車検・点検・メンテナンス
更新日:2018.07.05 / 掲載日:2018.07.05
【メンテナンス特集】ワンダーシビック

実用性一辺倒だった大衆車が3代目にしてお洒落グルマに変身
自動車メーカーとしてのホンダの名を世界に広めたのがシビック。その3代目として1983年に登場したのが、今回のお題となるワンダーシビックだ。各部にエッジを利かせたロー&ワイドな2ボックスのボディは、当時の日本車にはない、あか抜けたデザインで、発売直後から大人気を博した。さらに1.6LのDOHC4バルブのZCエンジンを搭載するSiが追加されたことで多くの走り好きから愛されるクルマとなった。

あれだけの人気を博したワンダーシビックだが、現在ではかなりの希少車となっている。中古車市場を見てもほぼゼロに等しい数の流通台数となってしまっている。これが単なる不人気車であれば入手が絶望的となるのだが、ワンダーシビックほどの人気を誇った車種だけに今回取材した横浜のボーダレスのような専門店が存在するので、入手難易度は高いものの、気長に探せば入手は可能となっている。
Si(1987年式 MT 標準ルーフ)
●全長×全幅×全高:3810×1630×1340mm●車両重量:900kg●エンジン:ZC型水冷直列4気筒DOHC4バルブ●排気量:1590cc●最高出力:135ps/6500rpm●最大トルク:15.5kg-m/5000rpm●サスペンション形式:ストラット / 車軸式●ブレーキ:Vディスク/ドラム●タイヤサイズ:185/60R14(前後)
25i(1987年式 MT 標準ルーフ[AH型])
●全長×全幅×全高:3810×1630×1340mm●車両重量:815kg●エンジン:EW型CVCC水冷直列4気筒SOHC4バルブ●排気量:1488cc●最高出力:100ps/5800rpm●最大トルク:13.2kg-m/4000rpm●サスペンション形式:ストラット / 車軸式●ブレーキ:Vディスク/ドラム●タイヤサイズ:175/70R13(前後)
アンチFF派も取り込む走りの気持ちよさも備える
ワンダーシビックが登場するまで、シビックはマニアにウケるが、一般の人が「カッコいいから乗りたい」という類いのクルマではなかった。これは70年代のホンダ車全般にいえたことだが、1981年にシティが、さらに1982年にはプレリュードが登場したことで、ホンダ車のイメージが変化し始める。それは3代目として登場したワンダーシビックも同様であった。2代目までのズングリムックリしたフォルムを一新。低いボンネットとルーフは切れのある角張ったラインで構成され、クルマ好きはもちろん、クルマに興味のない女性でもカッコいいと思わせるデザインを身につけたのだ。
ただカッコいいだけではなく、ホンダ車ならではの気持ちのいいエンジンや、それを活かす足回りを備えていたところも、その人気を加速させる要素となった。当時はまだFFという駆動方式が走り好きから敬遠されがちな存在であったが、当時全日本ツーリングカーレースとして始まったばかりのグループAレースのデヴィジョン3に参戦し、その速さをアピール。速く、しかも楽しく操れるFFであることが多くの走り好きにも認知され、走り好きが集まる場所には、なくてはならない一台となったのだ。
そんなワンダーシビックが誕生して35年が経過。現在ではワンダーシビックを見かけることが本当に少なくなってしまったが、そんなワンダーに今乗るならどんなメンテが必要となるのか?
外装部品がないから完全な修理ができない
ワンダーシビックに調子よく乗るためにはどんなメンテナンスが必要かを、ワンダーシビック専門店のボーダレス代表のテツさんと、そのボーダレスで扱うワンダーの重整備を担当しているジャストオンの中丸さんに伺った。
まずはワンダーシビックに乗る上で最もネックとなる部分はどこなのかを聞くと、ボーダレスのテツさん曰く、ボディ関係なんだそうだ。
「サイドモール部やサイドステップ部などサビてしまっているモノがほとんどですし、樹脂パーツは経年劣化で歪みや割れが発生しています。新品があれば問題なく対応できるのですが、全く出ないので、程度のいい中古部品を探す必要があるなど、かなり手が掛かります」
それではボディ以外で、エンジンなどのメカニカルな部分にネックとなる部分はどうか? 重整備を担当するジャストオン中丸さんによると、基本的に丈夫だが、やはり要注意な部分があるそうだ。
「タペット音が大きいエンジンは要注意です。フローティングマウント構造のロッカーアームが高回転まで回した時に外れてしまうことがよくあるんです。サービスマニュアルの規定値内にバルブクリアランスを調整できていてもロッカーアームが外れてしまったことがありました。そんな経験も踏まえ、ウチでは基準値よりも狭いクリアランスで調整しています。こうすることでロッカーアーム飛びはなくなりました」
ロッカーアーム脱落が最大の注意事項。タペット音が大きいエンジンは要調整
【エンジン】ウイークポイントも少なく基本的には非常にタフなZCエンジン
基準値内のクリアランスでもロッカーアーム脱落あり


フローティングタイプのロッカーアームを採用するZCエンジン。バルブクリアランスが広くなると、エンジン高回転時にそのロッカーアームが所定の位置から外れてしまうことがある。バルブクリアランスはメーカー指定値よりも小さくとるのが対策となるようだ。
オイル漏れは、ヘッドカバーとフロントのクランクシールから

エンジンからのオイル漏れポイントのひとつが、クランクのフロント側のオイルシール。リヤ側から漏れることは稀だそうだ。

カムカバーとシリンダーヘッドの合わせ面からのオイル漏れも定番。パッキンの交換時にはバルブクリアランスの調整もするといい。
アイドリング不調はこの部分の不具合が原因

ワンダーのZCエンジンには、いわゆるアイドリングコントロールバルブはない。アイドリングを調整するのはファーストアイドリングバルブというサージタンク後方に備わるバルブ。これが壊れやすく、アイドリング不良などのトラブルを抱えているエンジンが多い。
冷却系のウイークポイントは?

ラジエーターの電動ファンスイッチは、ラジエーターロアタンクにあり。電動ファンが回らない場合は、このスイッチを確認。

丸印の部分にある四角いパーツがヒーターバルブユニットである。これが壊れて冷却水漏れが発生することがよくある。冷却水が減るようであれば、この部分は要チェック。
ラジエーターは真鍮タンクでO/H可能

ラジエーターは純正部品がオール真鍮製。樹脂製のタンクではないので、耐久性も高い。
タイミングベルトは交換しておくのが安心

ZCエンジンのバルブ駆動はタイミングベルトを使用する。特に切れやすいということはないが、予防整備で交換しておくほうがいい。
純正マフラーはサビている場合がほとんど

純正マフラー装着率は低いとのことだが、純正マフラーはサビて穴が開いていることが多いそう。太鼓の出口は特にサビやすい。
燃料タンク内のサビや汚れが不具合の原因となる

長期の不動時期が多い旧車だけに、燃料タンク内のサビや汚れに注意が必要。

燃料タンク内がサビていると、燃料ポンプがそのサビでトラブルを発生してしまうことが多い。ちなみに燃料ポンプはアウトタンク式。

燃料フィルターはエンジンルーム助手席側バルクヘッド部に設置される。燃料タンクを清掃してからぜひとも交換しておきたいパーツ。
【駆動系】大きなウイークポイントはなし。消耗部のメンテでまだまだ大丈夫
特に大きな弱点はないというミッション本体

ミッションは幸いなことにかなりタフなようで、トラブルを抱えていて要O/Hといった状態のものは少なく、そのまま使えるようだ。
ワイヤー式クラッチの樹脂部に劣化あり

クラッチはワイヤー式となる。ワイヤー自体はそうそう切れないようだが、樹脂パーツの経年劣化で不具合を発生することが多い。
ドラシャ挿入部のオイル漏れ

ミッションからのオイル漏れはほとんどないそうだが、あるとすればドライブシャフトの挿入部分のシール切れによるもの。
ドラシャはブーツ切れが日常的に発生

ドライブシャフトはブーツ切れが定番。切れやすいのはインナー側となるが、定期的に切れのチェックをするほうがいいだろう。
シフトリンケージも特に問題なし

シフトレバーからミッションへの伝達はロッド式となる。リンク部のガタなど現在のところ大きな問題は発生していないようだ。
パーツの供給もなくヤレも酷いだけに、程度のよいボディを見つけることが重要
【外装系】樹脂やゴム製パーツの経年劣化には目をつぶるしかない
元々の固定部の少なさが原因でフロントバンパーに歪みが生じる

樹脂製バンパーの上面が歪んでしまっているのはワンダーでは当たり前。ボディへの取り付け部点数が多ければ歪みも発生しづらいと思われるが、点数が少なく歪んでしまう。

サンルーフ付きはレアだそうだが、付いていたら要注意。ウエザーストリップが劣化で歪み、車内への雨水浸入の原因となっている。
サイドモールの下側がサビているのはもはや当たり前といっていい

サイドモールに隠れた部分はサビの発生ポイントとなる。新品モールも手に入らないため諦めるしかない。
水抜き穴の詰まりによるステップ部のサビも定番

水抜き穴が埃などの汚れで詰まることで、ステップ部に水が溜まりサビてしまう。
ステップのサビによりジャッキアップポイントも……

ジャッキアップポイントもステップのサビが原因で使えなくなっていることが多い。
リヤハッチ車定番のダンパー抜け

ハッチバック車の定番トラブルとなるダンパー抜け。ワンダーもほぼ間違いなく抜けているそうだが、撮影車両は抜けなしだった。
チルト式ウインドーの開閉も要注意

チルト式を採用するリヤウインドー。そのウエザーストリップが経年劣化で変形している場合があり、雨漏りの原因となる。
ガラス製レンズは光量不足などの問題なし

灯火類は特に大きな問題はないという。ヘッドランプもレンズがガラス製で、光量不足などの問題は発生していないそうだ。
リヤゲート開口部はウエザーストリップの劣化が原因となり雨水の浸入経路となる


リアハッチのウエザーストリップが経年劣化で切れてしまっていることが多い。交換部品は残念ながらない。スペアタイヤ下に水が溜まっていないか、頻繁に確認しよう。
樹脂パーツの経年劣化や摩耗が原因でドアには2つの不具合箇所あり


ドアのアウターハンドルは樹脂の劣化でヒンジ部が折れてしまうことが多い。またドアロック部も樹脂が削れてしまうことでドアをロックできなくなるというトラブルが発生する。どちらも新品部品がないので厄介だ。
【足回り】シンプル極まりない足回りに致命的な不具合はなし

ショックアブソーバーは抜けている場合がほとんど

スプリングにトーションバーを採用するフロントストラット。フロントショックは抜けていることが多いので交換を前提にしておくといい。
ジョイント部などのブーツ切れは他車同様


シンプルな足回りは、これといって問題となる部分はないそうだ。一般的なボールジョイントやタイロッド関連のブーツ類の切れを確認し、切れていれば交換してやろう。
フロントキャリパーは固着による引きずり多し


フロントがディスク、リヤがドラムのシンプルなブレーキだけにトラブルは少ない。定期的なメンテを施せば特に問題は発生しない。
リヤの足回りも、致命的となる不具合はない

リヤは3リンクとなるリジッドタイプ。プレス成形のアームは華奢に見えるが、現在でも特に問題は発生していないようだ。
【内装系】樹脂パーツの経年劣化によるトラブルはあるが……
ウレタン製純正ハンドルはベタつきが厄介

ウレタン製のステアリングは、グリップ部のベタつきが気になるところ。よく洗浄するなどの対策方法しかないそうだ。
経年劣化によるウインカーレバーの折れ

ウインカーレバーが経年劣化で折れてしまうことがよく起こるそうだ。ここも新品部品がないので、予備の中古を探しておきたい。
バックミラーの樹脂部が日焼けによりみすぼらしく

機能的には問題ないが、バックミラーの樹脂部分が件年劣化で表面が変色&カサカサな状態になってしまう。
サンバイザーは内部の劣化で膨らんでしまう

サンバイザーは、本体の部分が膨らんできてしまうとともに、可動部の動きが悪くなり取り付け部が破損してしまうことがある。
ダッシュボードは割れないが変形していることが多し

ダッシュボードはパッドが入らないタイプなので割れは起こりづらいが、経年劣化により歪みが発生してしまうことが多いようだ。
天井の内装が劣化してボロボロと崩れ落ちてしまう

天井は一体整形トリムとなるが、経年劣化によりボロボロと崩れ落ちてくるような感じで、内張りが剥がれてしまうクルマが多い。

ワンダーシビックをはじめとする70~80年代を中心とするホンダ車を得意とするショップがボーダレス。代表のテツさん(左)自らワンダーシビック乗りということで、ワンダーシビックは特に得意な車両である。そんなボーダレスの重整備を担うのがJAST.ON。代表の中丸さん(右)はワンダーはもちろん、新旧問わず様々な車両のメンテナンスやチューニングをこなす心強いメカニックなのだ。


BORDERLESS
所在地:神奈川県横浜市旭区都岡町19-23 TEL:045-955-3110 URL:https://ja-jp.facebook.com/borderless.cars/
提供元:オートメカニック