故障・修理
更新日:2017.12.07 / 掲載日:2017.12.07
ハコスカDIYメンテ ミッションを分解(2017.12.07)

当時の日産がスポーツ車に使っていたのがポルシェ式シンクロのトランスミッション。ハコスカちゃんはミッション自体の程度は悪くないが、ローのシンクロリングが完全に摩耗していた。部品さえ入ればOHできそうだが……。

1972年式NISSAN スカイライン
走行4万km台で摩耗少し。GT-Xグレードは、ポルシェ式シンクロ付き5速を装備している。
いろんなシンクロ方式の中でも、ポルシェ式がよい理由
ハコスカGT-XやGT-Rには、当時の日産がスポーツカーあるいはスポーツグレードに好んで搭載していたポルシェ式サーボシンクロのトランスミッションが使われている。ハコスカちゃんのは、FS5C71Bというもので、型式のCがポルシェ式のシンクロであることを示している。現在の乗用車でシンクロといえばワーナー式が当たり前でそれしかないように思えるくらいだが、昔は各メーカー独自のタイプがあったようだ。日産の昭和44年度版のメカニック用教科書で確認すると、トラック用も含めて4タイプが存在したらしい。
当時のカタログではしばしばフルシンクロというのが自慢になったくらいで、ローやトップギヤではシンクロ非搭載というのもあり、運転にはダブルクラッチなどの高度なテクニックが必要とされていた。個人的には、ホンダN360系のドグミッションが印象に残っている。簡単にいえばバイクと同じ形式で、どのギヤでもガリッ、ガコンとギヤ鳴りするのが正常で、回転が合うと音やショックを出さずにシフトすることができた。
ともかく、なにかしらのシンクロナイザーが付いたことで、シフト操作が簡単にできるようになったのだが、それぞれ一長一短あって徐々に淘汰集約されてきた。ポルシェ式のメリットは、サーボ作用による強力なシンクロ作用でシフトが早く完了することと、シンクロ系の前後長をコンパクトにできるので、ミッションの小型化やスペースが同じならギヤを厚くできる。特にシフトの早さは、加速タイムアップに繋がりモータースポーツでは大きなアドバンテージとなる。弱点は、強力なシンクロ作用と引き換えに、摩耗が進行しやすいことだ。
フラットポンチでスロッテッドピンを押し出して分解。シフトフォークやフォークロッドを抜き取り、分解開始






FS5C71B型の構成図
1/ フロントカバー
2/ メインドライブギヤ
3/ シンクロリング
4/ カップリングスリーブ
5/ スラストワッシャー
6/ シンクロナイザーハブ 3-4
7/ 3速ギヤメインシャフト
8/ 2速ギヤメインシャフト
9/ ニードルベアリング
10 アダプタープレート
11/ 1速ギヤメインシャフト
12/ ベアリングリテーナー
13/ リバースギヤメインシャフト
14/ リヤエクステンションハウジング
15/ オーバードライブギヤメインシャフト
16/ スピードメーターギヤメインシャフト
17/ トランスミッションケース
18/ カウンターシャフトドライブギヤ
19/ カウンターシャフト
20/ リバースカウンターギヤ
21/ リバースアイドラギヤ
22/ リバースアイドラシャフト
23/ カウンターシャフトオーバードライブギヤ
24 メインシャフト
シフトフォークやロッドも正常


アダプタープレートからメインとカウンターの2つを抜き取る。5速&リバースから分解
ポルシェ式シンクロの面白いところは、シンクロリングの外周が組み込まれた状態で直接見えること。前回、ケースから取り出した状態で、1速のシンクロリングがダメで他のギヤはまあまあなのは分かっていた。もちろん、見えたからといって簡単には交換できない。たとえば、4速や3速、あるいは5速なら部分的な分解で交換できるが、1速や2速は中央にあり、メインシャフトを抜かないと取り出せないので、全バラ作業になる。
分解工程は、アダプタープレート後方の5速とリバース部を外した後、アダプタープレートから各シャフトを外し、その後メインシャフトやメインドライブシャフトにある各シンクロリングを取り外していく手順。FRの縦置きミッションの分解でややこしいのが、メインドライブシャフトとカウンターシャフトを取り出すところで、各社で作りの違いが見られることがある。このミッションでは、カウンターシャフトのドライブギヤが分離でき、これを外すとメインドライブシャフトが簡単に脱着できるハズだった。ところが3本爪プーラーを掛けてもピクリともせず外せない。無理してギヤを割っては大変なので、メインとカウンターシャフトそのものを前側にずらし、すき間を作ってからメインドライブシャフトを取り出した。
メインシャフトには、各ギヤとニードルベアリング、シンクロ関連のカップリングスリーブなど多くのパーツが串刺しになっているが、その中間のスラストワッシャーにはメインシャフトと回り止めするためのボールが入っている。焼き鳥の串から一気に肉を抜くように横着すると、この部分を傷めてしまうので、当然のことながら一つずつ丁寧に外していく。
メイン&カウンターシャフトのロックナットを緩めて分解


















各ギヤに固定されているサーボシンクロ部を分解。ギヤのロー側ほどシンクロの摩耗が多い























C型のシンクロナイザーリングを拡張して強力な同期作用を生む。ポルシェ式 スプリットリング サーボシンクロ研究
ポルシェ式シンクロの特徴が自己倍力機能(サーボ)だ。メインシャフトに固定される側にはシンクロハブとカップリングスリーブがあり、ギヤ側はニードルベアリングを介してメインシャフトに装着され、ギヤを使ってない時はメインシャフトとは繋がっていない。
ギヤ側には、ピストンリングのような切り欠きを持つシンクロリングがあり、切り欠き部にスラストブロックがはめ込まれ、反対側にアンカーブロックがある。スラストブロックとアンカーブロックはギヤ側にある切り欠きとも組み合わせてある。そして、シンクロリングの内側にブレーキバンドが入っている。その構造はドラムブレーキに似た感じだ。
シフトした時にカップリングスリーブがシンクロリングと接触してシンクロリングがそれ自体の切り欠き分回される。その時に、スラストブロック、ブレーキバンドの順で押していく。ブレーキバンドはアンカーブロックを支点として、外に広がってシンクロリングを内側から押す。これが自己倍力作用であり、ギヤとカップリングスリーブの回転の同期を強くしている。この作用があるうちは、シンクロリングの外径がカップリングスリーブの内径より大きく保たれるので、乗り越えることができないが、双方の回転が同期するとサーボ力はなくなり、シンクロリングの弾力だけとなる。こうなると、カップリングスリーブがシンクロリングに被り、ドッグトゥースが噛み合う。






提供元:オートメカニック