新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.07.26
【第7回 テスラ モデル3】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場してきた。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのではないだろうか?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのはまだまだ難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回は、EVの販売シェアで世界一の規模を誇るメーカーへと成長したテスラモーターズの「モデル3」をピックアップ。100年の歴史を持つ自動車産業で革命を起こし続ける黒船の最新モデルは、果たしてどんな魅力を備えているのだろうか?
【第1回 日産 リーフe+】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
【第2回 日産 リーフNISMO】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
【第3回 マツダ MX-30】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
【第4回 ホンダ e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
【第5回 プジョー e-2008】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
【第6回 BMW i3】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
テスラ モデル3のプロフィール
テスラ モデル3
2008年3月、同社初のEVとなる「ロードスター」の量産を開始し、自動車業界に新風を吹き込んだテスラモーターズ。特に、北米や中国、欧州といった巨大市場で人気を集め、2020年には世界で約49万台のセールスを記録した。処女作の登場からわずか10年ほどで世界一のEVブランドへと成長したテスラの勢いはとどまることを知らず、今では北米だけでなく中国の工場でも量産を開始。欧州でもドイツに新工場の建築が進んでいる。
そんなテスラは、現在、ラージセダンの「モデルS」、ラージサイズのクロスオーバーSUV「モデルX」、そして今回採り上げるモデル3を日本市場に導入。また、コンパクトなクロスオーバーSUVの「モデルY」も、近い将来、導入される見込みである。
今回フォーカスしたモデル3は2016年に発表されたコンパクトセダンで、発表後1週間で32万台以上の予約受注を獲得するなど、発表直後から高い注目を集める1台だ。
エクステリアデザインはモデルSにも通じるプレーンな仕立てだが、徹底的なフラッシュサーフェイス化と乱流を抑えるエアダクトの採用、そしてEVらしくフロア下をフラットに仕上げることなどで、Cd値(空気抵抗係数)0.23という素晴らしい値をマークする。
一方のインテリアは、モデルSやモデルXとはかなり趣が異なる。イグニッションスイッチやメーターパネルが存在せず、大半の操作をコックピット中央にある15インチの大型タッチパネルに集約。レバーやボタンといった旧来的な操作系は必要最小限しか存在しない。また、時間の経過とともに改良されるソフトウェアを、大型タッチパネルを介して随時アップデートできるのもテスラならではの美点。これらはモデル3の先進的なイメージを強める要素のひとつとなっている。
そして、イマドキのクルマで気になる安全性も、モデル3は秀逸だ。高強度スチールとアルミを効果的に使い分けることで高剛性を達成したほか、構造自体もひと工夫。その結果、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)のテストで全カテゴリー5つ星を獲得するなど、優れた安全性評価を獲得している。
そんなモデル3は日本市場に3グレードを導入している。デュアルモーターAWD仕様は、ロングレンジのバッテリーを搭載し、567kmの航続距離(WLTP、以下同)と最高速度261km/h、0-100km/h加速3.3秒という駿足ぶりを誇る「パフォーマンス」と、同じくロングレンジのバッテリーを搭載し、580kmの航続距離と最高速度233km/h、0-100km/h加速4.4秒をマークする「ロングレンジAWD」の2グレードを設定。一方、シングルモーターRWD仕様には、スタンダードレンジのバッテリーを搭載し、448kmの航続距離と最高速度225km/h、0-100km/h加速5.6秒という十二分の性能を獲得した「スタンダードレンジ プラス」が用意される。
ちなみに、2021年2月に最大約24%もの値下げを発表したモデル3は、日本での売り上げが急増中だという。先の値下げによって価格面で日本のEVに肩を並べるところか、車種によってはモデル3の方が安いケースも出ているため、モデル3を試してみようという人が増えているのも十分うなずける。
またモデル3は、すべての車両に4年間または8万 km(いずれか早い方)、バッテリーやドライブユニットに8年間または16万 km(いずれか早い方)の保証が付くなど、EVユーザーの安心感をしっかりとケアしている点も見逃せない。この辺りの評価次第では、近い将来、日本でのシェア拡大も十分可能と予想される。
なおモデル3のボディサイズは、全長4694mm、全幅1849mm、全高1443mm、ホイールベース2875mmと比較的コンパクト。都市部での取り回しも苦にならないのは魅力的だ。
■グレード構成&価格
<デュアルモーターAWD仕様>
・「パフォーマンス」(717万3000円)
・「ロングレンジAWD」(519万円)
<シングルモーターRWD仕様>
・「スタンダードレンジ プラス」(439万円)
■電費データ
<パフォーマンス>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:非公表
>>>市街地モード:非公表
>>>郊外モード:非公表
>>>高速道路モード:非公表
◎一充電走行距離
・WLTPモード:567km
<ロングレンジAWD>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:非公表
>>>市街地モード:非公表
>>>郊外モード:非公表
>>>高速道路モード:非公表
◎一充電走行距離
・WLTPモード:580km
<スタンダードレンジ プラス>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:非公表
>>>市街地モード:非公表
>>>郊外モード:非公表
>>>高速道路モード:非公表
◎一充電走行距離
・WLTPモード:448km
高速道路での電費をチェック! 優れた空力性能のおかげで高速走行時の電費低下は最低限
高速道路での電費テストデータ 天候:曇り 「高速その1」時間:6:18-6:61、気温24度、「高速その2」時間:6:48-7:20、気温25度、「高速その3」時間:9:40-10:14、気温24度、「高速その4」時間:10:50-11:09、気温29度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません
高速道路テストはその1とその4が100km/h制限区間、その2とその3が70km/h制限区間で、電費としては前者のほうが厳しく出るのが普通。リアルワールドでテストしている以上、渋滞や工事などで速度域が下がってしまうこともあるが、今回もその1とその3で軽い渋滞が発生し、わずかだが電費に影響した。
その1は速度が50km/h程度まで下がることがあったものの、流れは意外やスムーズで無駄な速度変動は少なく、電費は伸びる方向に。その4が6.1km/kWhなのに対して、その1は7.9km/kWhとなった。その3は完全停止までいかないものの、20km/hを下回ることもあるほど流れが悪く、無駄な速度変動が多かったので電費は悪化。その2が9.3km/kWhなのに対してその3は7.6km/kWh。同日にテストしたレクサスUX300eも同じ傾向だった。高速域での落ち込みが少ないのはCd値0.23の優れた空力性能によるところも大きいのだろう。
ちなみにテスラはバッテリー容量を公開しておらず(推定で54kWh程度)、今回のテスト車であるスタンダードプラスは航続距離が448kmとなっている。これもWLTPモードの数値であり、日本で販売されているたいていの自動車が公開しているWLTCモードとも違う。WLTPモードは、WP29(国連・自動車基準調和世界フォーラム)の乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法でWorldwide harmonized Light duty driving Test Procedureで、試験サイクルはLow、Medium、High、Extra-highの4フェーズ。ただし、120km/h以上の加速などもある超高速域のExtra-highは各加盟国のオプションとなっており、日本は全走行の5%程度に過ぎないため、Low、Medium、Highの3フェーズのWLTC(Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle)を採用。WLTPモードのほうが電費には厳しいのでモデル3がWLTCモードとなれば、もう少し航続距離は伸びるはずだ。
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往路の高速テストコース。東名高速道路 東京ICからスタート。海老名SAまでを「高速その1」、海老名SAから厚木ICから小田原厚木道路を通り小田原西ICまでを「高速その2」とした
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復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った
ターンパイクでの電費をチェック! 車両重量を感じさせない低燃費を記録。走りの良さは群を抜いている
ターンパイクでの電費テストデータ 天候:曇り「ターンパイク上り」時間:7:57-8:13、気温26度、「ターンパイク下り」時間:9:19-9:35、気温23度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません
箱根ターンパイクのワインディングロード上りはどのEVにとっても電費的に過酷だが、モデル3は2.0km/kWh。同日テストのUX300eも含めた全8台のテスト車のうち、3番目に優秀な数値となっている。
上りの電費への影響が大きい車両重量であり、トップのBMW i3は1440kgで2.2km/kWh、2番目のホンダeは1540kgで2.1km/kWh。これまでテストしてきたのは比較的にコンパクトでバッテリー容量も控えめなモデルが多いので車両重量は軽めだが、モデル3は1750kgある。また、バッテリー容量が54.4kWhで車両重量1800kgとほぼ同スペックのUX300eは1.7km/kWhとなっており、モデル3はモーターなど電気系による電費性能が高いことがうかがいしれる。
下りでの回生エネルギーは、車載電費計の推移から推測したところ1.9kWhとなっており、これは全8台のなかでいいほうではなかった。RWD(後輪駆動)はあまり回生を強くできないのでは? と予想しているのだが、ホンダeが1.8kWh、BMW i3が2.5kWhで似た傾向にあるのはみてとれる。
自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した
一般道での電費をチェック! 重量級であることを考慮すると善戦した結果
一般道での電費テストデータ 天候:曇り 「一般道」時間:11:35-12:45、気温30度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません
一般道での電費は5.8km/kWhで、ここはあまり伸びなかった。全8台のなかで最下位となっているが、日産リーフe+の6.2kWh、マツダMX-30 EVの5.8km/kWh、プジョーe-2008の6.0km/kWh、UX300eの5.9km/kWhと近い数値であり、極端に悪いというわけではない。ストップ&ゴーの多い一般道では車両重量が電費にもたらす影響の度合いが強いと思われるが、それを考えれば健闘しているとも言える。
当連載ではなるべく身近なEVからテストを始めてきたため、これまで軽量コンパクトなモデルが多かったが、モデル3はDセグメントでバッテリー容量もそれなりに大きい。今後は重量級モデルもテストするので、そのデータをみれば傾向がはっきりしていくだろう。それにしてもモデル3の電費は優秀だ。テスラは大量のバッテリーを搭載することで航続距離が長く、加速も素早い、いわゆるハイパフォーマンスEVというイメージが強いが、電費性能まで優れているのだから驚かされる。
もっとも、今回のスタンダードプラスは、モデル3のエントリーグレードであり、電費は有利ではある。ちなみに車両重量1750kgで航続距離448km、0-100km/h加速5.6秒、車両価格439万円となっているが、ロングレンジ(デュアルモーターAWD)は1844kg、580km、4.4秒、519万円、パフォーマンス(デュアルモーターAWD)は1844kg、567km、3.3秒、717万3000円。素早い加速やより長い航続距離は魅力であり、上位グレードに目がいきがちではあるが、スタンダードプラスでもちょっとしたスポーツカー並に俊足であり、電費に優れているというメリットはある。リーズナブルなだけではないのだ。
東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した
急速充電器テスト! CHAdeMOにはアダプターを利用。90kWの急速充電にも対応する
海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません
航続距離が長めのモデル3にとって200km強のEVテストは無充電でも余裕があるが、復路の海老名SAで急速充電を使った。テスラはもともとは日本の急速充電規格、CHAdeMO対応ではなかったが、アダプターを装着することで対応。90kWの急速充電器を使用し30分で22.2kWhが充電された。出力は45kW程度だった。
ちなみに同日テストのUX300eは40kWの急速充電器を使用して30分で14.4kWh(いずれも充電器の表示)、出力は37kW程度。50kW以上の出力に、車両側が対応しているのはいまのところリーフe+ぐらいなので、90kWの急速充電器を使うメリットはないと言われるが、40kW以上で充電されるので多少とはいえメリットとなっている。
またテスラの魅力は独自の充電ネットワークであるスーパーチャージャー。今回はテスト前日に木更津で使用したのだが、航続可能距離51kmと下限に近い状態から1時間5分で満充電となった。さすがは120kWの大出力だ。しかも、CHAdeMOは30分までとなっているのに対して時間制限がなく(ただし、満充電を超えても繋ぎ続けると高価になる時間課金制)、6台も設置されていて、コネクターを繋げば自動的に車両情報を読み取って充電が開始されるので、利便性はこの上なく高い。
V3と呼ばれる250kWタイプも設置が始まっている。いまのところ全国で30箇所強といったところだが、首都圏在住ユーザーだったらそれほど困ることはなく、自宅ガレージで充電できなくてもなんとかなりそうだ。大容量バッテリー搭載車は、現状のCHAdeMOでは物足りないので、スーパーチャージャーのようなメーカー独自の充電ネットワークが求められるだろう。
後席足元チェック! 床下はかなりの面積がフラットで足元スペースは余裕。一方で頭上はあまりゆとりがない
テスラ モデル3はどんなEVだった?
テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏
モデルSやモデルXは、そう簡単には手が届かない車両価格だったが、モデル3は一気に身近になった。日本発売当初は511万円からで、プレミアムDセグメントカーと同等であり、EVは高価だというイメージを覆した。さらに2021年2月からは値下げを敢行し、現在のスタンダードプラスの価格は439万円と割安感さえある。
なぜ値下げが可能だったのかといえば、以前の米カリフォルニア工場製から中国上海工場製に切り替わったからだ。また、バッテリーがパナソニック製から、LG化学製かCATL製になったとも思われる。クオリティや性能が下がったわけではなく、逆に最新工場だけあってむしろ上がっている。値下げ後のモデル3には初めて試乗したが、体感的にもまったく問題はなかった。
テスラはOTA(Over The Air)によって頻繁にアップデートが行われるのも特徴だが、今回のモデル3では、スーパーチャージャーを目的地設定すると到着した頃にはバッテリーの温度を最適にして、大出力で充電が開始される機能が追加されていた。
また、EV全般の特徴として80%以上では充電が遅くなるので、テスラでもスーパーチャージャー使用時は80%を上限に設定しておくことを推奨している(今回は取材のために100%とした)。時間課金制なので経済的であるし、おそらくバッテリーの劣化も抑制されるだろう。もともと大容量なので80%でも航続距離は十分なはずだ。テスラのHPによると30分で270km走行分が充電されるとあるので、時間がないときは10-15分程度の継ぎ足し充電でも意味があるだろう。
走行性能や電費性能に優れているのもさることながら、充電の利便性が高いことは、EVライフを始めてみようという大きなモチベーションになりそうだ。
テスラ モデル3 スタンダードレンジ プラス
■全長×全幅×全高:4694×1849×1443mm
■ホイールベース:2875mm
■車両重量:1750kg
■バッテリー総電力量:非公表
■モーター定格出力:非公表
■モーター最高出力:非公表
■モーター最大トルク:非公表
■サスペンション前/後:ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
■ブレーキ前後:Vディスク
■タイヤ前後:235/45ZR18