【日産 エルグランド特集】時代に合わせて進化を続けるキングオブミニバン【中古車・ガイド】

文●大音安弘　写真●日産

　ファミリーカーとしてもお馴染みのミニバンだが、その最上位に位置するのが、ラージサイズの高級ミニバンである。かつては個人ユーザー中心であったが、現在は、高級セダンが占めていたタクシーやハイヤー、エグゼクティブの送迎車としての役目を奪い、大活躍している。そのパイオニアこそ、日産のフラッグシップミニバン「エルグランド」である。今回は、高級ミニバン市場の開拓者であるエルグランドの歴史を振り返る。

【初代：E50系】高級ミニバンという路線を作り上げた傑作

　初代エルグランドは、最高級新世代１BOXとして、1997年5月にデビュー。従来の「キャラバン/ホーミ」の１BOXベースの高級乗用車ではなく、エンジンを前席下ではなく、フロント部に搭載したセミキャブオーバータイプのパッケージを採用。このため、短いボンネット付のミニバンスタイルに仕上げられていた。エンジンを前方に配置したことで、衝突安全性の向上やフラットなフロアを構築することができ、前後席を自由に移動できるウォークスルー構造を実現し、利便性を高めていた。シートレイアウトは、２列目を独立シートとした７人乗りと、ベンチシートの８人乗りが用意された。パワーユニットは、パワフルな大排気量のみとし、3.3LのV6ガソリンエンジンと3.2Lの直４ディーゼルターボを設定していた。またプラットフォームを、日産の乗用クロカン「テラノ」と共有していたことで、高い走破性を誇る本格4WD「オールモード４×４」を採用していた。

　１BOXに求められる多人数乗車を実現しながらも、高級車らしい風格あるデザイン、セダンに近いドライビングポジション、後輪駆動方式と新設計の５リンク式リヤサスペンションが生む乗り心地の良さ、前席と後席の隔たりの無い自由な移動、質感を重視した広々した室内空間など全方位で従来の乗用1BOXカーを越えていたため、高級セダンからの乗り換えも起こるなど瞬く間に大人気車に成長した。発売翌年となる1998年１月には、日産ミニバンシリーズで人気を博していたスポーティ仕様「ハイウェイスター」を設定すると共に、エグゼクティブの送迎車を想定した特装車「ロイヤルライン」がオーテックジャパンから発売され、話題となった。1999年８月のマイナーチェンジでは、名称を販売店で使い分けていた「キャラバン エルグランド」と「ホーミー　エルグランド」からシンプルに「エルグランド」に統一。これにより、ベースは異なるものの、商用車シリーズとの決別を図ることで、より高級車らしい存在となった。同タイミングで、ディーゼルエンジンが新開発の3.0L直列４気筒直噴ディーゼルターボに換装された。2000年８月のマイナーチェンジでは、フロント周辺などのデザインを変更されているが、人気車だけにブラッシュアップに留められている。さらにガソリンエンジンが、新開発の3.5LV6エンジンに換装された。モデル末期となる2001年８月には、累計登録台数20万台越えを記念した特別仕様車「メモリアルセレクション」を発売するなど大成功を収めた。

【2代目：E51系】より上質で快適に。すべてを磨き上げた２代目

　２代目モデルは、2002年５月21日にフルモデルチェンジ。初代のコンセプトやイメージを受け継ぎつつ、高級車らしい走りの良さや快適さを高めるべく、進化が図られた。よりスタイリッシュとなったデザインだが、キャブオーバースタイルや２段式ヘッドライト、フラットかつワイドなサイドガラスなど初代のイメージを継承し、エルグランドの独自の世界観を追求している。シートレイアウトは、一部グレードのみに７人乗り仕様を用意するが、基本的にはラージサイズを活かした８人乗り仕様を基本とする。インテリアもよりモダンとなり、ナビゲーションシステムの進化から、８インチの大型モニターが装備されていた。但し、当時のデータメディアは、まだDVDであった。基本構造となるプラットフォームが改良され、低床化を図ることで、よりセダンライクなドライビングポジションと快適な乗降性が磨き上げられた。またミニバンの重要なアイテムである後部スライドドアは、初代の片側式から両側式を基本としている。さらにメカニズムでは、走行性能と乗り心地の向上のため、リヤサスペンションがマルチリンク式に変更。ブレーキシステムも４輪ディスク化に。パワートレインは、3.5LのV6ガソリンエンジンに集約された。ATが５速化されたことで、燃費性能も向上されている。駆動方式は、後輪駆動ベースを継承しており、高い走破性を誇る4WD「オールモード4×４」も引き続き設定された。

　2004年８月のマイナーチェンジでは、フェイスリフトが実施され、初代の面影を強く残した２分割のフロントグリルとヘッドライトが廃止され、プレーンな顔立ちに。内装では、木目調パネルの採用や照明リング付きファインビジョンメーター、スイッチのメッキ処理などの改良が施された。また上級感を高めるアイテムとして、２列目シートのオットマン機構やBOSEサラウンドシステムなどの採用も行われた。当時を象徴するアイテムとして、輸入車で導入され、人気となったウィンカー内蔵式ドアミラーが全車標準となったことが挙げられる。2004年12月には、エントリーとなる2.5LのV6エンジン車を追加している。

　2007年10月の一部改良では、スポーティ仕様のハイウェイスターのみフロントグリルセンターにボディ同色ラインを加えた新デザインに変更。メーカーオプションナビがDVDからHDDに変更され、高機能化されたのもニュースのひとつ。細かいところでは、グレード名称の前に、排気量を示す「350」と「250」の表記が加わっている。しかし、最大のトピックは、世界初となる「アラウンドビューモニター」の採用だ。自車と周囲の状況を上から見下ろしたように表示することで駐車支援を行う機能だが、今では多くのクルマに取り入れられている便利機能だが、世界初の実用化は日産エルグランドだったのである。

【3代目：E52系】ボディサイズを拡大しミニバンの最上級を目指した

　2010年８月４日、８年ぶりのフルモデルチェンジで３代目に進化したが、最大のポイントは、伝統の後輪駆動車から前輪駆動車に改めれたことにある。これはコストダウンのため、北米向けミニバン「クエスト」と共有化を図ったのだ。しかし、これがエルグランドの大きな強みとの決別であり、それは同時に、最強のライバルであるトヨタアルファード及びヴェルファイアとのガチンコバトルを意味していた。

　「キング・オブ・ミニバン」をコンセプトとした現行型は、エルグランドらしさを受け継ぎつつ、最上位のミニバンを目指したものだ。その象徴となるエクステリアは、初代の特徴である２段式フロントグリルとヘッドライトを取り入れつつ、モダンな２代目のイメージを組み合わせたもの。つまり、一目でエルグランドと感じられるスタイルに仕上げられていた。前輪駆動車ベースに改められたことで、プラットフォームも一新。北米ミニバンと共有化されたことで、全長も５mに迫る大型のものとなっているが、更なる低床化を図りつつ、全高を押さえたことで、力強さと低重心による走りの良さをさり気なくアピールする。

　運転席周りは、日産フーガなどの高級セダンと共通性のある優雅なデザインとしながらも、伝統のウォークスルー機構を継承。２列目がキャプテンシートとなる７人乗り仕様と、2列目が6:4分割式ベンチシートとなる8人乗り仕様を設定。キャプテンシートは、クッション一体型オットマン、シートバック中折れ機能、3層構造パッドを同時採用した快適性の高いものとしているのも特徴だ。パワートレインは、最高出力280psを発揮する3.5LのV6エンジンと、新しい2.5L直列４気筒エンジンの二つのガソリン仕様を設定。トランスミッションは、トルコンATからマニュアルモード付のCVT「エクストロニックCVT-M6」に変更された。FFベースとなるが、4WD仕様も継承されている。現行型のグレード構成は、エントリーグレードのみが標準仕様となり、上位モデルは全てスポーティな「ハイウェイスター」に集約された。

　2011年11月の一部仕様向上では、アラウンドビューモニターに世界初の移動物検知機能などを追加し、進化させた。また大型テールゲートの利便性を高めるリモコンオートバックドアを一部グレードに標準またはオプション設定した。2012年11月にも、アラウンドビューモニターに関する機能が進化され、「踏み間違い防止アシスト」を採用。アラウンドビューモニターの4台のカメラと超音波ソナーを使い、駐車操作などの低速走行時、運転者がブレーキと間違えてアクセルを踏みこんでしまった場合などに、クルマが誤操作を検知して、壁などに衝突する事故のリスクを軽減するというものだ。

　2014年１月のビッグマイナーチェンジでは、エントリーの「250XG」を除く、全グレードでフロントマスクデザインを一新。フロントグリルをロアグリルと一体化させることで大型化し、全周にクロームメッキを配して、よりシャープで力強い顔つきに変更に。ヘッドライトは、クラス初のLED式を採用している。機能面では、３列目シートに240mmのスライド機構を追加することで、３列目シート使用時でも、ラゲッジスペースを有効活用できるように工夫。室内高を拡大することで、車内の移動もよりスムーズにしている。また3.5L車は、全グレードが「ハイウェイスター」シリーズに集約された。

　2018年12月の一部仕様向上では、先進安全運転支援機能を全グレードで強化することで、サポカーSワイド対応とした。具体的には、「LDW（車線逸脱警報）」や「インテリジェントLI（車線逸脱防止支援システム）」、「進入禁止標識検知」のほか、緊急時のブレーキをアシストする「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」、先行車や対向車のライトや周囲の明るさを検知し、ヘッドライトを自動的に上向きと下向きに切り替える「ハイビームアシスト」を全車標準化している。

　最新仕様となるマイナーチェンジは、2020年10月に実施。主な改良点は、エクステリアデザインのリニューアルと先進安全運転支援機能の強化だ。デザインでは、フロントグリルを横基調のものから、細やかな模様でVの字を表現した新グリルに変更。仕様に合わせて、漆黒の「ブラッククローム」と上質な「サテンクローム」を装着する。またインテリアでは、センターディスプレイの10インチ化により、一部のダッシュボードデザインが変更されている。先進の安全機能では、日産の安全運転支援パッケージ「360°セーフティアシスト」を全車に標準化。新機能として、前方を走行する2台前の車両を検知して急な減速などによる自車の回避操作が必要性を警報する「インテリジェントFCW（前方衝突予測警報）」、走行中に隣接レーンの後側方を走行する接近車両との接触を回避するようステアリング操作を支援する「インテリジェントBSI（後側方衝突防止支援システム）」、BSW（後側方車両検知警報）、RCTA（後退時車両検知警報）などを標準化。さらに「標識検知機能」には、「進入禁止標識検知」、「最高車速標識検知」、「一時停止標識検知」の３つを加えられている。グレード構成も見直され、全てがスポーティなデザインである「ハイウェイスター」仕様に統一され、標準デザイン車が廃止されている。

まとめ

　先進の安全運転支援機能を強化するなど、時代のニーズに応える改良を重ねているエルグランドだが、もうすぐ登場から丸12年を迎える。そろそろ新型車の登場も期待したいところ。既に輸出仕様の「クエスト」は、2017年に販売を終了しており、現時点では後継となるミニバンはなく、SUVがその役目を担っている状況だ。既に最後の改良から２年が経過しようとしており、再び新たな王者、アルファード/ヴェルファイアと勝負を挑むのか、このままモデルライフを終了するのか、現時点では情報はなく、その動向が注目される。