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更新日:2022.03.30 / 掲載日:2022.03.29
【ダイハツ ムーヴ特集】軽自動車の本質を追求した看板モデル【初代から新型まで】

文●大音安弘 写真●ダイハツ
ダイハツの軽ハイトワゴンの原点である「ムーヴ」は、今も幅広い世代に愛され続ける看板車種のひとつ。その誕生は、宿敵スズキが送り出した軽ハイトワゴンのパイオニア「スズキ ワゴンR」の打倒を掲げて開発されたモデルである。軽を主力とする2社による戦いは、今のワゴンを中心とした高機能な軽乗用車中心の市場を生み出す原動力となったことは皆さんもご存じの通り。偉大なる好敵手、ムーヴの歴史を振り返る。
初代:ダイハツ初のトールスタイルワゴンとして登場。デザインはイタリアの名門が担当

ワゴンRの登場から約2年後となる1995年8月、ダイハツは、独自の軽ハイトワゴン「ムーヴ」を新投入した。軽規格サイズを最大限活用したトールスタイルは、ワゴンR同様だが、より乗用車ライクな存在が目指された。後発となるだけに、デザインも気合たっぷりで、イタリアのデザイン会社「I.DE.A」と共同で手掛けている。そのスタイルの特徴は、グリルレスのフロントマスク、フロントバンパーとAピラーを結んだキャラクターライン、ルーフレールと一体感を持たせたリヤスポイラーなどにあり、ワゴン型ながら、スタイリッシュに仕上がられていた。機能面でも、前後左右のドアを備える4ドア仕様を基本とし、テールゲートは狭い場所でも開きやすい横開きドアにするなど独自性を追求していた。もちろん、基本コンポーネントは、ミラから流用しており、インパネについてはミラと同じ形状であった。1997年には、後の定番モデルとなる「カスタム」シリーズが登場。こちらはメッキパーツと取り入れたドレスアップ仕様で、横基調グリルを採用した力強いフロントマスクに変更。さらにフロントバンパーとフロントフェンダーなども専用化するなど、大きな差別化が図られていた。若い世代やドレスアップ派を意識した15mmのローダウンとエアロ、そして専用内装などで武装した「エアロダウンカスタム」も用意。当時のダイハツは、「カスタム」シリーズのキャラクターの違いを示すべく、「裏ムーヴ」と呼んだ。
2代目:新規格に移行し大ヒットモデルに成長

1998年10月に、なんと2代目にフルモデルチェンジ。なんと初代は、約3年の短命に終わる。この背景には、軽規格の改定があり、衝突安全性能を登録車同様の安全規格とするべく、ボディサイズが拡大されたため。初代ムーヴの投入が急がれた背景には、ワゴンRの独走を危機として感じていたことが伺える。しかし、その効果は絶大で、ダイハツ内での販売も、セダン型「ミラ」を上回るようになり、一躍、看板商品へと成長を遂げている。もっとも短期間のモデルチェンジなので、基本的には先代をベースに、様々なアップデートを図ったアップデートモデルだ。時代のニーズである安全性の強化では、衝突安全ボディ「TAF」やデュアルエアバックの採用などで性能を向上している。2代目でもデザインが売りのムーヴの姿勢は継承され、内外装を手掛けたのは、イタリアの奇才ジョルジョット・ジウジアーロ率いるイタル・デザイン。その標準車を基本としながら、カスタムなどのバリエーションは、ダイハツ自身が手掛けた。キャラクターの違いを表現するフロントマスクは、角型ライトと横基調のグリルを組み合わせたオーソドックスな標準車に対して、カスタムが丸目四灯式ライトとメッシュグリルと組み合わせたスポーティな顔立ちとした。2000年10月のマイナーチェンジでは、衝突安全ボディ「TAF」の性能向上に加え、フェイスリフトを実施。いずれも全体的なイメージは継承しつつ、より質感が高められた。カスタムでは、丸目4灯ライトをひょうたん型の異形4灯式に改めていたのが、大きな特徴だ。2001年1月には、丸目2灯式ヘッドライトと大型グリル付きのエアロバンパーによる専用マスクを持つ、スポーティな「エアロダウンRS」も登場し、デザインバリエーションが3タイプに拡大されている。
3代目:登録車に迫る充実した装備を採用

2002年10月には、3世代目にモデルチェンジ。シリーズ初のプラットフォームを含む全面刷新が図られた。これにより軽新規格のボディサイズを、最大限活用した広々したキャビンを実現。さらに90度オープン可能なドア、スライドシートの調整幅の拡大、跳ね上げ式バックドアのオプション設定などの機能性も大幅に向上されていた。また最先端技術も積極的に採用され、ハンズフリー通話及びヘルプネットタイプのDVDナビゲーションシステムに加え、一部グレードではレーダークルーズコントロールまで設定するなど、登録車顔負けの豪華装備を誇った。これはワゴン化とボディサイズの拡大、性能の向上などの進化が軽自動車のファーストカーニーズを高まったことにある。つまり、ムーヴのライバルが、ワゴンRだけでなく、一クラス上のリッタカーを意識し出したモデルでもあったといえよう。
デザインは、プレーンな標準車と力強いデザインのカスタムの2タイプを基本に構成。いずれもグリルレスデザインを採用するのが特徴。若い世代をメインターゲットとするカスタムは、丸形ライトを2灯組み込んだユニークな一体型ヘッドライトデザインに象徴されるスポーティな内外装に仕上げられており、ステアリングには、スポーツカーで広く使われるMOMO製ステアリングが奢られていた。デザインが好評だったことから、2004年12月のマイナーチェンジでは、標準車とカスタム共に、前期型のイメージを引き継いだドレスアップに留め、内外装の質感向上を図っている。
4代目:スタイリッシュな流線形デザインを採用

2006年10月にフルモデルチェンジした4代目は、プラットフォームからエンジンまで全面刷新を図ると共に、流線形スタイルが採用されたのも大きなトピック。歴代モデルでは最もワゴン感が薄められ、スタイリッシュなデザインに纏められている。全面刷新の恩恵のひとつが、2490mmのロングホイールベースのボディで、当時軽最大の室内長と室内幅を実現させた。そのインテリアでは、ラウンジ感覚の寛ぎが追求された。メーターパネルは、シリーズ初のセンターメーターとなったのも特徴のひとつだ。
スタイルは、歴代モデル同様に、標準車とカスタムの2種類。フロントバンパーからAピラーを結ぶキャラクターラインは、初代モデルを彷彿させる。4代目では、標準車がグリル付きとなり、カスタムはグリルレスと片側2灯式のヘッドライトユニットが、高い人気を誇った歴代カスタムから受け継がれている。軽快な走りとフラットな乗り心地を実現する新サスペンションに操る歓びを与えるべく、前後スタビライザー、大径低扁平タイヤ、クイックなステアリングギア比を採用したカスタムRSも用意。先進安全機能も強化され、前方監視カメラとレーザーレーダーを組み合わせた「プリクラッシュセーフティシステム」と「車線逸脱警報機能」を軽自動車で初採用していた。2008年12月のマイナーチェンジでは、カスタムがグリルパネル付きのフロントマスクに変更され、イメチェンを図っている。
5代目:燃費性能を徹底的に追及

2010年12月に登場した5代目は、環境意識の高まりから、燃費性能を徹底的に追求した質実剛健なムーヴに。その理想を追求すべく、全車が新開発エンジンとCVTの組み合わせとなったほか、約35㎏の軽量化や省エネ化のLED式のバックランプ及びハイマウントランプ、エコタイヤの採用などが行われている。
スタイルは、標準車と「カスタム」の2本立ては従来同様だが、デザイン面では、先代とイメージが重なる標準車に加え、「カスタム」は、グリル部にクリアパネルを取り入れるなど新たな挑戦もしたが、歴代カスタムの中では、最も大人しい顔つきに。このため、5世代目は存在感が薄かったのも事実。、また当時は、軽乗用車の燃費バトルが過熱したため、メカニカルな改良による燃費向上だけでなく、最上級グレード「カスタムRS」が、燃費目的に、16インチタイヤから15インチタイヤにインチダウンされる事態まで巻き起こった。
地味顔が不評だったのか、2012年12月のビッグマイナーチェンジで、標準車と「カスタム」が共にフェイスリフトを実施。角型デザインのヘッドライトに変更され、フロントマスクも直線的となり、力強い顔立ちとなった。驚くべきことに、ダッシュボードデザインも刷新され、メーター位置もセンターから運転席前へと改められている。また先進機能では、衝突回避支援システム「スマートアシスト」を軽初導入。また足回りも再チューニングを行い、スタビライザーとローダウンサスを全車で標準化することで、走行性能も高めている。
6代目:基本性能から鍛え直し全方位で進化

6代目となる現行型は、2014年12月にデビュー。軽乗用車市場をけん引する「次世代ベストスモール」を目指し、開発された。そのために全方位の進化を図り、新開発の軽量高剛性ボディ骨格構造「Dモノコック」や改良を加えた足回り「Dサスペンション」の採用などで、基本性能から鍛え直している。快適性や運転のし易さにも注力し、静粛性の向上やフィット性とホールド性を両立する新シート構造の採用、ステアリングとペダルレイアウトの見直しも図っており、最も優れたムーヴへと磨き上げた。
スタイルは、歴代同様に、標準車とカスタムの2種類。再びボクシーなデザインとフロントグリル付きのマスクとすることで、迫力が増し、存在感も強めている。歴代モデルの中では標準車とカスタムの顔つきが、最も共通しているが、ヘッドライトやグリル、パンパ―のデザインや仕様は専用化されており、明確なキャラ分けはされている。カスタムでは、新たな上級仕様「ハイパー」が新登場。専用の内外装が特徴で、押し出しの強いダーククローム仕上げのグリルと、フロントマスクを強調するLEDイルミネーションが印象的だ。急速にニーズが高まる先進安全機能では、衝突回避支援システム「スマートアシスト」に軽初となる後方誤発進抑制制御を追加されたのもトピックのひとつ。これにより前後の踏み間違いを抑制できるようになった。また走りの面では、ダウンサイザーから指摘のあった加速力をアシストするCVTプログラム「Dアシスト」を自然吸気エンジン車に装備し、ストレスのない走りを実現させたという。
2015年4月の改良では、衝突回避支援システム「スマートアシスト」が「スマートアシストⅡ」に進化。従来のレーザーレーダーとソナーセンサーのセンシング機能に、カメラを追加。衝突回避支援ブレーキの性能向上や車線逸脱警報の追加など機能のアップデートが図られている。同年10月には、発売20周年を記念する特別仕様車「20thアニバーサリー ゴールドエディションSAⅡ」を設定し、ムーヴの成人を祝った。
2017年8月のマイナーチェンジでは、衝突回避支援システム「スマートアシストⅡ」が、早くも「スマートアシストⅢ」に進化。最大の特徴は、衝突被害軽減ブレーキが歩行者対応となったことだ。さらにカスタムは、スポーティさを強めるべく、フェイスリフトを行い、新開発の多灯薄型LEDヘッドライトとクリア樹脂のグリルパネルによる新たなフロントマスクに変更されている。最新の改良となる2021年9月の一部改良では、エントリーグレード「L」を除き、全車で衝突回避支援システム「スマートアシストⅢ」が標準化され、先進の安全運転支援機能も普及に一役買っている。
現行型ムーヴも登場より丸7年を迎え、歴代最長寿モデルとなっている。このため、近年は新型車登場の噂が絶えない。現ダイハツラインアップも、2019年7月登場の現行型タントから新たなクルマ作りであるDNGAによる新世代車となっているため、市場からは大幅進化を果たした新型ムーヴを待ち望む声も大きい。しかし、現在の軽市場は、軽スーパーハイトワゴンが主力となっており、かつての主役である軽ハイトワゴンは、新たな道を模索している最中だ。それを示すように、ムーヴとタントの中間に収まる派生車「ムーヴ キャンバス」が生まれた。その実績も踏まえ、企画される新ムーヴは、より魅力的な一台となって登場するはずだ。その日は決して遠くはないはずだ。