>トヨタ86のパワートレーンを完全オーバーホールしてみた【Overhaul 04】
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故障・修理
更新日:2019.01.03 / 掲載日:2019.01.03
トヨタ86のパワートレーンを完全オーバーホールしてみた【Overhaul 04】
サブアッセンブリー単位での分離が終わり、ここからはさらにパーツごとに分解する作業を進めていく。今回はシリンダーヘッドを分解し、カムとバルブを取り出すのだ。
シリンダーヘッド(燃焼室側)
2つのシリンダーヘッドを並べると、左右バンクの前後位置の差から、前側の形状が大きく異なるのが分かる。排気ポートの出口位置(写真では中央側)も違っているので、それぞれ全く別の造りになっている。 燃焼室のカーボンは薄く、コンディションは直噴としては良好なもの。スキッシュは斜めに傾斜している方式だ。
【PART1】軸受け部の摩耗が意外に目立つ カムシャフトの取り外し
強く密着しているのでこじって外す
カムシャフトの軸受け部キャップを外すが、前後は液体ガスケットが使用されているのでこじって外す。 ボルト穴の周りにも液体ガスケットが使われている(黒い輪の部分)。 キャップの合いマーク
各キャップには吸排気の区別、順番、シリンダーヘッドの識別記号がある。 軸受けの穴を組み立てた状態で加工する都合上、組み付け時は元の位置に戻す必要がある。これを確認すれば、左右バンクでも入れ違うことはない。 VVTがズシリと重いカムシャフト
中間部のベアリングキャップを外す。キャップ側には位置決めのノックピンが付いている。 後端側も液体ガスケットが使われているので、ドライバーでこじり上げて分離。 カムシャフトを外す。今回はスプロケットごと外したが、本来はカム単体になっているべきもの。スプロケットはVVT機構内蔵で、ズシリと重い。カムシャフト自体は中空なので軽量だ。 下側にあるオイルスペーサーを外す。カムは、一番前の軸に傷が目立つ。 スプロケットには識別の記号があるので、左右バンク、吸排気が分からなくなることはない。後ろ側には吸気にMPLと記載。排気側はEXHと刻印。ボルグワーナー製でチェーンケース前にあるソレノイドで制御される。 カジリ跡が目立つ 【PART2】D-4Sのためか、汚れは最小限 吸排気バルブの取り外し
高圧ポンプのハウジング外し
左バンクには、直噴の高圧ポンプがあり、取り付け部は鋳鉄製のハウジングが付く。これも液体ガスケットで強力に貼り付いているが、引き抜く。 プラグホールは傾斜している
バルブスプリングは上側を示すグリーンのペイントが塗布されている。巻きの密なほうが下側となる。プラグホールは、このように傾斜している。 バルブスプリングコンプレッサーでリテーナーとスプリングを外す
リテーナーを叩く方向もあるが、ステムに傷を付けることがあるので一つ一つ静かに外す。あらかじめ、バルブに左右および吸排気、位置番号を記入。スプリングコンプレッサーをセット。 バルブの中心部にコンプレッサーの円板をセットし、ヘッド内面に直接当てないようにする。 リテーナーを押し込んでいくと、ゴキッという感触と共に噛み合いが外れてスプリングが縮む。 マグネットでリテーナーロックを取り出す。これは2つある。 コンプレッサーをゆっくりと外して、リテーナーとスプリングを取り出す。 バルブを燃焼室から抜き取る。 ポート噴射併用で吸気バルブの汚れを抑制か
FA20のシリンダーヘッドは、ローラーロッカーアームを介したバルブ駆動を採用していて、ヘッド自体はカムハウジングと分離するようになっている。ヘッド自体を取り外す時点で、カムハウジングは分離してあるので、今回はカムシャフトの取り外しから開始する。カムシャフトは3か所の軸受けがあり、それぞれにキャップが設けてあるが、スプロケットの直後にある部分は吸排気側で連結されている。中間部は一般的なものだが、後方にあるものはリヤ部のカバーも兼ねている。また、A/T仕様では右バンクの吸気側にバキュームポンプを駆動する取り付け部があり、M/T用はプレートでふさがれている。このような構造のため、前後のベアリングキャップの取り付け面にも液体ガスケットが塗布されていて、外す際は、合わせ面をこじって浮かす必要がある。
カムシャフトのスプロケットは、スバルではデュアルAVCSという、吸排気の可変バルブタイミング機構が付いているが、吸気側は中間ロック機構を持っている。取り外すとスプロケットがかなり重く、1kg以上あるようだ。これのためなのか、カムの軸部にはかなりの摩耗跡がある。初期段階でのなじみにちょっと問題ありといえそうだ。
ヘッドで気になっていたのは、燃焼室や吸気バルブの汚れだが、FA20は直噴とポート噴射を組み合わせたD-4Sなので、シリンダーヘッドやピストン上面の燃焼室には薄いカーボンがある程度。また吸気バルブの傘部にも薄いカーボンがあるが、吸気を大きく阻害するほどではないので、ポート噴射がかなり効いているのだろう。
バルブの汚れ
完全なポート噴射式と比べると汚いが、直噴としてはキレイな部類だろう。これはD-4Sのポート噴射モードで洗浄されるからだろう。 白い灰が薄く付着。燃焼が高温で行われているためか? 効率のよさを示しているように見える。ナトリウム封入なので廃棄時は注意。 吸気ポート
異例に大きな吸気ポート。NAでの高出力を狙い大量の吸気を取り入れるためだろう。AE86の4A-Gを思わせる横楕円だ。 ポート内部は全体的に黒い被膜で覆われているが、吸気を阻害するほどではない。 排気ポート出口はオフセットしている
乾いたカーボンが付着する正常なもの。これは左バンクだが、4番ポート出口は前側に向けられている。 出口側から見ると、2番はそのまま燃焼室が見えるが、4番は見えない。これは車載でのレイアウトのため。 車載でのレイアウトを考慮
スプリングシートをマグネットで外す
バルブスプリングとシリンダーヘッドの間に薄いスプリングシートがある。オイルで貼り付いているので、マグネットで吸着して外す。 【PART3】液体ガスケット剥がしがこの上なく面倒で時間がかかる…… カーボンとガスケットのクリーニング
ステムシール抜き取り
バルブステムのオイルシールを専用プライヤーで抜き取る。このエンジンでは、前ページで外しているバルブスプリングシートと順序の関連なく脱着できる。 用意したツール
このエンジンで最も大変なのが、液体ガスケットの除去なので、ツールはいろいろ試してみた。 このほか、カッターの刃も使っている。 一番便利だったのが、コーキング落としヘラ。先端部で各ケースの内側にある傾斜部のガスケットを効率よく剥がすことができた。 カーボン落とし
ピストンのカーボン落とし。エンジンコンディショナーを使う。 かなり頑固なので、シャーレにうつぶせに置き、漬け置き洗いした。 本来の色が出てきた。茶色の部分はアルマイトなのか? 補強部っぽく見える。 【POINT】斜めスキッシュ部
このエンジンの燃焼室には、他のトヨタ車にも採用される斜めスキッシュが採用されている。 これにより、スキッシュで押し出された混合気はプラグ側へ向かうことになり、燃焼を改善する。 剥離剤を使うとさらにスピーディ
強固なカーボンは、ペイント剥離剤やガスケットリムーバーを使うと簡単に剥がれる。写真では素手だが、成分が強力なのでゴム手袋やゴーグルを着けたい。 吹き付けて数分おくと、ペロリと剥がれる。 本来のアルミ色が露出。 洗いにくいポート内面もスピーディに洗浄。このケミカルはゴムや樹脂にも作用するので、OH時しか使えない。 液体ガスケットはブレーキクリーナーでふやかす
ブレーキクリーナーを吹き付ける。 厚みのあるところはあらかじめカッターナイフやスクレーパーで切り落とす。 合わせ面の内側は彫刻刀でやってみたが、これは結構よかった。 薄く残った部分は、ブレーキクリーナー吹き付け+コーキング落とし。これが一番根気のいる作業。 ブラシも併用するが、とにかくブレーキクリーナーが大量に必要。 剥離剤も液ガスには効果がない
ほぼすべてのアッセンブリー部が分解できたので、パーツの洗浄を始める。まずは燃焼室や吸気系のカーボンだ。これは単に黒いカーボンに見えるのだが、直噴の場合は従来型のポート噴射と全く質が異なるように思える。以前にも、トヨタのV6直噴エンジンの吸気バルブクリーニングを行ったが、通常のエンジンコンディショナーでは、なかなか溶解しないのだ。これはブローバイガスのオイル分と燃料分や、吹き返しの排気が混ざるせいなのか、とにかくガンコ。今回はOHしているので、パーツを漬け置きしているが、短時間で済ませるなら剥離剤(リムーバー)が便利。塗装を剥がす時と同じように、吹き付けて、しばらくすると黒い膜状にペロッと剥がれてくる。
このエンジンで、もう一つ問題なのが液体ガスケットの除去作業だ。分解時に感じた強固な貼り付きから想像できたが、非常に取りづらい。こちらは剥離剤はほとんど効果がない。液体ガスケットを製造しているスリーボント製も試したが、全く効かず乾燥してしまうくらいだ(この膜が取りづらく、さらに洗浄に時間がかかる)。結局のところ、ブレーキクリーナーでふやかしながら樹脂ベラで削るのが確実。このほか、ホワイトガソリンなども効果がありそうだ。プロでもこの作業では苦労しているようで、液体ガスケットを素早く剥がすケミカルやツールが市販されれれば、かなり売れるんではないかとすら思えるくらいだ。とにかく新生代ボクサーは洗浄に時間がかかる。
新世代ボクサーの主要構成パーツ
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