車の歴史
更新日:2023.11.21 / 掲載日:2023.11.18
【DS4】なぜDSオートモービルのクルマは個性的なのか

文●九島辰也 写真●DSオートモビル
このところ立て続けにフランス車に乗りました。インポーターの広報車です。いろいろなメディアが今フランス車に注目しているのか、もしくは単なる偶然かわかりませんが、とても濃い一週間になりました。ちょっと得した気分です。
ステアリングを握ったのは、DS7、DS4、プジョー2008、ルノーアルカナです。DS7とアルカナは何度か走らせていますが、DS4、プジョー2008の最新モデルは初めて。その進化に驚きました。特にDS4のインターフェイスはユニークですね。フランス独自のロジックがてんこ盛りです。
フランス車の魅了はその独自のロジックにあります。デザイン、ハンドリング、乗り心地は、という解説に、「フランス車ならではの……」という枕詞がつきます。もちろん、それぞれの国に個性はありますが、フランス車はより味が濃いといったところでしょう。
デザインの特徴は有機的、動的となります。プジョーに代表される「猫っぽい」ところが印象的です。戦後のフランス車はコンパクトハッチバックに代表されますが、「可愛らしさ」が際立ちます。リアエンドのシルエットなどはそんな感じです。

変わり種はシトロエンで、その派生となるDSオートモービルはそれを色濃く受け継ぎます。デザイン全体が前衛的で、スイッチ類はかなり大胆にデザインされています。今回乗ったDS4はその最たるもので、窓の開け閉めひとつとっても、カッコよくデザインされているものの使い勝手はあまりいいとは言えません。もちろん、彼らが目指したのはそこです。90年代以降利便性ばかり追求されてきましたからとても新鮮です。

DSオートモービルのクルマが個性的な理由は誕生の背景にあります。このブランドの礎となるのは1955年にオートショーで発表され話題となったシトロエン DSだからです。まるで宇宙船のようなスタイリングは観る者を魅了しました。すぐにヨーロッパ中のディーラーに「いつ発売されるのか?」と問い合わせが殺到したそうです。

よってDSオートモービルが繰り出すクルマのデザインはそのテイストが注がれます。具体的にどうという意味ではなく、その前衛的なセンス、つまり、アヴァンギャルドというワードが表現されます。デザイナーはそれをデザイン言語化し、線を描きます。
それと同時に、このブランドの誕生は「高級フランス車の復活」の意味も含んでいることを付け加えましょう。前述したように近年のフランス車はコンパクトハッチバックを中心とした大衆車がメインとなっていますが、かつてはいくつも高級車ブランドがありました。メジャーだったのはドライエ、ファセル、ブガッティなど。フランス貴族の愛車です。1955年に誕生したDSもロングホイールベースをフランス大統領車にするなど高級なイメージを持っていたことがあります。その意味では近年では数少ない高級車だったことは明らかです。
フランス流ハンドリングはプジョーに乗ると体感できます。小さなボディが小気味よく動きます。足まわりとパワステのセッティングが絶妙なのでしょう。重すぎることなく、定まります。それに手のひらのフィーリングもグッド。路面と接地するタイヤの動きがフィードバックされるような感覚を得ます。なんなんでしょうこれ。ハンドリングフェッチにはたまりません。
そして他に類を見ないのが乗り心地。かつてフランス車は「雲の絨毯」と形容されていました。サスペンションのチューニングが独特で伸び側のストロークを長く取ります。ちょっとやそっとの凸凹はダンパーとバネで吸収してしまう手法です。よってキャビンは常にフラット。実体験ですが、昔のフランス車は助手席でメモを取ることが出来ました。当時の日本車はほぼ無理だったのに……。
そこを特徴とする背景にはフランスには石畳の道が多いことが関係します。「道がクルマを育てる」なんてフレーズがありますが、まさにそのいい例です。ドイツにはアウトバーンがありますから、ああなります。

今回の4つのモデルはどれもかつてのフランス車に近い乗り心地でした。特にプジョーはそれを強く感じました。というのも、彼らは一時期ドイツ車を目指したので、“らしさ”がスポイルされたんです。207や307あたりかな。VWゴルフをベンチマークにして開発していました。でも、今は自分達のスタンスに立ち返っています。「フランス車はフランス車らしく」といった結論ですね。
ということで、今回は現在のフランス車について徒然なるままに書きました。最近のフランス車に乗られていない方はぜひその唯我独尊ぶりをご堪能ください。