故障・修理
更新日:2023.01.31 / 掲載日:2023.01.31
自動運転への期待と課題-自動運転について掘り下げる
近年、交通事故による死者数は減少傾向にある。2021年中の交通事故による死者数は2636人と5年連続で戦後最少を更新しており、今後も様々な試みを行うことでさらなる削減を図ることが期待されている。そのカギを握っているのが自動運転の高度化による事故の減少である。
自動運転車はドライバーが果たすべき義務を遵守するようにプログラミングされているため、制限速度や一時停止などドライバーが見落としがちなルールを常に守る。また、いざという時には歩行者などの交通弱者を優先するため、死亡リスクの低減につながる。
つまり、自動運転車のシステムが100%機能する限りにおいては、死亡事故の大多数を占めるヒューマンエラーによる事故の大半を防ぐことができるようになる。
リスク管理が大きな課題に
一方で、実用化に向けた課題として挙げられるのが、技術の向上はもとより、リスク管理だ。
道路交通法などの法律で定められる基準はあくまで最低限のものであり、「許容可能なリスクレベル」(ベネフィットを考えた場合に仕方なく受け入れようとするリスク)に留まる。
つまり、自動運転が広く社会に受け入れられるためには、許容可能なリスクレベルではなく、「受容可能なリスクレベル」(誰もが気にせず受け入れられる程度のリスク)にまで高める必要がある。
現実的にリスクゼロはありえないので、自動運転について「どこまでリスクを下げれば安全といえるか」についての基準を設ける必要がある。
安全担保にも課題が・・・

自動車の安全担保にも課題がある。従来、ドライバーは運転免許制度により正しく認知・判断・操作できることが担保されていた。正しくできなかった場合は道路交通法により免許取り消しや刑事罰などで対応していた。
それに対し、自動運転車はシステムが制御するため、道路交通法は適用されず、道路運送車両法のみが適用される。自動運転の目指すべき目標は「人身事故ゼロ」という高い目標を掲げるのが理想だが、現状の技術では現実的ではない。
国連では自動運転車の安全目標として「許容不可能なリスクがないこと」、つまり、自動運転車の走行環境条件において、「自動運転システムが引き起こす人身事故であって合理的に予見される防止可能な事故が生じないこと」と定めている。
自動運行装置の条件

道路運送車両法では、自動運行装置の条件として「操縦に係る認知予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるもの」としている。
現状で使われているものでは、高速道路で60キロ以下の同一車線走行を行うシステムの「低速ALKS」の基準が一例となる。ALKS法規基準であるUNR157では「他者との衝突のリスクを、少なくとも有能で注意深い人間ドライバーが最小限に抑えることができるリスクレベルまで安全を確保していること」としている。
参考までに交通安全環境研究所では、法律上と社会受容の双方で求められる自動運転車の安全性能は「プロのドライバーが注意散漫でない状態で運転しているレベル」と想定している。
ルールのアップデートが必要
レベル3以上の自動運転車が普及期に入った場合、今の基準以上のスペックを持つシステムが一般的になり、より高い安全性能が求められることが予想される。
また、レベル4自動運転車では、事故時の責任が避けて通れない問題になる。責任の所在は自動車メーカーや使用者だけでなく、自動運転ロジックのプログラミングを行ったプログラマーが問われることもあり得る。
それに加え、AIが理由で起こった事故と判断された場合は、責任問題はさらに複雑化する。自動運転は技術の向上とともに、ルールもアップデートしながら設定する必要がある。
乗り越える課題は多いが自動運転のメリットは大きい
普及期に突入しているレベル2自動運転技術は交通事故の削減に大きく貢献している一方で、機能の誤認による事故も発生している。
レベル2は運転者が前方・周囲を監視して安全運転を行うことを前提に車線維持機能や車線変更支援、衝突被害軽減ブレーキを作動させているが、これらは運転補助機能であり、運転をシステムに委ねることは想定していない。また、作動条件を満たしていても天候や周囲の交通状況によって適切に作動しなくなることがある。
近年は技術の進歩によりレベル2であっても一定の条件で手放し運転ができるような車も増えているが、いずれもドライバーの介入が不可欠だ。しかし、そのことに対する周知徹底は不足している。自動運転の普及にあたっては、こうした知識をユーザーに広く認知させることが重要になってくる。
自動運転技術は交通事故の削減だけでなく、高齢者の移動支援や渋滞の緩和による交通の円滑化に加え、技術をパッケージ化することで自動車産業の国際競争力を高めるなど様々な面でメリットが大きく、これらの課題解決が待たれるところである。
出典:アフターマーケット 2023年 1月号