車の歴史
更新日:2023.12.24 / 掲載日:2023.08.25
新型アルファード/ヴェルファイア 歴代モデルに見るキング・オブ・ミニバンの足跡
“キング・オブ・ミニバン” TOYOTA アルファード/ヴェルファイア年代記
4代目登場で大注目のアルファード/ヴェルファイア。これだけ関心を集めるのも、これまでのモデルが確固たる地位を築いてきたからにほかならない。ワンボックス型でありながら国産高級車の代名詞的なモデルとなるに至った足跡を辿る。
●文:横田 晃
【初代】家族のための豪華なリビング
商用車の広大な空間をくつろぎの空間に転換
四角いボディで大空間を実現したバンは、そもそもは貨物車やバスとして生まれた車型だ。日本でも’60年代までは4ナンバーの貨物車のバリエーションとして、現場に労働者を運ぶための乗用車仕様が設定されていた程度。そこに高級感を求める人はいなかった。
ところが日本が豊かになった’70年代後半になると、1BOXバンの広い室内をキャンプなどのレジャーに活用する人が出てくる。そうして’80年代には、個人がマイカーとして乗り回す、乗用車仕様のミニバンが市場に定着した。
さらにバブル景気を経た’80年代末から’90年代になると、商用車とは一線を画す内外装を与えられ、1BOX型ながら高級を謳うモデルも出てきた。
その代表格が日産のキャラバンと、トヨタのハイエースだ。キャラバンにはV6の3ℓエンジンを積むGTグレードが設定されて、走りをアピール。一方、ハイエースの上級グレードにはクラウンを思わせる豪華なインテリアが奢られて、それぞれに人気を博した。
そうして育った上級ミニバン市場をさらに飛躍させるきっかけを先に作ったのは、日産だった。乗用車専用にデザインされた迫力たっぷりの巨体にV6の3.5ℓを積み、FR駆動でダイナミックな走りを見せるエルグランドが、’97年に登場するや大ヒットしたのだ。
トヨタも’95年にハイエースの上級版となるグランビアを出していたが、存在感はもうひとつ。そこで、2代目エルグランド発表の翌日となる’02年5月22日に、「これならどうだ!」とばかりに真正面からぶつけたのが、初代アルファードだった。
ファミリーカーを意識して、ややおとなしい印象だったグランビアから大きく転換し、押し出しの強い迫力あるマスクを採用。シャシーも商用車ベースのFRから、乗用車ベースのFFとした。
エンジンはエルグランドと張り合う3ℓのV6も選べたが、主役となったのは経済的な2.4ℓの直4。さらに登場翌年にはハイブリッドも投入して、快適性と環境性能の両立を求める声に応えた。
インテリアには、たっぷりと木目調パネルをあしらい、広い空間にゆったりキャプテンシートを配した室内は、セダンでは求められない、家族のための豪華な居間感覚にしつらえられた。
リモコンパワースライドドアやパワーバックドアなど、装備品も豪華絢爛。お客の気持ちにとことん寄り添い、狙い通りに「こんなのが欲しかった」と言わせたアルファードは、たちまちLクラスミニバン市場を制したのだった。
【前身】TOYOTA グランビア
【競合】NISSAN エルグランド
【競合】HONDA エリシオン
【2代目】ファミリーのみならずVIPも守備範囲に
活躍の場をさらに拡げ高級セダン的な地位に
アルファードの成功で確立された高級ミニバンというカテゴリーは、日本独自のものだ。そもそも欧州では、ミニバンは日本でいうマイクロバスに近い実用コミューターと見なされていて、普通の家庭がマイカーとして当たり前に所有する車型ではない。
北米では’80年代にはマイカーとしてミニバンを使うトレンドがあったが、やがてサッカーマムズカー、すなわちサッカーチームに所属する子どもを送迎する母親のクルマと揶揄されるようになり、より男らしいSUVに人気が移ると、ミニバン市場自体が衰退してしまったのだ。
ところが、日本ではミニバンは、すっかりファミリーカーの主流車型になった。サイズも個性もさまざまなミニバンが街を行きかう情景は、今や日本の定番風景だ。
その中でも高価なLクラスのミニバンは、幸福のボリュームを代弁するステイタスシンボルの感もある。’08年に登場した2代目アルファード/初代ヴェルファイアの発表会場で、初代アルファードでは総額100万円近い高級オーディオシステムのオプション装着率が過半数を占めたという話を開発者から聞いて、のけぞったものだ。
バブル景気崩壊後の、”失われた20年“とも呼ばれる経済低迷に苦しみながらも、この日本には本当に欲しいモノには投資を惜しまない消費者が健在であることを、そのエピソードは物語っていた。
アルファードより精悍に仕立てられた兄弟車のヴェルファイアは、若者の憧れの一台ともなった。郊外や地方都市の住宅街には、自転車代わりの軽自動車と、休日にみんなで乗り込むミニバンが並ぶ家は珍しくない。Lクラスのミニバンは、そんな幸せな家族を象徴する存在になったのだ。
さらに、欧米とは異なる価値観から生まれた高級ミニバンのアルファードは、海外でも新しいステイタスカーとして認知された。初代の時代から並行輸入車が一部の国で人気を呼んでいたが、2代目は左ハンドル車も開発されて、中国を始めとするアジア各国に正式に輸出が始まったのだ。
関税を入れるとフル装備で1000万円超の高価格車だけに、彼の地では従来の高級セダンに代わる富裕層のビジネスの足や、企業の公用車などとして支持された。
日本国内でも2011年に2代目にもハイブリッド車が設定されたころから、政治家や企業の役員車、ハイヤーなどとして、一流ホテルなどに出入りする黒塗りの姿をよく見かけるようになった。アルファードは動くVIPルームとしても、定番となったのだ。
【3代目】セレブも若者も惹き付ける存在に
日本を代表する高級車となったアル/ヴェルは、トヨタのフラッグシップ的な見られ方にもふさわしい進歩を遂げ、先進的なメカニズムも積極的に採用。エクステリアは2代目と同様に標準系とエアロ系を設定するが、アルファードはグリルを目一杯強調したデザインに一新され、ヴェルファイア以上の押し出し感/目立ち度を獲得。販売もヴェルファイアを逆転することとなった。
ミニバンの枠を超え高級車の基準を変えた
’15年に登場した3代目で、アルファード/ヴェルファイアは堂々と高級車を名乗るようになった。多くの人が乗れる乗用車というミニバン本来の機能だけではなく、ゆったりとくつろいで移動できる「大空間高級サルーン」をテーマに開発されたのだ。
その意気込みは、ダブルウィッシュボーン式のリヤサスや剛性を高めたボディなどのメカニズムにも表れている。走り、曲がり、止まるというクルマとしての基本性能をしっかりと高め、乗り心地や音振、安心感といった感性性能にまで目配りして、本物の高級車を目指した内容なのだ。
初代の後期モデルの時代から、3列目シートを撤去して2列目に大型キャプテンシートを据えたVIPカー仕様のロイヤルラウンジが架装モデルとして設定され、2代目では最上級車にエグゼクティブパワーシートを備えたVIP対応グレードが用意された。
そして3代目では最初から、しなやかなナッパ本革表皮のエグゼクティブキャプテンシートを始めとするVIP仕様に仕立てられた”エグゼクティブラウンジ“を設定。メッキの巨大なグリルを光らせた表情は、ひと目でアルファードと分かるキープコンセプトのフォルムでありながら、路上の帝王の風格さえ漂わせるに至った。
その人気は海外でも定着している。’15年には、アルファードをベースとしたレクサス初のミニバン、LMを上海で発表し、’20年からアジア圏を中心に発売。2代目レクサスLMも、4代目アルファードの国内発表に先駆けて、やはり上海でお披露目された。新型LMは、日本国内でも発売されることがアナウンスされている。遠くない未来の政財界の集まりには、VIPカーとしてこのミニバンがずらりと並ぶことだろう。
キャデラックやリンカーンなどの大型輸入セダンが憧れの高級車だった時代を生きた人々には、日本の大型ミニバンがVIPカーとして海外でも君臨する様子は、想像もつかなかったに違いない。
また免許を取ったらスポーツカーを手に入れて、海で山で、はたまた峠で、仲間や彼女に腕前を披露することに憧れた世代にも、大きなミニバンを持つことが若者のステイタスになることへの違和感があるかもしれない。
しかし、VIPからも若者からも支持されたからこそ、アルファードは成功することができた。その奇跡のような商品企画を実現させた開発者たちに、喝采を送るべきだろう。彼らはミニバンではなく、新しいカテゴリーの人気者を、この世に送り出したのだ。