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更新日:2018.11.08 / 掲載日:2017.12.14
メカニズム進化論 ブレーキ編 車両安定制御の普及
制動力を電子制御で活用
ある時、高速で走るドイツのアウトバーンで何件もの横転事故が発生していた。主な原因は道路上に飛び出してきたへら鹿を避けるために急ハンドルを切ったことだった。
たとえば左に急ハンドルを切り、障害物を避け、次に元の車線に戻るために右に急ハンドルを切る。このようなハンドル操作によってもたらされるのは、ヨーの増幅で、2回目のハンドル操作によってスピンに陥り、それを防ぐための3回目の逆ハンドル操作が適正でないと高速スラロームに陥り横転に繋がる。
このような高速での車両安定に関わる事故を減らすためにボッシュとダイムラーが共同で開発したのがESC(Electronic Stability Contorol)だ。1995年、ベンツはまずSクラスに採用した。
ABSとTRCの基本技術を応用、全方位の車両安定システム
国内メーカーで最初に車両安定制御に取り組んだのはトヨタ。テスト車マジェスタにVSCと名付けたものを組み込み、実験を繰り返した。
写真は1995年、ジャーナリストに初めて公開した時のもの。制御なしでは、ステアリングでの修正を加えないとスピンに陥り、制御ありではパイロンをくぐり抜けた。
ESCの基本となる技術はABSとTRCのそれだ。ブレーキ制御を各輪で行い、それにエンジン制御を加える。しかし大きく異なるのはABSとTRCは車両の進行方向のみに働き、さらにドライバーによるアクセル操作やブレーキ操作に反応する。対してESCは車両の横方向の動きに反応し、ドライバーのペダル操作に関係なく作動する。
ベンツSクラスにESCが搭載されて間もなくトヨタも同様のシステムをUSCと名付けて発表した。
ESCやVSCの基本的な制御は次のように行われる。強いアンダーステアが発生し、コースアウトしそうになると、旋回内側の後輪にブレーキをかけ、アンダーステアを軽減させる回転モーメントを発生させ、コースアウトを防ぐ。オーバーステアが発生した場合は、旋回外側前輪にブレーキをかけ、アンダーステア傾向に導き、スピンを防止する。これらにエンジンスロットル制御を加え、コース逸脱を防ぐ。
このような制御を可能にしているのが車両の挙動を正確に検知し、分析する各種センサーとアクチュエーターに指示を送るコンピューターだ。ヨーレイトセンサー、Gセンサー、ステアリング角度センサー、車輪速センサー、スロットル開度センサーなどからの情報を元にECUが指令を出す。
ECUによって稼働するのがブレーキ油圧ユニット。電動ポンプによって高められた液圧はアキュムレーターに蓄積され、ソレノイドバルブによって瞬時に4輪の制動力が制御される。
ダイムラー、トヨタに続き、多くのメーカーが様々な名称を付けてこの分野に参入した。日産はVDC、ホンダはVSA、マツダはDSC、三菱はASCなどと名付けているが、ボッシュが提唱しているESCが世界共通の呼称となりつつある。
進化を続ける車両安定技術、統合制御でさらに安全に
制動力を旋回性能の向上に使うものも現れた。ブレーキ制御によってアンダーステアを封じ、ニュートラルに近い操縦性を得ることができる。図は日産エクストレイルのもの。
ホンダS660にも同様のシステムが組み込まれている。基本的にハンドリングに優れたミッドシップだが、さらに高い操縦性を目指したものだ。
左右で路面の摩擦係数が異なる場所での登坂や発進でもブレーキ制御が行われる。スリップしている車輪に制動力を与えることで、スムーズな走行が可能になる。
トヨタではVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)とネーミングしたシステムを開発。VSC、TRC、ABSの制御支援領域を拡大したもので、可変ギヤレシオステアリングによる走行速度に合わせたステアリングギヤ比の制御、電動パワーステアリングによる操舵トルク制御を統合。オーバーステア、アンダーステアが未然に制御される他、左右輪で異なる摩擦係数の路面での発進、ブレーキの安定制御も行われる。これらの他にESCが作動した時に車両を安定させるためのショックアブソーバーの減衰力調整を行うものもある。
接地性の優れたサスペンションが設計されるようになり、タイヤが幅広化された今、舗装路面でESCが介入する場面はほとんどないが、雪道の旋回で速度超過に陥った時などにESCが作動し、その効果を実感できる。
1990年代は高性能車や高価格車に採用されていたESCだが、装着義務化への動きとともに軽自動車にも装備される安全基礎技術となった。
提供元:オートメカニック