インタビュー
更新日:2025.03.26 / 掲載日:2025.03.26
電動トゥクトゥクで切り拓く未来のモビリティビジネス

EVをはじめ、ラストワンマイルをつなぐマイクロモビリティも普及が進み、モビリティの多様化が進む現代。3人乗り電動モビリティで新たな移動体験を提供する「株式会社eMoBi」の取り組みもまた新たな移動の形を提案するものだ。
学生ベンチャーとしてスタートした電動トゥクトゥクを用いたレンタカー形式のモビリティ提供を行うそのビジネスはどのようなアイデアで生み出されたのか。また、今後はどのように展開していくのかを伺いました。
まとめ⚫︎ユニット・コンパス 写真⚫︎ユニット・コンパス、eMoBi
(この記事で掲載されている内容は「プロト総研 / カーライフ」2024年掲載記事【その技術はユーザーのためになるか⁉︎ 加速するデジタル化について考える】を転載したものです)
Emobi(エモビ)とは?

株式会社eMoBi(以下、エモビ)は、2020年12月に東京で設立されたスタートアップ企業。社名の「eMoBi」は、「Emotional Mobility(移動体験)」と「Electric Mobility(電動モビリティ)」を組み合わせたもので、電動トゥクトゥクを用いたシェアリングおよびレンタルサービス「Emobi」を全国で展開している。
「移動の楽しさ」を提供するリゾートモビリティ事業

榎本「プロト総研クロスインタビューでは、未来志向のモビリティビジネスに着目し、そのビジネスモデル形成の裏側や魅力、将来性に迫っていきたいと思います。まず、事業の概要的な部分からお聞かせいただけますか?」
後藤さん「よろしくお願いします。私が所属する株式会社eMoBiは、2020年12月に東京で設立しました。ちょうどコロナ禍の真っ只中で、移動すること自体がネガティブに捉えられていた時期でした。そんなタイミングで『移動の楽しさをもう一度見直したい』という想いからこの事業を始めました。『eMoBi』という社名は、『エモーショナルモビリティ』と『エレクトリックモビリティ』を掛け合わせたものです。事業としては、電動トゥクトゥクのシェアリング・レンタルサービスを全国で展開しています。タクシーのように運転手を付けるのではなく、お客様が自分で運転するレンタカーのようなスタイルで提供しています」
榎本「なるほど。Emobiのサービス拠点はどのくらいあるのでしょうか?」
後藤さん「全国40箇所にレンタル拠点があります。主な展開エリアは、湘南だと鎌倉や江ノ島、中国地方の瀬戸内、沖縄やその近隣の離島などです。あとは奥多摩や館山といったJR東日本のローカル沿線でも展開しています」
榎本「車両は借りた拠点に返却する形ですか?」
後藤さん「その通りです。現在はラウンドトリップ型で、借りた場所に戻ってくるモデルです。例えば鎌倉から江ノ島でお昼を食べて、七里ヶ浜を見て、北鎌倉まで行って戻ってくるような三角形のルートが人気ですね。将来的には乗り捨て的な運用も検討しています」
榎本「貸し出し時間はどのくらいが主流ですか?」
後藤さん「鎌倉だと4時間がメインで、沖縄では2時間や最長6時間といったメニューが人気です。日をまたぐような貸し出しは基本的にしていません。航続距離も6時間なら十分持つ設計です」
榎本「既存のタクシーやレンタカーとはどのように差別化していますか?」
後藤さん「一番の強みは開放感のある移動体験です。公共交通の待ち時間や乗り換えの手間がないのもメリットで、特に若者やインバウンドの観光客に好評です」
榎本「3人乗りでオープンエアという車両の特徴が活きてきますね」
後藤さん「そうですね。6人で旅行しても2台並んで走れば繋がりを感じられるし、従来の車にはない体験が価値になります。Emobiの魅力は、移動の楽しさと便利さです。ドアがないからいい景色と出会ったときにすぐに写真が撮れますし、アトラクション的な楽しさもある。運転が簡単で、狭い道でも安心なのも大きい。特に女性に人気で、軽自動車を借りるのが怖い層に需要があります。デザインの可愛さやSNSでのプロモーションも効果があると思います」
榎本「モビリティビジネスで女性に人気があるというのはめずらしいですし、大きな強みですね」
学生ベンチャーとしてスタート。観光に着目し収益性の高いビジネスモデルを構築

榎本「Emobiのビジネスモデルはどのようにして生まれたんですか?」
後藤さん「学生時代に、創業メンバーが電動バイクのインフラを作る会社でインターンをしていました。そこで電動三輪車を見つけて『これはおもしろい!』と感じたのがきっかけです。車検が不要だったり、税金が安かったり、普通免許で運転できてヘルメットも要らないなど、バイクとクルマのいいとこ取りの魅力があると気づきました。それで『移動の楽しさを訴求しつつ、地方の移動課題を解決できるプロダクトになるのでは?』と仮説を立てたんです。検討を重ねるなかで、観光レンタルであれば収益化できる確信を得て事業をスタートしました」
榎本「学生だけでモビリティビジネスに挑戦するという大胆さに驚きます。不安はありませんでしたか?」
後藤さん「学生だからというハンデはあまり感じていなくて、アイデアと社会ニーズがあればビジネスが生まれると信じていました。会社を知っていただくなかで、応援してくださる方が増えたことは心強かったです」
榎本「すばらしいですね。『電動トゥクトゥク』というネーミングはどのような経緯で生まれたのですか?」
後藤さん「そもそも海外では『電動トライシクル』や『トライク』と呼ばれている乗り物で、トゥクトゥクとは呼ばれていません。私はタイが好きで、よくトゥクトゥクに乗っていたんですが、あの派手な三輪車をモダンな電気自動車に当てはめて考えたときに『電動トゥクトゥク』という名前を思いつきました。この名前がサービスの魅力にも繋がっていると感じます」
榎本「確かにキャッチーで、わたしも話を聞いたときに乗ってみたいと思いました。営業先での反応はどうでしたか?」
後藤さん「自分たちで想像していた以上に良かったです。電動トゥクトゥク自体に対する反応がすごく良くて、使い方や可能性についてイメージが湧く方が多かったですね。良い意味で驚きました」
榎本「展開エリアが観光地中心なのは当初からの狙いですか?」
後藤さん「初期のいくつかのプロジェクトを経て、改めて観光と相性がいいと実感しました。車両を売るよりも、レンタルで資産を回転させるモデルの方が原価的にも合うし、モビリティサービスを持続可能なビジネスにしたいという思いがありました。人件費・維持コストが高い既存の交通事業とは異なるアプローチで、観光なら収益性の高いビジネスモデルが作れると考えたんです」
鎌倉の街でEmobiを試乗体験!

電動トゥクトゥクは、普通運転免許で運転可能な小型の電気三輪車。道路交通法上は「側車付二輪」(サイドカー)の枠組みで、運転には普通自動車運転免許(AT限定可)が必要。最高速度は50km/hで、航続距離は80km(バッテリー交換式)。ドライビングポジションや操作はスクーターに近く、レバーを捻ることで加速し、ブレーキレバーを握ることで停止。バイクと違い、曲がる際に車体を倒す必要がないため、普段モビリティに接する機会のないユーザーでもすぐに走らせることが可能となっています。
「鎌倉駅の周辺は道幅も狭く、通行人も多いのですが、車体が小型で車幅の感覚も掴みやすいので安心して走らせることができました。自転車に近い感覚で運転できて、3輪だから転倒する心配がない。なにしろ、開放感があって運転しているのが楽しいですね! これで仲のいい友人たちを観光したらいい思い出になりそうです(榎本)」