車の歴史
更新日:2022.05.09 / 掲載日:2022.04.29
【レクサス RX特集】改良の変遷とグレードごとの特徴を解説【初代から新型まで】

文●大音安弘 写真●レクサス
日本でのレクサスRXの歴史は、2009年よりスタートしたが、元々は、日本の上級クロスオーバー「トヨタ ハリアー」のレクサス版を原点とする。このため、1998年に北米市場に投入された初代と、2003年にフルモデルチェンジを行った2代目は、よりラグジュアリーなモデルとして展開されていたが、当時のハリアーと基本を共有する姉妹車であった。
3代目(10系):ボディサイズを大幅に拡大して日本市場に凱旋帰国

ハリアーとRXが異なる道を歩み始めたのは、2005年より日本でもレクサス車の投入が始まったのが最大の理由だ。レクサス国内導入の第一弾のラージセダン「LS」、第二弾のミッドサイズセダン「GS」同様に、トヨタブランドで展開される姉妹車とはきっちりと差別化をすることが決まっていた。このため、本来ならば、「LS」の姉妹車となるセルシオや「GS」の姉妹車「アリスト」と同様に、トヨタブランドモデルは廃止される計画であった。しかし、最終的には、日本でも扱いやすいサイズを望むユーザーと絶大な人気車を手放したくないトヨタ販売店の意向が受け入れられ、ハリアーは、RX登場後も、2代目が継続販売されることになったのである。その後、ハリアーは、3代目が国内専用車として開発され、独自路線を歩むことに。輸出も行われたものの、一部地域に限定された。現行型となる4代目は、グローバルモデルとして開発されたが、「ハリアー」の名ではなく、「ヴェンザ」という名の新たなクロスオーバーとして北米に導入されている。因みに、「ヴェンザ」には、2008年に発表された初代モデルがあるが、ミニバンとステーションワゴンを融合させたようなクロスオーバーで、ハリアーとは全く異なるモデルであった。

さて話をRXに戻そう。2009年1月19日に発表された3代目RXは、ハリアーから完全に独立を図ることで、よりゴージャスなクロスオーバーに生まれ変わった。最大の特徴はボディサイズで、よりグローバルを意識したワイドボディに進化。全長4770mm×全幅1885mm×全高1690mmとなり、日本の道路事情を鑑みれば、かなりボリューミーなサイズに。このため、スポーティなスタイリングのハリアーを好むファンからは否定的な声も聞かれた。しかしながら、当時のエントリー価格は、ハリアーが266.7万円に対して、RXは460万円と2倍に迫るものであり、上級車と意識してもらうためにも、サイズアップは正しい判断といえた。
豪華さの表現は、パワートレインにも反映されており、ガソリン車となる「RX350」には、トヨタの上級車にも搭載される3.5LV6エンジンが奢られていた。また人気が高まるハイブリッド仕様の「RX450h」は、その名が示すように、4.5L車並みの動力性能を持つ高性能車で、効率を高めた3.5LV6アトキンソンサイクルエンジンとフロント電気モーターに加え、後輪専用電気モーターを備えた電気式4WDシステム「E-four」が搭載されていた。また快適性と豪華さを追求したグレード「Version L」にはエアサスペンション仕様も設定されていた。
2009年9月には、4WDのみだったハイブリッド車「RX450h」にFF仕様を追加。後輪の駆動用電気モーターが省かれたため、価格も抑えられているが、真の目的は、燃費の向上にあった。その結果、燃費は、3.5LV6エンジン車でありながら、17.4km/L(JC08モード)の低燃費とパワフルな走りを両立させ、エコなハイパフォーマンスカーという新たな道を切り開く。
RXシリーズエントリーとして、RX270が追加されたのは、2010年8月のこと。エンジンは、日本初導入となる2.7L直列4気筒DOHCエンジンだ。RX350と異なり、レギュラー仕様となるのが強みであったが、1.8tのボディに、188ps/252Nmのエンジンは、やや物足りなさを感じたのも事実だ。しかし、これによりエントリー価格が、415万円まで引き下げられたことで、より多くの人にレクサスに関心を持ってもらうきっかけとなった。

2012年4月のマイナーチェンジでは、フェイスリフトを実施。その後のレクサスのアイコンとなる特徴的なフロントグリル「スピンドルグリル」が採用されたのが最大のトピックである。これにより重厚感はあったのものの、大人しい顔つきだったRXに精悍さが感じられるようになり、更なる人気を集めることに成功した。さらにレクサスの走りへの拘りを凝縮したハイパフォーマンスモデル「F」の精神を受けつぐスポーティグレード「Fスポーツ」も登場。スポーティな内外装だけでなく、サスペンションチューニングも専用となり、シャシーの動きをよりシャープにさせる「パフォーマンスダンパー」も採用。リアルスポーツのFモデルを持たないレクサス車の走りの良さをアピールすることにも貢献していく。
4代目(20系):さらに上級化志向に。室内空間のゆとりもアップ

世界的には4世代目、日本では第2世代となるRXは、2015年10月22日に、日本でのフルモデルチェンジを実施した。レクサス車のアイコンとなる「スピンドルグリル」を取り入れた新デザインは、SUVらしい力強さに加え、知的な大人の色気を放つ洒落たクロスオーバーSUVが目指された。これによりエクステリアは、力強さを強調するエッジの効いたラインとフェンダーやボンネットに膨らみが与えられ、グラマラスなスタイルに仕上げられている。ボディサイズは、さらなる大型化が図られ、全長4890mm×全幅1895mm×全高1710mmに。しかしながら、結果的には、レクサスのクロスオーバーSUVシリーズの長男として「RX」に期待される顧客の要望に応えられることにも繋がり、よりRXのポジションを高めることになる。またサイズアップの恩恵として、ホイールベースも拡大されたことで、前後席間のゆとりも増していた。

モデル構成は、ガソリン車とハイブリッド車の二本立てに。ハイブリッド車「RX450h」は、先代同様にパワフルな3.5LV6エンジンと電気モーターを組み合わせた仕様で、FFと後輪モーター搭載の「E-four」の4WDを設定。エンジンを直噴化し、電気モーターも変更し、出力を向上するなどの大幅な進化を遂げていた。ガソリン車は、大排気量を中心としたラインアップを改め、ダウンサイズターボとなる2.0L直列4気筒直噴ターボエンジンに集約し、「RX200t」を名乗った。最高出力238ps、最大トルク350Nmと、馬力こそ先代の「RX350」に及ばないものの、トルクでは同等を発揮するなど、不足ない性能が与えられながらも、燃費の向上も実現された。メカニズムのアップデートでは、プラットフォームのアップデートに加え、フロントサスペンションの構造変更を実施。開口部の周辺のボディ構造には、レーザースクリューウェルディングや構造用接着剤を用いることで、ボディ剛性の向上も図っている。装備面では、先進の安全運転支援機能をパッケージ化した「レクサス セーフティ システム+」を全車に標準化することで、予防安全機能も強化されたのも大きなトピックだ。
2016年8月には、4WD車のみだった「Fスポーツ」に、「RX200t」と「RX450h」の両方にFF車を追加。重量低減による走りの軽快さが生まれるだけでなく、価格も引き下げられたこともメリットであった。2017年12月には、シリーズ初となるロングボディがハイブリッド車「RX450hL」に登場。これはリヤオーバーハングを110mmストレッチした仕様で、ホイールベースは標準車同様だが、全長は迫力の5000mmに。拡大された後部スペースには、シートが追加され、3列の7人乗り仕様となり、ミニバンを持たないレクサスの多人数乗車ニーズに応えることに。それまで3列シート車は、フラッグシップSUV「LX570」のみだっただけに、ロングボディの登場には、販売戦略上でも大きな意味があった。このタイミングでは、ガソリン車「RX200t」が「RX300」に改名されたが、これはハイブリッド車の「RX450h」同様に、実際の排気量ではなく、同等性能の排気量表記に改めたものであった。

2019年8月に実施されたマイナーチェンジでは、好評のスタイリングを維持したまま、各部のブラッシュアップが図られた。最大の特徴は、スピンドルグリル内部のルーバーデザインが改められたこと。横基調のルーバーでなく、L字をモチーフとしたブロックメッシュに変更することで、躍動感が増した。Fスポーツのグリルは、専用のメッシュデザインが継承されているが、バンパーサイドにもメッシュグリルを取り入れたことで、印象を変えている。またヘッドライトも従来仕様のイメージを継承しているが、実はコンパクト化することで、より目力を増していた。インテリアでは、3列シートのロングボディ車「450hL」の6人乗り仕様が登場したのもトピックだ。これは2列目シートをキャプテンシートとすることで、快適性を高めたものである。視覚的な性能だけでなく、メカニズムのアップデートも図られており、スポット溶接の打点の増加や構造用接着剤の接着範囲の拡大によるボディ剛性の向上も図られており、サスペンションなどにも手を加えることで、操縦安定性と乗り心地の向上が実現されている。ベース性能が向上したことで、スポーティグレード「Fスポーツ」も鍛え直しており、前後にパフォーマンスダンパーを装着。これによりハンドリングがよりシャープとなるだけでなく、乗り心地や静粛性の向上にも繋がっている。ラグジュアリーカーとしての安全性も高めるべく、先進の安全運転支援機能のアップデートにも積極的で、センシング機能の向上で、衝突被害軽減ブレーキの検知機能を向上させ、昼間の自転車運転者や夜間の歩行者検知も可能となった。
2021年6月には、ユニークな限定車「HIDEKI MATSUYAMA EDITION」が登場。これはレクサスがスポンサードするプロゴルファー松山英樹選手のメジャー初制覇を記念した特別仕様車で、「LS」、「LC」、「RX」に各10台が設定されたもの。RXでは、RX450hとRX300バージョンLをベースに、ゴルフ場の豊かな緑や自然の中でプレイする気持ちよさを想起させる、外板色テレーンカーキマイカメタリックと内装色ブラック&オーカーの専用カラーコーディネーションを採用したもの。車内には限定車を示す松山英樹選手のサイン入りシリアルプレートが設置。装備もアップグレードされ、多数のオプションアイテムを標準化。オーナーへのプレゼント品として、松山選手が愛用するキャディバックのレプリカが用意されていた。
まとめ
レクサスSUVは、クロカンでフラッグシップモデルとなる「LX」を頂点に、ミッドサイズクロスオーバーSUVの「RX」、コンパクトクロスオーバーSUV「NX」、コンパクトシティクロスオーバー「UX」の4モデルで構成されているが、クロカンの「LX」はサイズも価格も別格であり、実用面でも街乗りに最適とは言いにくい面もある。そのため、実質的に街乗り中心のSUVの基準では、「RX」が最上位といっても良い。そのために、大型モデルらしいゆとりのボディとキャビンやクロスオーバーSUVシリーズ唯一の3列シート車など、LXに継ぐ大型モデルの特徴が与えられている。またレクサスシリーズのSUVとしても、LXに継ぐ、古株であるため、世界的な知名度も高い。またハリアーと完全に切り離されたことで、日本でもRXのポジションは高まり、特別な国産高級SUVとして認知され、ユーザーからの信頼も厚い。国産車ではライバル不在ともいえる独自路線を歩むRXは、国内SUV市場の中で、一目置かれる存在であり続けるだろう。