輸入車
更新日:2022.11.01 / 掲載日:2022.11.01

【アイオニック5】先進的な技術と販売方法をひも解く【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ヒョンデ

 2022年2月に12年ぶりに日本市場への再参入を発表したヒョンデ。以前はローマ字表記をそのまま読んだヒュンダイという呼称だったが、2020年からはより原語の発音に近いヒョンデへとグローバルで変更している。
 ラインアップをZEV(ZERO EMISSION VEHICLE)に限定するのが日本再参入でのコンセプトで、現在はBEV(電気自動車)のアイオニック5とFCEV(水素燃料電池車)のネッソの2モデル。オンライン販売のみでの展開となるのは、テスラやボルボのBEVと同様だ。日本は欧米や中国に比べるとBEVの普及が緩やかだが、それでもどこかのタイミングで飛躍的に加速する可能性は小さくない。大きな課題は自宅ガレージで充電できるかどうかぐらいで、それさえクリアすればBEVを検討してみたいという層は確実に増えているように思える。最近のクルマ選びで新しい価値となっているのが、テスラに代表されるようなガジェット感でデジタライズを極めてUI(ユーザー・インターフェース)、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)が快適なことに重きを置くものだ。それとBEVはまことに相性がいい。以前にヒョンデが日本で展開したのは2001年から2009年と短いのでブランドイメージはそれほど出来上がってはいない。それならば、ZEV専売ブランドとして、ガジェット感の高さを選択基準にしている新しいユーザー層をターゲットにするのはたしかにいい戦略だろう。オンライン販売は中間コスト削減に繋がるものだが、ガジェット感としてはむしろ歓迎される。テスラは納車もあっさりとしたもので、昨年開設されたテスラデリバリーセンター有明は、有明ガーデン内のテスラ・カウンターに行ってカードキーを受け取り、立体駐車場に駐められているクルマを探して乗って帰るだけ。手続き等のほとんどはアプリで済んでしまう。その潔いまでのシンプルさもいいのだが、ヒョンデは納車時にも特別な体験を用意した。

ヒョンデカスタマーエクスペリエンスセンター横浜

 7月30日にオープンしたヒョンデカスタマーエクスペリエンスセンター横浜(CXC)は、ショールームであり、購入の相談や試乗、納車や整備なども行う国内初の常設拠点で、今後は大都市を中心に増やしていく予定だという。もとは工場だった建物をリノベーションした施設は、サステナブルを意識したシンプル&クリーンな空間で、ヒョンデのZEVの世界観が表現されている。
 ショールームでは一般的なディーラーのようにセールスマンが近寄ってくることがないので、車両をじっくりと見ることができる。V2Lの体験も面白そうだ。
 納車スペースでは、ターンテーブルに自分のクルマを載せて、壁いっぱいの巨大モニターで説明をするという。時間は30分程度。購入者が見るためのものなので、見学はできなかったが、サプライズなどもあるようだ。
 車両を整備するサービスワークショップは、ZEVのみを扱うため油汚れやにおいがまったくなくて清潔感に溢れているのが特徴。2Fのラウンジからはオリジナルのコーヒーやお茶を楽しみながら、ガラス越しに整備の様子を眺めることもできる。
 日本にはないタイプの施設であり、ここで納車してもらったり、整備をお願いしたらユーザー満足度も上がるだろう。すでに遠方ながらCXC納車を希望する人が増えてるそうだ。
 アイオニック5には何度か試乗していてEVテストでも取り上げているが、今回はエンジニアにも話を聞くことができた。ヒョンデは2020年にBEV専用プラットフォームのE-GMPを発表。2025年までに23モデルを販売する予定であり、アイオニック5はトップバッターだ。2019年のフランクフルト・モーターショーに出展した45コンセプトが元となっているが、45とはヒョンデが初めて量産車を生産してからの年数であり、最初のポニーのデザインをオマージュしている部分もあるという。ポニーのデザインコンセプトはジウジアーロの手になるもので、シンプルでピュアだったことを受け継いでいるのだ。また45という数字から遊び心で45度をデザインに取り入れてもいる。
 E-GMPはスケーラブルで様々なクラスに対応。バッテリー容量もフレキシブルでアイオニック5では58kWhと72.6kWhのタイプを用意している。ヒョンデは独自にバッテリーをセルから研究しているが、液体リチウムイオン電池の進化は上限に近づいているので、エネルギー密度などではライバルとそれほど大きな差はつけられない。そこでE-GMPはCompact、Maximized efficiency、Reduced charging timeなどに力を入れているという。BEV専用プラットフォームであることを生かしてモーターやコントロールユニットなどをなるべく小さく効率的に配置し、エネルギー効率は最大限に、そして充電時間の短縮も重要な競争領域と捉えているのだ。

アイオニック5

 アイオニック5は世界初のマルチ充電システムを搭載していることが技術的な見所でもある。現在のBEVの大半は400Vで日本のBEV、充電設備は100%そうなのだが、欧州、アメリカ、中国、韓国などでは800Vが実用化されていて、予想よりも早いペースで800V化が進んでいる。急速充電の時間を短くすることが可能、電流を抑えられるのでケーブル等が細くなり軽量化に有利、熱損失も抑えられるなどの様々なメリットがある。合わせてシリコンカーバイド(SiC)のインバーターを採用しているので400Vで主流のシリコン(Si)のインバーターよりも高効率。以前にEVテストでアイオニック5を取り上げたときに、電費がかなり良かったのはこのためかもしれない。
 ポルシェ・タイカンが800Vを採用して話題になったが、2025年頃になると800Vが主流になるのではと言われてもいる。他社のシステムは400Vから昇圧コンバーターなどで800Vにも対応するが、ヒョンデが新たに開発したのは既存のモーターとインバーターを活用して400Vと800Vをスイッチングするタイプでコストや重量を削減。800Vの充電器も使えるようになっている。残念ながら日本でその恩恵を授かることはいまのところないが、400Vで32分かかるところを20分程度に短縮できるという。
 充電能力に力を入れるアイオニック5だが、外出先で充電するときに車内で快適に過ごせるようにも気を配っている。珍しく運転席にもオットマンが用意され、シートバックを倒してリラックスした体制がとれるようになっているのだ。CXCにはそのシートが用意されていて体験できるようになっていた。
 日本市場への再参入にあたって、BEVのチャデモ対応なもちろんのこと、ウインカーレバーを右にするなど細部まで対応して、今度こそ長く支持されようとしているヒョンデ。いまは日欧米の自動車メーカーが軒並み半導体不足の影響を受けて、納車まで長い時間がかかるクルマが多いが、ヒョンデはさすがは韓国のメーカーだけあってきちんと半導体が確保できているそうだ。アイオニック5も3ヶ月程度で納車可能とのことなので、なるべく速く最新のBEVを手に入れたいという人にとっては朗報だろう。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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