車の歴史
更新日:2021.12.28 / 掲載日:2021.12.27
【フォルクスワーゲン ゴルフ特集】初代から新型まで、時代を超えて愛される理由を探る

文●大音安弘 写真●フォルクスワーゲン
今なお世界のベンチマークとして、世界中の自動車メーカーが注目するドイツを代表するスタンダードコンパクトの「VWゴルフ」が、日本でも2021年に第8世代へと進化。デジタル化を全面に打ち出したゴルフ8は、6月のハッチバックに続き、7月にステーションワゴン「ヴァリアント」が登場。さらに年末には、ロングラン派の味方となるクリーンディーゼル「TDI」とスポーツハッチの「GTI」がハッチバックに追加され、新型のモデルラインの充実化も図られている。今から47年前に登場し、ビートルの後を受け継ぐ、VWの屋台骨へと成長したコンパクトカー「ゴルフ」の歴史を振り返りたい。
小さいなボディに最大限の価値を詰め込んだ偉大なる初代

ビートルの愛称で親しまれるVWの原点「タイプ1」は、質実剛健な1台であったが、1941年の誕生ということもあり、流石に1960年代には、設計的な古さも見られ、次世代の開発がスタートする。当初は、ビートル同様、ポルシェが開発のモデルの市販化が進められていたが、構造的課題や開発コストの高さを指摘する声が上がった事で、全く共通性のない新たなモデルが模索されることになる。それが初代ゴルフの誕生に繋がった。
1974年に発表された初代ゴルフは、スタイリングとパッケージングをイタリアの奇才「ジョルジョット・ジウジアーロ」が担当。前輪駆動車の特徴を活かしつつ、コンパクトでモダンなハッチバックに仕立てられていた。横基調のグリルに左右の丸めのライトを組み合わせたフロントグリル、逆「く」の字型のCピラーは時代に合わせ、ニュアンスを変えながらも現代のゴルフに受け継がれている。日本にも、ヤナセの手で1975年より導入が開始され、従来のVWのイメージを覆す新型車の登場に、クルマ好きは大いに沸いた。同年9月のフランクフルトショーには、伝説となる「GTI」が登場。軽量コンパクトなボディに、パワフルなエンジンを組み合わせ、足回りを強化したシンプルなチューンであったが、限定車で終わるはずのGTIは、カタログモデル化され、なんと46万台も生産されている。その背景には、小型車でもアウトバーンをぶっ飛ばせると話題となり、高性能な大型車が占拠していた追い越し車線に、ゴルフが割り込むことを成功させたことになる。まさに大衆にとってのヒーロー的存在であった。またオープンモデルの「ゴルフカブリオ」も登場しており、遊び心に溢れた大衆車といえよう。
いまなお高い人気を誇る「シンプル・イズ・ベスト」の傑作

今も人気の高いゴルフⅡは、1983年に登場。日本にも翌年より導入を開始した。居住性を高めるべく、サイズアップとキャビンの拡大が図られたのがポイント。そのために、リヤガラスも起こされているので、ややオーソドックスなデザインに。それでも全長は4m以下とコンパクトな存在であった。その内外装の雰囲気は、ドイツの実用車らしい質実剛健なものであったが、装備や快適性は飛躍的に高められていた。サイズアップに合わせ、主力エンジンも、1.6~1.8Lに格上げされている。市場からはゴルフⅠのイメージを受け継代エクステリアも好評となった。GTIも、ゴルフⅡより日本に正規導入を開始し、日本ではGTIというとゴルフⅡのイメージが強い。またオープンカー「カブリオ」も全面刷新を受け、新型を投入。そのデザインや機構には、初代のカブリオの息吹も感じられる味わいのあるものだった。さらに新たなバリエーションとしては、4WD「ゴルフ シンクロ」を追加したこと。これをベースにしたクロスオーバーSUV「ゴルフカントリー」も誕生し、いずれも日本に導入されている。
質実剛健さを極めた3代目

1991年に登場したゴルフⅢは、より幅広い層の要望に応えるべく、乗用車としての快適性や使い勝手の向上はもちろんのこと。高性能化にも力を入れたモデルだ。日本には、1992年より導入を開始している。ファミリーニーズや趣味の相棒として積載性を高めるべく、リヤを延長したステーションワゴン「ゴルフワゴン」をシリーズとして初設定し、ゴルフカブリオレも初のフルモデルチェンジを実施した。さらに高性能仕様としてGTIに加え、2.8LのV6エンジンを搭載した「VR6」が登場。グランツーリスモに仕立てられた高級版ゴルフであった。日本では、ゴルフⅡとゴルフⅣの陰に隠れた感のある同車だが、その商品性の高さが認められ、欧州カーオブザイヤーをVWとして初受賞。VW史にとっても記念すべきモデルとなった。
上質さという新たな価値を手に入れた4代目

ゴルフの歴史を大きく変えたのが、1997年に登場したゴルフⅣだ。上質な実用車を目指し、内外装デザインや質感だけでなく、生産品質に至るまで強くこだわることで、品質も格段に向上したことが大きなトピック。またデザインも、お洒落となり、生真面目なクルマのイメージを打ち崩し、日本での輸入車エントリーの地位をより固めることにも成功している。ボディバリエーションは、ハッチバックとステーションワゴンを用意する。エンジンランアップでは、スポーツモデルGTI及びGTXが、シリーズ初となるターボ化され、1.8L直列4気筒ターボを搭載し、より高性能化を図っている。さらにVR6の実質的な後継モデルだが、より過激でレーシーに仕立てられた「R32」が誕生。3.2LV6自然吸気エンジンに4WDを組み合わせた高性能スポーツで、日本でも限定車として投入され、多くのドイツ車好きやVW好きを歓喜させた。オープンカーの「カブリオ」もゴルフⅣに進化しているが、これはフェイスチェンジだけであり、中身はゴルフⅢのまま。このため、同世代をもって、カブリオレは一時生産を終了している。
TSIやDSGといったメカを採用し現代ゴルフの基礎を作った5代目

ゴルフにスポーティな走りも期待できるというイメージを浸透させたのが、2003年に登場したゴルフⅤだ。そのスタイリングも、若々しいものにブラッシュアップされている。時代に合わせたコストダウンなども行われているが、最も特徴的なのが、全仕様に共通する走りへの高い要求だ。GTIなどの走りのモデルを除き、実用的な優れたクルマであると共に、退屈なイメージも持ち合わせていたゴルフを、欧州車に期待される走りの良いクルマへと生まれ変わらせることで、VWのイメージアップにも貢献。特にGTIは、初代の熱狂的なブームを再燃させるべく、徹底した磨き上げが行われ、FFスポーツとしてはハイレベルな完成度を見せた。より高出力なエンジンとMT感覚で操れるオートマであるDCTタイプの「DSG」を武器に、日本でもちょっとしたGTIブームを巻き起こしている。もちろん、4WDハイパフォーマンスである「R32」もカタログモデル化。受注生産ながら、左ハンドル6速MTの3ドアモデルも用意するなどスポーツモデルらしい拘りも見せた。この戦略に合わせるように、GTIの心臓を持つワゴン「ヴァリアント スポーツライン」も登場している。更なる劇的変化を見せるのが、後期型モデルだ。ダウンサイジングターボという小さな排気量のエンジンに過給機を付けることで、燃費、性能、環境の3つをバランスさせるという新しい概念を提唱。今や当たり前の小排気量ターボエンジンの歴史はここから始まったと言っても過言ではない。その第一弾となる2007年導入のGT TSIは、1.4Lエンジンに、なんとターボとスーパーチャージャーのふたつの過給を備えるツインチャージャーエンジンが与えられていたのだ。トランスミッションは高効率な「DSG」が搭載されていた。それは、VWが提唱する新時代のエコカーだった。ところが、その走りは期待を良い意味で裏切る。なんとGTIに迫るスポーティさを見せ、まさに羊の皮を被った狼だったのである。高性能だったツインチャージャーは、次期型となるゴルフⅥで役目を終えるが、ターボ+小排気量エンジンを中心とする「TSI」エンジンは、VWエンジンの主力へと切り替わっていくことになる。またゴルフVは、新たなゴルフの世界観の構築を目指し、トールワゴン「ゴルフプラス」やミニバン「ゴルフトゥーラン」といった新たなファミリーの拡大も図った。
ベーシックモデルらしい質実剛健なキャラクターに戻った6代目

2008年に登場した第6世代のゴルフⅥは、現代的なアレンジで伝統の質実剛健さを表現。ややコンサバティブなゴルフに仕上げられた。そのスタイリングこそ、ゴルフⅤよりもシャープでスポーティな雰囲気を強めていたが、走りの面ではスポーティさを抑えた大人な味付けに。そのため、全体的な熟成は図られていたものの、強烈な個性を放ったゴルフⅤと比べ、往年のゴルフのキャラクターに軌道修正された印象が強い。2009年に日本導入が開始されたが、スポーツモデルに限って選択が可能だったMTも非設定となり、全車のトランスミッションが、DCTタイプとなるDSGのみに。ダウサイズターボも、1.4Lツインチャージャーに加え、更なる効率化を図ったエントリーとなる1.2Lターボが登場。ダウンサイジングの考え方は、4WDスポーツ「R」にも導入された。ユニークだったのが、グレードによりエンジンが異なること。1.4Lツインチャージャーエンジンは、「TSIハイライン」専用となり、中間グレードとなる「TSIコンフォートライン」は1.4Lのシングルターボに。そして、エントリーの「TSIトレンドライン」には、1.2Lターボとなった。またスポーツモデルは、スペックが異なる2.0Lターボとなり、排気量の大きいゴルフは失われた。失われたものがある一方で、復活を遂げたのが、「カブリオレ」だ。伝統のBピラーのロールバーを取り払った現代的なオープンカーに仕上げられ、ソフトトップと2ドアボディを持つ上品なゴルフであった。
2012年に発表されたゴルフⅦは、次世代を担うオールニューモデルで、車格を越えた共有化を実現するモジュールプラットフォームアーキテクチャー「MQB」により生まれた。このような車両開発では、コストの合理化を進める手段でもあるが、同時に上位モデルの技術を下位モデルにも適用できる強みも持つ。このため、現代の多くの自動車メーカーで同様なプラットフォームの構築がみられる。徹底した合理化の一旦を伺わせるのが、リヤサスペンションの使い分けだ。1.4Lターボ「TSIハイライン」以上のモデルでは、リヤがマルチリンク式となるのに対して、1.2Lターボ車「TSIコンフォートライン」と「TSIトレンドラン」では、シンプルなトーションビーム式とし、エンジン性能による使い分けを行った。しかし、その走りでは、再びスポーティさを強め、トーションビーム式でも不足のないフットワークを見せることで、シャシーを含めた全面的なモデルの進化の大きさを証明した。
先進安全装備などデジタル化が進んだ第7世代

オールニューとなったゴルフⅦのスタイルは、従来型となるゴルフⅥの面影を残しつつ、よりシャープなラインを多用することでスポーティさと堅牢さを表現し、内装の質感の向上も図られている。次世代に向けた新装備も採用されたが、その代表格が先進安全運転支援機能だ。前走車との衝突危険警告及衝突被害軽減を図る「フロントアシスト+」や30km/h以下の衝突被害軽減ブレーキ「シティエマージェンシー」の標準化を始め、全車速追従機能付ACCの設定など、安全性能を強化。ゴルフⅦの歴史は、まさに先進安全運転支援機能の進化といっても良い。モデルライフの中でも、機能の進化と強化が行われ、最終的には「VWオールインセーフティ」と呼ぶ様々な安全機能を標準化した総合安全機能へと進化を遂げている。またデジタルメーターに象徴される機能のデジタル化も強化されている。
日本での販売は、2013年よりスタート。初年より、スポーツモデル「GTI」とステーションワゴン「ヴァリアント」を追加。さらに2014年初頭には、最強のゴルフとなる「ゴルフR」も登場した。ゴルフⅦヴァリアントでは、先代までのスポーツラインが失われたが、2015年にシリーズ初となる「Rヴァリアント」を設定し、スポーツワゴンファンを喜ばせた。さらに同年7月には、クロスオーバーワゴンとなる「オールトラック」も新登場。クロスオーバーモデルらしいアグレッシブなエクステリアに加え、1.8Lターボエンジンに4WDシステムを組み合わせ、車高を上げることで悪路走破性も高めていた。
モデルラインのもう一つの流れが、環境対応の強化だ。ゴルフⅤよりダウンサイズターボで環境負荷低減を図ってきたが、更なる一手として、VW初のプラグインハイブリッド「GTE」を導入。PHEV「ゴルフGTE」は、充電した電気だけで走れるだけでなく、電気モーターとエンジンを組み合わせた力強い走りも自慢という新時代のスポーティモデルの役目も担っていた。さらに通称「ゴルフ7.5」と呼ばれる後期型では、クリーンディーゼル「TDI」やVW日本導入初となるEV「e-GOLF」も投入されている。
新世代に向けてデジタル化を拡大させた現行モデル

そして、2021年には、8世代目となるゴルフⅧが登場。ゴルフらしいデザインを受け継ぎながら、デザインでも未来感を表現。その中身も新時代向けたデジタル機能の強化や環境性能を高めた48Vマイルドハイブリッドシステムを主軸としたモデルラインなど、時代のニーズを積極的に取り入れた進化が図られている。しかし、その進化こそ、この1台があれば十分と感じさせるゴルフ伝統といえる。高い基本性能とは、走りや質感のことだけでなく、機能までを含む。その実用車としての高い志が、今なお世界のベンチマークで有り続ける理由といえるだろう。