車検・点検・メンテナンス
更新日:2018.02.07 / 掲載日:2018.02.07
ハコスカDIYメンテ キャブOH【2】
STEP1 各部のパーツをチェック!


STEP2 SUキャブレターの作動原理に迫る
全域で作動する可変ベンチュリーが特徴
SUキャブレターはイギリスのスキナー・ユニオン(Skinner-Union)が製作したもので、ローバーミニやジャガー、ロールスロイス、MGなどへの採用でも知られる。日産車のSUは日立が製造していて、フェアレディZやサニーなどにも同方式のツインキャブ搭載車がある。
見た目では壺のようなサクションチャンバーがかわいいが、作動原理としてはコンスタントバキューム式の可変ベンチュリー方式となり、アイドリングから最高出力まで、負圧が一定になるようサクションピストンが動かされてベンチュリー径が変化する。
燃料の供給量の制御は、ベンチュリーの下部にあるメインノズルとサクションピストンのジェットニードルで行う。ニードルはテーパー状で、ノズルとニードルの隙間の変化で吸い出されるガソリン量を計量している。
サクションピストンはサクションチャンバー内に発生した負圧による持ち上がり力とピストンの自重およびバネの荷重がバランスするようになっていて、中央にはオイルダンパーが入っている。このダンパーはサクションピストンの上昇時に抵抗を与えて、スロットルバルブを急に開いた時の吸入空気量を制限する。これによって一時的にベンチュリー部の負圧が増してガソリンが多く供給され、加速ポンプ的な役割をしてくれる。一見シンプルで、いじりどころはあまりないが、見れば見るほど仕掛けの巧みさに感心してしまうのだ。
そもそもキャブレターってどういう原理?

キャブレターはベンチュリー部を通過した吸入空気の流速が上がった時の負圧を利用する。フロートチャンバーの液面の大気圧より、ノズル部の圧力が低下すると、燃料の高さが上がってベンチュリーに取り込まれて吹き飛ばされていく。
SUキャブレターの作動

SUは、すべての運転域で可変ベンチュリー部が働く。吸入空気量に連動してサクションピストンの負圧が変化し、低回転でスロットルバルブを全開にしても、吸入空気量が少ないとベンチュリー部は少ししか開かない。

サクションチャンバーを外して、サクションピストン上部から見ると、ベンチュリー下流にサクションホールがある。ここから負圧がチャンバー内に導入される。つまり負圧が高くなろうとすると、サクションピストンが引き上げられて、負圧が一定となるようにバランスするベンチュリー開度となる。アクセルの踏み込みとは非連動だ。




サクションピストンのオイルダンパー(ダッシュポット)もSUならではだが、これは開き側のみに減衰力が働く。プランジャーがロッドに対して上に動くとオイル流路が閉じ、逆は開くので下がる時は抵抗にならない。内蔵のバネは非常に長いためバネ荷重が一定。




サクションチャンバー上部にはトランスバースホールという穴があり、ダンパー室の容積変化からくるエアの出入りがなされている。

燃料の計量は、ボディのベンチュリー下にあるメインノズルと、サクションピストンの下に突き出したジェットニードルで行われる。サクションピストンが持ち上がるほど、ノズルとの隙間が開き燃料が多く供給される。



アジャストやチョークでのメインノズルの動き


リフターというピンがあり、サクションピストンを手動で上げられる。空気中のホコリがピストンに溜まって動きが悪くなっていないか点検する。押し上げ時はダンパーの抵抗があり、離した時ストンとピストンが下がれば正常。





STEP3 オーバーホール用のパーツとツール

SUキャブレターのパーツで消耗品はほとんど入手できた。インシュレーターはキャブレターとマニホールド間にあり、取り付け面の気密性を得る他断熱機能もある(713円/個)。ガスケットキットはフロート室やバンジョーボルト、オイルキャップナット部などのもの(972円/1キット)。フューエルパイプはフロート下とノズルヘッドを繋ぐゴムチューブで、排気側からの熱で劣化していることが多いので必ず交換する(2927円/本)。フィルターはフロート室入り口に繋がるバンジョー部に内蔵されるもの(184円/個)。< BR> これらの購入先はパワープランニングwww.power-planning.com。この他エアクリーナーボックス側も替えたほうがよかった。

フロート室へのガソリン流入を調整するバルブ。ネットオークションで購入。品名:Fairlady S30/SPL311/SR311 キャブ ニードルバルブ(880円/個、送料510円込みで2270円)。
ダンパーオイルは1基あたり4~5cc必要で、定期的にレベルのチェックや補充を行う必要がある。指定は10W-30のエンジンオイル。今回、本家SUブランドのオイル(1830円 テクニカルトート神奈川 http://technicaltohto.jp/)も購入した。注入にはスポイトがあると便利。



海外から試しに購入したものだが、SUキャブレターのツールキット(2638円+送料1641円)。サクションピストンの作動、同調のチェック、フロートレベル調整、混合気の濃さの簡易確認、メインジェットのセンタリングができるというもの。これは本家のSU用なので日立製SUには使えない部分もあるが、サクションピストンの作動や同調、混合気の濃さの簡易確認はできた。付属のスパナやパイプは厚みや直径で4種のクリアランスゲージとなり、フロートレベル調整に使える(日立製では使用不可)。



エンジンの吸入負圧を測ることで、エンジン本体や吸気系の状態を総合的に診断することができる。バキュームゲージでは負圧だけでなく正圧も計測でき、キャブレター用の低圧の燃圧測定に使用できる。4連タイプは複数キャブレターの吸入空気量のバランス調整時に使用するもので、主にオートバイに向いている(写真はストレート製)。

複数のキャブレター間で吸入空気量を合わせる同調作業に必要。キャブレターの吸気口にあてがい、フロートの持ち上がり量やメーターの指針で吸入空気量を測る。左はイギリスGUNSON製で吸入空気に対して一部のバイパス分を計測する。このタイプではパイパス量を吸入部で調整する必要がある。右はドイツSTE社のフローメーターで、全量を通してフラップの開度を指針の量に示すタイプなので調整は不要。

キャブレターのケース外部、内部のクリーニングに適したクリーナー。溶剤臭が強いので使用時は換気に注意。エンジンコンディショナーは泡タイプが浸透時間が長くて便利、エンジンの燃焼室やプラグホールなどカーボン系の汚れ落としが得意。

アイドリング調整時には10rpm単位まで追えるデジタルメーターがほしい。特にジェットアジャストナットで混合気(CO調整など)を調整する時は、20~30rpm程度の微妙な回転変化を見たい。アナライザーはエンジン回転数はもちろん、ドエルアングルも測れるものが理想。

メカニックスコープでもよい。空間音を聞けるタイプを選ぶ(聴診器は膜面とベル面があるダブルタイプを選び、ベル面を使う)。エアの吸い込み音、圧縮漏れなどの部位特定に。キャブレター同調では作業初期に手早く揃えるのに便利。細いチューブでも代用可能。

汎用のバキュームホースはディストリビューターの負圧進角ホースの交換用。内径4.8φ品がピッタリだった。その隣はホースバンドでキャブレター本体のフューエルチューブに必要かと思って準備したが、今回は使用せず。パッキンは、インテークマニホールドの連通管を外したためにその部分に代用したもの。
STEP4 トラブル箇所をチェックしながら分解スタート!

誰かが一度オーバーホールを行った形跡あり!
SUキャブレターは、一般的なキャブレターに見られるネジ込みタイプのジェット類がなく、構造は理解しやすい。ハコスカのSUは排ガス対策前のものなので、基本形を学ぶには最適といえる。
エンジンから取り外して分かったのは、以前に誰かがいじった形跡があることだ。インテークマニホールドの取り付け面に、硬いワイヤーブラシか先の尖ったもので擦ったような跡がある。分解を進めていくと、フロートチャンバーのカバーにあるはずのコルクパッキンがない。しかも、その接合面にあるパッキンのカスは残ったままだ。これではフロートチャンバーからガソリンがにじんで当然! 仮にオーバーフローしていなくても、クルマが走行すれば内部のガソリンが揺さぶられるので、にじむに違いない。現オーナーや担当の整備工場では手を付けていないようなので、前オーナーの時代にトライされたようである。
フロートチャンバーには、恐らくオリジナルと思われる真ちゅう製のフロートが入っていた。取り出してみると、中に液体が入っていて重くなっている。真ちゅう製でよくあるピンホールとか半田の剥がれではなく、外周部に細かいクラックが入っていた。こうなると再生は難しく仮に塞いだとしても、フロートが重くなってしまう。幸い、日産純正の代替フロートがあるので問題ない。
しかし、キャブレターの専門家がおっしゃるには、真ちゅう製が優れているとのこと。現在販売されている樹脂タイプはオリジナルと形状が異なるため、長期放置などで空になったフロートチャンバーへ燃料を送り込むと、浮き上がる際に傾いて引っかかり、オーバーフローすることがあるそうなのだ。そのため使えるのなら、むやみに替えないほうがいいらしい。




















STEP5 キャブレター本体はスロットルまで分解
一般工具で外せても分解しないほうがよい部分がある
今時のアッセンブリーパーツであれば、非分解部分のビスにイジリ止めトルクスのような特殊ビスを使って、素人が分解できない仕組みにされるなど「イジるな」オーラを発するが、このキャブレターではドライバーやスパナで分解できる部分も重要部のことがあるので注意が必要だ。
まずサクションピストンのジェットニードルは、マイナスビスで固定されているが、一度組んだニードルは非常に固くて抜くことができない。プライヤー等でつまんで表面を傷つけたりすると燃料の計量が狂うので触らないようにする。ぶつけたり転がしたりして曲げると交換部品も入手できず終わりなので保管も要注意だ。また、キャブレターボディのベンチュリー下にあるスリーブセットスクリューも分解しないほうがいい。これはジェットニードルに合わせてセンター位置が決められているので、組み付け時はセンタリングが必要になるし、それには特殊工具と熟練技が必要なのだ。
スロットルについては、この当時はスロットルバルブ(バタフライ)の取り付けビスがカシメられておらず、ドリルで削ったりしなくても分解および再組立ができるが、ビスが振動で落ちたりバルブとキャブレターボアが接触したりすると作動不良を起こしたり、エンジン回転が下がらないなどのトラブルになりかねないので、分解時は十分に注意しなくてはならない。今回は、シャフトの摩耗状態を見たかったので1基だけ分解してみたが、スロットルシャフトを組み付けてから、リターンスプリングを元の位置に戻すのに手こずった。回転方向に作用するスプリングを外す場合は、外した瞬間にクルッと回って、どこに引っ掛けてあったか分からなくなるので、あらかじめメモや写真に残すことをおすすめする。ツインキャブは1基どちらかを見本として残し、2基同時には手を付けないのがいいだろう。























STEP6 エアや燃料漏れを防止するために接合面を研磨する

























STEP7 エンジンに組み付け、油面の実レベルをチェック

フロートのニードルバルブも機能低下していた
ハコスカを引き取ってきた当初は、整備工場への入庫歴もあったので、DIYで改善できるか不安だったが、パッキンやフロートはまだ販売されているため最低限の部品交換ができた。特にフロートはオーバーフローの激しいリヤ側の沈みが大きかったので、今回は多分直るのではないだろうか? それが、安全にエンジンを動かすためのファーストステップになってくる。しかし、この時代のキャブレターはおおらかというか、怖いもの知らずというか、今では絶対にできない構造だ。オーバーフローパイプがオイルパンの横まで延びて地面に近いところで排出する構造も走行風で後ろに飛んで、マフラーに付着する可能性があるのだ。L型のようなカウンターフローで単に下に流すと、排気系のレイアウト上そうなってしまう。とにかく、今までなにもなくてよかったが、ハコスカが今まで健在だったことが危険性の少ない証明になっているのかも?
さて、キャブレターが元通りに組み上がり、エンジンに装着。そこで今度は、フロートチャンバー内の油面を実際に観察する。これはドレンプラグ部にフロートチャンバーに沿った垂直のパイプを立てればよく、今回は自作品で判定した。
結果としては、フロート交換だけでは完全ではなく、オーバーフローこそしないものの、基準位置から油面が上昇する現象が出てきた。フロートレバーも調整しているわけだから、こうなるとニードルバルブが燃圧に負けて密閉不良となりガソリンが止まらないのだろう。
フロートチャンバーカバは上から外せるので、車上でニードルバルブを交換。これで規定の油面高さに下がって、前後とも揃えることができた。
















提供元:オートメカニック