車検・点検・メンテナンス
更新日:2018.08.22 / 掲載日:2018.08.22
レースの雄、ラリーの王 SUBARU IMPREZA WRX STi(GC8)
●文:坪内英樹 ●撮影:鈴木軽太郎

●撮影車両オーナー:藤村 亮さん
1995年のWRCで初の制覇(ドライバーズ&マニファクチャラーズ)を果たし、以後1997年までマニファクチャラーズ選手権で、3連覇という偉業を成し遂げたのが、今回このページで取り上げるGC8型インプレッサWRXSTiだ。1992年に登場し2000年に2代目となるGD型にモデルチェンジされるまでラリーカー同様に毎年のように細かな改良を積み重ね熟成された。
「ラリーのスバル」を世界に知らしめた初代インプレッサ
1990年から初代レガシィでWRCにフル参戦をはじめたスバル。当時のWRCは、市販車の基本性能がマシンの優劣に大きな影響を及ぼすグループAがトップカテゴリー。より高い戦闘力を得るべく、ベース車両をより小型の車両に移行するのが当時のトレンドとなっていて、ライバルとなる三菱でいえばギャランからランサーへと参戦車両が変更される。スバルも同様にレガシィからより小型のインプレッサを登用。レガシィで鍛え上げた水平対向4気筒+ターボにフルタイム4WDシステムを組み合わせたパワートレーンを移植し、インプレッサWRXを1992年にデビューさせた。
翌年8月にはWRC参戦を果たし、1995年にはドライバーズ&マニファクチャラーズのダブルタイトルを、さらには1995~1997年まで3年連続でマニファクチャラーズタイトルを獲得し、WRCのスバル、WRCのインプレッサとして世界中にスバルの名を轟かせた。
今回取り上げるのは、そんなスバルの輝かしい歴史を作り上げる先駆けとなった初代インプレッサ。その中でもWRCに直結する高性能モデルであるWRXSTiバージョンとなる。当初はスバルワークスたるSTiが作るコンプリートカー(限定車)として登場したSTiバージョンだが、WRCでの活躍を背景に大人気を博したことからカタログモデルに昇格。現在中古車市場に残るGC8型の多くはこのSTiバージョンとなっている。

IMPREZAWRX(GC8)の入手難易度&購入予算は?
入手難易度:★★★ 中古車相場:40万~250万円
今現在、中古車市場に残る初代インプレッサは、WRXSTiバージョンが大部分を占める。価格相場的には40万~250万円とかなり幅広いが、走行距離が少ない車両と、タイプR(2ドアクーペ)は高値傾向にあるようだ。またSTiバージョンではないWRXはかなり安値がつくようで、性能的にはその価格差ほどの大差がないことを考えると、WRXを購入するのもありかもしれない(リセールは期待できないが)。
SPEC
WRX(1992年式)
●全長×全幅×全高:4340×1690×1405mm●車両重量:1220kg●エンジン:EJ20型水冷水平対向4気筒DOHCインタークーラーターボ●排気量:1994cc●最高出力:240PS/6000rpm●最大トルク:31.0kg・m/4000rpm●サスペンション形式:ストラット(前後)●ブレーキ:Vディスク(前後)●タイヤサイズ:205/55R15(前後)
WRXタイプRASTiバージョンVIリミテッド(1999年式)
●全長×全幅×全高:4350×1690×1405mm●車両重量:1260kg●エンジン:EJ20型水冷水平対向4気筒DOHCインタークーラーターボ●排気量:1994cc●最高出力:280PS/6500rpm●最大トルク:36.0kg・m/5000rpm●サスペンション形式:ストラット(前後)●ブレーキ:Vディスク(前後)●タイヤサイズ:205/50R16(前後)

STiバージョンの名が冠された初のモデル。鍛造ピストンやフジツボマフラー、専用ECUにより250PSを発揮。

このモデルからカタログモデルとなったSTiバージョン。鍛造ピストン、専用インタークーラー、専用ECUで275PSを発揮する。

タービンを三菱からIHIに変更するなどで280PSに。STiはトルクが1.5kg・m高い35.0kg・m。ブレーキもフロントに4ポッドを採用。

これまでセダンとワゴンのみに設定されていたWRXSTiグレードを受注生産という形を取るが2ドアクーペにも設定。

トルクが1.0kg・m増の36.0kg・mにチューニングされた他、RASTiとTypeRSTiのリヤブレーキが対向2ポッド&15インチ化。

WRCのワークスマシンのロードゴーイングモデルとして400台限定で販売される。ブリスターフェンダーや専用パーツ多数。

大型リヤスポイラー(STi)やマルチリフレクターヘッドライト(全車)を装備。また倒立式ショックの採用で(WRX系)高剛性化。

角度調整式のリヤスポイラーや大型フロントリップ(RA除く)を採用。RASTiリミテッド限定でフロントにヘリカルLSDを装備。

カタログモデルではなく、STiのコンプリートカーとして登場したS201。エンジンは300PS仕様で、専用のエアロなどで武装される。
基本的にタフだが、確実に劣化は進行中! 高負荷走行は特に注意が不可欠
純正部品価格が高騰!
モノによってはかなり高価
STiバージョンllがカタログモデルとしてGC8インプレッサのフラッグシップに君臨して今年で23年が経過。そろそろ大掛かりなメンテナンスが必要な時期に差し掛かっているはずだ。そこでここではスバルの専門店であるゼロマックス南関東店でGC8のメンテナンスポイントを伺った。
「GC8は致命的な弱点といえる部分は少ないと思います。街乗りレベルであれば15万kmを超えるような走行距離のクルマでも快調に走ってくれる車体が多いと思います。もちろんオイル交換などの基本メンテを定期的に行ってきたクルマという条件は付きますが」
と語ってくれたのは澁澤さん。
「とはいえ、サーキット走行というシビアなコンディションとなると話は違ってきます。水平対向エンジンゆえにクランクメタルの幅が狭く、メタルが流れてブローとなるのは定番のトラブルなので、サーキットを楽しみたいのであれば、エンジンのOHが前提となりますね」
OHの際の部品は問題ないのか?店長の笠原さんは次のように語ってくれた。
「部品に関しては欠品はまだ大丈夫ですが、部品価格が高価になっているので、ある程度の部品代は覚悟したほうがいいかもしれません。エンジン以外にもミッションをOHしようと思うとかなりの部品代を覚悟する必要があります。ウチでは程度のいい中古に載せ換えるという方法も提案させてもらっています」


ゼロマックス南関東店は、神奈川県相模原市にあるスバル車専門のメンテナンス&チューニングショップだ。今回はGC8のメンテナンスについてお話を伺ったが、最新型や1世代前ぐらいのスバル車に乗るお客さんが多いそうだ。とはいえスバル車専門ということで、少数派といえどもGC8オーナーからのメンテ&チューニングのオーダーにもしっかりと応えてくれる。特に走りを楽しみたいオーナーにはオススメだ。
エンジン
唯一の弱点となるのがクランクメタルオイル管理が重要となる

新車から20年以上経過した今、新車の時と同じ感覚でサーキット走行を行ってしまうと、メタルが流れてしまってエンジンブローなんてことになってしまうので要注意。

タイベルはメーカー指定距離での交換推奨
タイベルはメーカー指定の10万km交換でOK。ただし水平対向という構造上、工賃は嵩むため、ウオーターポンプの他ファンベルト関連など交換できる部品を一気に交換してしまうほうがコスパが高い。



水平対向ゆえにタペットカバー、特に右バンク側からのオイル漏れ多し
オイル漏れの定番はタペットカバー。特にタービンがレイアウトされる右バンク側はオイル漏れしやすい。好調を保つためにマメにオイル交換するのは他車同様だが、10W-50ぐらいのオイルを入れたほうがいいとのこと。オススメはゼロスポーツのチタニウムR。


エンジン後部からのオイル漏れは?
エンジン後端にあるサービスホールをふさぐカバー。前期は樹脂製(写真は後期の金属製)のため、劣化してオイル漏れが発生する。

高圧設定の冷却水路は、ホースの劣化に注意が必要
GC8インプレッサのラジエーターはサイドタンク式でエンジン右バンク上部にリザーバータンクが設置されている。そのタンクとラジエーターはゴムホースやパイプで接続されるという構造となる。


リザーバータンクには1.1kgf/cm2という高圧のラジエーターキャップがつく。ラジエーターやタービンに繋がるホースには高圧が掛かるため、劣化が激しく水漏れが起きやすいようだ。

ノーマルで1.1kgf/cm2と高圧!

プラグ交換は3~5万kmで!コードもそろそろ交換時期
プラグ交換がしづらいEJ20エンジン。メーカー指定では10万kmで交換となるが、3~5万kmで交換したい。またプラグコードもそろそろ交換時期だ。


タービン本体は丈夫だが、過給圧には要注意
タービンのトラブルは少ないが、純正ソレノイドバルブが過給圧を制御し切れないことが多いようだ。対策として社外品のブーストコントローラーを併用するのが定番となる。


エンジン不調時は電装パーツの確認から
ISCやエアフロのトラブルでエンジンが不調となることも少なくない。また02センサー不良でチェックランプが点灯することも多い。
駆動系
ガラスのミッションといわれたが普通に乗る分にはトラブルは少ない

排気管に隠れて見づらいが、当時からガラスのミッションといわれ弱点とされたミッションだが、それは競技などで酷使した際の話で街乗りレベルであれば今でも問題は少ない。

シフトフィールが悪い場合はここを確認!
ミッションのトラブルで多いのが、シフトロッドからのオイル漏れや、リンケージブッシュ劣化によるシフトフィールの悪化だ。

フロント側ドラシャのインナーブーツが切れやすい
ミッションのトラブルで多いのが、シフトロッドからのオイル漏れや、リンケージブッシュ劣化によるシフトフィールの悪化だ。

リヤデフのサイドシールからのオイル漏れあり
デフのトラブルは、特に挙げるとすればサイドシールからのオイル漏れだそう。ドラシャのブーツが切れていることは少ない。
リヤのブレーキ、ハブ、デフのサイズバリエーション多し!改造車の場合は要注意!
足回り
前後ストラットのシンプルな足回りにトラブルは少ない

フロントは鍛造アルミ製のロアアームを有するストラット式。ボールジョイントなどは特にガタが出やすいこともなく、そのブーツも切れやすいことはないという。

アルミ鍛造のロアアーム後ろ側ブッシュに劣化あり
前後にブッシュが配されるロアアーム。後ろ側のブッシュはシリコン封入タイプで、裂けてシリコンが出てしまっていることもあるので、そのような状態になっていたら交換してあげよう。


劣化したフルードがオイルシールを攻撃する?
パワステフルードの漏れが定番トラブルとなるが、劣化したフルードがシールを攻撃するのか、フルード交換を定期的に行うと、オイル漏れが発生することが少なくなるそうだ。

リヤはラテラルリンク+トレーリングアームからなるストラット式。写真のチェリーレッドのアームはSTi製のピロで純正OPT扱い。

フロント対向4ポッド+リヤ対向2ポッドが最強スペック
GC8はパワーアップに従いブレーキも強化されていく。フロントは片押しか対向4ポッドかだが、リヤは片押し、対向の他にローター径の違いもある。引きずりが発生している場合はOH時期となる。


交換時期のショックは社外車高調キットがコスパ高し
ショックは純正形状にこだわるとブーツなどゴムパーツも交換時期となるため、セット交換できる車高調キットへの交換がオススメ。

高性能タイヤがハブベアリングを攻撃!?
前後ともハブベアリングが交換時期となっているものが多いようだ。フロントは音もガタも出るがリヤは音のみという場合が多い。
外装系
腐食によるダメージは少ないがルーフなどの上面塗装部のクリア剥げ多し

腐食によるダメージは少ないがルーフなどの上面塗装部のクリア剥げ多しGC8時代のインプレッサは純正塗装のクリアの耐久性が低いのか、クリア剥げが発生することが多いようで、見栄えをとても悪くしてしまっている車体が少なくない。また樹脂パーツの耐久性も低いようで、ボディ同色のパーツはクリア剥げが発生し、黒いパーツは白く劣化してしまう。特にCピラーに付く黒いカバーが劣化しやすいそうだ。



エアアウトレットから浸入する雨水が……
ボンネットに備わるエアバルジ。通常はエンジンルームに水が入り込まないように樹脂カバーが付いているが、水抜き穴がトラブルの原因となる。

水抜き穴からエンジンルームに浸入した雨水が、ボンネット裏に付く遮音材に染み込み、遮音材が劣化してしまう。

また水抜き穴の真下にバッテリーがあり、オープンタイプのバッテリーを使っていると、バッテリー内に雨水が入り、希硫酸となって溢れ出すことでボディを腐食させることがあるそうだ。

リヤウイング固定ボルトがトランク浸水の原因
リヤのウイングスポイラーをトランクフードに固定するボルト用の穴からトランク内に雨水が浸入するそうだ。ゼロマックス南関東店ではシール材を使って雨水の浸入を防ぐ。

テールランプユニット内への雨水浸入多し
ランプ類はテールランプユニットへの雨水の浸入が定番なんだそうだ。

ヘッドライトユニットはレンズがガラス製ということもあり曇りも発生せずトラブルが少ないという。
内装系
強いていえばシートのヘタリ目立ったトラブルはない内装

内装劣化の定番ダッシュボード割れは稀
ダッシュボードといえばクラックが入ってしまうのが多くのクルマの定番トラブルだが、インプレッサは幸いにもダッシュボード割れが発生することがほとんどないそうだ。

前期のゴム製ブーツは耐久性高し
シフトブーツは途中から見栄えのいいレザータイプになったが、レザータイプは耐久性が低く破れやすい。対して前期型に使われるゴム製ブーツは破れることも少ないそうだ。

ドアハンドルやP/Wスイッチのトラブルはほぼなし
内装のスイッチ類やハンドル類のトラブルも他車では多く発生しているが、GC8インプレッサに関していえばほとんどトラブルが発生することがないという。
提供元:オートメカニック