モーターショー
更新日:2023.10.30 / 掲載日:2023.10.27
近未来モビリティが手の届く距離に【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●川崎泰輝
ジャパンモビリティショーは、明日28日10:00からいよいよ一般公開される。チケットは前売り2700円。ちなみに1時間早く入れるアーリーエントリーチケットが1日5000枚限定で3500円。16:00から入れるアフター4が1500円だ。
さて、筆者は一足早くプレスデイに取材をしてきた。全体の印象を書いておこう。そもそもその前身である東京モーターショーの時から、このショーのテーマはずっと未来だった。そういう意味ではモーターショーもモビリティショーも「未来にワクワクしにいく」という意味でテーマは不変である。
ただ、残念ながら、時代とともに、新型車やコンセプトカーを見るだけで未来とは思えなくなってきた。だから今回のテーマは未来のモビリティであり、それはつまり未来の東京の生活、未来の日本の生活を体験しに行こうということだ。
さてその「未来」。いったいどのくらい先の未来だろう。いままでそれはずっと先の未来であり、だからこそ東京モーターショーに出て来るコンセプトカーをして、筆者は「絵空事」と批判してきたのである。期限を切らない空約束ならなんとでも言える。そこに本当にその未来を実現する本気がこもっているかが肝心なのだ。
各社のブースを回って、これはホントにすごいと思ったのはスズキのブースである。スズキは7種のパーソナルモビリティのコンセプトモデルを並べて来た。セニアカー、MOQBA、SUZU-RIDE、SUZU-CARGO、SUZUKI GO!、e-PO、e-choinoriである。セニアカーは従来商品のマイナーチェンジ、MOQBAはまだ登場までに時間がかかると思われるが、それ以外のモデルは明日発売されてもおかしくない。

電動キックボードで話題になった特定小型原動機付自転車(特定原付)の法規対応が完全にできている。時速6キロで歩道を走る時に点灯させる緑のランプが必要なモデルには全部装備されているのだ。しかも電動キックボードで批判の対象となっていた走行安定性や制動の問題を解決し、多くのモデルを4輪で仕立てて来た。それは自動車メーカーとして安全をしっかり考えた結果だと思われる。未来のビジョンに対して、いい加減にしない。人の営みを守り、より安価に便利にしようという思想がそこにはある。
特に白眉とも言えるのはe-choinoriだ。知っている方もいるだろうが、チョイノリは2003年に6万円以下の衝撃価格でデビューした原付で、当時の実勢価格は3万円前後。リヤをリジッドにし、ボディのプラパーツも3ピース。とにかく徹底的にコストダウンを狙った50ccスクーターだった。今回スズキは、これにモーターとバッテリーを搭載したコンセプトカー「e-choinori」を出して来た。
これは数年前に日本を震撼させた宏光MINI EVへのスズキからの回答だろう。とかく過剰装備に走りがちなクルマを徹底的にコストダウンして45万円(当時のレート)でデビューした宏光MINI EVは、価格の破壊力で世論を大いににぎわせた。
そこにスズキはかつて作った超廉価バイクのコンポーネンツを持ち出し、設計原価を回収済みのありものにモーターとバッテリーを搭載しただけで商品に仕立ててみせた。それはまさに、冷蔵庫のありものでちゃちゃっと飯を作る様な熟達の技術であり、おそらくデビューしたあかつきには電動モビリティーの最安値を更新するのではないかと思われる。仮にかつての様に実勢価格3万円とかになれば、電動キックボードより安い。そして安全である。スズキのコストダウンへの執念を感じるモデルだ。ということで、来年買えるかもしれないモデルが並ぶスズキのブースは必見である。

他にも実現性の高い未来があった。マツダのコンセプトスポーツカー、MAZDA ICONIC SP(マツダアイコニック エスピー)は2ローターのロータリーエンジンを発電専用ユニットとして搭載するシリーズハイブリッド式のPHEVで、スペックを見ると、システム出力370馬力でパワーウェイトレシオ3.9kg。車両重量1450kg。全長 x 全幅 x全高は4,180 × 1,850 × 1,150(mm)という電動ピュアスポーツである。エンジニアリングを見る限り、採算の目処さえ立てば、作れるクルマである。ショーの反響いかんによっては本当にデビューするかもしれない。少なくとも開発はある程度進んだモデルである。

もうひとつはトヨタだ。トヨタは次世代BEVのキーとなる技術に解決の目処を立て、併せてソフトウェアプラットフォームをかなり追い込んできた。具体的に言えばバッテリーの厚みを薄くしながら容量を増やす工夫を凝らした。従来のBEVではバッテリーの厚みから座面位置がどうしても高くなり、セダンやスポーツモデルが成立しにくかった。アップライトに座らせると背もたれも立つ。BEVの多くがSUVだったのはそういう理由である。これにより、さまざまな車形のモデルがより良いパッケージで成立するようになった。
ソフトウェアプラットフォームは噂のアリーンOSがだいぶ煮詰めの段階に入った。ソフトウェアプラットフォームによって何ができるかというと結局は映像コンテンツを見るかゲームという以上の提案が出てこなかった。今回トヨタが提案するのは、ようやく車中である必然性のある付加価値を実感できるものだった。
かつて、カーナビがなかった頃、クルマで移動中に気になる建物があっても、それが何かを確認することはできなかったが、カーナビ以降、設備の名前を見ることができるようになった。これはかなり明確な車中での付加価値である。アリーンOSでは、道中気になるレストランを見つけたら、指を指して質問すると、車内カメラとAIが連動して、レストランの情報を伝えてくれる。人気のメニューや営業時間を知るだけでなく、そのまま音声操作で予約することもできる。もちろんレストランだけでなく、さまざまな情報が利用でき、例えばそのまま通販の申し込みなども可能だ。

現場で筆者が技術者に好き勝手を言ったところ、「いただきます」と言われたのが、例えば煽り運転の自動通報。お父さんが娘のクルマを買ってあげるような場面では、かなりのポイントになるだろう。あるいは個人店がたまたま宅配の集荷を頼みたい時、プッシュ通知で配送ドライバーに知らせることもできる。あるいは見知らぬ土地をドライブしている時に、駐車場があるカフェを探して欲しいというリクエストも可能だろう。
そういう意味でようやく移動中に付加価値のあるサービスが提供できるようになりそうなのだ。
BEVの性能やパッケージ、車載OSの様な未来技術の本丸を近未来に実現するのは、やはり大仕事であり、今回トヨタが発表したそれらの技術は、確かに我々に未来のモビリティを見せてくれるものになりそうだ。
さて、ジャパンモビリティショーで、日本中の多くの会社が集って「日本はオワコン」「日本は出遅れ」という批評家然としたネガティブオピニオンと本気で戦っている。その未来を是非見に行って欲しいと筆者は思う。