車の歴史
更新日:2022.03.31 / 掲載日:2022.03.30
【日産 キャラバン特集】仕事に趣味に頼れる相棒【初代から新型まで】

文●大音安弘 写真●日産
キャンプや車中泊などクルマを使った旅が注目される今、移動と旅先で快適に過ごす空間を兼ね備えた一台として、商用バンがギアとして人気を集めている。ワンボックスの猛者「トヨタ ハイエース」の打倒を掲げ、誕生したのが、日産キャラバンだ。
初代(E20系):1BOXスタイルの商用車として誕生

キャラバンは、キャブオーバー型と呼ばれる1BOXスタイルの商用モデルだ。初代モデルは、1973年2月にデビュー。丸目4灯ライトと丸みを帯びたスタイルで、スライドドアのレールを目立たぬように、ボディ外周をアクセントモールで装飾されているのが特徴だ。この初代には、1976年1月に姉妹車「ホーミー」も誕生。グリルやエンブレムなど一部を変更したもので、基本的なデザインや仕様は同様なモデルだ。かつて「ホーミー」は、プリンス自動車が生産していた小型バスの名前を受け継いだもので、そのため、歴代モデルは、プリンス系販売店を中心に販売されていた。このホーミーは、3代目キャラバンまで姉妹車として存在していた。初代キャラバンは、今のミニバンニーズをカバーするワゴン、多人数乗車が可能なバス、そして積載性重視のバンの3タイプが展開されていた。
2代目(E23系):初代をベースに安全性を高めた

低くて薄いグリル付きのフロントマスクやボディ外周のアクセントモールなどの特徴を受け継ぎつつ、ボクシーなスタイルに生まれ変わった第2世代は、1980年にデビュー。死角を減らすべく、助手席側のドアパネルに小窓が設置されるなど、安全性も高められていた。RVブーム前夜に誕生したことも有り、ワゴン仕様も人気があり、乗用車顔負けの充実装備のグレードも登場するなど、ファミリーカーとして、本格的にキャラバンが愛されるようになった世代で、乗用ワゴンは「コーチ」と呼ばれた。
3代目(E24系):現代的なスタイルを採用してロングセラーに

現代人にも馴染み深いスタイルの第3世代は、1986年にフルモデルチェンジ。その後、2001年まで生産が継続された。ワゴン仕様は、より快適な機能と多彩なシートアレンジ追求した豪華な仕様へと発展しており、よりバンとワゴン「コーチ」のスタイルの差別化も図られていた。またバブル期に開発されたこともあり、「コーチ」には、3.0LのV6エンジンを搭載したモデルも用意。これらの趣向は、97年に誕生したエルグランドへと繋がる。初代エルグランドは、ボディ形状や構造なども違う別車種であったが、「キャラバン・エルグランド」と「ホーミー・エルグランド」と呼ばれ、キャラバンシリーズの仲間であった。しかし、エルグランドの登場で、97年には乗用仕様のコーチのモデルラインの大幅縮小を実施。99年には、「ホーミー」が廃止されると共に、ワゴンの「コーチ」も廃止。その後、商用車路線を強めることになる。
4代目(E25系):商用車ベースに特化。趣味用に快適性を高めた特別仕様車も

2001年のフルモデルチェンジで登場した4代目は、エルグランドという形で乗用ワゴンが独立したことから、商用メインのバンとマイクロバスのみに。衝突安全性の強化のために、ややフロントマスクが前に押し出されたスタイルになっている。この頃より、エルグランドなどのミニバンに奪われつつあった個人ユーザーが趣味のギアとして、バンに注目するようなったこともあり、オーナーカー向けに快適性を高めた特別仕様車「スーパーGX」を投入。この仕様は、後にカタログモデル化している。歴代モデルの中でも特にユニークな仕様として、サッカー日本代表チームのサムライブルーをボディ色に取り入れた「サッカー日本代表モデル」が50台限定で発売されている。
5代目(E26系):現行型は商用車のタフさと乗用車ライクな快適性を両立

5代目となる現行型は、2012年6月に、11年振りとなるフルモデルチェンジを実施。新型になったタイミングで名称を「NV350キャラバン」に改めたのもトピックのひとつ。新名称の「NV」は、「NISSAN VAN」の頭文字を取ったもの。つまり、バンシリーズを示す共通名称である。さらに「350」という数字は、車両総重量が3.5トンクラスであることを意味するという。このため、この頃より日産バンシリーズは、ADバンが「NV150AD」、バネットが「AD200バネット」と呼ばれるようになった。
そんな5世代目の特徴は、商用に限られなくなった幅広いニーズに応えるべく、力強くカッコいいスタイルと乗用車ライクな機能が与えられたことが大きな特徴。さらに環境面と経済性の両立から、ガソリン車とディーゼル車共に、クラストップレベルの低燃費が目指された。特にディーゼル車には、新開発の2.5Lクリーンディーゼルターボを搭載することで、大きく環境性能を高めていた。
機能面では、商用車初となるプッシュ式エンジンスターターやインテリジェントキーを始め、高級感あるインフォメーションディスプレイ付きのファインビジョンメーター、使い勝手の良い足踏み式パーキングブレーキ(※AT車)、LEDポジションランプを内蔵したバイキセノンヘッドライトなど乗用車ライクな機能を積極的に採用。運転席では、チルトステアリングの搭載と運転席のスライド量を拡大することで、ゆとりと正しい運転姿勢が得やすくなったことも大きな進化といえる。さらに足回りは、堅牢だけでなく、大径スタビライザーやサスペンションのストローク拡大による快適で安定性の高い走りも実現されていた。またバンながら、充実装備を誇るグレード「プレミアムGX」に加え、先代に引き続き、拘りのオーナーに応えるドレスアップ仕様「ライダー」も設定。商用車でありながら、ドレスアップ仕様を用意するのは、愛車への拘りが強い日産車ユーザーを意識したためだろう。
2012年12月には、標準車幅の「ロングボディ」と「スーパーロングボディ」のみだったボディラインアップに、車幅を拡大することで積載能力を高めたワイドボディの「ハイルーフ&スーパーロングボディ」を追加。同時に、趣味人や拘りのオーナーを意識したオプションセット「クロムギアパッケージ」を標準ボディ「プレミアムGX」とワイドボディ「DX」に設定。これは専用15インチアルミホイールや電動格納式リモコンメッキドアミラーでドレスアップを図りながら、専用撥水シートと本革巻3本スポークステアリングを採用することで、豪華さと使い勝手を高めたもの。このパッケージオプションは好評だったようで、2013年11月には、特別仕様車「プレミアムGXクロムギアパッケージ バージョンブラック」を発表。その名が示すように、上記のパッケージに加え、ブラックメッキパーツのドレスアップとバイキセノンヘッドライトも追加した内容で、価格も抑えたお買い得仕様であった。
2014年12月には、オーテックジャパンが手掛けるカスタマイズカー「ライダー」をベースとした特別仕様車「ライダー ブラックライン」を設定。ライダー仕様のカスタムをブラックの装飾で強調したシブいキャラバンである。ライダーのオプションである専用の本革巻ステアリングや撥水シートなどを含む「インテリアパッケージ」が標準化されているのも特徴だ。ボディカラーは、「スーパーブラック」と「ブリリアントホワイトパール」の2色が選択できた。2016年11月の一部改良では、待望の先進安全運転支援機能「衝突被害軽減ブレーキ」を「VDC」と共にバンの主要グレードに標準化したのが最大のトピック。ライバルのハイエースは、2017年11月の一部改良より衝突回避支援パッケージ「トヨタセーフティセンスP」を標準化しているので、一足早い対応となった。
「Vモーション」グリルに。衝突被害軽減ブレーキも採用

2017年7月には、初のマイナーチェンジを実施。フェイスリフトにより日産ブランドを象徴する「Vモーショングリル」がNV350キャラバンにも採用された。ヘッドライトやテールランプにもLEDが採用され、視認性も向上。一部のバン仕様に標準化されていた衝突被害軽減ブレーキ「インテリジェントエマージェンシーブレーキ」と「VDC」、「ヒルスタートアシスト」をバン全車に標準装備するように。また4ナンバーバンクラス初となる「インテリジェントアラウンドビューモニター」をオプション設定し、使い勝手を高めている。
2019年8月には、バンの最上級グレード「プレミアムGX」をベースとした特別仕様車「プレムアムGXアーバンクロム」が登場。専用のダーククロムパーツでドレスアップ仕様を図ったのが特徴。フロントプロテクターやブラックホイールなどのアクセントが、より力強くスポーティな印象を与えるチョイ悪仕様だった。2020年9月には、ついに車中泊仕様である「マルチベッド」をオーテックジャパンの特装車として設定。人気の「プレムアムGX」をベースに、荷室に左右跳ね上げ式のベッドシステムと硬質フロアパネルを装備したもの。ベッドは、オプションのテーブルの組み合わせで、ベンチとしても活用できるほか、不要時は折り畳むことで、積載性を犠牲にしないのも強みであった。装備の装着をオーテックジャパンが担当した作りの良さも魅力である。同年11月には、人気のプレミアムGXベースの特別仕様車「プレミアムGXブラックギア」を発売。ブラックパーツをアクセントに取り入れつつ、SUVの人気やアウトドアブームを意識した仕様で、ターゲットも個人。専用色「ステルスグレー」などの象徴されるギア感を強めたものだった。このため、インテリジェントアラウンドビューモニター、自動防眩ルームミラー、LEDヘッドランプ、助手席側ワンタッチオートスライドドアなどが特別装備され、使い勝手の良さも高めている。
マイナーチェンジで名称を「キャラバン」に変更

2021年10月の改良では、まずガソリン車のマイナーチェンジを実施し、名称を再び「キャラバン」に変更。この際、ディーゼルのマイナーチェンジは実施されず、ガソリン車は「キャラバン」、ディーゼル車は「NV350キャラバン」と呼ぶダブルネーム仕様となった。もちろん、ディーゼル車も2022年2月にマイナーチェンジを実施し、ガソリン車と同等の進化が図られ、そのタイミングで名称も「キャラバン」に統一されている。
最新のマイナーチェンジでは、フェイスリフトが行われ、フロントグリルとフロントバンパーを刷新。よりシャープな顔付きとなっている。傷がつきにくい「スクラッチシールド」を特別塗装色に採用したほか、全車に先進の安全装備を標準化したことで、サポカーSワイドの対象に。搭載される衝突被害軽減ブレーキ「インテリジェントエマージェンシーブレーキ」は、ミリ波レーダーとカメラの複合センシングにより、検知機能が向上され、歩行者にも対応。また中間グレードである「EX」以上には、「インテリジェントアラウンドビューモニター」と「インテリジェントルームミラー」も標準化した。細かな部分では、近年の衛生意識の高まりから、シート表皮に抗菌加工素材を使うなどの配慮も行っている。
ガソリンエンジン車は、2.0Lと2.5Lのふたつのエンジンを継承。そのトランスミッションは、従来の5速ATからマニュアルモード付の7速ATに進化させることで、静粛性や走りの質を高めている。新ディーゼル車は、エンジンに尿素SCRシステムを採用することで、環境性能を強化。もちろん、トランスミッションは、7速化。このマイナーチェンジを機にキャラバンからMT仕様が廃止に。またディーゼル車のみワイドボディも非設定となっている。
新たな動きとしては、プレミアムGXよりも上となる最上級グレード「グランドプレミアムGX」も誕生。プレミアムGXとの違いとして、LEDヘッドライト&フォグランプと4スピーカーシステムの装備の追加に加え、メッキ加飾の違いなどが挙げられる。基本的には、バンであるため、ミニバンのような豪華な装備はないが、これが全部乗せキャラバンとなる仕様だ。オーテックジャパンが手掛ける特装車では、車中泊仕様の「マルチベッド」と趣味人のマルチな積載に応える「トランスポーター」に加え、職人やビジネスマンの相棒として、カッコよいスタイルと機能的なインテリアを併せ持つ「プロスタイル」が新設定されている。
まとめ
商用バンというと、ハイエースのイメージが強いが、昔から耐久性こそハイエースに分があるが、走りの良さはキャラバンの方が上と言われてきた。そのために、長年、個人を中心にキャラバンに拘るユーザーも多い。マイナーチェンジを迎えた現行型でも、伝統の走りの良さを守りながら、より趣味人やプロフェッショナルに愛される存在を目指している。