車検・点検・メンテナンス
更新日:2018.02.05 / 掲載日:2018.02.05
ハコスカDIYメンテ キャブOH【1】

クルマいじりの原点へ! 走れる旧車でメカとメンテを学ぶ
ボタンを押すだけで当たり前にエンジンがスタートする現代のクルマの便利さや安全性とは完全に逆方向へ行くのが旧車の趣味。単に懐かしいとかいうことでなく、カッコよく見えるから不思議。まだコンピューター制御がなく、エンジン始動にさえちょっとした技術やコツ、手こずった時の対処法まで知っている人が尊敬された時代の製品は、まさに人間中心のクルマ。それは、人の操作がエンジンのかかり具合から調子の維持に影響を及ぼし、機械と人間との関係で絶妙なコミュニケーションを要求される。それが旧車という機械の面白さかもしれない。そんなこんなで、AMガレージに持ち込んだのが、1972年のハコスカの最終年のGT-X。旧車いじりといえば、サビ取りが究極形かもしれぬが、某軽自動車のように、いつまで経っても走れないのも困る。そこで、メカいじりを楽しめる上物を持ってきたのだ。
低走行のフルノーマル! ほどよくヘタったハコスカGT-Xを発掘!




ツインキャブレターのL20を搭載、エンジンはオリジナルのままっぽい

現在のコンディション
■エンジン本体のオイル漏れなし
■始動性は良好
■キャブレターの同調不良かバラつき感あり
■アクセルを少し吹かすと息つきする
■せっかくの5速車だがギヤが2、4、Rしか入らない
■リヤドラムブレーキ固着
ブレーキマスターが交換されているようだが、エンジン本体は手つかずに見える。ヘッドカバーやオイルパンからのオイル漏れも見られず、走行距離はホントに4万kmなのだろう。エンジン始動は一発でOKだが、排気音はボソボソというミスファイアが多め。当初はリヤブレーキ固着と5MTが不調のため駐車場で少し動かす程度しかできなかったが、ブレーキ固着は簡単に直ったので、シフトさえ正常になれば走れる。


STEP1 目視点検で不具合箇所を探してみる

動きはするが、完調とはいえぬ
キャブレターはやはりOHが必要だ
この個体は、2年ほど前まではナンバーがあり、その後は定期的に車庫でエンジンをかけるだけになっていた。引き取りは積載車で行ったが、その際のエンジン始動性は問題なく、排気音がボソボソとちょっと失火している程度。ただし、1速が入らずリヤブレーキも固着していたので、積み降ろしには若干の手間が必要だった。
ガレージで再度シフトレバーを動かしてみると、1速だけと思っていたギヤ不調は、3速および5速にも及んでいた。つまり、Hパターンの前半分が全く入らなくなっているのだ。なにかを噛んだのか内部のシフトリンケージ系がロックしているような印象だ。
エンジンは豪華でパワフルなGT-X用のため、SUのツインキャブとなっている。周りを見るとガソリンが垂れ続けた跡があり、下にあるエキゾーストマニホールドにも垂れたシミがある。オーナーによると、日産の協力店でもある地元の整備工場では完調ではないことを把握しているものの、フロートが入手できず、同調も手一杯のところにしているとのことらしい。う~ん、プロが診断しているのなら、AMガレージでよくなるか? 先行き手強そうだが、いにしえのSUキャブレターがどういうものなのか、じっくり見てやろうではないか!









いつの間にかエンジンの下に液体が……。それは何とガソリンで、消火器をスタンバイさせた。










STEP2 点火系内部のコンディションと作動をチェック

完全アナログのポイント式点火システムを微調整
ハコスカのL20の点火装置は、ポイント式のディストリビューターで、定期的なメンテナンスを必要とするもの。ポイントは点火コイルに流れる電流をオンオフすることで、コイルに高電圧を発生させるもので完全なアナログ式。ディストリビューターの中央にあるシャフトには6つのカムがあり、クランクシャフトが2回転するとディストリビューターのシャフトは1回転して6回スパークを発生させる。ディストリビューターはシャフトの先端にあるローターがキャップ内を回っていて、キャップ内の電極へ空中放電させて伝達している。キャップ上にあるプラグコードは点火順序の順番になっているので、ローターが1回転するとすべてのスパークプラグへ高電圧が送られる。
消耗するのは、ポイントを動かしているカムやポイントのヒールと呼ばれるスリッパー部。さらに、ポイント自体も接点がカチカチ開閉していて、電流をカットした時にスパークが出ることもあるので、少しずつ消耗していく。
ポイントにはポイントギャップというのがある。カムの頂点で最大に開いた時の隙間があり、0.45~0.55mmとされている。また、ドエルアングルというものがあり、ポイントが閉じて点火コイルに通電している角度も一定の範囲がある。このエンジンでは、ポイントギャップが狭くなっていてドエルアングルが大きくなっていたので、調整し直した。ポイントの接点自体の荒れはなく、コンデンサーは未チェックだが、今後替えることも検討したいところ。
またプラグコードは2000年製のものが付いていた。コード表面に斑点状のリーク跡などはないが、こちらも完調を目指すなら交換したほうがいいかも。













排ガス対策の点火時期制御とはどんなもの

ハコスカでは昭和48年排出ガス規制により使用過程車に対する点火時期調整装置による排出ガス減少策が実施されている。
この装置は、キャブレターとディストリビューターのバキュームホース間に繋ぐもので、内部には金属の缶が入っている。
機構としては、キャブレター側負圧ホース接続部と内部の空間部にオリフィスがあり、スロットルからの負圧が掛かると、空間部の空気をジワッと吸わせ、ディストリビューターへの負圧(進角)を遅延させる。これでHCが減少する。



ポイントの役目

ポイントは、コンタクトブレーカーポイントとも呼ばれ、点火コイルの一次コイルの電流をカムの回転に連動して断続させる。
STEP3 スパークプラグのコンディション

燃焼室の目撃者は、前後キャブレターのバラつきを証言!
スパークプラグは燃焼室の目撃者とも呼ばれ、使用したプラグをチェックすることで各シリンダーの混合気の状態を推し量ることができる。キャブレターエンジンは、季節による変動や経年変化が大きいので、こまめなチェックが大切。
L型エンジンは、カウンターフローの吸排気なので、プラグは運転席側にズラッと並んでいて、メンテナンス性は抜群によい。しかし、緩めようとしてもネジが固着気味で緩めにくい。一旦締めたりしながら慎重に外していくと、ネジ部のカーボンが多く、5番と6番は座面から燃焼ガスがにじんだような形跡もある。
シリンダー順に並べてみると、2番と3番は真っ黒。それに対して4番と6番は最新のエンジンと同じくらい絶縁体が白くなっている。エンジンは定期的にかけていたとのことだが、走行していないのにこれだけ焼けるというのは、混合気が相当薄いはずである。ツインキャブレターは1~3番、4~6番というグループになっているので、前後で混合気が全く違う濃さになっているのだろう。始動性は非常によいのだが、アクセルをちょっと踏んだ時にスムーズに回転が上がらないのも、リヤ側のキャブレターが非常に薄くセットされているからだと思われる。薄いとススが溜まりにくくてよい半面、ミスファイアしやすくアクセルの開け始めに燃料が遅れたりするとボボボーと回転が付いてこなかったり、トルクがなくて力のない状態になってしまう。バックファイアの原因にもなる。濃い場合も濃すぎになると失火するが、同じズレ方なら、濃いほうがエンジン回転に粘りが出て、すぐ失火とはなりにくい。
プラグとシリンダーヘッドのネジはカーボンを丁寧に落とし、ネジ部に耐熱グリスも塗って、燃焼ガスがネジ隙間へ浸入するのを少しでも防ぐようにした。

スパークプラグを外して、順番に並べるとこのように焼け具合に極端な差がある。フロントキャブレターのグループ(1-2-3)では2番と3番が真っ黒。リヤのグループ(4-5-6)はアイドリングだけなのに、やたらキレイに焼けている。しかもオーバーフローしていたのにだ。

本来は走行後でないと判断できないが、このエンジンではアイドリングだけで代表パターンが揃う。中央の写真は絶縁体の色がキャブ車としては適切なキツネ色だが、ネジ部のカーボンが多い。始動時の濃混合気で生成されたカーボンが焼けきれないのだろう。右側の絶縁体は現在のエンジンではきわめてよい状態だが薄い部類だろう。
プラグのネジ部の端面は燃焼室の一部でもあるので、そこの汚れ方と燃焼室内はある程度連動する。ピストンを上死点にしてプラグホールからのぞくと、プラグのくすぶりが目立つ3番のピストンは黒いカーボンが堆積。
















STEP4 燃料供給系やエンジン本体のチェック
ハコスカは給油口の構造上、水が入りやすいので注意
このハコスカはリヤのキャブレターから常時ガソリンがオーバーフローしていて、なにかの拍子で着火したかも……と考えるととても怖い状況だった。当然キャブレターの不具合を疑うが、旧車の場合は燃料供給系も十分にチェックしておく必要がある。たとえば、燃料タンクが腐食していて、内部のサビやゴミ、水分が送られてくるような状態になると、キャブレター側のニードルバルブがゴミを噛み込んだり、早期摩耗して密閉しなくなることも考えられる。もちろん、フューエルフィルターはあるが、インジェクション用ほど緻密なものではないので、微細ゴミが通過する場合がある。
特にハコスカの場合、トランクリッドの横に給油口があり、その周囲に落ち葉などが溜まりやすく、排水パイプが詰まってタンクのフィラー部に水が溜まることがある。しかもネジ式ではなく、キャップを押し込むフィラーで隙間から浸透する可能性があるのだ。幸い、この個体はオーナーが定期的にチェックしていたので、そこまでひどい状態ではない。タンク内部をチェックするまでは確実なことはいえないが、出たガソリンの色やエンジンの調子をみる限りは問題ない。
燃料供給は電磁ポンプで行うタイプだが、ポンプやフィルターは交換されていて程度はよさそうだ。念のため燃圧を測ったところ、0.25kg/平方cmで適切な圧力と思われる(ポンプの表示値は0.3kg/平方cm)。そうなると、オーバーフローはキャブレター側の原因か。
エンジン本体では、アイドリングでシュシュッという周期的なノイズがあるので、ノイズ源を探したところ5番のプラグ密着不良が見つかった。他のプラグと入れ替えても状況は変わらず、ヘッド側の座面が歪んでいるようだ。
旧車ならではの燃料系の点検ポイント
■タンクのサビ、水の混入がないか
■フィルターや配管のつまりや劣化
■(電磁ポンプ付きの場合)正しい機種か
■機械式は作動、ダイヤフラムが正常か










機械式燃料ポンプの装着例

エンジンのカムシャフトで駆動するタイプの燃料ポンプ。エンジンの回転と連動して燃料が送られる。劣化すると内部のダイヤフラムが破損してポンプが機能しなくなったり、エンジンの取り付け部からオイルがにじむ場合がある。
5番のプラグホールから圧縮漏れが発生していて直らない!






STEP5 キャブレターの取り外し























提供元:オートメカニック