インタビュー
更新日:2025.04.21 / 掲載日:2025.03.26

今後日本はどう戦うのか。CES2025で注目した自動車技術の最前線

様々な専門家を招き、業界のいまをお伝えするインタビュー記事。今回のテーマは「日本の自動車ビジネスはどう進化していくべきか」です。『CES 2025』を取材した自動車ジャーナリスト岡崎五朗氏に話を伺います。

(掲載されている内容は「プロト総研 / カーライフ」2025年3月掲載記事【世界を相手に日本はどう戦う? CES2025で注目した自動車技術】を転載したものです)

まとめと写真●ユニット・コンパス

宗平 今日はよろしくお願いします。今回はアメリカのラスベガスで2025年1月に開催された『CES 2025』を通じて、これからの日本の自動車ビジネスの未来について考えていきます。お話いただくのは、自動車ジャーナリストの岡崎五朗さんです。

岡崎 よろしくお願いします。前回の対談のときからそうだったのですが、電気自動車やSDVがどのようなユーザー価値を産むのか。そして事業性の展望はどうなるか、自分のなかでどうにも腹落ちしないところがあったんですよ。そこで、ヒントになるものがあるかもしれないという期待や視点を持ちながら『CES 2025』を取材してきました。

宗平 なるほど。CESには多くの自動車メーカーが出展していて、いまやモーターショーよりも技術的なトレンドを取り入れた展示を行っていますよね。それで、疑問は解消されましたか?

岡崎 結論から言えば解決しませんでした(笑)。今年は欧州の大手メーカーも参加しなかったし、新型車はほとんど出ていませんでした。一方で、CES全体におけるキーワードだけど、これは間違いなく生成AIだった。でも、作り手やメディアは大騒ぎしていたけど、肝心の「これで何ができる」かについて具体的な提案がほとんどないように感じた。ハードは揃えたから、後はみんなで考えよう、みたいな。でもそれって、ゲームに例えたら、性能の高い次世代ゲーム機が開発されたけど、キラーコンテンツはまだないという状況でしょ。だから生成AIについても、具体的なビジョンは示されていなかったように思うな。

宗平 日本からも自動車メーカーが数社出展していました。とくにソニーホンダモビリティは、初の市販モデルとなる「AFEELA 1」の価格が公開され話題になっていました。

ソニーホンダモビリティは、2025年内に発売する「AFEELA 1」のオンライン受付開始(カリフォルニア州にて)を発表した

岡崎 ベースモデルで89,900ドルだから、約1340万円の電気自動車。あれはまさに先ほどの話を象徴するようなモデルで、ソフトを改良することで長年性能が進化するというSDV的なコンセプトを採用している。レベル3自動運転の適応範囲拡大など将来性を考えた設計の分、価格も高いんだけど、チーフエンジニアにこのクルマの売りは?と尋ねると、「オーディオが高品質です」という説明だった。正直今の時点だと価格なりの魅力は伝わってない。

宗平 うーん、もう少し具体的なユーザー体験やベネフィットを提示して欲しいところですね。

スズキ「Applied EV」は、オーストラリアのApplied Electric Vehicles Ltdと共同開発した自動運転可能な電動台車

岡崎 面白かったのが、初出展のスズキブース。ジムニーのラダーフレームの隙間にバッテリーを積んだ「自動運転電動車」というものを展示していた。フレーム部分だけで移動体として完成しているので、上には何でも載せられる。なにしろ、既存のフレームを流用しているから安くできる。電動車いすの技術を応用した「電動モビリティベースユニット」もおもしろかった。これを利用して自動配送ロボや除雪機が簡単に作れてしまう。これは魅力がすぐわかる。実際、向こうの人たちにもウケてました。先日の中期経営改革発表会で、スズキの鈴木俊宏社長は「お客さんが欲しがらないものは革新でも先進でもない」と仰っていましたが、そんな地に足の付いたスズキの考え方がはっきりと伝わってくる展示でしたね。

宗平 使い道がイメージしやすいのですね。

岡崎 そう、使い道、便利さがすぐにイメージできるというのはとても大事。対照的だったのがホンダ。「Honda 0 シリーズ」のプロトタイプを公開したんだけど、こちらは、高速道路での渋滞時自動運転レベル3(アイズオフ)からスタートして順次適応範囲を広げていくとか、カメラが複数取り付けられていて、荷物をもったオーナーが近づくと自動でドアが開くとか知能化が売り。たしかに技術的には凄いんだけど、こちらも現状だとちょっと魅力が伝わりづらいかな。もっとエンタメというか、技術だけではない提案が欲しい。たとえば、20年くらい前にホンダが作った「不夜城」ってコンセプトカーを覚えてますか? クラブをイメージしたっていう。

宗平 ありました! 1999年の東京モーターショー出品車だそうです。なつかしいなぁ(笑)。

「Honda 0シリーズ」は、独自のビークルOS「ASIMO OS」を搭載する電気自動車

岡崎 覚えてるでしょ? 技術じゃないんですよ、人の記憶に残るものって。SDVで新しい価値を提唱するとはいうけど、結局いろいろ聞いていくと、今すぐ役に立つのは自動運転に関わるものくらいかな。でも、ハードウェアが自動運転レベル3の機能を備えていて、その適応範囲が拡大されていけばユーザーとしては確かに利便性が上がるかもしれないけど、そのアップデートで毎月1万円も取れるかというと取れないでしょう?

宗平 たしかに。そのコスト感では、ユーザーはかなり絞られそうですね。

岡崎 スマートフォンならユーザーは億の単位ですが、自動車はせいぜい数百万台。そうすると、ソフトウェアのアップデートにかかる経費というのはどうペイしていくのか。事業性のところでこれは苦しいんじゃないかと。

宗平 クルマ分野でのサブスクリプションサービスは、すでに日本でもBMWやメルセデスが手がけています。たとえば自動ブレーキ用のカメラをドライブレコーダーとして利用できるものが月額700円で提供されています。それくらいならアリだなという気はしますね。

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