故障・修理
更新日:2018.12.05 / 掲載日:2018.12.05
トヨタ86のパワートレーンを完全オーバーホールしてみた【OH01】

- 【Prologue】現状チェックとパワートレーン降ろし
- 【Pretest 1】パワーの実効値をOH前にチェック 2000→7300rpm中間加速測定
- 【Pretest 2】直噴エンジンはバラつきやすい傾向か? プラグ焼け診断/圧縮圧力測定
- 【Pretest 3】センシング技術の進んだクルマでこそ活用したい ダイアグ&ライブデータチェック
- 【Removal 1】クルマの保管中の安全確保 タンクに残っているガソリンを抜き取る
- 【Removal 2】
- 【Removal 3】大型コネクターで脱着能率良好 エンジン制御とバッテリー配線の切り離し
- 【Removal 4】エンジンを上に吊るための準備 排気系とプロペラシャフトの取り外し
- 【Removal 5】ここまで来れば通常のFR車と同じ手順 エンジンの吊り上げ準備
- 【Removal 6】前方に十分なクリアランス。ラジエーターはそのまま エンジン&6MTの取り外し
- 次回から分解レポートがスタート!
【Prologue】現状チェックとパワートレーン降ろし
センセーショナルに登場した、トヨタ86/スバルBRZの登場から数年が経過したが、実際に使ったエンジンの内部はどうなっているのか? 走行2万kmを間近にしたエンジンをオーバーホールしながら検証していく。
走行約2万kmのコンディションを全バラで検証します!

SPEC
トヨタ86 Gグレード 6MT ファイナル:3.727(RCとも共通。GT系は4.111。トルセンLSDなし)車重:1210kg JC08モード燃費はRCの13.4km/Lに次ぐ13.0km/L。リヤ・ソリッドディスク(GT系はベンチレーテッド) 変更点:ブリッツ車高調&マフラー


短いエンジン全長ゆえに降ろすのは容易か?

水平対向エンジンは全長が短いので、ミッションとの結合位置は普通のFRよりかなり前側になり、ボルトへのアクセス性も良好だ。それはいいのだが、アンダーカバーを外すと、左バンクのヘッドにオイル漏れ跡がある。やはり水平対向では対策が難しいのか?



本誌初の直噴 ボクサーエンジン分解?
今回からこの記事で取り上げるトヨタ86は、これまで本誌記事に出てきた物とは違う個体だ。従来はGTリミテッドの6ATだったが、こちらはGの6MTとなる。86の登場から数年が経過し、ワンメイクレースやチューニングも盛んになっているが、本誌でも実際に使用された新世代ボクサーがどのようになっているかをオーバーホールしながら検証していき、リフレッシュすべきところはファインチューニングを施していく予定である。特にこのFA20はトヨタの技術であるD-4Sという直噴とポート噴射を併用した燃料供給システムが装備されている。直噴というのは、特に低中速のトルクアップに効果が高く、ひいては燃費向上やフラットトルク化にも貢献しているが、燃焼室や吸気バルブの傘の汚れが多くなりやすい。以前にも走行2万km台のマークX(直噴のみ)がひどくてビックリしたことがある。FA20はポート噴射があるのでバルブはきれいかもしれない。
また、スバルの第3世代のボクサーエンジンであるFA/FB型はそれまでのEJと比べると、大きく構造が変わっており、その点でのメカニズムや整備性などもチェックしていきたいところである。さらには6MTの分解も行い、構造チェックや摩耗度合いを調べていく。
今回は、独自の視点で調査してOH前のチェックを行い、エンジンと6MTを降ろす作業をレポートする。
【Pretest 1】パワーの実効値をOH前にチェック 2000→7300rpm中間加速測定

サーキットのストレートで全開加速!
オーバーホール前後の動力性能に変化があるかあとで確認したいので、走行テストを行ってみた。体感しやすいのは加速性能だが、安全に複数回のサンプルを効率よく採取するため、サーキットのストレートでアクセルベタ踏み時の中間加速特性をデータロガーで測ってみた。テストパターンは、タイムアタックモードと、2速2000rpmからレッドゾーン手前の7300rpmまでの2パターンとした。右の図はエンジン性能曲線で、トルク特性に注目すると、3000rpmで200Nmを発生した後、4000rpmで180Nmへ低下。再び盛り上がって5000~7000rpmまでほぼフラットに200Nm超を発生することになっている。しかし、2速2000~7300rpmの中間加速では、6000rpmで加速が鈍り始める。公称値のパワーは200PS/7000rpmだが、実効値としては恐らく175~180PS程度と思われる。



【Pretest 2】直噴エンジンはバラつきやすい傾向か? プラグ焼け診断/圧縮圧力測定









測定結果

直噴エンジンは燃焼室内のカーボン発生が多く、シリンダーが偏摩耗しやすく、ピストンリング周辺のカーボン噛み込みも多めと推測できる。そうなると圧縮圧力がバラつきやすい。このような測定では、測定精度のバラつきも多少あるものだが、2回測定して安定した時のデータを読み取っている。2番シリンダーは2回とも数値が低く、ほかと比べると落ち込みが目立ち、これだけ基準値を下回っている。開けてみて原因が分かるか興味があるところ。
【Pretest 3】センシング技術の進んだクルマでこそ活用したい ダイアグ&ライブデータチェック
ダイアグノーシスで3つも異常が出た!

ツールプラネットのスキャンツールTPM2000でエンジンからボディ系に至るまですべてのシステムのダイアグノーシスを行った。86も診断可能車種に登録されている。また、データモニター機能を使い、アイドリングなどのデータを記録し、PCに取り込んだ。




新しいクルマこそダイアグチェックは欠かせない!?
ダイアグについては、念のためという程度で読んでみたが、想定外のトラブルが3つも出た。エンジンはP1604。これは確かにクランキングが長いなという印象があったので納得でもあるが、原因はなんだろう? 直噴だとこのエラーが出やすい気がする。ブレーキ/ボディ系にも故障があり、これは手強そうな内容だが、エンジン搭載後に再診断して必要なら修理に出す予定。
データモニターについては、FA20に関係がないものも含め209項目もある。採取したのはアイドリングとサーキットでの全開走行時だ。これだけのデータをサンプリングすると、全項目を読み取るのに3秒程度掛かりタイムラグが発生する。データによっては変化中のものもあることに注意したい。
OH前後で注目しておきたいのは、吸入空気量、ISC関連、燃料噴射量である(右表はOHの前後比較で注目したいところは青、参考値はオレンジとした)。さらにデポジット損失空気量がカウントされているので、吸気バルブやポートが汚れているかもしれない(当然、ゼロのエンジンもある)。
サーキットのデータでは、高回転になるとスロットル開度が小さくなっているようだ。表中のスロットル開度は恐らく過渡のもので63.46度だが、ほかのサンプルでは低中回転域で82度程度の開度が、高回転で76度台になっていた(再確認の必要あり)。
エンジンのデータモニター全項目をアイドリングと全開加速で測定

【Removal 1】クルマの保管中の安全確保 タンクに残っているガソリンを抜き取る
このクルマのドライバーは通勤や仕事の外回りで毎日乗り、普段はレギュラーガソリンを使うそうだ。レギュラーも使用可能なのだが、高圧縮NAだけに坂道発進などでノッキングが出るなど弊害もあるので、サーキットテスト前にハイオクと入れ替えることになり、燃料の抜き取りを実施した。しかし完全な抜き取りは難しい。というのも燃料タンクがプロペラシャフトをまたぐ鞍型なので、ポンプだけ動かしたのでは左側しか抜けないのだ。そのため、半分抜けたら配管を戻してエンジンを掛け、内部のジェットポンプで右側を吸わせるのを数回繰り返した。一番手っ取り早いのはタンクのフタをSSTで外し、別のポンプで吸い出すことだろう。











【Removal 2】
6MTもOHするのでリフトで上げる前に作業に関係する内装を取り外す。これは主にセンターコンソール部で、最初にエアコンスイッチ下のトレーやサイドにあるカバーを外してから、センターコンソール本体の取り外しを行う。この内装の樹脂はあまり強くないので、外す方向をマニュアルなどでしっかり確認することが大切。








スバル車はボンネットが2段階で開くが、86でも同様のことが可能で、2段目を使うと垂直近くまで開きエンジンルームに光がよく入るほか、このままエンジン吊り上げも可能となる。ボンネットを外さなくていいのは、保管場所確保やキズの心配がない上に、建て付け調整もいらないのでありがたい。
【Removal 3】大型コネクターで脱着能率良好 エンジン制御とバッテリー配線の切り離し







センサー個々の配線切り離しは不要。排気センサーは外す
水平対向やV型ではヘッドが2つあるので、センサーやアクチュエーター数も直列の倍になり、配線やコネクターが増加する部分がある。主にはカムシャフトが4本になることから、カム角センサーや可変バルブタイミング用のソレノイドが増えてくる。V型では排気センサーも増えることがあるが、FA20は合流部で計測しているため、A/Fセンサーと触媒後のO2センサーの合計2つであり、これは直列4気筒(直6だと前後で2系統に分けたりする)などと同じ装着数だ。そのような理由や制御の高度化で配線数は増える傾向なのだが、エンジン脱着時に関しては集中コネクターが設けてあるので、基本的には個々の配線を切り離す必要はなくスピーディーに作業ができる。
ただし、今回はエンジンを上に吊り上げる関係でエキゾーストマニホールドを先に外さなくてはいけない。そのため、A/Fセンサーはコネクターを外し、O2センサーはセンサーそのものを外しておく。これらのコネクターは右バンクの前にあるのだが、O2センサーは配線の中間を固定するクリップを外すのが大変なので、ネジ部を外した。












【Removal 4】エンジンを上に吊るための準備 排気系とプロペラシャフトの取り外し








クーラント/ミッションオイルの抜き取り
エンジンは上に吊るが、エキゾーストマニホールドが前方に出っ張っているため、これを外す必要がある。そのため車上で排気システムはすべて取り外す必要がある。クーラントはアンダーカバーのサービスホール内にあるドレンコックを緩めて外すが、ドレンがサービスホールとずれた位置にあるのでホースを繋ぐ必要がある。このようなケースでは以前ならホースが付いていたように思うが、超LLC採用やコストダウンで必要性が低いと判断されているのだろう。





プロペラシャフトの取り外し





【Removal 5】ここまで来れば通常のFR車と同じ手順 エンジンの吊り上げ準備

エンジン下の左右に広がるエキゾーストマニホールドまで外せば、エンジン降ろしは普通のFR車と同様の作業内容になる。エンジンマウントはエンジン側が2か所、ミッション側が後端で1か所であり、スバルの4WDに見られるミッション上部を吊るブラケットはない。エンジンとミッションの接続は8本のボルト(下側の2本はスタッドボルト/ナット)で行われており上の1本を残した状態ですべて外しておく。エンジン側のマウントもナットを取り外す。














【Removal 6】前方に十分なクリアランス。ラジエーターはそのまま エンジン&6MTの取り外し
エンジンの取り外しでしばしば苦労するのが、ミッションとの切り離しだ。エンジンを吊る際に重心位置と吊り下げ位置がずれていると、傾く力が発生してミッションから外れなくて困ることがある。しかし86では全長の短いエンジンで吊った時の左右バランスもいいためかミッションと簡単に切り離すことができた。これなら搭載時の組み付けもスムーズに進められそうだ。ミッションは設計が新しいためなのか42kgと比較的軽量で、これなら「腹ジャッキ」でも支えることができそうだ。














ここまで取り外しました!

