モータースポーツ
更新日:2024.03.30 / 掲載日:2024.03.30

電気レースカーが東京で迫力のバトルを披露 【2024 TOKYO E-PRIX】

©︎Formula E

文⚫︎ユニット・コンパス 写真⚫︎Formula E

 ついにこの日が来た! 東京で市街地レースが開催されたのだ。クルマ好きのひとりとして、夢が叶った気分だ。

 『ABB FIA Formula E 世界選手権 シーズン10 第5戦 Tokyo E-Prix』が開催された2024年3月29日・30日は、間違いなく日本の自動車史に残る二日間になった。

ようやく実現した東京での市街地レース

一般道に特設されたコースを走行する日産チームのNISSAN e-4ORCE 04 ©︎Fourmula E

 自動車レースの歴史は古く、1887年にパリで行われたものが起源だと言われている。競争は人間の本能であり、自動車技術の発展はモータースポーツ・レースとともにあった。一方で、広大な敷地が必要で大きな音の出るレースは、日本では市街地から離れたサーキットで開催されることがほとんどだった。これまでにも、大きくの関係者が市街地レースの実現に向けて努力を重ねてきて、ようやくラリーイベントなどで街中をマシンが走る機会も増えてきた。だが、一度に数十台のマシンが抜きつ抜かれつを行う形のレースはまだ行われたことがない。ハードルがあまりにも高かったからだ。

 そんな風向きを変えたのが自動車の電動化。

 電気自動車の技術を競い合うレースとして、2014年からBEVマシンによるモータースポーツ『フォーミュラE』が開催されていて、東京都がその開催にゴーサインを出したのだ。

 東京都は『フォーミュラE』を、「CO2排出実質ゼロに貢献するゼロエミッション東京の実現に向けて、地球のあしたを考えたクルマZEVの普及に弾みをつけるイベントと位置付け、東京ビッグサイト周辺の敷地をレースのために使うことに協力した。イベント実施期間は周辺道路を封鎖し、道路をコースの一部とすることも可能にしたのだ。これは画期的な判断だろう。

電気自動車の可能性を追求するフォーミュラEのマシン

第3世代に進化したフォーミュラEのマシンは、最高速度280km/hもの性能を発揮する ©︎Fourmula E

 『フォーミュラE』のレースは、金曜日に練習走行、土曜日に練習走行、予選、決勝というスケジュールで行われる。

 土曜日、実際に会場を訪れてみると、ゆりかもめの車内からコースの一部が見えることにまず興奮した。都心からアクセス抜群なのがまず嬉しい。公共交通機関で行けるのはエコロジーだしエコノミー。決勝が開催される土曜日とあって、まだ7時にも関わらず多くのファンが訪れ、グッズ売り場には行列が出来ている。

 日本での開催ということもあって、日産は桜をモチーフにした特別なリバリー(マシンカラー)やレーシングスーツを用意。ホームストレート脇のグランドスタンドを日産応援シートにするという力の入れよう。ファンたちも日産カラーのユニフォームに身を包み、ビッグフラッグをはためかせて応援していた。

 ここで改めて「フォーミュラE」を戦うマシンについて解説しよう。

 マシンは専用開発されたもので、今シーズン使用されるのは「Gen3」と呼ばれる第3世代のマシン。ほとんどのレーシングカーは減速時のエネルギーを熱として捨ててしまうが、フォーミュラEのマシンは回生ブレーキという仕組みで、エネルギーを電気として回収する。前輪にはそのための専用モーターが搭載され、四輪合計で600kWもの回生能力を実現している。最高出力は350kWで、モーターにより後輪を駆動。最高速度は280kmにも達する、まさに最高峰の電気レーシングカーだ。

 チームごとにパワートレインの独自開発が許されていて、ドライバーのテクニックに加えて、マシン開発の分野でも競争が行われている。

 参戦している自動車メーカーは、日産、ポルシェ、ジャガー、ステランティス(DS、マセラティ)、マクラーレン(日産のモーターを採用)といったお馴染みの顔ぶれに加えて、中国のERTやインドのマヒンドラと国際色豊か。モーターのパワーや回生ブレーキの効率、総合的な電気的マネジメントシステムなど、まさに電気自動車の開発ノウハウが問われる内容となっている。

対戦形式で行われるスリリングな予選

予選で激闘を繰り広げたマセラティのマキシミリアン・ギュンター選手 ©︎Formula E

 「フォーミュラE」のレースは、予選と決勝を同日に行うのも特徴だ。決勝のスタート順序を決めるための予選レースがまずは行われるが、「フォーミュラE」では、ここでもユニークな取り組みを行なっている。

 11チーム22台が予選に参加し、まずは2グループに分かれてタイムアタックを実施。上位の4台ずつ計8台に絞る。ここから2台ずつの対決方式のタイムアタックをトーナメント形式で行うのだ。レースではスタート順が大きく展開を左右するので、ここで上位に食い込むことは非常に重要だ。

 「2024 TOKYO E-PRIX」こと東京大会のコースは、東京ビッグサイトを取り囲むようにレイアウトされていて、高低差は1.5m、全長は2.585km。コースの一部は一般の道路も含まれている。

 電気自動車によるレースということで、サウンド面で物足りなさがあるのかも、そんな不安があったが、実際はかなりの迫力だった。見慣れた景色のなかをとんでもないスピードで、ヒューンという高音と風切り音と共にマシンが近づいてくるのは、まさにスリリングな体験。

 特に印象的だったのがターン2。ここはコーナー出口に高低差があるため、侵入スピードによっては車体が宙を浮くという難しいコーナーになっていた。これはフォーミュラレースではなかなかない光景で、まさに市街地レースならでは。マシンが通り過ぎるとドンッという大きな音が響き不安になるが、ドライバーたちはマシンを巧みにコントロールしてクリアしていった。

 予選で会場を盛り上げたのは、日産陣営のオリバー・ローランド選手。準々決勝、準決勝と勝ち進み、決勝は今季好調のマセラティのマキシミリアン・ギュンター選手と競うことに。まずはローランド選手リードでスタートしたが、セクター3(3分の2)時点でギュンター選手が逆転に成功。このままフィニッシュかと思われたところ、わずか0.021秒差での逆転に成功したのだ。まさに手に汗握る展開に、グランドスタンドを埋め尽くした日産ファンも大喜びだった。

予選を制した日産チームのオリバー・ローランド選手 ©︎Formula E

最後の1周まで勝者がわからない決勝レース

電気自動車ならではの特性を活かしたルールがレースを面白くする ©︎ Formula E

 33周の決勝レースは、クリーンにスタート。10周ほど日産のローランド選手がリードを守る。ラップタイムの差が1位から22位までで1秒以内というハイレベルバトルだ。

 だが、レースは徐々に動き出す。均衡状態を破るために用意されているのが、「アタックモード」と呼ばれるシステムだ。コースに用意されているゾーンを通り抜けると、一定時間最大350kWの最大パワーが使えるようになる。前のクルマを抜きやすくなるのだが、レース全体で合計8分間の利用可能時間をどう配分するか、その駆け引きも大きな見どころになっている。

 もうひとつ「フォーミュラE」ならではの駆け引きが、バッテリーマネジメント。パワーを使いすぎるとゴールまでにバッテリーを使い切ってしまうのだ。これがレース終盤にドラマを生み出すことになる。

 バトルが盛り上がる19周目、接触によってコース上にパーツが散らばったことでセーフティカーが出動。これにより隊列が組み直され、リードはゼロ状態に。2台がリタイアして残り20台で、残り11周の状態でレースは再開。依然として日産のローランド選手とマセラティのギュンター選手がトップを争う展開だ。

 24周目ギュンター選手が一瞬の隙をついてトップを奪う。ローランド選手はペースが保てないのか、ジリジリと差が開く。レース最終盤、ローランド選手も意地を見せトップとの差はわずか0.2秒まで縮めるが、ギュンター選手が必死に防戦してそのままチェッカーフラッグを受けてレースは終了。優勝はマセラティチームのものとなったが、日産チームも2位表彰台と母国グランプリにふさわしい活躍だった。

 快晴に恵まれた初の市街地レース「2024 TOKYO E-PRIX」は、最後の最後まで勝者のわからないエキサイティングなレースだった。日本の魅力が世界に発信される機会にもなり、東京で開催されるレースということでモータースポーツの新しい可能性を見せてくれた。

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グーネットマガジン編集部

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