輸入車
更新日:2022.10.17 / 掲載日:2022.10.17

【JAPAN LOTUS DAY 2022】ロータスの現在地と未来

文●石井昌道 写真●エルシーアイ

 さる10月9日に富士スピードウエイでJAPAN LOTUS DAY 2022が開催された。コロナ禍で3年ぶりとなった同イベントは世界でもっとも大規模なロータスの祭典であり、来場者数1393人、参加台数485台と盛況。新旧様々なロータスがサーキットを走り回った。
 当日はロータス最後のミドシップエンジンモデルであるエミーラが展示された。1月のオートサロン以来となり、もっと多く、数十台規模でエミーラが富士スピードウエイに訪れる計画もあったが、すべての自動車産業と同様に半導体不足等で生産遅延が起こっていてかなわず。それでもロータスはJAPAN LOTUS DAY 2022のために本社があるイギリス・ノーフォークのヘセルのナンバープレートが付いたエミーラV6ファースト・エディションを空輸してきた。また、アジアパシフィックと中東のリージョナル・ディレクターであるDAN BALMAR氏が来日し、エミーラや将来のロータスについてインタビューに応じていただいた。

JAPAN LOTUS DAY 2022

 そもそもロータスは創立者のコーリン・チャップマンが1948年にオースチン7を改造したトライアルレースカーを造ったことから始まる。いわゆるバックヤードビルダーで、このマーク1と呼ばれるモデルは、ガールフレンドの実家のガレージで作業されたという。1952年にはロータス・エンジニアリングを設立。その後は市販車の改造ではなく、オリジナルのロータス・マーク6などを製造販売。レースでの戦闘力が高かったため人気となり、1957年にはいまでもケータハムが受け継いでいるロータス・セブンを発表。資金が潤沢になってレース活動も本格化し、1958年からF1に参戦。チャプマンはアイデアマンでもあり、誰もが驚くような先進のエンジニアリングでサーキットで旋風を巻き起こした。
 市販車ではライトウエイトスポーツがロータスの代名詞となり、近年のエリーゼやエキシージなどはその代表格だ。
 歴史をみると会社の経営としては順風満帆とは言えない。ゼネラルモーターズやブガッティ、プロトンの傘下などを経て、現在はジーリーが筆頭株主だ。1995年に登場したエリーゼは大成功と言えるもので、傾いていた経営を立て直し、エキシージやエヴォーラなどにも繋がって現在まで活躍。しかしながらエリーゼ、エキシージ、エヴォーラは昨年生産終了となった。これらのプリミティブなライトウエイトスポーツでは採算が合わずに存続は難しい。そこでロータス史上でもっとも大きいといえる改革に着手しているのが現状だ。
 エミーラは最後のエンジン車となり、今後は電動化へシフトしていく。2022年にはEセグメントSUVのエレトレ、2023年にはEセグメント・4ドアクーペ、2025年にはDセグメントSUV、2026年にはスポーツカーをそれぞれBEVで発売する計画。スポーツカーはアルピーヌをパートナーとすることも発表されている。

ロータス エルトラ

 これまでのライトウエイトスポーツのロータスはイギリスと日本がマーケットの中心であり、その他の欧州とアメリカで少し販売する程度だったが、これからのロータスはSUVなどライフスタイルビークルをも有するスポーティなプレミアム・ブランドとなってグローバル展開していく。なかでもアメリカ、中国は大きなマーケットとなるだろう。乗用車のほとんどがSUVの中東も大切であり、高級車マーケットが意外なほど大きい韓国もターゲットとなる。
 拠点もグローバルに広がる。ヘセルはヘッドクォーターであり、スポーツカー、ハイパフォーマンスカーの開発およびデザインを手がけるが、ロンドン、蘭・アムステルダム、独・フランクフルト、米・ミシガン、ドバイ、中国・上海などにも拠点を持ち、ライフスタイルビークルの開発・生産は中国・武漢となる。
 エミーラは新世代商品群の第一弾だが、ヘセルで開発され、ヘセルで生産される最後のエンジン車であり、古き佳きロータスと未来を繋げる架け橋でもある。これまでのヘセルの生産台数は年間1500台程度だったが、これを7000台規模に強化。従来の工場は何度か見学したことがあるが、一般的な自動車工場のようなオートメーションはわずかで生産車を手押しで移動させていた。ところが新生工場はAGV(Automated Guided Vehcle=無人搬送車)に載せられ、フレキシブルなラインのようになり、多くのロボットによってオートメーション化される。品質は飛躍的に高まるはずだ。

ロータス エミーラ

 エミーラはアルミ押出成形材を接着したシャシーというエリーゼで編み出した手法と、そのサイズからエヴォーラがベースと見られがちだが、これまでの経験・知見を生かして再設計し、まったくの新開発シャシーとなっている。パワートレーンはエヴォーラで採用されていたトヨタ製V6 3.5L NAのMTとAT、そしてメルセデスAMG製の直列4気筒2.0Lターボ+DCTも追加される。プレミアム化されているのでこれまでのロータスの基準からすると車両重量はやや重たいが(1405kg・欧州値)、ポルシェ・718ケイマンとほぼ同等だから重すぎるということはないだろう。まだ試乗はかなっていないが、伝え聞くところによるとエヴォーラから飛躍的に進化していて、ハンドリングは最後のロータス・エンジン車に相応しいようだ。電動化へシフトしていくロータスだが、エミーラはレギュレーションが許されるまで生産を続けていく見込みだという。
 ロータスといえば、プロトン傘下時代にフェラーリからダニー・バハーを迎え、大風呂敷を広げたものの、何一つ実現しなかったという苦い経験があるが、ジーリーはボルボの例をみても“金は出すが口は出さない”的であり、ブランドを大切に育てていくだろうから、今度は成功する見込みが高い。
日本人の目から見れば、あのロータスがBEVのSUVなんて……、と嘆かれるかもしれないが、イギリスや日本以外のマーケットでは古き佳きロータスのイメージは薄く、新たなプレミアムBEVブランドとして躍進するだろう。また、スポーツカーはもちろん、ライフスタイルビークルでも、これまで養ってきたライトウエイト・テクノロジーとそのフィロソフィーは引き継がれるはずなので期待したい。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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