故障・修理
更新日:2019.10.01 / 掲載日:2019.10.01

ドラムブレーキの種類とそれぞれのメリット・デメリット

ドラムブレーキには、2リーディング、リーディング・トレーリング、デュオサーボなど複数の種類があり、それぞれ特徴が異なる。今回は、ドラムブレーキの種類を紹介するとともに、それぞれのメリット・デメリットを解説する。

〔アンカー・ピン型とフローティング型のシュー〕

 新車のカタログをみるとブレーキの項目に、2リーディング、リーディング・トレーリング、デュオサーボといった文字が書き込まれている。これらはドラム・ブレーキの名称で、それぞれシューの取り付け方法、シリンダーの数、型式によって分類されたものだ。
 まずドラム・ブレーキをシューの支点が固定されているか固定されていないかで区別すると固定型(アンカーピン・タイプ)と浮動型(フローティング・タイプ)とになる。

■【ドラムブレーキ】固定型シューの特徴
 固定型ではマンガでみるようにシューの下端がアンカーピンで固定され、シューの上端がホイール・シリンダーのピストンで押されるようになっている。
 ドラムには2枚のシューが組み込まれているが、進行方向側をプライマリー・シュー、後退側をセカンダリー・シューと呼ぶ。そしてどの型式のブレーキでも前進時にはプライマリー・シューがドラムの回転方向へとくい込み、ホイール・シリンダーのピストンから与えられた圧力以上の摩擦力が働く。これが前にも述べたセルフ・エナージェイジング現象である。そして、セルフ・エナージェイジング現象が働くシューをリーディング・シューと呼んでいる。

■【ドラムブレーキ】浮動型シューの特徴
 さて次頁(右)のマンガではセカンダリー・シューが前進時にドラムから押しのけられるような作用をうける。これがフリーリング作用で、このように作動するシューがリーディング・シューと呼ばれる。リーディングとかトレーリングといった用語は、ブレーキだけではなくサスペンションやエンジンにも見受けられる。
 たとえばリーディング・アーム、トレーリング・アーム、リーディング・プラグ、トレーリング・プラグといったものがその一例。リーディングは「能動的」、トレーリングは「受動的」といいかえてもいいのかも知れない。同じようなシュー配列でも、シューの下端をピンで固定せず、ピンを停止金具として、すこしシューの下端が摺動するようにしたのが浮動式だ。

■【ドラムブレーキ】固定型と浮動型、それぞれのメリット・デメリット
 浮動式の長所はセルフ・センターリング作用にある。つまりドラムとライニングの曲面の形状があっていれば、組み付けたままにしておいても、ライニングが減るにしたがって、ライニングの厚さに適した位置までシューが自動的に動くという特徴をもつ。
 だから、ブレーキの調整はドラムとブレーキ・ライニングとのクリアランスを調整するだけでよく、整備性がよいというメリットがある。そのため、現在の乗用車には、この浮動式がもっとも多く採用されている。またブレーキ・クリアランスも自働調整になっている。
 ただし、シューが浮動しているために、ライニングの引きずりを起こすことがあり、このトラブルを防ぐためには、シューを常にバネで中心方向に引き戻しておく必要がある。また、ブレーキを多用したり、大きな荷重をかけるとガタが出やすいのも欠点の1つだ。
 その点、固定式は構造上、耐久性がありガタが出にくいので、大型トラックなどに好んで採用されている。ただし、シューがアンカー・ピンを支点として左右に開くので、ライニングの上端が早く摩耗するという欠点をもつ。そのためブレーキの片利きが出やすく、ライニングの整備性も決して良くはないのだ。

LTタイプドラムブレーキのメリット・デメリット

 これはリーディング・シューとトレーリング・シューを組み合わせたタイプで、固定型と浮動型の二種類がある。
 リーディング・トレーリング(LT)型は、もっとも歴史の古いものだ。トレーリング側のブレーキは、あまり利かないから、制動力はとくに大きくはないが、ライニングの摩擦力に対する制動力の変化が比較的少なく、それだけ制動力が安定しているのが大きな特徴。
 また、クルマがバックするときは、LTの関係が逆になってセカンダリー側がリーディング・シューとなり、後退時も前進と同様な制動力を発揮する。ホイール・シリンダーは1個でよく、パーキング・ブレーキの組み込みが容易でコストが安いことも利点である。
 しかし制動力はあまり大きくないので一時は採用車が減った。だが最近では安全対策上、後輪ロックを防止する必要からその安定した制動効果が見直されて、国産乗用車の多くが後輪に、このLT型ブレーキを採用している。

リーディング型ドラムブレーキのメリット・デメリット

 LT型のトレーリング・シューでロスしている制動力を、なんとか取りもどそうと考え出されたのがこのタイプ。これも歴史は古いが、その高い制動力が買われて、現在でもディスク・ブレーキを採用していないクルマの前輪に、多く使用されている。
 2リーディング型では、自己倍力作用のあるリーディング・シューを2個使っているので、大きな制動力が得られる。
 またドラムに平均した力が加わるので、ドラムの変形が少なく、それだけドラムを軽量化できるし、ライニングの摩耗も平均している。またシャフトに無理がかからないのも利点だ。
 ホイール・シリンダーは、シングル・ピストンのものを2個使用。シューはフローティング型が多い。
 こう説明すると、2リーディング型は結構ずくめのようだが、なかなかどうして、そうウマイ話はない。もし、このブレーキ・ドラムが逆に回るときはどうなるか。 2リーディングは、たちまち2トレーリングとなって利きがガタ落ちになる。つまりバックに弱い点が、大きな欠点だ。
 しかし、これをフロントにだけ使いリヤには前述したLT型を使えば、問題は解決する。もともとクルマがバックするときにブレーキをかけても、前輪が浮き気味になるから、ブレーキを利かせたところであまり意味はないわけである。

デュオ・サーボ型ドラムブレーキのメリット・デメリット

 2リーディングの2個のホイール・シリンダーを、なんとか1個にして同じような制動効果が得られないかという、涙ぐましいコスト・ダウン魂から考案されたのがこのタイプである。
 デュオ・サーボ(DS)は「腹動型」とも呼ばれる。その構造と作用はマンガに示すとおりで、ホイール・シリンダーの中には、2個のピストンが入っている。
 シューがアンカー・ピンに当たる部分は、半円形になって浮動しているから自由自在に動くことができる。プライマリー・シューから出たブレーキ力は、まず、ロッドにかかる。この力は自己倍力作用によって、ホイール・シリンダーの力よりも大きくなる。
 この倍増された力で押されたセカンダリー・シューは、フローディングを支点として、またリーディング・シューとして働くから、ブレーキ力は更に増大されることになる。
 しかし、このDS型にも、やはり泣きどころがある。もともとリーディング・シューは、ドラムとの摩擦で得た倍力作用をもっているから、ドラムとライニングの摩擦係数が少し減ると、それによって生じるブレーキ力も減る。この結果、さらにセカンダリー・シューの自己倍力作用も減るというように、連鎖的に制動力が低下していくのだ。
 一方、ブレーキが働けば、必ず熱が発生するから、この熱によってライニングとドラムとの摩擦係数が下がる。2リーディングくらいならともかく、リーディング・シューの自己倍力作用を骨のズイまで使いつくすかたちのデュオ・サーボ型では、この影響はとくに大きくなる。
 しかし、現在ではライニングの研究が進んで、温度に鈍感なライニングができるようになったため、この悪影響はかなり解決されている。
 ただ摩擦係数を変えるのは、何も温度だけではなく、指でライニングの表面をこすった程度でブレーキの片利きがおきるくらいだから、整備のさいは充分に注意する。

ユニ・サーボ型ドラムブレーキのメリット・デメリット

 ユニ・サーボ・タイプは日産車では初期のブルーバードやセドリックの前輪に初めて使われ、ベレット1600DXのフロントにその名残りをとどめていた。しかし、現在の乗用車では採用例はない。
 構造と作動はデュオ・サーボ型と同じで、ただシリンダーが1個あるだけで一方向にしか作動しない点が異なっている。
 ホイール・シリンダーの油圧はシューの自己倍力装置によって、つぎつぎと拡大され、結果的に軽い踏力で大きな制動効果が得られることになる。
 しかしバックのときは、トレーリング・トレーリングになるので、利きはよくない。したがって、もっぱら前輪用である。
 ブレーキのタイプとしては、前にあげたデュオ・サーボよりも、リーディング・トレーリング型に似ているが、実際にはアジャスターが摺動するようになっている。ちょうどデュオ・サーボ型のマンガにあるロッドをガイドで囲んだものと考えれば分りやすい。
 このアジャスターは、板バネによってブレーキのバッキング・プレートへ圧着されており、中にはアジャスターの軸方向に自由に滑動するアジャスター・ホイールが入っている。

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

この人の記事を読む

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ