モーターショー
更新日:2023.10.06 / 掲載日:2023.10.06

東京モーターショーはジャパンモビリティショーへ

文●池田直渡 写真●日本自動車工業会、ユニット・コンパス

 東京モーターショーはそのネーミングを刷新してジャパンモビリティショーとなり10月29(土)日から11月5日(日)まで開催される。

 筆者も、主催する日本自動車工業会(JAMA)の説明会に複数回呼ばれて取材や提言をしてきたが、察するところ大きなポイントは「東京からジャパンへ」「モーターからモビリティへ」ということだと感じた。

 さてその説明に入る前に、モーターショーの地盤沈下についてだ。世界的に見て、各国のモーターショーはこの20年間にわたって地盤沈下を続けてきた。まずは最初に国別に差が付き始めた。

 日本の東京ショー(現・ジャパンモビリティーショー)、ドイツのフランクフルトショー(現・IAAモビリティショー)、アメリカのデトロイトショー(北米国際自動車ショー)は長らく世界の3大モーターショーと呼ばれてきたが、それ以外の国際格式ショーの縮小が目立つ時期が最初にやってきたのだ。最も顕著だったのは2004年が最後になった英国のバーミンガムショーや2012年を最後に終わったイタリアのボローニャショーである。

2019年のフランクフルトショーの模様

 バーミンガムとボローニャでは少し事情が異なる。バーミンガムは英国自動車メーカーの相次ぐ身売りによる衰退に伴い、ワールドプレミアを行うメーカーがほぼなくなって情報発信力を失った。その上、英国自体がマーケットとしてもさして求心力がないところへ持ってきて、自動車メーカー各社の宣伝予算削減で、国際格式のショーとしては、最も早期に取りやめになった。

 一方でボローニャはお国元のフィアットの力が強すぎた。ホームチーム優先のパワーバランスを取りすぎた結果、他国のメーカーに二の足を踏まれ、出展者数が縮小していった。実はこのホーム優先に対する忌避感は、東京やフランクフルトにも傾向として表れており、その結果漁夫の利を得たのが、自動車メーカーを持たない国、スイスのジュネーブショーである。ジュネーブショーは全てのメーカーを公平に取り扱うことや、来場者やジャーナリストへのホスピタリティの劇的な向上を軸にモーターショーの体質改善に取り組み、一時期圧倒的な成果を挙げた。

 これに加えて、マーケットの伸長著しい中国のショーが大幅に存在感を示すことになった。これは北京と上海で隔年に開催されている。

 さて、しかしながら好調だったジュネーブはコロナ禍の影響を受けて、開催が途絶え、2020年から4年連続で中止中である。かくしてこの新興の中国の自動車ショーが、旧来の東京ショー、フランクフルトショー、デトロイトショーを凌駕する勢いの現在があるわけだ。

 さて、ショーの栄枯盛衰を見ていくと、ここでふたつの対立する問題があることがわかる。なんだかんだ言ってもワールドプレミア、つまり新型車の世界初お目見えは、ショーの華である。逆に言えば、できるだけ多くのワールドプレミアを獲得することがショー同士の重大な競争ポイントでもある。一方で、自動車メーカーは当然「よく売れるマーケット」でワールドプレミアを行いたい。例えばトヨタは新型ランドクルーザーのワールドプレミアを中東で行っている。当然販売ポテンシャルの高いマーケットのショーほど有利になる。

 マーケットポテンシャル以外にワールドプレミアの可能性が高いのはメーカーの母国だが、すでに説明したように、ホームを優先し過ぎれば、他国メーカーがへそを曲げる。その塩梅が難しいのだ。

 という中で、市場規模からみても、輸入車の売れなさをみても、放っておけば縮小が見えている東京モーターショーをどうやって再び盛り上げるかに、現在JAMA(一般社団法人日本自動車工業会)は取り組んでいる。その戦略を見てみたい。

 まずはなぜ東京ではなくジャパンになったかだ。従来のモーターショーは自動車メーカーがそのプロモーションを行う場であった。平たく言えば「自動車見本市」であり、その会場として使われるのが都市、つまり東京であったと言うことである。かつて自動車は、ただ新製品であるだけで夢を提示できたが、もうそういう時代ではない。その自動車がどう言う未来を見せてくれるかが問われる時代である。それは自動車が人の生活をどう変えてくれるかこそが問われるということである。

 イメージとすればアップルが毎年開催する新製品イベントのようなもので、製品そのものはもちろんだが、その製品が描く未来を見せなければ新鮮な驚きは得られない。

 クルマの規模でそれをやるならば、新しいクルマがその国をどう変えて行くのかが問われる。そしてその場合、従来のタイヤが4つ付いたクルマだけとは限らない。移動に関わる全てをハードウエアからソフトウエア、そしてインフラまでを網羅して見てもらわないと、未来が想像できない時代なのである。

 だからこそ、日本の全ての産業の力を集結して、「日本の未来をまるごと体験する」という企画になった。もちろんそれは準備段階にあり、どこまで実現できるかはまだわからない。けれども、おそらく世界で一番早く腹を括り、モーターショー新時代へのスタートを切ったのではないかと思っている。

 国内の大小475社が参加し、自動車業界以外の177社も含めて未来の都市生活を提案する「東京フューチャーツアー」や、15社のスタートアップ企業がコンテストを行い、ビジネスマッチングを行う「スタートアップフューチャーファクトリー」などが開催され、かつて新型車でワクワクした人たちにもう一度日本の未来ビジョンにワクワクしてもらおうという建て付けになっている。

 また、11月3日公開の映画「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」とコラボし、ゴジラを自然災害に見立てて、災害復旧の未来形を映像と現物で体験するコーナーなども開設される。6軸アクチュエーターとクローラーを備えたドローンや、4足歩行モビリティ、パワードスーツなど、SF映画の世界で見た様々な災害復旧モビリティを提案する。

 コンテンツの充実はよいが、モーターショーと言えば毎度劣悪なホスピタリティで、へとへとになると少々懲り気味の方への朗報もある。入場は全てチケットレスでデジタル化。スマホのワンタッチで入場管理を行い、行列を作らない対策を徹底的に施すと言う。

 休憩や食事も貧相でロクに座る場所もなく立ち食いを余儀なくされていたのが一転、美味いものを集めて、ホスピタリティの充実を図るのだそうだ。「Japan Meat Show」には、予約が取れないあの「肉山」や「SHOGUN BURGER」が出店するというだけでも、かなりの進歩が見て取れる。「車で食べに行きたい!全国のご当地グルメ」や「ワールドグルメ」、子供の遊び場を併設した「ファミリーグルメ」など、もちろん食事のテーブルだけではなく、会場を歩き疲れた時に座る場所もちゃんと用意するとのことだ。

 来場してくれと言いつつ、釣れた魚に餌はやらない式で来たこれまでがあるので、筆者としてはそこはかなり事務局を問いただしたが、今回は結果をみてくれとの答えである。

 実はほんの数日前、事務局から連絡があり、10月27日(水)の「カーボンニュートラル×モビリティの未来」のモデレーターをやれとご指名を受けた。予定では14:00から舞台に上がるらしい。外野から偉そうに苦言を呈していたら、だったらお前も協力しろと言われた形である。言いたい放題言った手前、さすがに逃げられない。なので生で池田を見てやろうという方は是非お越しいただけると幸いである。せっかくのモーターショーの大改革であり、事務局の言う通りだとすれば日本の未来をいち早く見るチャンスでもある。池田の顔はともかく、せっかくだから日本の未来の形を見てみて欲しいと思う。

「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」
ほぼ全てのコンテンツ詳細を発表

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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