを学びドライビングに盛り込んでいくわけだが、新型ロードスターはその時間が非常に短くて済む。

同時に試乗会に参加した同業者からは、よく出来すぎていてつまらないという感想も聞かれたが、自動車メーカーが目指す方向性としては新型の進化は正しい。味にエッジを立てたいなら、食べ物でいえば調味料を加えるように、アフターマーケットのパーツで自分好みに仕立てればいいからだ。そういう意味で「RS」はまさしく速さ方面のアイテムをトッピングしたグレードになる。
絶対的なスピードよりもロードスターらしい個性を求めるならば、リアスタビライザーを意図的に省いた「S」をオススメしたい。こちらはNAロードスターのような軽やかな乗り味を強調したモデルになる。こうしたグレードごとの立ち位置は従来から一貫している。求める走りの世界や内外装の装いに応じた選択肢があるという考え方だ。

まとめ
NDロードスターが登場したのは2015年5月のこと。なかなかの長寿モデルだが、その販売台数は異例なことに緩やかな右肩上がりを描いているという。だが、NDロードスターをいつでも買えると思っていると、あとで大きな後悔が待っているかもしれない。大きなターニングポイントになりそうなのが2026年7月の騒音規制強化。多くのスポーツカーがこれをクリアすることが困難だと言われており、NDロードスターも例外ではない。
電動化が加速するのに比例するかのように、スポーツカーマーケットも加熱している。事実いくつかのスポーツモデルで、需要と供給のバランスが崩れ欲しくても買えない状況が生まれている。NDロードスターも、まだ猶予があるなどと考えていると、一気に注文が集中して購入できなくなる恐れはある。
じつはすでにNDロードスターの中古車価格は、かなり高値で推移している。2015年登録の物件が支払総額200万円を超えているのだ。10年後のクルマ好きにしてみれば、新車でNDロードスターが買える現状は羨ましくて仕方がないだろう。