職人技は端から見ていると簡単そうに見えるが、実際にやってみるとかなり難しい。見よう見まねで同じようにやっても、決して上手くはいかないのだ。溶接はその典型例。基本をキッチリ理解した上で、数を重ねて会得する(身体で覚える)しかない。
まっすぐきれいなビードを 引くのは至難のワザ!
単純にアークを飛ばすだけなら見よう見まねでもなんとかなるが、一定幅に同一ピッチで曲がることなくまっすぐきれいなビードを引くのは至難のワザ。
そこで過去に登場していただいたプロの方々からの助言をまとめてみた。
さて、溶接の基本は基本姿勢をキープしつつ一定のリズムでビードを刻んでいくところにある。そのためにはまず、身体のブレを押さえることが大切で、作業は座って行うのが原則だ。
また、ホルダーやトーチの動かし方には「前進法」と「後進法」という2つの方法がある。「前進法」はこれから溶接する面に向かって右から左へと移動(右利きの場合)する方法で、溶け込みが広く浅くなる。これとは逆に左から右に向かうのが「後進法」で、溶け込みが狭く深くなる。このため、厚みのある物は「後進法」が基本となるが、厚物でもせいぜい3mmのDIYではそれほど深く考える必要はない。自分がやりやすいほうでOKだ。
安全かつスムーズに作業を進めるため、これらも事前に用意!
革グローブ:火花が飛び散る被覆アーク溶接や半自動アーク溶接には溶接用の厚手の革グローブが必須!新たに溶接機を購入しても、こればかりは付属してこないため、忘れずに入手しておきたい。
カストリハンマー:溶接時に生じるスラグは叩いて落とす。その作業に特化した工具が「カストリハンマー」。DIY向けの溶接機に付属してくるものは使いにくいため、これも事前に手に入れたい。
石筆:蝋石を細い棒状に加工した、鉄材へのマーキングに最適な筆記具。
溶接用マグネットホルダー:溶接する鉄材の仮組みに最適な強力な磁力で吸着する、溶接するならぜひ持っていたい補助具のひとつだ。 ホルダーに溶接棒をセットする【被膜アーク溶接の場合】
電源は極力、壁のコンセントからとる/アースクリップを溶接台に確実に挟み込む
電源コードを延長すると電圧降下を起こしてアークが飛びにくくなるため、電源は壁のコンセントからとるのが原則。
どうしても延長が必要なら「電圧ドロップ対応」のコードリールを利用する。
アースクリップを溶接物の金属の地肌が露出した面に挟み込む。
金属製の溶接台を利用する場合、溶接台の脚部に接続する。なお、溶接台はすべての部位が通電しているため台上に置くだけでアースと繋がり便利。これも用意したい用具のひとつに挙げられる。 ホルダーの溝に合わせて挟み込む
ホルダーの挟み込み部には、溶接棒を安定させるための溝が彫られている。
基本的にはその溝に合致するよう挟み込む。
これによって斜めに傾斜した状態でも安定して保持できる。
なお、溶接姿勢によっては保持角90度がベストとなるが、直角溝が設けられていない低電圧用ホルダーの場合、溝を無視して挟み込むしかない。 前後方向は垂直に、左右は後方に傾ける
溶接棒は溶接物に相対して前後方向が90度の直角、左右方向は進行方向から後方(右から左に移動する前進法時)に70~80度傾ける。
溶接中は常に、この状態を維持する。
また、溶接棒の先端は溶接部にピッタリ密着させる。溶接棒先端は一定のクリアランスを保持する物と思いがちだが、離すとアークが長くなって穴が開くので注意! 溶接棒を垂直に保持するため、ホルダーの持ち方に注意!
ホルダーに挟んだ溶接棒の角度が不適切だと、肘が上がって「溶接物に相対して前後方向が90度の直角」という体勢を維持しにくくなる。
溶接棒をホルダーにセットする時は、自然な体勢でその直角を維持できる角度となるよう挟むことが大切だ。
基本姿勢は維持できても、ホルダーを持つ手がブレたら溶接棒先端が狙った位置から外れやすくなり、きれいなビードを引くことができなくなる。このため、溶接時は空いている手をホルダーに添えて安定させること。スパークはブラッシング法がベスト!
溶接棒は一度でもアークを発生させると芯線(金属部分)が溶けてフラックスの中に埋没する。
また、新品でもフラックスに覆われているため、単純に接触させただけではアークが発生しにくい(フラックスは発生したアークで内側から溶けてガス化していく)。
そこで、きっかけとなるスパークを発生させる手段が必要となる。
よく見かけるのが溶接棒の先端を軽くコツコツと接触させる「タッピング法」だ。しかし、パワーが弱い小型溶接機でこれを行うと溶接棒が貼り付きやすい。
横にはらうように擦りつける「ブラッシング法」。
小型溶接機ではこれがベストだ。 捨板でスパークさせて溶接ポイントに移動する
アークが発生して溶接棒が溶けた直後の先端が赤くなっている状態は、溶接物に軽く接触させるだけで簡単にスパークする。
この現象を応用すれば、パワーが弱い小型溶接機でもスムーズにアークを飛ばすことができる。
溶接箇所の近くに捨て板を置き、そこを擦ってスパーク(ブラッシング法)させ、先端が赤くなっている間に素早く溶接箇所に移動させるのだ。 Point 溶接に不慣れなほど自動遮光面が有効!
溶接時は空いた手をホルダーに添 えて安定させることが大切だが、手持ちの遮光面でこれを行うのは至難。
低い位置で構えることで持ち 手を添えるようにすれば可能だが、 慣れないと難しい。
両手が自由に なる自動遮光面なら容易なため、初 心者ほどこのタイプがおすすめだ。 一定の幅、かつ一定間隔で上下に振りながら移動する
鱗が連続して重なっているように見えるビードは、前後に軽くに振りながら移動することで生まれる。
スパークして溶接棒が溶けたら、溶接棒先端が形成されたスラグに半分くらい被る程度の一定の幅、かつ一定の間隔で、軽く上下に振りながら移動する。
なお、仕上がり時のビードの幅が板厚の半分以上が基本。
また、アーク中に溶融池がまるまる見通せる状態だとスラグが流れてビードが汚くなるので注意! スラグ剥がしは溶接面をつけたまま行う
被覆アーク溶接でできたビードの表層は大気を遮断するスラグで覆われている。
このため、作業後にハンマーで叩いて除去する必要がある。この作業時、溶接面を外して作業してしまいがちだが、直視した状態だと飛び散ったスラグかすで目を痛めるので注意!
遮光面を被ったままの状態で行うのが基本だ。
なお、アーク時以外視界が遮られる手持ちの遮光面の場合、保護メガネを併用することをおすすめする。 溶接ワイヤーが供給される【半自動ノンガスアーク溶接の場合】
溶接ワイヤーの先端は斜めにカットする/空いている手を添えて安定させる!
安定した溶接を行うための重要なポイントとなるのが溶接ワイヤーの突き出し量で、適正値は約10mm。
飛び出しすぎた時はこまめにカットする。また、先端が溶けて丸まった時もカットする。スパークが出にくくなるからで、カットする時は斜めに切る。
トーチの保持の仕方や角度も基本的に「被膜アーク溶接」に準ずる。まずはトーチの持ち方。
トーチを持つ手がブレないよう、かつスイッチ操作の妨げにならないよう空いている手を添え、指まわりに空間ができるよう軽く握って支える。 前後は垂直、左右は後方に傾ける/構えを崩すことなく、一定の速度で動かす
次に保持する角度。ノズルが溶接物に相対して前後方向が90度の直角、左右方向は進行方向から後方(右から左に移動する前進法時)に70~80度ほどに傾ける。
また、この際トーチ先端から部材まで10mmくらいの距離感(ワイヤー突き出し量を意識する)を保つ。これが基本の構えで常に、この状態を維持する。
基本通り構えたら、そのままゆっくり横にスライドさせながら溶接する。が、この際、軽く前後に振りながら移動する。
また、アーク中はワイヤー突き出し量が適正値の10mmを保てるよう送り出し速度を調整する。初めてなら半分の位置で試し、ビード形状や溶け込み具合をみながら前後させて最適値を探る。 被膜アークより量は少ないもののスラグは発生する
半自動ノンガスアーク溶接機も被膜アーク溶接ほど多くはないものの、スラグが発生する。
このため、溶接後はハンマーで叩いて除去する必要がある。
ただし、DIY向けのφ0.8~0.9mmの細いワイヤーだと薄すぎてハンマーでは叩き切れずに残りやすい。
確実に処理するために打撃後、金属ブラシでキッチリ擦り落としておきたい。 縫い合わせる感じに振り幅が均等になるよう動かす
溶接の最も基本となるテクニックが、同じ厚みの2枚の鉄板を突き合わせて接続する「突き合わせ継ぎ手」。
布を縫い合わせる感じに、双方に同じ幅に振りつつまっすぐ動かすことで2枚の鉄板に均等に熱を加えるのがポイントだ。
このように片側にボテッと盛り上がってしまったら失敗!
裏を見れば一目瞭然で、片側の鉄板にほとんど熱が伝わっていない。
均等に熱が加われば突き合わせ面を中心に同じ幅で横に広がったビードに仕上がる。
裏面もこの通り、同じ幅に均等に熱が伝わっている。 すみ肉は上下にジグザグに振りながら移動する
すみ肉とはほぼ直角に交わる2平面のすみ(隅)に溶接を行うことで断面が三角形状になるように仕上げるが、慣れないと材料のどちらかに片寄りがち。
それを防ぐためトーチを30度くらいの角度で保持し、若干手前を狙う。
そして、後方に軽く傾け、均等に溶かし込むために上下交互に2つの材料に行き来しながら糸で縫うように移動させていく。【Point】チップは径別かつ消耗品。予備の用意を忘れずに!
ノズル先端に取り付けられたチップの周囲には溶接カスが付着しやすく、放っておくとワイヤーを通す穴が詰まって出が悪くなるので注意!こまめにチェックしてスムーズに送り出せる状態を保つ必要がある。
また、チップは消耗品、ある程度の時間使用すると穴が歪んでケーブルが引っかかるようになる。このため、予備は必須。必ず用意しておきたい。
提供元:オートメカニック