車の最新技術
更新日:2022.01.07 / 掲載日:2022.01.07
ASIMOの技術を活かした「倒れないバイク」の未来【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】
文●石井昌道 写真●ホンダ
ホンダは安全の取り組みとして、2030年にホンダ車が関与する交通事故死亡者半減、2050年にはゼロを目指すとしている。ホンダは四輪と二輪を販売しているので、ハードルは高いものの相互に連携が取れるという意味では強みとも言えるだろう。
四輪だけの進化では交通事故は無くならない
日本では四輪が起こす交通死亡事故のうち、対二輪の割合は20%近くで、先進国は似たような状況のようだ。それ以上にASEANではホンダの二輪が生活の足になっており、タイでは交通事故死者の74%が二輪関連、そのうち約40%が乗用車との衝突となっており、四輪と二輪が連携して安全を確保していくことは急務でもある。
最新のホンダ・センシング(四輪)は二輪検知付きとなっていて、追突にはすでに対応済み。今後は交差点での直行や右直など、対象シーンの拡大を予定している。
二輪側では、前後のブレーキが連動するコンビブレーキやABSといった先進ブレーキ、視認性・被視認性を高める灯火器をすでに多くのモデルで採用しているが、さらに安全性を高めるべく研究開発が進められている。その一つが二輪車用エアバッグだ。四輪車の側面などに追突したシーンが想定されており、衝突相手を支持部材として、ライダーの頭部を保護する。50km/hで衝突した場合、負傷低減効果はエアバッグ無しに比べて94%も減らせるという。
二輪車用の衝突被害軽減ブレーキも開発中だ。四輪ではすでに義務化されている装備で、馴染みがあるものだが、二輪ではシステムがブレーキをかけるときの減速の度合いなどが難しい。危険が迫ったらライダーに警告で知らせ、それでも反応がなければ弱い減速、強い減速と段階的に介入していく。
ASIMOの技術を活用した倒れないバイク「ライディングアシスト」
さらに先進的な研究開発中の安全装備が二輪姿勢制御のライディングアシストだ。二輪のオートバイが自立し、転倒の不安を低減する夢のようなシステムであり、2017年に初披露されたが、この4年で進化を果たしている。
2017年発表時のものは、前輪のジオメトリ変更機構と前輪操舵制御によって自立を可能にしていたが、最新は後輪が揺れ動くようになった。前輪を制御すると操縦性に違和感があったのだが、それを抑制するのだ。車体と後輪の揺動機構によって倒れていく方向と反対側に車体を動かすことで復元力を発生。実車の様子を見てみると、静止・自立の状態のときはほんの少しだけ車体と後輪が揺れ動いている。試しに横から押してみると、揺動が大きくなってバランスをとりつつ、じょじょに動きが小さくなってまた静止・自立に戻っていく。ライダーが走らせると、極低速域でもフラつきがまったくなく、静止して手足を離しても自立していた。それだけでも安心感が高そうだ。前輪のジオメトリ変更機構および前輪操舵制御も残されているが、作動比率が下がっているので違和感が減り、ユーザービリティが大いに向上している。
アシモなど二足歩行ロボットで養った姿勢安定技術を応用しており、現在のところは立ちゴケ抑制や極低速安定などがメリットとしてあげられるが、前述した衝突被害軽減ブレーキなど先進運転支援技術との組み合わせで安全性を高めていくのも狙い。自立性が高ければ、システムによるブレーキの介入の調整幅を大きくとれるからだ。その他、ACC(アダプティブクルーズコントロール)、LKAS(車線維持支援システム)なども組み合わせて、運転支援の比率を増やせばさらに安全性が高まる。また、安定性が高いので走行性能を向上することも可能で、ファン・ライドとの両立を目指すのもライディングアシストの特徴であり、ライダーの起こしたい/倒したいという意志をくみ取って最適に制御するライダー・マシン協調制御となっている。
技術だけでなくライダーの安全教育にも力を入れるホンダ
二輪での交通事故死亡者を減らすことはハードルが高いように思えるが、まず2030年の半減に向けては、そのうちの20%を二輪検知機能付きのホンダ・センシング(四輪)と二輪安全技術(先進ブレーキ、灯火器)で削減し、残りの30%は安全教育活動で削減することを目指している。ホンダは安全教育活動にも古くから取り組んでいるが、最近の目玉は“世界初 AI×通信技術を用いた人・状況に最適な安全教育技術”なのだそうだ。スマートフォン等によるオンライン講座や日々の運転の中でトレーニングができるという。
その先、2050年に向けてはライディングアシストなど、さらなる先進装備も必要になってくるのだろう。二輪の安全性向上は課題が多いが、それだけに真剣に取り組んでいるのだ。